学位論文要旨



No 124980
著者(漢字) バヤルマグナイ,ゴンボドルジ
著者(英字) BAYARMAGNAI,GOMBODORJ
著者(カナ) バヤルマグナイ,ゴンボドルジ
標題(和) SU(2,2)の主系列の(g,K)-加群構造と関連するWHITTAKER関数
標題(洋) THE (g,K)-MODULE STRUCTURE OF PRINCIPAL SERIES AND RELATED WHITTAKER FUNCTIONS OF SU(2,2)
報告番号 124980
報告番号 甲24980
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第335号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 寺杣,友秀
 東京大学 教授 小林,俊行
 東京大学 准教授 関口,英子
内容要旨 要旨を表示する

ここ数十年間で,整数論,微分方程式論,数論幾何,および保型形式の理論と関連し,表現論は現代の数学における中心的役割を果たしてきた.特にWhittaker 模型は保型形式の尖点におけるFourier 展開の理論において基本的であり,Whittaker関数の知識は保型形式の深い研究にとても重要となる.

本論文では群G = SU(2,2) の主系列表現に対して,この問題を扱う.

目的(π;Hπ)をGの既約主系列表現とする.πは極小放物型部分群P(min)から誘導された誘導表現である.P(min) = MAN をP(min)のLanglands 分解とする.N の連続ユニタリ指標η: N → U(1) に対し, C∞η(N\G)を任意のn ∈ N とg ∈ G に対し,f(ng) = η(n)f(g)を満たす関数f全体のなすC∞(G)の部分空間とする.これは,右作用でG加群となる.C∞(N\G)を(g,K)-加群(K はG の極大コンパクト部分群で,g はG のLie環)としてみると,次の自然な写像が得られる.

(1) HomG(H∞π,C∞π(N\G)) → Hom(g,K)(Hπ|K,C∞η(N\G))ただし,H∞πはHπのC∞ ベクトル全体である.この右辺はKostant により導入された代数的Whittaker ベクトルの空間で,本論文での主要な研究対象である.(1) の両辺を明示的に理解することが本論文の目的であり,そのためには良い基底が必要となる.

(1) の左側に関し,H. Jacquet はH∞π上のある汎関数で,πからC∞η(N\G) への絡作用素を定めるものを定義した.Shalika のアルキメデス的素点における局所重複度1 定理により,このような汎関数は定数倍を除き一意に定まる.Wallach はこのShalika の定理をより精密にし,任意の既約(g,K) 加群π∞に対し,絡作用素空間Hom(g,K)(π∞,Aη(N\G)) は高々1 次元となることを示した.ここで,Aη(N\G) は急減少条件を満たす関数全体のなすC∞η(N\G) の部分空間である.

結果1. まず私は,G の主系列表現の(g,K) 加群としての構造を完全に決定した.πのK-有限ベクトル全体のなす空間上への,gc の作用を記述する際に重要な役割を果たす"marked basis" の概念を導入した.また,この基底をL2(M,σ)(K) の元として記述した.ここで,L2(M,σ)(K) = {f ∈ L2(K) |f(mk) = σ(m)f(k) (m ∈ M, k ∈ K, a.e.)}はL2(K) の閉部分空間で,πの表現空間を与える.Lemma 1. τを既約K-加群とし, πの 成分をHπ(τ) とおく.これはL2(M,σ)(K)の部分空間である.このとき,α = 1, 2,..., [π|K : τ] に対し,部分空間Wα ⊂ Hπ(τ)と部分集合Bα = {fα1,...,fαn} ⊂ Wα であって,次を満たすものが存在する.〓ここでn = dim(τ) とおいた.

g=ι+ρ をCartan 分解とする.ρ の複素化をρc とかく.K の随伴作用によりpCは正則部分ρ+ と非正則部分ρ- とに既約分解される.本論文の主結果はC[±,±,±]S(m) = S(m')Γ[±,±,±],という形の式で書かれる.ここでS(m) は上の補題の中の関数fαj を成分とする行列であり,またC[±,±,±] はρ+ またはρ- の元を成分にもつある行列,Γ[±,±,±] は表現のパラメータ達の線形結合を成分を持つ定数行列である.Casimir 作用素C におけるCasimir 方程式Cυ = γ(C)υを思い出そう.ここで,γは無限小指標で,υ はC∞ ベクトルである.我々の公式はこれの"covariant" 類似である.

結果2. 次に私は,G 上のWhittaker 関数を調べた.保型L-関数のΓ-因子の明示式などを初めとする数々の応用の中で,Whittaker 関数の明示的な積分表示はとても重要である.我々の公式はG の標準主系列表現の代数的Whittaker ベクトルの空間の基底の原点周りにおける明示公式を与える.M*= NK(a) とすると,W(A) = M*/M はG の小Weyl 群となる.s ∈ W(A) を最長元とし,そのM*への持ちあげをs* とする.Jacquet はH∞π 上の連続汎関数で,Jσ,ν(π(n)f) = η(n)Jσ,ν(f),を満たすものをJσ,ν(f)=∫Nη(n)(-1)a(s*n)(ν+ρ)f(k(s*n))dnにより定義した.ここで,f はL2(M,σ)(K) におけるC∞ ベクトルである.C∞ ベクトルf ∈ Lσ(2)(K) に対し,C∞η(N\G) の元Jf (g) をJf (g) = J(σ,ν)(π(g)f), (g ∈ G).と定義する.関数Jf (g) はG 上緩増大で,とくにA 上でも緩増大である.

本論文において,πの中の特殊なK-type τに属するf に対し,Jf (g) のA 動径成分における明示的公式を与えた.その結果は〓である.これは(y1, y2) ∈ A のそれぞれの変数に関して無限遠で急減少する.このように,modified Bessel 関数により表すことができたことを用いて,,Mellin-Barnes積分表示を得た.この結果を用いて,0 の周りの代数的Whittaker ベクトルの空間の生成元の明示的公式を得た.

審査要旨 要旨を表示する

多変数保型形式の理論とも関連する半単純Lie 群の表現論は現代の数学において一つの中心的役割を果たしてきた.特にWhittaker 模型は保型形式の尖点におけるFourier 展開の理論において基本的であり,Whittaker 関数の知識は保型形式の深い研究に重要である.本論文では群G = SU(2,2) の主系列表現に対して,この問題を扱う.

まず(π;Hπ) を,Gの極小放物型部分群P(min) から誘導された既約主系列表現とする.つまりP(min) =MAN をP(min) のLanglands 分解とするとき,M の指標σ,a = Lie(A) の複素数値線形形式v,正ルートの総和の半分ρを用いて,π := Ind(Pmin)G(σ〓 e(v+ρ) 〓 1N) で定義される表現とする.

当論文の第一の主結果は:

主結果1 表現空間H をL2(K) の閉部分空間と標準的なやり方で同一視し,H のK 有限ベクトル全体のなす空間HK の等質分解の自然な直交基底を具体的に構成し,その基底に関するgC の作用を明示的に計算したことにある.ここでg はLie 群G のLie 環で,gC はその複素化である.

この結果の定式化は,一方でDirac 作用素によって,K のある表現 τ∈K の τ-等質成分から,その近くにある別のτ' の等質成分への写像を定義し,これによって誘導されるK-絡空間の間の線形写像

HomK(τ,HK) → HomK(τ',HK)

の自然な定義行列を決定する,という形で行われる.ここで,各絡空間に正準的な基底を定める必要があるが,これは上に述べた「等質成分の自然な直交基底」より誘導される.この事実は,G のCasimir作用素C のquasi-simple な表現への作用は,無限小指標Xπによって,π(C)v = Xπ(C)v (v ∈ HK)の形で与えられるという,Casimir 方程式の同変的な類似物とみなせる.

論文の第二の部分で, 著者はいくつかのJacquet 積分の明示的な計算を与えた.説明のため,Whittaker模型の定義を思い出そう.

極大べき単部分群N の連続ユニタリ指標η : N → U(1) に対し, Cη(∞) (N|G) を

任意のn ∈ N とg ∈ G に対し,f(ng) = η(n)f(g)

を満たす関数f 全体のなすC∞(G) の部分空間とする.これは,右作用でG 加群となる.Cη(∞) (N|G)を(g,K)-加群(K はG の極大コンパクト部分群で,g はG のLie 環)としてみると,次の自然な写像が得られる.

(1) HomG(Hπ(∞),Cπ(∞) (N|G)) → Hom(g,K)(Hπ|K,Cη(∞)(N|G))

ただし,Hπ(∞) はHπ のC∞ ベクトル全体である.この右辺はKostant により研究された代数的Whittakerベクトルの空間で,将来的には本論文の前半の結果を応用してさらに詳しく調べられるはずのものである.(1) の左辺の特別な元,存在すればスカラー倍を除いて一意に与えられるのが(Shalika の定理),Jacquet 積分である.まずこの定義から思い出そう.

M* = NK(a) とすると,W(A) = M*|M はG の小Weyl 群となる.s ∈ W(A) を最長元とし,そのM* への持ちあげをs*とする.Jacquet はHπ(∞) 上の連続汎関数で,J(σ,ν)(π(n)f) = η(n)J(σ,ν)(f), を満たすものを

により定義した.ここで,f はL(M,σ)2(K) におけるC∞ ベクトルである.C∞ ベクトルf ∈ Lσ(2)(K) に対し,Cη(∞)(N|G) の元Jf (g) を

Jf (g) = J(σ,ν)(π(g)f), (g ∈ G).

と定義する.関数Jf (g) はG 上緩増大で,とくにA 上でも緩増大である.

本論文では第二の主結果として,π の中の特別なK-type τに属するf に対し,Jf (g) のA 動径成分における明示的公式を与えた.

主結果2 次のJaquet 積分の表示がある.

である.

これは(y1, y2) ∈ A のそれぞれの変数に関して無限遠で急減少する.このように,変形Bessel 関数により表すことができたことを用いて,Mellin-Barnes 積分表示を得た.

群SU(2, 2) は整数論や純粋数学を離れても,物理学,特に宇宙論や場の理論にも登場する重要な群である.主結果1は極めて基本的な結果で,いろいろ利用価値が高いと思われる.高い階数の半単純Lie 群のJaquet 積分が明示的に計算されている事例は少ない.主結果2も,それゆえ新しい興味深い結果である.

よって論文提出者Gombodorj Bayarmagnai は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい資格があると認める.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/28155