学位論文要旨



No 127145
著者(漢字) 阿部,祐三
著者(英字)
著者(カナ) アベ,ユウゾウ
標題(和) Lycoposerramine-Sの合成研究
標題(洋)
報告番号 127145
報告番号 甲27145
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1373号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 大和田,智彦
 東京大学 教授 井上,将行
 東京大学 教授 内山,真伸
 東京大学 講師 横島,聡
内容要旨 要旨を表示する

【背景・目的】Lycoposerramine-S (1)は高山らによりヒカゲノカズラ科植物Lycopodium serratum より単離、構造決定されたリコポジウムアルカロイドである1。構造上の特徴として、九員環を含む四環性の化合物であり、12 位の四級炭素を含む連続した五つの不斉中心を有している。特に化合物の中心をなす2-azatricyclo[5,2,1,03,8]decane 骨格は、類縁化合物であるLycoposerramine-A、Macleanine 以外には例のないものである。その特徴的な構造から、多くの生理活性を有するリコポジウムアルカロイドと同様、興味深い生理活性を有していると期待される。また、全合成は未だ報告されておらず、Elliott らによるモデル化合物に関する合成研究が報告されているのみである2。そこで、筆者はその特異な2-azatricyclo[5,2,1,03,8]decane 骨格を効率的に構築可能な方法論を開発し、Lycoposerramine-S (1)の全合成を達成すべく研究に着手した。

【逆合成解析】

Lycoposerramine-S (1)の効率的な全合成を行うために、その合成経路について考察を行った。最も構築が困難であると思われる、中心骨格のアザトリシクロデカン骨格に注目したときに、含窒素骨格をどの段階で構築するかが一番の課題となると考えた。さらに12 位の四級炭素はその構築の難しさから、可能な限り合成序盤に構築すべきと考えられる。それらの考察を元に三つの逆合成を行った(Scheme 1)。

(i) 生合成仮説に基づき3、窒素原子を合成終盤に導入するFawcettimine 骨格を経由した逆合成を行った。すなわちaにて結合を切断すると、三環性化合物2 へと導ける。この2はシクロペンテノン3のアルデヒド部位とエノン部位との分子内カップリング反応を行うことで構築でき、九員環部位は対応するジオールより導くことが可能であると考えた。

(ii) アザビシクロ[3.3.1]骨格を経由した逆合成を行った。すなわちLycoposerramine-S (1)のアザトリシクロデカン骨格をbの位置で逆合成的に切断すると、アザビシクロ[3.3.1]骨格を含む、三環性化合物4 へと導くことができる。4の窒素原子とLycoposerramine-S (1)の4 位に対応する炭素原子とを酸素原子を介して結合させると、イソキサゾリジン5 へと逆合成することが可能である。5は八員環ニトロン6による1、3 双極子付加環化反応により導ける。

(iii) ピロリジン環の構築を経由した逆合成を行った。すなわち、Lycoposerramine-S (1)のアザトリシクロデカン骨格と九員環部位とをcの位置にて逆合成的に切断すると、アルコール7 へと導くことができる。7のピロリジン部位に注目すると、このピロリジン部位はアゾメチンイリド8の分子内1,3 双極子付加環化反応にて合成可能であると考えられる。

【結果・考察】 最初に、(i)の合成経路をを検討することとした。なお、以下の検討は天然物のメチル基を除いたモデル化合物の合成を行い、合成ルートの有効性を確認している。まず、α,β-不飽和エステル9に対して、林らによって報告されているロジウムを触媒としたボロン酸の共役付加反応4を行うことで、芳香環ユニットの導入を行いエステル10とした。NBSを作用させ、位置選択的に10の芳香環部位の臭素化、エステル部位の加水分解を行うことで対応するカルボン酸11を得た。11にn-BuLiを作用させると、カルボン酸の脱プロトン化、ハロゲンリチウム交換の後、カルボキシレートへの環化反応が進行し、ジアニオン12を経由することで、インダノン13 へ導くことに成功した。続いて、13に対して、アルカリ金属を作用させることでBirch 還元を行なった。まず、液体アンモニア中、Liを13に作用させることでエノラート反応14 が生じ、反応液を- 20℃まで昇温すると、生じた14 からのメトキシ基の脱離が起こり、メトキシインダノン15 が生成する。再度、一電子還元が起こることでエノラート16 が生じ、アルキル化剤を加えることでアルキル化体17 が一段階にて得られた(Scheme 2)。

シクロヘキサジエン18の合成を完了したので、より電子豊富なメチルエノールエーテルの選択的な開裂反応によりシクロペンテノン22を得る検討を行った(Scheme 3)5。すなわち、18をエポキシ化の条件に付し、反応中間体の加水分解を行うことでヒドロキシケトン19 へと導いた。続いて、19に対して、Pb(OAc)4を作用させると、ヒドロキシケトン部位の開裂が起こり、アルデヒド20 へと変換された後、MeOH が付加したヘミアセタール21を経由してギ酸メチルが脱離することでシクロペンテノン22 へと導くことに成功した。

しかしながら、22に至るまでの収率に問題を残すことと、合成終盤に窒素原子を導入する為にはヒドロキシケトン23の凹面側に配向するアルキル側鎖や窒素官能基導入の足がかりとなる水酸基の高度な立体化学の制御を必要とすることから、本合成経路にてモデル化合物24を合成することを断念した。

次に、(ii)のアザビシクロ[3.3.1]骨格を経由した合成経路について検討を行うため、モデル実験として二置換二重結合を有する基質を合成した(Scheme 4)。アルコール25に対して光延反応条件下、ヒドロキシルアミンユニットの導入を行い、ヒドロキシルアミン保護体26とした。続いて、26に対するBoc基の除去、ジメチルアセタールの加水分解を同時に行い、生じた遊離のヒドロキシルアミンとアルデヒドが分子内で脱水縮合することで八員環ニトロン27を得た。この際、対応するアルデヒドは単離することはできなかった。得られた27をシリカゲル共存下において反応させることで、分子内環化付加反応が進行し目的とするイソキサゾリジン28を得た。

Lycoposerramine-S (1)の12 位の不斉四級炭素を効率的に構築するためには、あらかじめ対応する側鎖を有する基質での環化付加反応を行う必要がある。そこで三置換二重結合での反応の検討を行った(Scheme 5)。不飽和エステル29にロジウムを触媒とした共役付加反応を行い、続いて29のエステル部位の還元、生じた一級アルコールのMOM 基での保護を行い、芳香環化合物30を得た。30に対してBn 基の除去、酸化反応を行い、得られたアルデヒドをジメチルアセタール31 へと保護した。次に、31をバーチ還元の条件に付すことで、メチルエノールエーテル32とした。得られた32をオゾン酸化により酸化的に切断し、生じたアルデヒドを一級アルコールへと還元した。続いて、得られた一級アルコールをTBS 基で保護し、エステルの還元、続く光延反応によるシアノ基の導入によりニトリル33を得た。その後、33 から保護基の脱着を経て、アルコールへと導いた。得られたアルコールに対して通常の光延反応条件を用いたところ、精製に問題が生じたため、杉村らによって開発されたDMEAD6を用いてヒドロキシルアミンユニットの導入を行い、ヒドロキシルアミン保護体34とした。二置換二重結合での場合と同様に34に対してBoc 基の除去、ジメチルアセタールの加水分解を同時に行うことで、八員環ニトロン35を得た。続いて、35の環化付加反応を試みたが、目的の環化体36は全く生成せず、わずかに二量化したものが得られたのみであった。この結果から、ニトロンを用いた分子内環化付加反応では不斉四級炭素の構築は困難であると考え、本合成経路は断念した。

最後に、(iii)のピロリジン環の構築を経由した合成経路について検討を行った(Scheme 6)。文献既知のラクトン377とヨウ化ビニル38のカップリング反応を行い、生じた一級アルコールの酸化を行うことでアルデヒド39とした。得られた39に対してN-ベンジルグリシンメチルエステルを作用させ、加熱条件に付すことでアゾメチンイリドの生成と環化付加反応が進行し、生成物として二種類のジアステレオマーを得た。先の検討に関してはこの二つの異性体の内、主生成物40を使用した。次に、40のベンジル基を除去した後、生じた二級アミンをクロラミンとし、続く塩基処理によりイミンへと導いた。得られたイミンに対して、酸クロリドを作用させることでエナミド41とした。

エナミド41に対して三炭素ユニットの導入及び、残る炭素環の構築を行った(Scheme 7)。種々検討の結果、41に対してMeLi から調製した混合銅試薬を用いた場合にのみ、共役付加反応は良好に進行し、三炭素ユニットが導入されたケトエステル42を与えた。42の詳細な立体化学の決定には至っていないが、共役付加反応、続くプロトン化はエナミド41の凸面側から進行することで、望みの立体化学を有する化合物が得られていると考えている。続いて、42をアルコール43 へと還元し、生じた二級水酸基をメシル化し、続いてエステルの還元、メシラートの脱離を経て、オレフィン44 へと変換した。44はクロロチオノギ酸フェニルエステルとの縮合によりチオノカーボネート45とした。45のラジカル環化反応を行ったところ、反応は円滑に進行したが、生成物として、46と共に6-endo 環化が進行したと思われる化合物との混合物が得られており、分離精製を含め今後の課題となっている。続いて、酸性条件下、選択的にTBS 基を除去し、光延反応を用いて窒素官能基の導入、TBDPS 基の除去を行った。最後に、再度光延反応を用いることで環化を行い、四環性化合物47を得た。現在、得られた中間体の構造確認及び、天然物への変換の検討を行っている。

(1) Takayama, H.; Katakawa, K.; Kitajima, M.; Yamaguchi, K.; Aimi, N. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 8307.(2) Elliott, M. C.; El Sayed N. N. E.; Paine, J. S. Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 2611.(3) Ma, X.; Gang, D. R.; Nat. Prod. Rep. 2004, 21, 752.(4) Hayashi, T.; Yamasaki, K. Chem. Rev. 2003, 103, 2829.(5) Moody, C. J.; Toczek, J. J. Chem. Soc. Perkin Trans. I 1988, 1397.(6) Sugimura, T.; Hagiya, K. Chem. Lett. 2007, 36, 566.(7) Poppe, L.; Novak, L.; Kolonits, P.; Bata, A.; Szantay, C. Tetrahedron 1988, 44, 1477.

Scheme 1

Scheme 2

Reagents and conditions: (a) 3,4-dimethoxybenzeneboronic acid, [Rh(cod)Cl] 2, KOH, EtOH, rt to 50℃, 76%; (b)NBS, MeCN, rt; (c) NaOH, EtOH-H2O, rt; (d) n-BuLi, THF, -78℃, 62% (3 steps); (e) Li, NH3, Et2O-t-BuOH,-78 to-20℃; isoprene; allyl indide, 59%.

Scheme 3

Reagents and conditions: (a) mCPBA, THF- H2O (0.02 M), 34%; (b) Pb(OAc) 4, MeOH-benzene, rt.

Scheme 4

Reagents and conditions: (a) BocHNOBoc, Ph3P, DEAD, THF, rt, 91%; (b) TFA, CH2Cl2, rt; (c) SiO2, CH2Cl2,rt, 51% (2 steps).

Scheme 5

Reagents and conditions: (a) 4-methoxybenzeneboronic acid, [Rh(cod)Cl] 2, KOH, EtOH, rt to 50℃; (b)DIBAL, THF, 0℃; (c) MOMCl, i-Pr2NEt, CH2Cl2, 0℃to rt; (d) Pd/C, H2, MeOH, rt, 97% (4 steps); (e) DMSO,(COCl)2, CH2Cl2, -78℃ to rt; (f) HC(OMe)3, CSA, MeOH, rt, 83% (2 steps); (g) Li, NH3, Et2O-t-BuOH, -40℃,92%; (h) O3, CH2Cl2-MeOH, -78℃; NaBH4, 0℃, 63%; (i) TBSCl, Im, DMF, rt, 31%; (j) DIBAL, THF, 0℃,94%; (k) acetone cyanohydrin, DEAD, Ph3P, benzene, rt to reflux, 70%; (l) TBAF, THF, rt, 53%; (m) BnBr, TBAI,NaH, THF-DMF, 80℃, 86%; (n) CSA, MeOH, 50℃, 58%; (o) BocHNOBoc, Ph3P, DMEAD, toluene, 85℃,67%; (p) TFA, CH2Cl2, rt; (q) SiO2, CH2Cl2, rt.67%; (p) TFA, CH2Cl2, rt; (q) SiO2, CH2Cl2, rt.

Scheme 6

Reagents and conditions: (a) n-BuLi, Et2O, -78 to 0℃, 51%; (b) TPAP, NMO, MS 4A, CH2Cl2-MeCN, 0℃to rt, 78%; (c) N-benzylglycine methyl ester, toluene, reflux, 63% (major isomer); (d) Pd/C, H2, EtOAc, rt; (e)t-BuOCl, CH2Cl2, 0℃; DBU, 0℃ to rt; (f) AcCl, toluene, 50℃, 45% (3 steps).

Scheme 7

Reagents and conditions: (a) [TBSO(CH2) 3](Me)Cu(CN)Li2, Et2O, -78 to 0℃, 73%; (b) NaBH4, MeOH, 0℃to rt, 75%; (c) MsCl, TMEDA, toluene, 0℃to rt; (d) LiBHEt3, LiBH4, THF, 0℃ to rt; (e) DBU, LiBr, toluene,reflux, 60% (3 steps); (f) phenyl chlrothionoformate, pyridine, DMAP, MeCN, 0℃ to rt, 86%; (g) TTMSS, AIBN,toluene, reflux, 58%; (h) 0..1 N HCl aq. THF-H2O, 0℃ to rt, 64%; (i) NsNH2, Ph3P, DEAD, benzene, rt; (j) TBAF,THF, 50℃, 85% (2 steps); (k) Ph3P, DEAD, benzene, rt, 49%.

審査要旨 要旨を表示する

Lycoposerramine-S(1)は高山らによりヒカゲノカズラ科植物Lycopodium serratum より単離、構造決定されたリコポジウムアルカロイドである。構造上の特徴として、九員環を含む四環性の化合物であり、12 位の四級炭素を含む連続した五つの不斉中心を有している。その特徴的な構造から、多くのリコポジウムアルカロイドと同様、興味深い生理活性を有していると期待される。また、全合成は未だ報告されておらず、Elliottらによるモデル研究が報告されているのみである。阿部はその特異な2-azatricyclo[5,2,1,03,8]decane 骨格を効率的に構築可能な方法論を開発し、Lycoposerramine-S (1)の全合成を達成すべく研究に着手した。まず阿部はメチル基の無いモデル化合物であるα,β-不飽和エステル2に対して、ロジウムを触媒としたボロン酸の共役付加反応を行うことで、芳香環ユニットの導入を行いエステル3とした。NBSを作用させ、位置選択的に3の芳香環部位の臭素化、エステル部位の加水分解を行うことで対応するカルボン酸4を得た。4にn-BuLiを作用させると、ジアニオン5を経由することで、インダノン6 へ導くことに成功した。続いて、6に対して、アルカリ金属を作用させることでBirch 還元を行った。この反応に関して検討の結果、反応液を-20℃まで昇温すると、生じたエノラート7 からのメトキシ基の脱離が起こり、メトキシインダノン8 が生成し、再度還元が起こることでエノラート9 が生じ、アルキル化剤を加えることでアルキル化体10 が一段階で得られた(Scheme 1)

次段階として、より電子豊富なメチルエノールエーテルの選択的な開裂反応によりシクロペンテノン14を得る検討を行った(Scheme 2)。すなわち、10をエポキシ化の条件に付してヒドロキシケトン11 へと導いた。続いてメタノール存在下四酢酸鉛を作用させると、ヒドロキシケトン部位の開裂が起こりアルデヒド12 へと変換され、続く脱アルデヒド基と共役化によりシクロペンテノン14 が得られた。しかしながら、14に至るまでの収率に問題を残すため、阿部は本合成経路にてモデル化合物16を合成することを断念した。

次に阿部はアザビシクロ[3.3.1]骨格を経由した合成経路について、検討を行った(Scheme 3)。不飽和エステル17にロジウム触媒による共役付加反応を行い、続くエステルの還元、生じた一級アルコールのMOM基での保護を行い、芳香環化合物18を得た。18に対してBn 基の除去、酸化反応を行い、得られたアルデヒドをジメチルアセタール19 へと保護した。次に、19をBirch 還元の条件に付すことで、メチルエノールエーテル20とした。得られた20をオゾン酸化により酸化的に切断し、生じたアルデヒドを一級アルコールへと還元した。続いて、得られた一級アルコールをTBS 基で保護し、エステルの還元、そして光延反応によるシアノ基の導入によりニトリル21を得た。その後、21 から保護基の脱着を経て、アルコールへと導いた。得られたアルコールに対して、DMEADを用いてヒドロキシルアミンユニットの導入を行い22とした。22に対してBoc 基の除去、ジメチルアセタールの加水分解を同時に行うことで、八員環ニトロン23を得たが、残念ながら23の環化付加反応は目的の環化体24は全く生成せず、わずかに二量化したものが得られたのみであった。阿部はこの結果から、ニトロンを用いた分子内環化付加反応では不斉四級炭素の構築は困難であると考え、本合成経路を断念した。

そこで阿部は、起死回生の策としてピロリジン環の構築を経由した合成経路について検討を行った(Scheme 4)。文献既知のラクトン25とヨウ化ビニル26のカップリング反応を行い、生じた一級アルコールの酸化を行うことでアルデヒド27とした。得られた27に対してN-ベンジルグリシンメチルエステルを作用させ、加熱条件に付すことでアゾメチンイリドの生成と環化付加反応が進行し、生成物として二種類のジアステレオマー28を得た。そのうちの主生成物を用いてベンジル基を除去した後、生じた二級アミンをクロラミンとし、続く塩基処理によりイミンへと導いた。得られたイミンに対して、酸クロリドを作用させることでエナミド29とした。

次に、エナミド29に対して三炭素ユニットの導入及び、残る炭素環の構築を行った(Scheme 5)。阿部の検討の結果、29に対してMeLi から調製した混合銅試薬を用いた場合にのみ、共役付加反応は良好に進行し、三炭素ユニットが導入されたケトエステル30を与えることが明らかとなった。30の詳細な立体化学の決定には未だ至っていないが、共役付加反応、続くプロトン化はエナミド29の凸面側から進行することで、望みの立体化学を有する化合物が得られていると考えられる。続いて、30をアルコール31 へと還元し、生じた二級水酸基をメシル化し、エステルの還元、メシラートの脱離を経て、オレフィン32 へと変換した。32はクロロチオノギ酸フェニルエステルとの縮合によりチオノカーボネート33とした。33のラジカル環化反応を行ったところ、幸い生成物として、望む34 が得られたが、6-endo 環化が進行したと思われる化合物も得られており、今後の課題を残している。続いて、酸性条件下、選択的にTBS 基を除去し、光延反応を用いて窒素官能基の導入、TBDPS 基の除去を行い、再度光延反応を用いることで環化を行い、四環性化合物35を得た。現在、35の詳細なる構造確認及び、天然物への変換検討を行っている。

以上、阿部は効率的なLycoposerramine-S(1)の合成ルートを確立すべく、様々な検討を行い、四環性化合物の合成に成功した。この成果は、薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク