No | 124933 | |
著者(漢字) | 板野,航 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イタノ,ワタル | |
標題(和) | 不斉Heck反応を利用した5α-capnellenol類の触媒的不斉全合成研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124933 | |
報告番号 | 甲24933 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1286号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景・目的】 Capnellenol類は軟体珊瑚Capnella imbricataより単離・構造決定がなされた海洋性セスキテルペンである。三つの五員環がcis-transoid-cisに縮環した炭素骨格は、これまで多くのグループによる合成が報告されているものの、それが酸素官能基化されたcapnellenolは合成難易度が高く、その合成例は極端に少ない。中でも、これまでの合成方法を単純に拡張するだけでは構築困難と考えられる5α水酸基を有する5α-capnellenol類(1,2、Figure1)は、現在までに全合成の報告が一例もなく、合成化学的に興味深い。また2β水酸基を有する2に関しては、EAC(Ehrlich腹水癌腫瘍細胞)に対し細胞毒性を有するという報告があり、抗癌剤のリード化合物としても興味が持たれる。そこで筆者は、5α-capnellenol(2)の世界初の触媒的不斉全合成を目指して研究を開始した。 【逆合成解析】 5α-capnellenol(2)は、当研究室の間瀬らが開発したビスアリル型アルコール構築法とシクロプロパン環の還元的開裂によって3から導かれると考えられる(Scheme1)。3は7位の脱酸素化・8位への酸素官能基導入・9-10位の二重結合構築というC環部の変換と、エクソサイクリックオレフィンを足がかりとしたA環部の変換によって4から合成することとし、4をN-O結合の還元的開裂と5位水酸基の立体反転によってイソオキサゾリン環5へと逆合成した。5は分子内ニトリルオキシド環化付加反応によって6から合成できると考えられ、6はビニルトリフレート体7の分子内不斉Heck反応に続く、β-ケトエステル8によるπ-allyl-Pd中間体の捕捉により合成できると期待し、全合成研究を開始した。 【三環性コア骨格の構築】 β-ケトエステル8を分子内不斉Heck反応の求核剤として用いたところ、良好な化学収率・不斉収率にて成績体6を得た(Scheme2)。6をケトン部位の還元、水酸基の保護によって9とし、PMB基の除去、Swern酸化の後、オキシム10へと導いた。続いてchloramine-Tによる酸化的なニトリルオキシド発生条件にふすことで分子内環化付加反応が進行し、望みのcis-transoid-cis三環性骨格を有する11を良好な化学収率にて合成することができた。 次に5位のβ-水酸基の立体反転を検討した。予備的知見として、環化体11のうち1種のジアステレオマーが、Mo(CO)6によるN-O結合開裂の後にレトロアルドール及びアルドール反応による5位のエピメリ化を起こし、低収率ながら5α-水酸基体を与えることを見出した。このエピメリ化は平衡反応であり、分子軌道計算によって望みの5αエピマーの方が熱力学的に安定であると予想された。そこで8-9位へ二重結合を導入すればエピメリ化の際のエノラート中間体13が安定化されて平衡が促進され、5α-求酸基体の収率が向上すると期待した。そこで11を3工程にて5へと変換した後にN-O結合開裂を行うと、予想通り5位のエピメリ化は速やかに進行し、ワンポットにて望みとする5α-水酸基体12を得ることができた。 【A環部の官能基変換】 得られた12よりA環部の整備を行った(Scheme3)。この時点でA環とC環の二つの二重結合の差別化が問題であったが、5位水酸基を保護した後、触媒量の二酸化セレンを用いたアリル位酸化にてA環上2位への選択的なβ-水酸基導入が可能であり、続くシクロプロパン化、2位水酸基の保護によって15を得た。またシクロプロパン環を還元的開裂によりジメチル基へ変換可能であることを確かめ、A環構築の方法論を確立した。 【C環部の官能基変換】 次いでC環部の整備に取りかかった(Scheme4)。15よりOsO4によるジヒドロキシル化により8位に酸素官能基を導入し、2級アルール選択的保護、三級アルコールの脱離により16を得た。更にケトン部位の還元、キサントゲンエステルの形成、アリル位転位によって7位の脱酸素化を行い17とした。 得られた17より予定とする中間体3(Scheme1)への変換を行ったが、9-10位への二重結合の導入が非常に困難であった。そこで代替のビスアリル型アルコール構築方法を模索した結果、「exo-olefinの構築→10位へのアリル位酸化」が適当であると判断し、更なる変換を行った。 17はDIBAL-Hによってメチルエステル選択的な還元が可能であり、これを塩基で処理することで環状チオカーボネート生成に続く脱炭酸によってチイラン18とした後、P(OMe)3処理によって還元的にジエン19と変換した。続いて19のMOM基を除去した後、生じたエノンの1-2還元を行い、二級アルコールをTBS基で保護してモノアリルエーテル20とした。20よりアリル位酸化による10α水酸基の導入を行うことで、低収率ながら21を合成し、C環構築の方法論を確立した。 【全合成達成に向けた変換】 モノアリルエーテル20より、エクソサイクリックオレフィンを一級アルコールとして保護し、シクロプロパン環の還元的開裂を行った後にオレフィンの再生を行い22を合成した(Scheme5)。また10α水酸基体21より、オレフィンをジオールとして保護した後にシクロプロパン環の還元的開裂を行うことで23を合成した。22,23は5α-capnellenol(2)の全合成につながる可能性の高い中間体である。 Figure 1. 5a-capnellenols Scheme 1. Retrosynthetic Analysis Scheme 2. Tricyclic Core Synthesis Scheme 3. Transformation of A-ring Scheme 4. Transformation of C-ring Scheme 5. Toward Completion of Total Synthesis | |
審査要旨 | 5α-capnellenol類(1,2、Figure1)は軟体珊瑚より単離された海洋性セスキテルペンである。三つの五員環がcis-transoid-cisに縮環した炭素骨格は、これまで多くのグループによる合成が報告されているものの、より高度に酸素官能基化された1,2に関しては合成難易度の高さ故、現在においてもその全合成は全く報告例がない。筆者の板野航は、そのうち抗腫瘍活性を有する2の世界初の触媒的不斉全合成を目指した研究を行った。 【三環性コア骨格の構築】1 β-ケトエステル4を分子内不斉Heck反応の求核剤として用い、良好な化学収率・不斉収率にて成績体5を得た(Scheme1)。5を5工程にてオキシム7へと導いた後、chloramine-Tによる酸化的なニトリルオキシド発生条件にふすことで、分子内環化付加反応が進行し、望みのcis-transoid-cis三環性骨格を有する8を良好な化学収率にて合成した。 次に5位のβ-水酸基の立体反転を検討した。予備的知見として、環化体8のうち1種のジアステレオマーが、Mo(C8)6によるN-0結合開裂の後にレトロアルドール及びアルドール反応による5位のエピメリ化を起こし、低収率ながら5α-水酸基体を与えることを見出した。このエピメリ化は平衡反応であり、分子軌道計算によって望みの5αエピマーの方が熱力学的に安定であると予想された。そこで8-9位へ二重結合を導入すればエピメリ化の際のエノラート中間体11が安定化されて平衡が促進され、5α-水酸基体の収率が向上すると期待した。そこで8を3工程にて9へと変換した後にN-0結合開裂を行うと、予想通り5位のエピメリ化は速やかに進行し、ワンポットにて望みとする5α-水酸基体10を得ることができた。 【A環・C環の官能基変換】 得られた10の5位水酸基を保護した後、触媒量の二酸化セレンを用いたアリル位酸化にてA環上2位への選択的なβ-水酸基導入を行い、続くシクロプロパン化、2位水酸基の保護によって13を得た(Scheme2)。次いでOsO4によるジヒドロキシル化により8位に酸素官能基を導入し、2級アルコールの選択的保護、三級アルコールの脱離により14を得た。更にケトン部位の還元、キサントゲンエステルの形成、アリル位転位によって7位の脱酸素化を行い15とした。得られた15より当初の逆合成中間体への変換を試みたが、9-10位への二重結合の導入が非常に困難であったため、エクソサイクリックオレフィンの構築→10位へのアリル位酸化という代替アプローチでのC環ビスアリル型アルコールの構築を行うこととした。 15はDIBAL-Hによってメチルエステル選択的な還元が可能であり、これを塩基で処理することで環状チオカーボネート生成に続く脱炭酸によってチイラン16とした後、P(OMe)3処理によって還元的にジエン17へと変換した。続いて17のMOM基を除去した後、生じたエノンの1,2還元を行い、二級アルコールをTBS基で保護してアリルエーテル18とした。 18より、エクソサイクリックオレフィンを一級アルコールとして保護し、シクロプロパン環の還元的開裂を行った後にオレフィンの再生を行い、19を合成した。また18のアリル位酸化により低収率ながら10α水酸基体20を合成し、オレフィンをジオールとして保護した後にシクロプロパン環の還元的開裂を行うことで21を合成した。19,21は5α-capnellenol(2)の全合成につながる可能性の高い中間体である。 以上は5α-capnellenol(2)の全合成に向けて、現在のところその達成に最も近い研究結果であると考える。また合成研究を通して得られた知見は、類似の天然物合成において重要な貢献を果たすと考え、博士(薬学)に相当する研究結果と判断する。 Figure1.5α-capnellenols Scheme 1. Tricyclic Core Synthesis Scheme 2. Transformation of A-ring and C-ring | |
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