学位論文要旨



No 123863
著者(漢字) 下條,昌彦
著者(英字)
著者(カナ) シモジョウ,マサヒコ
標題(和) 非線形熱方程式の空間無限遠での爆発と空間全体での爆発について
標題(洋) Blow-up at space infinity and criteria for total blow-up in nonlinear heat equations
報告番号 123863
報告番号 甲23863
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第321号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 教授 舟木,直久
 東京大学 教授 儀我,美一
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 准教授 山本,昌宏
 東京大学 准教授 ヴァイス,ゲオグ
内容要旨 要旨を表示する

論文提出者下條昌彦は,RN 上の半線形熱方程式に対する初期値問題(1)〓を考え,解が無限遠で爆発する現象について詳しく論じた.とくに,爆発時刻における解のプロファイルの無限遠方での振る舞いについて,さまざまな興味深い解析を行った.

非線形項fには,増大度について緩い仮定をおく.f(u) = up (p > 1),eu などの典型的な例はすべて含まれる.初期値問題(1) の解が時刻Tで「爆発する」とは,ノルム〓のとき発散することをいい,この時刻T を「爆発時刻」と呼ぶ.解が時刻T で爆発するとき,次式で定義される点集合を「爆発集合」と呼び,その要素を「爆発点」という.

放物型評価からu(x,T) := limt/T u(x,t) が任意の点x ∈RN/B(u0) で有限確定値であり,u(x,T) は,この領域上の滑らかな関数となる.これを爆発時刻における解の「プロファイル」と呼ぶ.また,「空間無限遠でのみ爆発する」とは,解は爆発するが爆発集合B(u0) が空集合であることをいう.この場合,プロファイルu(x,T)はRN 全体で定義された滑らかな関数になる.

非線形熱方程式の解の爆発問題は,Kaplan(1963) やFujita(1966) らの先駆的な仕事以来,数多くの研究がなされ,めざましく発展してきた.80 年代に入ると,「どのような場合に解が爆発するか」という問題だけでなく,「解はどこで爆発するか」に関する研究が盛んになった.Weissler(1984) とFriedman-McLeod(1985) は初期境界値問題で適当な初期値を与えると解が1 点でのみ爆発すること示した.さらにChen-Matano(1989) は,N = 1 のとき任意の爆発解の爆発集合は有限集合であることを証明した.Giga-Kohn(1989) はN -1 次元球面を爆発集合にもつような例を構成した.その後,Vel´azquez(1993) やZaag(2002) らによって,爆発集合のハウスドルフ次元や滑らかさについて深い研究がなされた.

一方,本題の空間無限遠での爆発に関しては,Lacey(1984) が空間1 次元の場合に無限遠のみで爆発する例を示したのを除き,最近まで目立った研究はなかった.Giga-Umeda(2004) は,高次元の方程式ut = △u + up を扱い,初期値u0 がある条件をみたすときに無限遠のみでの爆発が起こることを示した.論文提出者は自らの修士論文(2004) で上記のGiga-Umeda の結果を改良し,より広いクラスの初期値に対して無限遠爆発が起こることを示すとともに,証明も大幅に簡略化した.その後,Giga-Umeda(2005) は,無限遠爆発の結果を一般的な(1) の形の方程式に一般化した.

さて,本提出論文の第1章の内容は以下の通りである.

(1) 無限遠爆発の十分条件をGiga-Umeda と異なる簡便な手法で導いた.

(2) 無限遠爆発が起こる際の解のプロファイルを詳しく研究した.

(3) 爆発時刻後の解の延長可能性を論じた.

このうち,主眼はテーマ(2), (3) に置かれている.テーマ(2) に関する主結果は,次のものである.

(2a) プロファイルu(x,T) の無限遠方での増大度について,普遍的な上からの評価を与えた.

(2b) 無限遠方での振る舞いをあらかじめ指定し,その条件をみたす初期値が存在するかどうかを論じた.

結果(2a) は,プロファイルu(x; T) の遠方での漸近挙動について,初期値に依存しない上からの評価を与えるものであり,論文提出者は,精密な優解を構成することにより,事実上,最良の評価を得ることに成功した.結果(2b) は,無限遠方での振る舞いに関する一種の逆問題であり,興味深い.これまで,爆発点付近でのプロファイルの漸近形については,80 年代から90 年代前半にかけて多くの研究がなされたが,上記のような,無限遠方でのプロファイルの振る舞いに関する研究は,これまでなく,論文提出者の研究は,爆発問題の研究に新しい方向性を与えたものとして高く評価できる.

また,論文提出者は,テーマ(3) について,常に完全爆発が起こること,すなわち爆発時刻以降の広義延長解は至る所で+∞ の値をとることを示した.

提出論文の第2 章では,準線形の方程式ut = △um + up を考え,m > p > 1 の場合には,無限遠のみでの爆発でなく,RN 全体で爆発するような解が存在することを証明した.これまで,p > m> 1 の場合には必ず無限遠のみでの爆発が起こることがSeki-Suzuki-Umeda の研究でわかっていたが,m > p の場合は何が起こるか未解明であった.

以上の諸点を考慮した結果,論文提出者下條昌彦は,博士(数理科学) の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める.

審査要旨 要旨を表示する

論文提出者下條昌彦は.RN上の半線形熱方程式に対する初期値問題(1)〓を考え,解が無限遠で爆発する現象について詳しく論じた.とくに,爆発時刻における解のプロファイルの無限遠方での振る舞いについて,さまざまな興味深い解析を行った.

非線形項fには,増大度について緩い仮定をおく.f(u)=up(p>1),euなどの典型的な例はすべて含まれる.初期値問題(1)の解が時刻Tで「爆発する」とは,ノルムllu(・,t)IIL∞(RN)がt→Tのとき発散することをいい,この時刻Tを「爆発時刻」と呼ぶ.解が時刻Tで爆発するとき,次式で定義される点集合を「爆発集合」と呼び,その要素を「爆発点」という.

放物型評価からu(x,T):=limt/Tu(x,t)が任意の点x∈RN\B(uo)で有限確定値であり,u(x,T)は,この領域上の滑らかな関数となる。これを爆発時刻における解の「プロファイル」と呼ぶ.また,「空間無限遠でのみ爆発する」とは,解は爆発するが爆発集合B(%o)が空集合であることをいう.この場合,プロファイルu(x,T)はRN全体で定義された滑らかな関数になる.

非線形熱方程式の解の爆発問題は,Kaplan(1963)やFujita(1966)らの先駆的な仕事以来,数多くの研究がなされ,めざましく発展してきた.80年代に入ると,「どのような場合に解が爆発するか」という問題だけでなく,「解はどこで爆発するか」に関する研究が盛んになった.Weissler(1984)とFriedman-McLeod(1985)は初期境界値問題で適当な初期値を与えると解が1点でのみ爆発すること示した.さらにChen-Matano(1989)は,N=1のとき任意の爆発解の爆発集合は有限集合であることを証明した.Giga-Kohn(1989)はN-1次元球面を爆発集合にもつような例を構成した.その後,Velazquez(1993)やZaag(2002)らによって,爆発集合のハウスドルフ次元や滑らかさについて深い研究がなされた.

一方,本題の空間無限遠での爆発に関しては,Lacey(1984)が空間1次元の場合.に無限遠のみで爆発する例を示したのを除き,最近まで目立った研究はなかった.Giga-Umeda(2004)は,高次元の方程式ut=△u+uPを扱い,初期値uoがある条件をみたすときに無限遠のみでの爆発が起こることを示した.論文提出者は自らの修士論文(2004)で上記のGiga-Umedaの結果を改良し,より広いクラスの初期値に対して無限遠爆発が起こることを示すとともに,証明も大幅に簡略化した.その後Giga-Umeda(2005)は,無限遠爆発の結果を一般的な(1)の形の方程式に一般化した.

さて,本提出論文の第1章の内容は以下の通りである.

(1)無限遠爆発の十分条件をGiga-Umedaと異なる簡便な手法で導いた.

(2)無限遠爆発が起こる際の解のプロファイルを詳しく研究した.

(3)爆発時刻後の解の延長可能性を論じた.

このうち,主眼はテーマ(2),(3)に置かれている。テーマ(2)に関する主結果は,次のものである,

(2a)プロファイルu(x,T)の無限遠方での増大度について,普遍的な上からの評価を与えた.

(2b)無限遠方での振る舞いをあらかじめ指定し,その条件をみたす初期値が存在するかどうかを論じた.

結果(2a)は,プロファイルu(x,T)の遠方での漸近挙動について,初期値に依存しない上からの評価を与えるものであり,論文提出者は,精密な優解を構成することにより,事実上,最良の評価を得ることに成功した.結果(2b)は,無限遠方での振る舞いに関する一種の逆問題であり,興味深い.これまで,爆発点付近でのプロファイルの漸近形については,80年代から90年代前半にかけて多くの研究がなされたが,上記のような,無限遠方でのプロファイルの振る舞いに関する研究は,これまでなく,論文提出者の研究は,爆発問題の研究に新しい方向性を与えたものとして高く評価できる.

また,論文提出者は,テーマ(3)について,常に完全爆発が起こること,すなわち爆発時刻以降の広義延長解は至る所で+∞の値をとることを示した.

提出論文の第2章では,準線形の方程式ut=△um+upを考え,m>p>1の場合には,無限遠のみでの爆発でなく,RN全体で爆発するような解が存在することを証明した.これまで,p>m≧1の場合には必ず無限遠のみので爆発が起こることがSeki-Suzuki-Umedaの研究でわかっていたが,m>pの場合は何が起こるか未解明であった.

以上の諸点を考慮した結果,論文提出者下條昌彦は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める.

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