学位論文要旨



No 126115
著者(漢字) 松尾,信一郎
著者(英字)
著者(カナ) マツオ,シンイチロウ
標題(和) インスタントンに対するRungeの近似定理について
標題(洋) On the Runge theorem for instantons
報告番号 126115
報告番号 甲26115
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第357号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古田,幹雄
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 准教授 今野,宏
 東京大学 准教授 吉川,謙一
内容要旨 要旨を表示する

一変数函数論でのRunge の近似定理は,「複素平面の領域上の任意の有理型函数には,広義一様収束位相において,有理関数による近似列が存在する」と主張する.有理関数とはRiemann 球面上の有理型函数のことであり,有理型関数とはRiemann 球面への正則写像のことである. また,正則写像とはCauchy-Riemann 方程式の解のことだった.従って,Runge の近似定理は,「Riemann 球面の領域上のCauchy-Riemann 方程式の任意の解には,広義一様収束位相において,大域解による近似列が存在する」と言い換えられる.

さて,Riemann 面上のCauchy-Riemann 方程式と四次元有向Riemann 多様体上の反自己双対方程式には深い類似がある.本論文はその類似を追求し,主定理として「四次元有向閉Riemann 多様体の領域上の反自己双対方程式の任意の解には,広義一様収束位相において,大域解による近似列が存在する」を得た.それがインスタントンに対するRungeの近似定理である.

主定理(The Runge theorem for instantons)

(X, g) を四次元有向閉Riemann 多様体とする.U をX の開部分集合として,PU をU上のSU(2)-主束とする.また,AU をPU 上の反自己双対接続とする.すなわち,AU は,PU 上の接続であって,反自己双対方程式FAU + *FAU = 0 を充たす.ただし,* は計量gとX の向き付けが定めるHodge 作用素であり,FAU はAU の曲率である.

このとき,U の任意のコンパクト部分集合K に対して,X 上のSU(2)-主束Pn とその上の反自己双対接続An と束写像ρn : PU → Pn|U からなる三組の列{Pn, An, ρn}∞n=1 が存在して,n → ∞ のとき,ρ*n(An) はK の近傍上でAU にC∞ 収束する.

審査要旨 要旨を表示する

論文提出者は、1変数函数論におけるRunge の近似定理と平行する命題を4次元多様体上のインスタントンについて確立した。

2次元多様体上の非線形Caucy-Riemann 方程式と4次元空間上の反自己双対方程式は平行する性質が知られている。両者とも通常の定式化では底空間は閉多様体と仮定される。一方、非コンパクト多様体上の非線形Cauch-Riemann 方程式、あるいは反自己双対方程式は、無限次元空間の力学系と近い性質を持つことが通念として想定され興味深いが系統的研究はほとんどなされていない。非コンパクト多様体上であってもエネルギーが有界であれば、閉多様体上の理論とほぼ平行して扱うことができ、閉多様体上のインスタントンのモジュライについては、次元の計算など定量的扱いの方法が確立されており、それに準じた考察が可能である。

松尾氏は、エネルギーが有界ではない解、すなわち非コンパクト多様体特有のインスタントンを研究した。そうしたインスタントンの考察においては、閉多様体の上のインスタントンとの比較可能性は不明である。松尾氏は、このような対象においても比較を可能にする手段として、古典的なRunge の近似定理に注目した。非コンパクト多様体を閉多様体に開部分集合として埋め込むことが可能である場合に、その閉多様体上のインスタントンと比較するのが基本的なアイディアである。

主定理は次の通りである。「4次元有向閉Riemann 多様体X の上の開部分集合U、U のコンパクト部分集合K、およびU 上のSU(2) インスタントンA に対して、A をC1 の意味でいくらでもよくK 上で近似するX 上のSU(2) インスタントンが存在する」

先行研究としてDonaldson によって示された4次元標準球面に対する同様の命題がある。松尾氏は、Donaldson にしたがってTaubes による一様評価を利用する。

松尾氏の貢献は、近似解から真のインスタントンを構成するための障害が存在する一般の4次元Riemann多様体の場合に、その障害を扱うための枠組みを与えたことである。特に、障害を打ち消すためにインスタントン数の高いバンドルの上に、複数の点でねじれた接続の族を構成する手法は、著しい。

松尾氏の主定理および、主定理を示すための道具立ては、開多様体上のゲージ理論において、インスタントン数を固定せず考察する一方法の出発点と評価される。実際、本論分の方法および手法は、参考論文として提出された塚本真輝氏との共同研究において利用され、S3×Rの無限エネルギーインスタントンの空間の平均次元の評価に用いられた。松尾氏の方法は、インスタントンの連続族の列であって、パラメータ空間の次元がある増大度を示すものの構成を可能とし、これが平均次元の評価のために本質的であった。

よって、論文提出者松尾信一郎は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51755