No | 124983 | |
著者(漢字) | 中岡,宏行 | |
著者(英字) | NAKAOKA,HIROYUKI | |
著者(カナ) | ナカオカ,ヒロユキ | |
標題(和) | Brauer群、プロ有限群上のMackey及び丹原関手と2次元ホモロジー代数 | |
標題(洋) | Brauer groups, Mackey and Tambara functors on profinite groups, and 2-dimensional homological algebra | |
報告番号 | 124983 | |
報告番号 | 甲24983 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第338号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Brauer 群を中心に、それに関連する圏と関手について論じた。 第1部では、体の有限ガロア拡大に対応するBrauer 環について調べている。 1986 年、Jacobson によりBrauer 環の概念が定義された[5]。任意の有限ガロア体拡大に対して、Brauer 環はBrauer 群を乗法群の部分群にもつ可換環であり、Mackey 関手を用いた解析が可能である。(Brauer 環はF-Burnside環と呼ばれる典型的なMackey 関手で表すことができる。) このことは、Brauer 群・ガロア理論・Mackey 関手の三対象の背後に緊密な関係があることを暗示している。 Brauer 群を調べるために定義されたBrauer 環だが、体拡大が自明な場合を除き、その構造を与える明示公式は存在しなかった。第1部では、Brauer環のMackey 関手としての側面を詳しく調べ、関連する随伴性を用いて明示公式を与え、その構造決定を行った。 具体的には、G をガロア群にもつ有限次Galois 体拡大E/F に付随するBrauer 環B(E, F) の構造は以下のように決定される: 例えばB(C,R) は、B(C,R)=Z[X, Y]/(X2 - 1,Y 2 -2Y,XY - Y) と計算できる。 Brauer 群・ガロア理論・Mackey 関手の三者のより明示的な関係として、Ford による結果がある[4]。Ford は、群G をガロア群にもつ可換環の有限ガロア拡大に対して、中間にある拡大環のBrauer 群が、G 上のコホモロジカルMackey 関手をなすことを示した。Mackey 関手は、いわゆる両変(bivariant)関手であり、関手のもつ共変性(Brauer 群ではノルム写像) と反変性(Brauer群ではpull-back) を統一的に扱うことを可能にする。 第2部では、スキームの有限次ガロア被覆に対し、Brauer 群がガロア群上のコホモロジカルMackey 関手をなすことを示した。これはFord の結果[4]のスキームへの一般化となっている。 より強く、有限エタール被覆のなすガロア圏を用い、ガロア圏上のMackey関手として"Brauer-Mackey 関手"を構成している。ガロア圏を用いることで構成がより自然になり、スキームのエタール被覆のBrauer 群たちを単一の統合的対象として扱うことができる。Fundamental functor でうつすことで基本群上のコホモロジカルMackey 関手が得られ、さらに有限群に「制限」することにより、有限ガロア被覆に対する上記の結果を得られる。 Mackey functor はもともと有限群の表現論で考案されたものだが、現在では群G に対するG-同変理論でのAbel 群のアナロジーと考えられている。この文脈のもと、可換環のG-同変類似物は丹原関手(Tambara functor) であると考えられている[9]。すなわち丹原関手とは、適切な条件を満たすMackey関手のペア(それぞれ加法・乗法に相当) であり、Mackey 関手より多様な構造を持つ。 Witt-Burnside 構成に関する最近の研究の中で、Brun により丹原関手の有用性が明らかにされた[2]。Brun は同論文において、適切な条件下でWitt(-Burnside) 環が丹原関手を用いて記述されることを示している。 Witt-Burnside 構成自体はプロ有限群上で可能なものであるが、Brun による結果は有限群の場合に限っている。G がプロ有限の場合に拡張できていない原因として, そもそもプロ有限群上での丹原関手が定義されていなかった点が挙げられる。 第3部において、Witt-Burnside 環の丹原関手的解釈を目標に、プロ有限群上での丹原関手の定義を行った。Bley, Boltje により定義されたMackey system [1] を用い、有限群の場合の一般化となるよう定義した。 この定義のもと、吉田知行教授の定義した一般Burnside 環(generalized Burnside ring) に丹原関手の構造を与えており、また、Witt-Burnside 構成に関連して、Elliott の定義した関手VM に丹原関手の構造を与えた。Elliott の関手は任意のモノイドM に対し定義され、その商がモノイドの群環係数のWitt-Burnside 環に一致する[3]。 Symmetric monoidal category のBrauer 群の研究の中で、Vitale 達はsymmetric categorical group のなす2-圏SCG を用いることで、Brauer 群について「ホモロジカル」で「2-categorical」な議論を行った([6], [7])。特に[6] においては、SCG の持つAb の2 次元版ともいうべき代数構造が有効に用いられている。第4部では、これらの論文を包括する形での「2 次元ホモロジー代数」を扱う一般的枠組みを構成している。 | |
審査要旨 | 本論文はBrauer群を巡る圏と関手を研究対象とし、そこに重要な構造を見い出している。 第1部では、体の有限次ガロア拡大E/FのBrauer環の構造を具体的に決定している。Brauer環B(E,F)は、Jacobsonによって導入された概念であり、Brauer群をその乗法群の部分群として有する可換環であるが、自明な拡大の場合を除いてはその構造は決定されていなかった。中岡宏行は、これが加法的関手Fに対する.F-Burnside環という典型的なMackey関手で表せることに着目し、Brauer環のMackey関手としての性質を調べることによってBrauer環B(E,F)の明示公式を作ることに成功している。さらに一般には、加法的関手Fに対するF-Burnside環の構造を決定している。 第2部では、連結なスキームの有限次エタール被覆のカテゴリーに対し、Brauer群の関手ががcohomological Mackey関手になることを示した。この結果については、可換環の場合にはFordがすでに証明していたが、スキームに一般化するにはそのBrauer群のノルム写像を構成することが難しく、スキームの場合はこれまで示されていなかった。この結果から、連結スキームXとそのガロア被覆π=Y→Xでガロア群がGとなるものに対してG上のcohomological Mackey関手β∇でβ∇(G/H)=Br(y/H)となるものが存在することがわかる。 第3部では丹原関手を扱っている。Mackey関手は群Gに対するG-同変理論でのアーベル群の類似であるが、可換環のG-同変理論の類似物が丹原関手である。それは、それぞれ加法、乗法に対応するMackey関手のペアとしての構造を持ち、古典的なWitt環の一般化となっている。Brunは有限群G上で、ある条件の下、Witt-Burnside環が丹原関手として記述できることを示した。中岡宏行は、群Gがプロ有限群に対して丹原関手の定義を与え、それを用いてプロ有限群上でも、ある条件の下、Witt-Burnside環が丹原関手として記述できることを示した。プロ有限群に対す丹原関手の定義はMackeyシステムを用いて与えたが、これは有限群の場合にはもとの定義と一致する。また、これは吉田知行の定義した一般Burnside環に丹原関手の構造を与え、Elliottの定義した関手VMにも丹原関手の構造を与えるものとなっている。 第4部ではSymmetric monoidal category のBrauer群の研究行っている。Vitaleはsymmetric categorical group(SCG)のなす2/圏SCGを考えてBrauer群について2-categoricalな理論を構成した。これを踏まえ、中岡宏行は、圏の理論において、直和、直積、テンソル積などの演算のできる圏としてのアーベル圏に対応して、2-圏においても同様の演算ができる圏としてrelatively exact 2-categoryの概念を得、これを用いてPicard群、Bauer群の理論を展開した。彼の定義したこの圏は自己双対的であり、VitaleのSCGの概念を含む壮大なものである。この圏において2-categoryのcohomoloy理論を展開した。例えば,short exact sequenceからlong exact sequenceが誘導され、2-categoryにおいてhomology代数の理論を展開する際に中心的役割を担うと期待される。 以上のように、中岡宏行の構成した理論は圏論における大きな枠組みを与えており、代数幾何学、数論、表現論において新しい有力な方法を提供し、この方面の研究に大きく貢献するものである。よって、論文提出者中岡宏行は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/28162 |