No | 126106 | |
著者(漢字) | 岩尾,慎介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イワオ,シンスケ | |
標題(和) | 超離散可積分系の厳密解 | |
標題(洋) | Exact Solutions of Ultradiscrete Integrable Systems | |
報告番号 | 126106 | |
報告番号 | 甲26106 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第348号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 周期箱玉系の一般解を解析的な手法で求めた. 一般に超離散可積分系は,可積分な離散方程式に超離散化と呼ばれる極限操作を作用せることによって得られる.本稿では,周期境界条件のついた簡約離散KP 方程式,およびその超離散化の,初期値問題の一般解を構成する. 本稿のKey Theorem は以下の通り: 1) 平面代数曲線上のAbel 積分の超離散極限が,トロピカル曲線理論におけるトロピカルAbel 積分と一致することを証明した.(Chapter 2) 2) 逆散乱法を用いて,簡約離散KP 方程式の初期値問題の一般解を構成した.(Chapter3) この手法は,Fay の恒等式などの関数等式に依存しておらず,構成的に解を求めている. 1) について:非特異複素代数曲線(Riemann 面)上のAbel 積分の理論は,古くから可積分方程式の解法に用いられてきた.超離散可積分系の解法を構成するにあたり,Riemann面の超離散化に対応する幾何学的対象として,トロピカル曲線が用いられる.ここで,トロピカル曲線とは,マックス-プラス代数上の代数曲線である.Riemann 面上のAbel 積分のトロピカル的類似として,トロピカル曲線上の「トロピカルAbel 積分」が定義される.トロピカルAbel 積分は,組み合わせ論的に計算されるトロピカル曲線上の線形形式であり,計算が非常に容易であるという特長がある.ここでは,トロピカルAbel 積分が,複素Abel 積分の超離散極限と一致することを証明する.実際,以下が成立する: 定理:C" をパラメータε > 0 を持つ代数曲線族とする.TropC をC" に対応するトロピカル曲線とする.C" があるgenericness condition を満たすとき,B" : C" の周期行列,BT :TropC のトロピカル周期行列とおくと, Bε~-1/2πiε BT (ε → 0+) が成立する. 2) について:離散KP 方程式の一般解が,代数曲線に付随するテータ関数であらわされることはよく知られている.離散KP方程式の解を考えるときは,テータ関数に対するFayの恒等式に立脚する解法が一般的である.しかしながら,与えられた初期値に対して具体的な解の表示を得るためには,別の,より構成的な方法が必要となる. ここでは,与えられた初期値から簡約離散KP 方程式の解を構成する.簡約離散KP 方程式はLax 行列による表現を持つ.このとき,標準的な方法で,スペクトル曲線と呼ばれる,初期値のみによって定まる代数曲線を構成できる.同じスペクトル曲線C を与えるような初期値全体の集合を等位集合T と呼ぶと,簡約離散KP 方程式の時間発展は,等位集合から自分自身への全単射と解釈できる. スペクトル曲線C のPicard 群をPic(C) と書こう.固有ベクトル写像と呼ばれる単射φ : T ! Pic(C) が存在して,以下が成り立つ: T 上の時間発展は,Pic(C) 内では定ベクトルによる平行移動である. この事実を利用して,簡約離散KP 方程式の解を構成することができる.結果として得られる解は,テータ関数θ を用いて, θ(a) ・ θ(b)/θ(c) ・ θ(d)× (定数) (1) の形で表される. 以上のKey Theorem 1), 2) を基に,周期箱玉系の初期値問題の一般解を構成した.手順は以下の通り:e := e/1=" とおき,K をC 上e に関するPuiseux 収束級数体とする.また,val : K → Q[f1gを, val (e) = 1 なる付値とする.このとき,超離散化-limε→0+ ε log(・)と写像val は,K 上一致することに注意しておく. i) 箱玉系の初期値2 Z を.付値val でK 上に持ちあげる. ii) 持ちあげられた初期値に対し,K 上で,簡約離散KP 方程式の初期値問題を解く.(Key Theorem 2) iii) 得られた解を超離散化する.この際,テータ関数の超離散極限の計算に,Key Theorem1 を用いる. 結論として得られる解は,超離散テータ関数θを用いて, θ(A) + θ(B) -θ(C) - θ(D) + (定数) の形で表される.これは,形式的に離散KP 方程式の解(1) の積の演算をを加算に取り替えた形をしている. | |
審査要旨 | 本論文は,周期箱玉系と呼ばれるセルオートマトンの初期値問題を,トロピカル曲線(Max,+代数上の代数曲線,平面グラフ)の理論を用いて厳密に解いたものである.周期境界条件を課した戸田方程式などの周期可積分系では,その一般解は保存量によって定まるスペクトル曲線上のアーベル積分の理論を用いて解けることが知られている.(原理的に解けるのであって実際の計算はたいへん困難.)具体的にはアーベル写像によって,周期可積分系をヤコビ多様体上で線形化して解いている.一方,トロピカル曲線上にもトロピカルアーベル積分と呼ばれる線形形式(グラフを構成するラインの重み付きの内積)が存在し,アーベル積分の対応物と考えられていたが,代数曲線上のアーベル積分との対応関係はわかっていなかった. 論文提出者は,(1)代数曲線とその上のアーベル積分を1パラメータのピュイズイ級数体上で定義し,その超離散極限によって得られるトロピカル曲線を考えると,もとのアーベル積分がこのトロピカル曲線のトロピカルアーベル積分に一致することを証明した.特に周期行列に関して,具体的な次の定理を証明した. 定理: をパラメータεを持つ代数曲線族とする.TropCを に対応するトロピカル曲線とする. があるgenericness conditionを満たすとき, : の周期行列, :TropCのトロピカル周期行列とおくと,(〓) が成立する. これは,可積分系への応用上重要であるばかりでなく,トロピカル曲線論においても重要な結果である. 論文提出者は,次に(2)アーベル写像を利用した逆散乱法を用いて超離散極限をとる前の離散可積分系の初期値問題を解き,(1)の結果を援用して,周期箱玉系の初期値問題を一般解法を示した.この手法は,具体的に(足し算とMaxだけで)解くことができ,これまで原理的に可能とされていた逆散乱法による解法に,より具体的な構成方法を与えたものである. 具体的には,与えられた初期値から簡約離散KP方程式の解を構成する以下の結果を得ている.簡約離散KP方程式はLax行列による表現を持つ.このとき,標準的な方法で,スペクトル曲線と呼ばれる,初期値のみによって定まる代数曲線を構成できる. 同じスペクトル曲線 を与えるような初期値全体の集合を等位集合と呼ぶと,簡約離散KP方程式の時間発展は,等位集合Tから自分自身への全単射と解釈できる.スペクトル曲線 のPicard群をPic と書く.固有ベクトル写像と呼ばれる単射 が存在して,「 上の時間発展は,Pic 内では定ベクトルによる平行移動である.」であることがわかっている.論文提出者はこの事実を利用して,簡約離散KP方程式の解を構成し,その結果として解を,テータ関数を用いて具体的に表した.この結果をもとに,周期箱玉系の初期値問題の一般解を構成した. 手順は以下の通り: i) 箱玉系の初期値を適当な付値をもちいてピュイズイ級数収束体K上に持ちあげる. ii) 持ちあげられた初期値に対し,K上で,簡約離散KP方程式の初期値問題を解く. iii) 得られた解を超離散化する.この際,テータ関数の超離散極限の計算に(1)の結果を用いる. 結論として得られる解は,超離散テータ関数を用いて表示されるが,これは形式的に離散KP方程式の解の積の演算を加算に取り替えた形であることが示された. このように,論文提出者は超離散可積分系理論のみではなく,トロピカル曲線論にも重要な寄与を与えている.よって,論文提出者岩尾慎介は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51746 |