No | 127187 | |
著者(漢字) | 小寺,諒介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コデラ,リョウスケ | |
標題(和) | 一般化されたカレントリー代数上の有限次元単純加群の間の拡大 | |
標題(洋) | Extensions between finite-dimensional simple modules over a generalized current Lie algebra | |
報告番号 | 127187 | |
報告番号 | 甲27187 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第368号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では,一般化されたカレントリー代数上の有限次元単純加群に対して1 次のExt 群を決定する.さらに有限次元加群の圏のブロックの記述を与える. まず,一般化されたカレントリー代数の定義を述べる.gを複素数体C 上の有限次元半単純リー代数,Aを有限生成可換C 代数とする.C 上のテンソル積A〓gは によってC 上のリー代数の構造を持つ.これを一般化されたカレントリー代数と呼ぶ.A が1 変数多項式環C[t],または1 変数ローラン多項式環C[t, tー1]の場合,このリー代数はそれぞれカレントリー代数,ループリー代数と呼ばれ,比較的古くから研究されている.一般化されたカレントリー代数はこれら重要なリー代数の高次元への一般化であり,豊かな表現論を持つことが期待される. 扱う加群の圏が半単純でない場合,単純加群の間の拡大の様子を理解すること,より具体的に1次のExt 群を決定することは基本的な問題である.A=C[t] およびC[t, tー1]の場合,この問題はChari-Greenstein [CG]によって解決された.本論文では,一般のAの場合に1 次のExt 群を決定する.ここで用いる手法はChari-Greenstein [CG]のものとは異なるため,彼らの結果の別証明も与えている. 主定理を述べるために,Chari-Fourier-Khandai [CFK]によって与えられた有限次元単純Ag加群の分類とその記述について簡単に紹介する.P+をgの支配的整ウェイト全体の集合とし,最高ウェイトλ 2 P+の有限次元単純g 加群をV (λ)であらわす.Aの極大イデアルmに対して,リー代数の準同型写像A g ! (A/m) ggを通じてV (λ) 上にA g 加群の構造を与えたものをVm(λ)であらわす.Vm(λ)は単純A g 加群である.SpecmAをAの極大イデアル全体の集合とし,SpecmA からP+ への写像で台が有限であるもの全体の集合をPであらわす.任意のπ 2 Pに対してm2suppm Vm(π(m))は単純A g 加群であり,この対応を通じて有限次元単純Ag 加群の同型類がPによってパラメトライズされる.π 2 Pに対応する単純加群をV(π)であらわす.また,Aのm 2 SpecmAにおける導分全体のなすC ベクトル空間をDer(A, A/m)であらわす.主定理は次の通りである. 定理(論文Theorem 3.6) π, π0∈ Pとする. である.ここでm0 2 SpecmAはπ(m0) 6= π0(m0)を満たす唯一の元である. π=π0 ならば である. 定理におけるDer(A, A/m)の寄与はA=C[t] およびC[t, tー1]の場合を扱った研究のいくつかにも陰に現れてはいたが,その場合この空間が1 次元であるためにはっきりとは認識されていなかったと思われる.一般のAの場合を扱うことで初めて認識されたわけで,その観点からも本論文の結果には意義がある.また,この結果はアファインスキームSpecAの幾何と一般化されたカレントリー代数Agの表現論との関連を示唆している.A が正則でない場合が特に興味深く,今後の研究が待たれる. 次に有限次元A g 加群の圏のブロックの記述について述べる.Pをgのウェイト格子,Qをルート格子とする.SpecmA からP/Q への写像で台が有限であるもの全体の集合をΞであらわす.有限次元単純Ag 加群V(π)に対して,そのスペクトル指標χπ 2 Ξをχπ(m) =π(m)modQ (m 2 SpecmA)によって定義する.Vを一般の有限次元A g 加群とする.あるχ 2 Ξに対してVの任意の組成因子V(π) がχπ=χを満たすとき,Vはスペクトル指標χを持つという.Fを有限次元Ag 加群の圏とし,スペクトル指標χ 2 Ξを持つ加群全体のなすFの充満部分圏をFχであらわす. 定理(論文Theorem 4.4) 〓であり,さらに各FχはFのブロックである. これはChari-Moura [CM]によるA=C[t] およびC[t, tー1]の場合の結果の一般化であり,証明に用いる議論も彼らのものとほぼ同じである. | |
審査要旨 | 提出論文のタイトルは,Extensions between finite-dimensional simple modules over a generalized current Lie algebra(一般化されたカレントリー代数上の有限次元単純加群の間の拡大)である.gをC 上の有限次元半単純リー代数,Aを有限生成可換C 代数とする時,C 上のテンソル積g Aは自然なリー代数の構造を持つ.これを一般化されたカレントリー代数と呼ぶ.特に,次に挙げる2つのケース ・A=C[t]の場合(この場合g Aはカレントリー代数と呼ばれる) ・ A=C[t, t-1]の場合(この場合g Aはループリー代数と呼ばれる) は,可解格子模型や共形場理論等の数理物理学とも密接な関係があることが知られており,その表現論が詳しく調べられてきた. 他方,Aを一般化しようという試みは,純粋に数学的な興味から部分的に行われてはいたが,具体的なモティベーションに乏しい(数理物理学等への応用が知られていなかった)こともあり,組織的な研究は殆ど行われていなかったと言ってよい.しかし,ここ数年,A が2変数多項式環の場合や,特異点を持つ曲線の関数環の場合等,いくつかの例で共形場理論との関連が指摘されるなど,(一般化された)カレントリー代数をめぐる状況は変わりつつある. このような時代的背景の中にあって,小寺氏の挙げた業績は,一般化されたカレントリー代数の表現論における基本定理とも呼ぶべきものであり,今後の研究の礎となる結果である. 以下,本論文の具体的内容について述べる.主結果は次の2つである: (1) g A 上の有限次元単純加群の間の1次のExt 群に関する明示的公式 (2) g A 上の有限次元加群のなす圏のブロック分解 一般に加群の圏を扱う場合,最も基本的な問題は,その圏における単純対象,すなわち単純加群を分類する問題である.g A 上の有限次元加群のなす圏の場合,Chari-Fourier-Khandai (CFK)によって単純加群の完全に分類されている.しかし,gA上の有限次元加群のなす圏は半単純ではないため,単純加群を全て求めただけでは,圏全体の構造の理解にはほど遠い.このような場合,単純加群の間の拡大の構造を詳しく理解することが,圏全体の理解へのファースト・ステップとなる.特に重要なのは1次のExt 群を決定する問題で,本論文の主結果(1)は,これに当たる. A=C[t] 乃至C[t, t-1]の場合には,Chari-Greenstein (CG)によって,単純加群の間の1次のExt 群は完全に決定されている.したがって,本論文の主結果(1)はCGの結果の拡張であると言って良い.ただし,その証明の方法は全く異なる.CGの論法は,複雑な計算を積み重ねて結果を証明するという,正しくはあるが見通しの悪いもので,またA=C[t] またはC[t, t-1] 以外の場合には通用しないものであった.他方,今回小寺氏の用いた方法は,gA上の有限次元加群のなす圏が持つ"rigidity"と呼ばれる性質使って,ホモロジー代数の一般論から結果を導くというもので,非常に見通しが良い.すなわち,AをC[t] またはC[t, t-1]の場合だけに限定したとしても,オリジナルのCGの証明よりもはるかに見通しの良い別証明を与えたことになっている.この点は本論文の最も高く評価すべき点であると考える. (2)については,A=C[t] またはC[t, t-1]の場合の先行結果として,Chari-Moura(CM)の結果が知られている.本論文では,主結果(1)の系として(2) が導かれる.そこで用いられる論法は,基本的にCMのアイデアを踏襲したものであるが,単なる一般化というわけではない.さらに「gA上の有限次元加群のなす圏の構造を理解する」という問題意識からすれば,ブロック分解を具体的に与えたこと自体に非常に意味があり,今後のgAの表現論の研究における,1つの基本定理と呼ぶべき成果であることは間違いない. 上述のように,本提出論文は高い学術的価値を持つと考えられる.したがって,論文提出者小寺諒介は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51804 |