No | 128194 | |
著者(漢字) | 大野,直子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオノ,ナオコ | |
標題(和) | 医療通訳養成システムの開発、評価 | |
標題(洋) | Development and evaluation of a novel education method for training for medical interpreters | |
報告番号 | 128194 | |
報告番号 | 甲28194 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3853号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 社会医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【目的】 本研究の目的は、医療コミュニケーション・通訳理論に基づいた医療通訳養成システムを開発し、評価することである。現在日本では、ボランティアベースの医療通訳が行われている。米国ではワシントン州など法律で言語サービス提供を定め資格要件を有する所もあるが、日本では制度が未整備である。医療通訳はボランティアで行うには内容が専門的で負担も大きい。外国人居住者が増加する中で、医療通訳の重要性がメディアで報じられ、各地で医療通訳養成講座が創設されているが、養成システムはまちまちである。そこで、本研究では文献のシステマティックレビューにより、医療通訳に必要なスキルを特定し、医療通訳者養成システムを開発し、評価する。 研究1)医療通訳養成に効果のある要素を明らかにし、医療通訳養成システムを開発する。 研究2)開発したシステムによる教育の効果を無作為化比較試験によって評価する。 【方法】 方法1)医療通訳に関する先行論文をレビューし、医療通訳養成に効果のある要素を明らかにする。 Pubmed、PsycINFO、Cochrane Library、Google Scholarで、2005年10月~2010年12月までに掲載された原著論文を検索する。検索キーワードは以下のとおり:"Healthcare Interpreter"/ "Healthcare Interpreters"/"Medical Interpreter"/"Medical Interpreters"。組入れ基準は(1)査読つき論文(2)医療通訳に必要な主要素について明確に述べているもの、とした。 方法2)ランダム化比較試験を行った。参加者の組入れ基準は、18歳以上、TOEIC650点以上、以前に医療通訳研修受講経験がないこととした。 参加者を介入/対照群にランダムに割り付けた上で、名古屋で3日間(20時間)のプログラムを行った。介入群は医療通訳プログラム、対照群は通訳プログラムを受講した。参加者は受講初日と最終日に、模擬医療面接および筆記試験を受けた。評価項目は通訳の質の変化、筆記テストおよび非言語コミュニケーションスキルの変化である。介入群と対照群に、TOEICスコアにおいて有意差がみられたため、TOEICスコアを調整した結果を求めた。 【結果】 結果1)医療通訳に関する先行論文をレビューした結果、医療通訳に必要なスキルは(1)正確な通訳、(2)医療用語や人体に関する知識、(3)医療通訳倫理、(4)非言語コミュニケーションスキル、(5)異文化コミュニケーションスキルであった。これらスキルをトレーニングするため、通訳トレーニング、コミュニケーションスキル開発、医学知識開発の中から医療通訳に必要な教育方法を組み合わせ、3日間、計20時間の医療通訳養成システムを開発した。 結果2)開発した医療通訳養成システムを用いて学習者への実験的介入を行った。登録者は51名、年齢は22~62歳であった。評価対象者は43名であった。TOEICスコア調整後の結果では、介入群において通訳の質の改善(言い足しミス減少(p=0.02)、訳出した文章数の向上(p=0.03))が有意に大きくみられた。また、筆記試験の得点も介入群で有意(p<0.001)に大きく上昇していた。非言語コミュニケーションスキルについては、有意差は認められなかった。 【結論】 開発した医療通訳養成システムは、学習者の通訳の質、知識(筆記試験点数)の改善に有効であり、プログラムの有効性が確認された。 <本研究の特徴> 本システムは、文献レビューにより得た医療通訳養成に効果のある五要素に基づいて構築された、という点が独自である。また、実験は各種バイアスを防止するためランダム化比較試験(RCT)の形を取ったが、医療通訳養成システムの評価でRCTの形式を用いたものはこれまでにない。しかし、サンプル数が少ないため、本研究の結果に基づきプログラムの改善をしたうえ上で、より大規模なサンプルで効果を確認することが求められる。 Table Content of program for the intervention and control groups Figure Study flow diagram | |
審査要旨 | 本研究は医療コミュニケーション・通訳理論に基づいた医療通訳養成システムを開発し、評価することであり、下記の結果を得ている。 1.医療通訳に関する先行論文をレビューし、医療通訳養成に効果のある要素を明らかにした。Pubmed、PsycINFO、Cochrane Library、Google Scholarで、2005年10月~2010年12月までに掲載された原著論文を検索した。検索キーワードは以下のとおり:"Healthcare Interpreter"/ "Healthcare Interpreters"/"Medical Interpreter"/"Medical Interpreters"。組入れ基準は(1)査読つき論文(2)医療通訳に必要な主要素について明確に述べているもの、とした。先行論文をレビューした結果、医療通訳に必要なスキルは(1)正確な通訳、(2)医療用語や人体に関する知識、(3)医療通訳倫理、(4)非言語コミュニケーションスキル、(5)異文化コミュニケーションスキルであった。これらスキルをトレーニングするため、通訳トレーニング、コミュニケーションスキル開発、医学知識開発の中から医療通訳に必要な教育方法を組み合わせ、3日間、計20時間の医療通訳養成システムを開発した。 2.開発した医療通訳養成システムを用いて学習者への実験的介入を行った。参加者の組入れ基準は、18歳以上、TOEIC650点以上、以前に医療通訳研修受講経験がないこととし、参加者を介入/対照群にランダムに割り付けた上で、名古屋で3日間(20時間)のプログラムを行った。介入群は医療通訳プログラム、対照群は通訳プログラムを受講した。参加者は受講初日と最終日に、模擬医療面接および筆記試験を受けた。評価項目は通訳の質の変化、副次的評価項目は筆記テストおよび非言語コミュニケーションスキルの変化であった。介入群と対照群に、TOEICスコアにおいて有意差がみられたため、TOEICスコアを調整した結果を求めた。登録者は51名、年齢は22~62歳であった。評価対象者は43名であった。介入の結果について、TOEICスコア調整後、介入群において通訳の質の改善(言い足しミス減少(p=0.02)、訳出したフレーズ数増加(p=0.03))が有意に大きかった。また、筆記試験の得点の上昇も介入群が有意(p<0.001)に高かった。非言語コミュニケーションスキルについては、有意差は認められなかった。 以上、本論文は医療コミュニケーション・通訳理論に基づいた医療通訳養成システムを開発し、評価し、一定の効果を得た。本システムは、文献レビューにより得た医療通訳養成に効果のある五要素に基づいて構築された、という点が独自である。本研究で行った、医療通訳養成システムの評価でランダム化比較試験の形式を用いたものはこれまでになく、医療通訳養成システム開発に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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