No | 127747 | |
著者(漢字) | 仲井,良太 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカイ,リョウタ | |
標題(和) | トポロジカル絶縁体と端状態の理論的研究 | |
標題(洋) | Theory of topological insulator and edge state | |
報告番号 | 127747 | |
報告番号 | 甲27747 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5750号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年精力的に研究されているトポロジカル絶縁体/超伝導体は自由フェルミオン系で実現される物質相であるが、超伝導相や強磁性相などの対称性の自発的破れによって特徴づけられる相とは異なり、ブロッホ関数のトポロジーによって特徴づけられる絶縁体相である。トポロジカル絶縁体/超伝導体の例として、量子ホール系、量子スピンホール系、3 次元量子スピンホール系、カイラルp 波超伝導体、液体3He のB 相などが知られており、これら以外にもトポロジカル絶縁体/超伝導体の性質を示す系が存在する可能性が理論的に予測されている。ところで、このようなトポロジカル絶縁体/超伝導体と同様の物質相は、自由フェルミオン系にとどまらずより広い量子多体系において実現する。量子スピン系においてトポロジカル絶縁体/超伝導体の性質を示す模型として、キタエフによって考案されたキタエフ模型という2 次元量子スピン模型が知られている。 キタエフ模型は2 次元の相互作用量子スピン模型であるが、適当な変換によって超伝導体模型に変換されるという特徴を持つ。ここで超伝導体模型とはBCS 平均場のもとでBogoliubov-de Gennes 方程式に従うボゴリウボフ準粒子の自由フェルミオン模型であり、超伝導ギャップが開いていることに対応してボゴリウボフ準粒子はバンド絶縁体に相当するエネルギーバンドを形成する。自由フェルミオンの占有状態のエネルギーバンドからブロッホ関数のトポロジーに関連した不変量を計算することができ、キタエフ模型の基底状態にあらわれる超伝導体相を特徴づける。キタエフ模型ではエネルギーギャップを開くために外部磁場がかけられており、対応する超伝導体模型は時間反転対称性の破れた2 次元トポロジカル超伝導体となる。このような超伝導体はAltland-Zirnbauer による対称性の分類でクラスD の模型であり、整数(Z) のトポロジカル不変量で特徴づけられる無限個の異なる基底状態の相を持つ。 一方、トポロジカル絶縁体/超伝導体の分類の理論によると、2 次元空間においては時間反転対称性が保たれている場合でもトポロジカル超伝導体相が実現しうる。この事実に基づいて、本研究ではキタエフ模型の時間反転対称な拡張を、内部自由度を増やしたディラック行列模型により実現した。ハミルトニアンは正方格子上に定義され、最近接サイト間相互作用と次近接サイト間相互作用からなる。本研究で得られた模型は、時間反転対称性の保たれたトポロジカル超伝導体に変換することのできる2 次元量子スピン模型であり、このような超伝導体は対称性のクラスDIII にあたる。時間反転対称性の保たれた超伝導体は2 つの異なる基底状態の相を持ち、それらはZ2 不変量で特徴づけられる。キタエフ模型の拡張は様々なものが研究されているが、Z2不変量で特徴づけられる基底状態を持つ2 次元量子スピン模型は本研究ではじめて導入された。本研究で導入された模型は、Z2 不変量と関連した量子スピン系の性質を解析する際の基礎を与えることが期待される。 本研究では次にディラック行列模型の基底状態を解析した。構成したスピン模型においてトポロジカル超伝導体相が実現する場合、系の端に束縛された端状態が形成される。この性質はトポロジカル絶縁体/超伝導体において一般的に成り立つと考えられているが、このことを具体的にミクロな模型において確かめる必要がある。端のある2 次元系において、数値的にエネルギースペクトルを求めると、超伝導体であることから端状態のバンドはマヨラナフェルミオンの状態で構成され、時間反転対称性を反映して端状態のバンドは時間反転対称の対であるクラマース対を形成してあらわれた。また、バルクの基底状態の波動関数からZ2 不変量を計算することで、Z2 不変量の値と安定な端状態のバンドの有無が一致していることを確かめた。これらの結果から、本研究で構成したディラック行列模型においてトポロジカル相が実現していることが分かった。さらにトポロジカル相と端状態の関係を、平坦バンドに関するトポロジーを用いた議論で示した。2 次元系の端にあらわれる端状態が平坦バンドとなる場合、これは1 次元トポロジカル不変量で特徴づけられる。この不変量の結果と、時間反転対称性から来るクラマース対の縮退の安定性によって、トポロジカル相には安定な端状態が形成されることが結論付けられる。また、端状態と同様に、トポロジカル相にあらわれるマヨラナフェルミオンの束縛状態として渦糸束縛状態がある。本研究の模型から変換された超伝導体模型は、Z2 ゲージ場と結合した自由フェルミオン模型であり、Z2 ゲージ場に渦糸とみなせる位相欠陥を導入することができる。この渦糸に束縛されたマヨラナフェルミオンの1 体状態の存在を数値的にエネルギースペクトルを求めることで確かめた。 また、ディラック行列模型の基底状態を特徴づける物理量を計算した。キタエフ模型はスピン液体の基底状態を持つ。基底状態においてバルクにおける相関関数はすべて短距離相関を持ち、自発磁化も起こらない。しかし端状態のバンドが低エネルギーで線形分散を持つ場合、2 点相関関数のなかでも端付近の端に沿った2 点間の相関が冪的に振る舞うことを示した。これは端に形成された端状態が、線形分散を持つ1 次元系として相関関数に寄与するためである。 | |
審査要旨 | 本論文は「トポロジカル絶縁体と端状態の理論的研究」("Theory of topological insulator and edge state")と題し、6章から構成されている。第1章は序論であり、研究の背景および本論文の主目的が述べられている。トポロジカル絶縁体およびトポロジカル超伝導体についての説明を行うとともに、トポロジカル絶縁体に帰着できる量子スピン系の代表例であるキタエフ模型とその解法が紹介されている。また、系の次元性と時間反転・粒子正孔変換・カイラル変換の3つの対称性の有無によって許される既知のトポロジカル相の分類が説明され、未だ見つけられていない時間反転対称性を保ちつつ非自明なトポロジカル相を持つ2次元量子スピン系を構成する意義が述べられている。 第2章から第5章が本論文の主要部分である。まず、第2章ではキタエフ模型で破れていた時間反転対称性を回復する拡張が行われている。具体的には各サイトが4状態をとり、4種類の最近接相互作用および次近接相互作用をもつディラック行列模型が導入され、引き続きマヨラナフェルミオンへのマッピングを用いることによりこの模型の厳密解が構成されている。この解法においてはキタエフ模型の場合と同様に、Z2ゲージ場のリンク変数がすべて保存量となっている性質が用いられて解が構成されている。 第3章においてはこの模型の基底状態が相互作用の値によっては非自明なトポロジカル相を持つことが、3種類のアプローチにより示されている。第1のアプローチでは、端のある格子系で数値計算を行われ、時間反転対称性に守られたトポロジカル超伝導体特有の端状態バンドが出現することが示された。第2のアプローチではトポロジカル不変量の直接計算が行われたが、具体的にはマップされたフェルミオンの1粒子固有状態であるブロッホ関数を用いてKaneとMeleによって提唱されたZ2不変量が計算され、非自明な値を持つ領域が示された。第3のアプローチでは、マップされたフェルミオンの端状態が各波数において1次元波動関数として解析され、そのトポロジカルな性質である巻き付き数が計算された。その結果からトポロジカル相において出現する、ブリルアン域の一部にのみ存在する平坦バンドの出現条件が求められた。これらのアプローチにより、非自明なトポロジカル相が実現するための相互作用についての条件が決定された。 第4章においてはトポロジカル相におけるディラック行列模型のスピン相関関数が議論され、更に端に沿うスピン相関関数が計算されている。まず、基底状態の自発磁化およびほとんどのスピン相関関数が0となることが示され、基底状態がスピン液体となっていることが確かめられた。一方、トポロジカル相において線形分散をもつ端状態が寄与する端に沿うスピン相関関数が計算され、冪的な距離依存性をもつことが示された。 第5章においては、ディラック行列模型からマップされたトポロジカル超伝導体における興味深い状態としてZ2ゲージ場が局所励起を持つ場合が考察された。各局所励起のまわりにマヨラナフェルミオンが束縛されるが、その際に時間反転対称性を保つようにクラマース対を構成していることが、有限系の数値計算によるエネルギースペクトルの解析により示された。最後の第6章ではまとめと今後の展望が行われている。 本論文では、Z2トポロジカル相を実現する2次元量子スピン模型を初めて構成することに成功し、この模型のトポロジカル相の出現条件を求めたが、このことはトポロジカル相の今後のさらなる理論的解明への寄与が期待されるオリジナルな成果であり、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 なお、第2章から第5章の研究は、笠真生氏および古崎昭氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 | |
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