学位論文要旨



No 125330
著者(漢字) 皆月,功
著者(英字)
著者(カナ) ミナツキ,イサオ
標題(和) 高温ガス炉の新システム概念
標題(洋)
報告番号 125330
報告番号 甲25330
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7174号
研究科 工学系研究科
専攻 原子力国際専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡,芳明
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 越塚,誠一
 東京大学 教授 奥田,洋司
 東京大学 講師 石渡,祐樹
内容要旨 要旨を表示する

1.序論

高温ガス炉(以下HTGR)は、発生した高温熱を直接サイクルガスタービン発電(以下HTGR-GT)や直接熱による水素製造等の利用を目的に、世界各国で開発されつつある。また、地球温暖化抑制対策の観点からも有効な手段の一つとして待望視されている。

HTGR-GTの代表的システムフロー概念をFig.1に示す。1次冷却材Heガスが直接ガスタービンを駆動し発電する単純な構成である。このシステムの基本システムパラメータは、原子炉熱出力、冷却材ガスの原子炉出口温度、入口温度及び圧力の4項目で、熱出力、原子炉出口/入口温度に関しては、プラント性能、発電コスト等の観点からの最適研究例はあるが、冷却材ガス圧力の最適値に着目した研究例はない。

また、HTGR-GTの構造上の特徴は、主要構成機器が、原子炉容器(以下RPV)、動力変換システム(以下PCS)の動力変換容器、熱交換容器に限られる点である。そのため、PCSの基本概念の選定は、プラントシステム構成を決める重要な要素であるが、構造概念の最適化に関する定量的な評価はなく、知見は得られていない。

一方、水素製造方法の一つに、熱化学法のISプロセス法があり、現在、開発が進められている。このシステムの概念をFig. 2に示す。本開発の重要課題はシステムの成立性と考えられ、中でも、高温、高圧、高腐食に耐える機器開発が課題となっている。

本研究の目的は上述の背景、必要性に基づき、HTGRの新システム概念の最適化と成立性に関する以下のテーマである。

・HTGR-GTのシステムパラメータ(冷却材ガス圧力)及びPCSの最適化

・ ISプロセスにおける重要機器の設計・試作実証による、システムの成立性

2.高温ガス炉ガスタービン発電システムの最適化

2.1冷却材ガス圧力の最適化

既設計結果において、原子炉熱出力、冷却材ガスの原子炉出入口温度の最適値は、600MWt、850℃/450℃~500℃との結論が得られている。一方、冷却材ガス圧力の最適化検討例はまだ無い。冷却材ガス圧力は、高い方が機器配管等の圧力損失が減少しサイクル熱効率が高くなるが、RPVの板圧増、重量増を招く。既設計では約6~7Mpaが選定されているが、十分な設計検討例ではない。最適化検討を行う場合、炉心寸法を仮定し、核設計、熱設計、サイクル設計、機器設計の順序で設計を行う。この計算は相互に影響しあうため逐一フィードバックを必要とし、寸法諸元の多さと相俟って、膨大な作業量となるからであった。しかしながら、炉心設計については、代表的な設計例を標準設計として設定すると、基本システムパラメータの影響を調べる限りにおいては、核計算は除外でき、3次元出力密度分布を軸対称2次元化することが可能である。また、原子炉内の漏れ流れも標準的な有効流量として近似できると考えられる。更に、タービンや圧縮機の断熱効率についても、冷却材ガス圧力が変化しても段数を変えれば最大効率を達成可能であることが分った。

以上の考察に基づき炉心の寸法計算、熱計算、サイクル計算を連成させた統合解析プログラムを作成し、冷却材ガス圧力の高圧化の方向で最適値を検討した。併せて、冷却材ガスの高圧化による、RPVの製作性等の制限拡大に対する以下の緩和方策も検討し、従来設計の方法を改良した。

1)RPV肉厚減少のための材料の強度向上方策

従来設計では、原子炉入口Heが、RPV内側に沿って流れ、RPV胴の温度はその温度に支配された。今回、全流量の1%未満の低温HeをRPVに沿って流す方式で通常運転中のRPV温度を370℃以下にさせる方式を採用した。これにより、材料強度の許容値を上げ、高圧時にも、より薄い肉厚での設計を可能とした。

2)RPV板厚減少のための内径の減少方策

冷却材ガス圧力の増大により、質量流量を維持し体積流量が減少するため、炉心圧損が減少する。これに着目して、ブロック燃料内の燃料棒外径と燃料冷却孔内径で構成する冷却流路幅を縮小した。これにより燃料ブロック装荷数を変えずに平径を縮小し、RPV内径を縮小できた。

3)RPV板厚減少のための設計圧力低下方策

RPVの設計圧力は、冷却材ガス圧力の制御幅、破壊板設定圧力等を評価し決定する。従来、運転圧力の1.2倍と設定したが、本システムの特徴を考慮し、冷却材ガス圧力の挙動をより詳細に分析する事により設計裕度を削減し、1.1倍で設定する事が可能と分った。

上述の3方策を反映し冷却ガス圧力と冷却流路内径(流路幅)を変えてRPV重量と外径および燃料最高温度を求めた。冷却ガス圧力とサイクル熱効率の関係をFig.3に示す。いずれの流路幅でも9MPaが最大熱効率を示した。

経済性を比較する場合、高圧化に伴いRPV重量及び資本費の増加も配慮する必要があり、発電原価での比較が合理的である。その結果をFig.4に示す。許容領域内に収まる点より、従来最適と考えられていた圧力6~7MPaよりも高い8~9MPaに、冷却材ガス圧力の最適値が存在する事が明らかになった。

2.2HTGR-GT動力変換システム基本概念の最適化

構造概念の最適化の知見を得るため、HTGR-GTのPCS基本概念の中から、重要性の高い以下の1)~5)の5項目の基本概念を選定した。各基本概念に関し、現状考えられる複数の候補概念(例えば、ターボマシンの縦設置と横設置など)を摘出し、技術検討及びコスト算出のための概念設計、経済性評価を実施し、比較評価し、PCSの最適構成を提案した。

1)ターボマシンの縦設置と横設置方式の比較

Fig. 5にHTGR-GTの代表的PCS基本概念を示す。縦設置、横設置は本図での(1)と(3)の概念比較である。ターボマシン軸が縦と横の違いによる主要な相違点は、ターボマシン軸系振動特性上のラジアル軸受容量要求と磁気軸受用危急軸受の成立性である。そのため、600MWt規模のHTGR-GT 設計における上記課題を比較した。軸系振動特性上のラジアル軸受容量要求は、両方式に差はないが、危急軸受は、横設置ターボマシンが技術的に優位である事が分かった。

2)ターボマシンと熱交換器の同一容器一体収納と個別容器分離収納の比較

Fig.5の(1)と(2)に示す動力変換容器と熱交換器容器の収納方式の違いに関し、システム熱効率、建設費を比較評価した。その結果、セグメントシールを用いた同一容器一体収納は、システム熱効率低下が約4%と大きく。一方、建設費は無視可能な差であり、個別容器分離収納方式が優位である事が分かった。

3)タービン、圧縮機、発電機の一軸構成と多軸構成の比較

Fig.5の(1)と(3)に示した一軸型と二軸型のターボマシンに関し、軸系振動特性及び、建設費を比較評価した。二軸ターボマシンは、わが国では設計例がないため、試設計を実施した。二軸型の圧縮機の回転数は6300rpmと高速化され、外径が縮小されるが、軸長の短縮が少ないため、軸系振動特性上は、不利である。加えて、建設費が約2%上昇する。一軸型が優位である事が分った。

4)発電機の動力変換容器内設置と容器外設置の比較

発電機を動力変換容器内に設置した場合と、容器外に設置した場合に関し、メンテナンス性、及び両システムの建設費を比較評価した。容器外設置は、メンテンナンス期間が稼働率にして約1%短縮でき、また、発電原価も約1%低くなる。但し、この方式には、冷却材バウンダリーを維持し、ターボマシンの回転軸の容器貫通を可能とするドライガスシール機構の設置が必須で、このR&Dが必要である。

5)中間冷却器設置の有無の比較

性能、建設費の観点から中間冷却の有無によるPCSを比較評価した。中間冷却器の設置は、ターボマシンが長尺化するが、中間冷却が1段であれば、軸振動解析結果より軸系振動特性上は有意な差は生じない。また、経済性に関し、1、2段の中間冷却器設置は、設置無しに比べ建設費上昇するが、建設単価は、約4%、発電単価は、同じく約3%向上し、優位な事が分った。

以上より、5項目の優位なPCS個別概念を組み合わせる事で、PCSの最適構成を提案できることが分った。

3.高温ガス炉水素製造システムの成立性

3.1高温ガス炉水素製造システムの概念

熱化学法のISプロセス法は、現在、日本原子力研究会開発機構を中心に開発が進められ、30Nm3/h規模のパイロットプラントの建設が計画されている。ISプロセス法は、ヨウ素と硫黄による化学反応を組み合わせ、水を熱分解して水素を製造する。この過程で、腐食性の強い濃硫酸を蒸発・分解させる熱交換器が必要とされ、この開発が、システム成立の重要な課題であった。

3.2セラミックス熱交換器の製作実証

ISプロセスパイロットプラントにおける硫酸プロセスの設計条件をTable 1に示す。流体は、高温Heと高温、高圧硫酸であり、従来の金属材料では成立見込みがない。そこで炭化ケイ素(SiC)セラミックス材の熱交換器を用いる事とした。

従来の製造手法を応用し、Fig.6の形状にて設計した。次に、パイロットプラントの熱流動条件を解析的に模擬し、温度分布解析、応力解析を実施した。高応力部に対して3次元解析により、構造健全性を確認した。特に重要視した製作性は、実規模大の試験体を製作し実証した。

そのため、設計に当たっては、現実に製作可能な制約条件を考慮し、モジュールパネルを組み合せた構造形状を採用した。製作には、新接合スラリー、焼結時、含浸時の昇降温速度等の管理など、新しい技術開発結果を基に、実規模大試験体の製作に成功した。Fig.7にセラミック伝熱管パネルの写真を示す。

4.結論

高温ガス炉の新システム概念として、代表的な核熱利用システムの、高温ガス炉ガスタービン発電システム及び、熱化学法による水素製造システムの熱交換器に関する最適設計方策、成立性検討結果より新知見を得た。

高温ガス炉ガスタービン発電システムは、以下が最適設計として有望である。

・冷却材ガス圧力は従来値より高い8~9MPaの高圧化システム

・ PCSの最適概念としては、ターボマシンの、(1)横設置、(2)個別容器分離収納、(3)一軸構成、(4)発電機の動力変換容器外設置、(5)中間冷却器の一段設置

水素製造システムの成立性に関して、下記の結果により見通しを得た。

・実機規模大モデルの設計・製作実証によるセラミックスの熱交換器の成立性

Fig.1 Flow diagram of HTGR-GT

Fig.2 Schematic flow diagram of the IS process pilot test plant

Fig.3 Maximum achievable cycle efficiency for the coolant pressure

Fig.4 Effect of gas pressure on power generation cost

Fig.5 Layout of Power Conversion System (PCS)

Fig.6 Concept of Decomposer

Fig.7 Outer view of prototype model

Table 1 Design conditions of the sulfuric acid decomposer in pilot test plant

審査要旨 要旨を表示する

本論文は高温ガス炉の新システム概念を検討したもので6章より構成されている。

第1章は序論であり、本論文の研究テーマ選定の背景、及び必要性を述べている。原子力は今後も地球温暖化抑制対策等の観点よりその拡大が期待され、中でも高温ガス炉は、高効率の発電、一般産業への熱利用等、軽水炉や高速増殖炉以上に地球温暖化抑制対策に貢献できる可能性が高いとしている。高温ガス炉の実用化のための課題解決策を検討した結果、高温ガス炉の新システム概念を研究する必要があるとし、高温ガス炉システムの最適化と高温ガス炉水素製造システムの成立性の検討を研究の目的としている。

第2章は高温ガス炉の技術的特徴、基本構造、高温ガス炉の開発の歴史について述べ、先端的技術として研究開発の方向性を示す必要があると分析している。

第3章は高温ガス炉ガスタービンシステムのシステム基本パラメータの最適化について述べている。熱出力、原子炉出入口温度、冷却材ガス圧力などの最適化を検討し、高温ガス炉プラントの経済性向上の観点から冷却材ガス圧力の高圧化が有効であるとの分析している。高温ガス炉ガスタービンシステムの冷却材ガス圧力は、従来の6~7MPaよりも高い8MPa付近に最適点が存在するとし、この高圧システム達成のため、原子炉ブロック冷却流路径の縮小、炉壁冷却流量の最適化、原子炉圧力容器設計圧力の最適化の設計手法を示している。更に、原子炉・システム統合解析コードを開発し、発電単価計算を行い最適パラメータの解析結果についてのべている。

第4章は高温ガス炉ガスタービンシステムの動力変換システム基本概念の最適化について述べている。発電システムの主要構成機器は、原子炉容器、動力変換システムの動力変換容器、熱交換容器であるとし、これらの基本概念と基本構成の最適化について検討している。動力変換システム概念に関し重要度の高い5つの個別概念を、経済性、技術的成立性の観点より検討し、ターボマシンすなわちガスタービン、圧縮機と発電機は、軸の横設置方式、及び一軸構成方式が最適と評価している。また、収納方式は、ターボマシンと熱交換器とは分離収納方式が、発電機は動力変換容器内収納方式が最適であり、更に、中間冷却器は一段設置方式が最適と評価している。その結果、これらの組合せが動力変換システムとして最適であるとしている。

第5章は高温ガス炉水素製造システムの成立性について述べている。まず開発の優先度の高いISプロセスおける耐熱、耐腐食材料を用いた硫酸分解器の研究、及び試作実証の成果を示している。次にその構造健全性評価について述べ、ISパイロットプラントでの設計条件を設定の上、構造を具体化し温度分布及び熱応力解析を実施し、成立性を確認したとしている。更に、実規模大モデルでの製作実証結果を示している。これにより、セラミックス製の熱交換器の総合的な成立性を見通したとしている。なお実規模大での製作実証は世界に類例がないと述べている。

第6章は本論文の結論であり、本研究のまとめが述べられている。

以上を要約するに、本論文は高温ガス炉の新システム概念について研究し、高温ガス炉プラントの経済性向上の可能性、及びその方策を見出すとともに、新システム概念における先端的技術の成立性を見通している。この成果は原子力工学の進展に貢献するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク