学位論文要旨



No 127879
著者(漢字) 三木,優彰
著者(英字)
著者(カナ) ミキ,マサアキ
標題(和) 三項法と双対推定による構造物の釣り合い形状の探索
標題(洋)
報告番号 127879
報告番号 甲27879
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7647号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川口,健一
 東京大学 教授 桑村,仁
 東京大学 教授 高田,毅士
 東京大学 准教授 腰原,幹雄
 東京大学 教授 鈴木,克幸
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、構造物の釣り合い形状を計算機を用いて探索する標準的な手順についてまとめたものである。特に、標準的かつ強力な束縛条件つき最小化アプローチとして、三項法と双対推定の組み合わせたアルゴリズムの利用を提案することが、本論文の主たる目的である。

関数の直接最小化アプローチは、仮想仕事の原理を介して静力学と密接に関連している場合がある。一方で、構造物の釣り合いの問題は、有限個の独立パラメータをもつ目的関数の停留問題で与えられることが多く、そのような停留問題は、関数の直接最小化アプローチにより解くのが自然である。

関数の直接最小化アプローチを用いると、計算を中断することなく様々にパラメータを変更し、釣り合い形状を次々に探索してゆくことができる。従って、関数の直接最小化アプローチを用いたインタラクティブな構造デザインツールの構築が期待できる。三項法とはそのような関数の直接最小化アプローチの一つであり、二項法の大域的な収束効率の改善を目的として導入される。二項法とは基本的には最急降下法であり、三項法は基本的に動的緩和法を大幅に簡略化、標準化したものである。

構造物は、外部の系と剛に結合し反力を得て釣り合っているのが普通である。例えば、トラスやバネからなる系は通常、地面や壁などに幾つかの端点を固定されそこから反力を得ている。このような背景から停留問題は、いくつかの付帯条件と連立されて与えられるのが普通である。付帯条件を含まない場合も実際は付帯条件が予め直接代入され、独立パラメータが削減されたものであることが多い。一般にはそのような付帯条件の直接代入と独立パラメータの削減は実行が不可能であることが多く、そのような場合の標準的な手続きとしてLagrange未定乗数法が知られている。Lagrange未定乗数法を用いると、付帯条件つき停留問題は独立パラメータとLagrange未定乗数の双方を未知数とする単独の関数の停留問題に帰着する。ところが、このようにして得られた停留問題の停留条件は、普通な意味での停留問題の停留条件と、与えられた付帯条件が独立に連立されたものとなるから、束縛条件つき最小化アプローチにより解くのが自然である。

束縛条件付き最小化アプローチにおいては2つの問題を解決する必要があり本論文の議論の中心となる。1つ目はLagrange未定乗数の扱いであり、2つ目は付帯条件を満たす値域に独立パラメータを束縛するための戦略である。特に、停留条件にLagrange未定乗数が含まれることが、関数の直接最小化アプローチを実行する上での大きな大きな障害となる。双対推定とは、Lagrange未定乗数を最小ニ乗解を用いて陽に決定してしまうことで、関数の直接最小化アプローチを実行可能とする戦略である。これは数理計画問題の解法の一種、アフィンスケーリング法において用いられているものである。アフィンスケーリング法とはリーマン多様体上の射影勾配法であり、射影勾配法とは、Lagrange未定乗数を双対推定により決定した最急降下法である。ただし、双対推定それ自体はLagrange未定乗数を勝手に決めてしまうという極めて単純なアイデアに基づいており、一般の関数の直接最小化アプローチに組み込み可能である。特に三項法とも組み合わせることができ、これが本論文で双対推定を導入した理由である。

双対推定を用いると、ベクトル空間が互いに直交する2つの空間に自然に分解される。この分解により、束縛条件つき最小化アプローチにおいて、直接最小化アプローチと束縛条件の満足が明確に分離される。そして、それぞれのベクトル空間上でそれぞれに対する戦略が独立に選択可能となる。

本論文の第2章では、構造物の釣り合いの問題の計算機による解法を、問題の表現と解法に明確に分離するため、仮想仕事の原理を中心にいくつかの一般表現を吟味した。仮想仕事の原理を用いると力学的な考察が可能となり、また仮想仕事の原理から導かれる停留条件は、関数の直接最小化アプローチを実行可能とする。そのようにして得られる停留条件は、単純な関数の勾配ベクトルを用いて記述される。第1章の後半では、要素の長さや面積、体積といった単純な関数の勾配ベクトルの一般形を導き、目的関数の見つからないような一般の停留条件を定式化した。これは関数の直接最小化アプローチの応用範囲が目的関数の見つからない一般化された停留問題にまで拡張されたことを意味する。そのような一般の停留条件とは、非線形有限要素法において典型的に解かれる非線形連立方程式に他ならない。そのような非線形連立方程式は一般に、連続体の仮想仕事の原理をGalerkin法により離散化して得られるものである。

第3章では、標準的な関数の直接最小化アプローチとして二項法と三項法の提案を行った。また、標準的な束縛条件つき最小化アプローチとして、最小化アプローチと束縛条件の満足の単純な交互の実行を提案した。これは最小化アプローチと束縛条件の満足の明確な分離により可能となるもので、そのような分離は双対推定の導入により可能となる。

第4章では、第2章と第3章の定式化に基づく数値解析例を紹介した。特に、目的関数に付加されたパラメータや束縛を受ける関数の束縛値を不連続的に変更し、次々と釣り合い形状を探索してゆけることを示した。その結果、関数の最小化アプローチや関数の束縛条件付き最小化アプローチを用いてインタラクティブな構造デザインツールを構築可能であると主張した。またさらに、第2章の後半で導いた目的関数の見つからない一般化された停留問題を、三項法を用いて解ける例題にも言及した。

第4章で紹介したほとんどの問題は二項法と三項法のいずれを用いて解ける。しかし、三項法の方が扱い易さの点ではるかに優れている。従って本論文の著者は、インタラクティブな構造物の釣り合い形状の探索ツールの構築という目的において、三項法と双対推定の組み合わせの利用を強く推奨するものである。

本論文の結論は次の通りである。

・構造物の釣り合いの問題を解く数値解法において、停留問題や仮想仕事の原理といった一般表現を用いた記述が、それぞれの解法の特徴や差異を明確にすると共に、関数の直接最小化アプローチに代表される一般の非線形数値解法の選択を可能にする。

・関数の直接最小化アプローチは仮想仕事の原理を介して静力学と密接に関連している場合がある。従って構造物の釣り合いの問題は、関数の直接最小化アプローチにより解くのが自然である。

・釣り合いの問題が付帯条件と連立されて与えられた時、Lagrange未定乗数法を用いると一本の停留問題で表現できる。このとき束縛条件付き最小化アプローチにより解くのが自然である。双対推定は、束縛条件付き最小化アプローチにおいて、Lagrange未定乗数を最小二乗解により陽に決めてしまうことで関数の直接最小化アプローチを実行可能とするもので、簡便かつ強力な技法である。

・三項法と双対推定の組み合わせを用いた束縛条件つき最小化アプローチが、構造物の釣り合い形状のインタラクティブな探索ツールの構築に有益である。

・関数の直接最小化アプローチは、最小化を受ける目的関数の見つからないような一般化された停留問題も解ける場合がある。そのような一般の問題とは、非線形有限要素法で典型的に解かれる、Galerkin法による離散化で得られた非線形連立方程式に他ならない。

以上より、三項法と双対推定を組み合わせた束縛条件つき最小化アプローチが、構造物の釣り合い形状の探索における簡便かつ強力で応用範囲の広い数値解法として選択可能であることが示された。

審査要旨 要旨を表示する

審査委員会は、上記論文提出者が提出した博士学位請求論文「三項法と双対推定による構造物の釣り合い形状の探索」に対し、提出約1年前の予備審査、本論文と提出者が審査委員に対し個別に行った説明、及びその時の質疑応答、論文発表会(口頭による最終試験)とその時の質疑応答及び指摘事項に対する提出者の応答、論文発表会後に開催した審査委員会での審議を通し、当該論文の審査を行った。その審査結果を下記にまとめる。

本論文は、構造物の釣り合い形状を計算機を用いて探索する手順についてまとめたものである。特に、束縛条件付き最小化アプローチとして、三項法と双対推定を組み合わせたアルゴリズムの利用を提案している。

構造物の釣り合いの問題は、有限個の独立パラメータをもつ目的関数の停留問題で与えられることが多く、そのような停留問題は、関数の直接最小化アプローチにより解くことができる。関数の直接最小化アプローチを用いると、計算を中断することなく様々にパラメータを変更し、釣り合い形状を次々に探索してゆくことができる。従って、関数の直接最小化アプローチを用いたインタラクティブな構造デザインツールの構築が期待できる。三項法とはそのような関数の直接最小化アプローチの一つであり、二項法の大域的な収束効率の改善を目的として導入されている。二項法とは基本的には最急降下法であり、三項法は基本的に動的緩和法を大幅に簡略化、標準化したものである、としている。

停留問題に付帯条件を与え、束縛条件付き最小化アプローチにより解いているが、束縛条件付き最小化アプローチにおいては2つの問題を解決する必要があるとしている。1つ目はLagrange未定乗数の扱いであり、2つ目は付帯条件を満たす値域に独立パラメータを束縛するための戦略である。Lagrange未定乗数を最小ニ乗解を用いて陽に決定してしまう双対推定を導入することで、関数の直接最小化アプローチを実行可能としている。この手法をリーマン多様体上の射影勾配法としてとらえ、射影勾配法とは、Lagrange未定乗数を双対推定により決定した最急降下法であるとしている。双対推定それ自体はLagrange未定乗数を勝手に決めてしまうという極めて単純なアイデアであり、三項法とも組み合わせることができ、これが本論文で双対推定を導入した理由となっている。

双対推定を用いると、ベクトル空間が互いに直交する2つの空間に自然に分解される。この分解により、束縛条件付き最小化アプローチにおいて、直接最小化アプローチと束縛条件の満足が明確に分離される。そして、それぞれのベクトル空間上でそれぞれに対する戦略が独立に選択可能となるとしている。

第2章では、構造物の釣り合い問題の計算機による解法を、問題の表現と解法に明確に分離するため、仮想仕事の原理を中心にいくつかの一般表現を吟味している。第1章の後半では、要素の長さや面積、体積といった単純な関数の勾配ベクトルの一般形を導き、目的関数の見つからないような一般の停留条件を定式化している。これは関数の直接最小化アプローチの応用範囲が目的関数の見つからない一般化された停留問題にまで拡張されたことを意味するとしており、そのような一般の停留条件とは、非線形有限要素法において典型的に解かれる非線形連立方程式に他ならないとしている。そのような非線形連立方程式は一般に、連続体の仮想仕事の原理をGalerkin法により離散化して得られるとしている。

第3章では、標準的な関数の直接最小化アプローチとして二項法と三項法の提案を行っている。標準的な束縛条件付き最小化アプローチとしては、最小化アプローチと束縛条件満足の単純な交互の実行を提案している。これは最小化アプローチと束縛条件の満足の明確な分離により可能となるもので、そのような分離は双対推定の導入により可能となっている。

第4章では、第2章と第3章の定式化に基づく数値解析例を紹介している。特に、目的関数に付加されたパラメータや束縛を受ける関数の束縛値を不連続的に変更し、次々と釣り合い形状を探索してゆけることを示している。その結果、関数の最小化アプローチや関数の束縛条件付き最小化アプローチを用いてインタラクティブな構造デザインツールを構築可能であると主張している。また、第2章の後半で導いた目的関数の見つからない一般化された停留問題を、三項法を用いて解ける例題にも言及している。

第4章で紹介したほとんどの問題は二項法と三項法のいずれかを用いて解けるが、三項法の方が扱い易さの点ではるかに優れているとしている。従って、インタラクティブな構造物の釣り合い形状の探索ツールの構築という目的において、三項法と双対推定の組み合わせの利用を推奨している。

結論として、下記を挙げている。

1.構造物の釣り合いの問題を解く数値解法において、停留問題や仮想仕事の原理といった一般表現を用いた記述が、それぞれの解法の特徴や差異を明確にし、関数の直接最小化アプローチに代表される数値解法の選択を可能にする。

2.仮想仕事の原理を介して関数の直接最小化アプローチは静力学と密接に関連している場合があり、構造物の釣り合いの問題は、関数の直接最小化アプローチにより解くのが自然である。

3.付帯条件付き釣り合いの問題がLagrange未定乗数法を用いて一本の停留問題で表現できるとき、束縛条件付き最小化アプローチにより解くのが自然であり、双対推定を用いて、Lagrange未定乗数を最小二乗解により陽に決めてしまう直接最小化アプローチは簡便かつ強力な技法である。

4.三項法と双対推定の組み合わせを用いた束縛条件付き最小化アプローチは、構造物の釣り合い形状のインタラクティブな探索ツールの構築に有益である。

5.関数の直接最小化アプローチは、最小化を受ける目的関数の見つからないような一般化された停留問題も解ける場合があり、Galerkin法による離散化で得られた非線形連立方程式となる。

以上より、三項法と双対推定を組み合わせた束縛条件付き最小化アプローチが、構造物の釣り合い形状の探索における簡便かつ強力で応用範囲の広い数値解法として選択可能であることを提示し、今後の発展的研究の指針を示すことで実用化への道を拓いていると評価できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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