学位論文要旨



No 127710
著者(漢字) 山口,和男
著者(英字)
著者(カナ) ヤマグチ,カズオ
標題(和) 公共施設の立地の集団的選択に関する研究
標題(洋) Essays on Collective Choice of Locations of Public Facilities
報告番号 127710
報告番号 甲27710
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 博経第306号
研究科 大学院経済学研究科
専攻 経済理論専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松村,敏弘
 東京大学 教授 田渕,隆俊
 東京大学 教授 松井,彰彦
 東京大学 講師 尾山,大輔
 東京大学 教授 佐々木,弾
内容要旨 要旨を表示する

This thesis comprises three essays on the collective choice of locations of public facilities.

In the first essay, we investigate a model where, on a tree network, players collectively choose the location of a single public facility by noncooperative alternating-offer bargaining with the unanimity rule. We show the existence of a stationary subgame perfect equilibrium and the characterization of stationary subgame perfect equilibria. We also show that the equilibrium location converges to the Rawls location (the Rawlsian social welfare maximizer) as the discount factor tends to 1; however, it does not relate to the Weber location (the Benthamite social welfare maximizer).

In the second essay, we examine a model where, on a line network, individuals collectively choose the location of an undesirable public facility through bargaining with the unanimity rule. We show the existence of a stationary subgame perfect equilibrium and the characterization of stationary subgame perfect equilibria when the discount factor is sufficiently large. Furthermore, we show that as the discount factor tends to 1, the equilibrium location can converge to a location that is least desirable according to both the Benthamite and Rawlsian criteria.

In the third essay, we consider the outcome of majority voting in multiple undesirable facility location problems where the locations of two facilities are planned, any individual is concerned about the location of the nearest facility but not about the location of the other facility, and any individual prefers that the location of the nearest facility be as far as possible from his/her location. We show that a Condorcet winner is a subset of the set of pendant vertices and the vertices adjacent to pendant vertices on a tree network with an odd number of individuals. Furthermore, we derive a necessary and sufficient condition for a set of locations to be a Condorcet winner on a line network with an odd number of individuals.

審査要旨 要旨を表示する

審査結果:合格

審査内容

本博士論文は、公共施設をどこに立地させるかを集団的に決める場合、その結果が効率的なあるいは公正なものになるのかを理論的に分析したものである。古から現代に至るまで、公共施設の立地は、常に重要な問題であった。それが歓迎される優良施設であれ、迷惑施設であれ、地域住民の厚生に大きな影響を与える公共施設の建設地は、しばしば民主的な手続きに沿って決定される。この民主的なプロセスを経た結果が、ベンサムの基準(総余剰最大化)及びロールズの基準(最も恵まれない主体の利益の最大化)から見て望ましいものになるかを分析するのが本論文の目的である。

この分野の先行研究によって以下のことが知られている。

(1)一つの優良施設の立地を多数決原理で決定する場合、ベンサム基準から見て最も望ましい立地が選ばれる

(2)一つの迷惑施設の立地を多数決原理で決定する場合、ベンサム基準から見て最も望ましい立地が選ばれるとは限らないが、乖離の程度に上限がある(総余剰は最大化されるとは限らないが、損失は限定的である)

(3)複数の優良施設を多数決原理で決定する場合、ベンサム基準から見て望ましい立地が選ばれるとは限らず、更に乖離に上限がない(損失は大きなものになる可能性がある)

本論文では(1)(2)の問題に関して、多数決原理ではなく交渉による全会一致ルールに基づく分析を、(3)に関しては複数の迷惑施設の立地に関する分析を行っている。

論文は4つの章から成っている。すなわち、序章(Overview)および、

2. Outcomes of bargaining and planning in single facility location problems

3. Location of an undesirable facility on a network: a bargaining approach?

4. Outcome of majority voting in multiple undesirable facility location problems

である。

第2章は、一つの優良施設の立地を全会一致ルールで決定する場合の性質を分析している。交渉ゲームを用いて、全ての住民がそれぞれ拒否権を持つ状況を考える。拒否権の行使は結果的に施設の建設の遅れを伴い損失が発生する。この章では、その遅延の損失の程度を表す割引率が十分にゼロに近づくと、均衡立地がロールズの基準から見て最適な立地に近づくことを明らかにした。つまり、その施設まで最も遠い住民と施設の距離が最小になる立地が選択されることを明らかにした。

この結果は、多数決ルールと全会一致ルールでは一般に異なる立地が選ばれ、後者では総余剰は最大されないがある種の公正性を満たす立地が選ばれることを意味している。先行研究の結果(多数決原理では総余剰を最大化する立地が選ばれる)と比較すれば、この結果の重要性が理解できる。この分野で大きな貢献のある独創的な結果であると評価できる。

第3章は、一つの迷惑施設の立地を全会一致ルールで決定する場合の性質を分析している。第2章と同様に交渉ゲームの枠組みを用いる。この章では、均衡となりうる立地は複数あること、立地がロールズの基準からも、ベンサムの基準からも望ましい立地にならない可能性があること、ロールズの基準から見て最悪の立地になる可能性さえあることが明らかにされた。

この結果は、2章の結果と比較すればその重要性が理解できる。全会一致ルールがある種の公正な立地をもたらすのは優良施設の問題に限られることを示し、全会一致ルールの問題点に光を当てた点で重要な貢献があると評価できる。

第4章は2つの迷惑施設の立地を多数決原理で決める場合を分析している。住民の利得は2つの立地のうち最も近い迷惑施設との距離のみに依存するケースを考え、ラインネットワークに限定して考える。均衡立地となるための条件を明らかにした上で、ベンサムの基準からもロールズの基準からも望ましくない立地が選ばれる可能性があること、望ましい資源配分と選ばれる資源配分の間の乖離に上限がないこと(損失が限りなく大きくなることがあり得ること)を明らかにした。

この第4章の貢献や重要性は第2、3章ほど明確ではない。優良施設で知られている結果を迷惑施設で再現しただけ、と解釈することもできる。しかし、第2章と第3章を比較すれば、優良施設と迷惑施設では結果が大きく変わる可能性があることは明らかで、本章の結果は必ずしも自明なことだとはいえない。更に、この章では均衡立地の満たすべき条件を詳細に明らかにしており、この点でも一定の貢献があり、博士論文の1章として十分に価値のあるものである。

テーマは全体を通じて、公共施設建設立地の民主的意思決定の分析に統一されており、研究には一貫性が見られる。今後、迷惑施設・優良施設という2分法ではなく両方の面を備えた施設への適用の可能性など、発展の可能性の大きな魅力的な分野を研究対象に選んだ点も評価できる。論文の分析と現実の事例との関連の議論や、直感的な説明、数値例の使い方などに問題点は見られるが、これは長い研究者人生の中で少しずつ身につけていくべき一生の課題であり、この点は今後のさらなる精進に期待することとしたい。

なお、第2章、第3章はMathematical Social Science に掲載されており、国際的にも一定の評価を受けている。また、第2章は共同論文をベースにしたものであるが、その貢献の度合いは共著者と同程度と認められる。

これらの点を総合的に判断して、審査委員の全会一致で、本論文が博士論文にふさわしいとの結論に至った。

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