No | 128330 | |
著者(漢字) | 田中,雄太 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タナカ,ユウタ | |
標題(和) | 不斉四級炭素構築型α,β-不飽和カルボニル化合物に対する触媒的不斉シアノ共役付加反応の開発 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128330 | |
報告番号 | 甲28330 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1425号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【目的】 触媒的反応による不斉四級炭素中心の構築は、未だ十分に解決されていない困難な課題である。β-二置換α,β-不飽和カルボニル化合物に対する炭素求核種の触媒的不斉共役付加反応は、カルボニルβ位に不斉四級炭素を構築する方法である。現在までにアルキルもしくはアリール求核種に関しては、CuもしくはRh触媒を用いた反応が開発されている。一方で官能基を含んだ求核種を用いた反応は、合成化学上有用な報告例がない。α,β-不飽和カルボニル化合物に対する触媒的不斉シアノ共役付加反応は、生成するβ-シアノ付加体が種々の官能基を含んだキラルビルディングブロックへと変換可能な極めて汎用性の高い反応である(Scheme 1)。現在までにβ位に不斉三級炭素を構築することができる、β-一置換α,β-不飽和カルボニル化合物を基質として用いたシアノ共役付加反応は数例報告されていた。1私は博士課程において、合成化学上有用な報告例のない、不斉四級炭素構築型のβ-二置換α,β-不飽和カルボニル化合物に対する触媒的不斉シアノ共役付加反応の開発を目的として研究を行った。2 【結果】 私は修士課程においてβ-一置換エノンに対する触媒的不斉シアノ共役付加反応の開発を行った。その結果、配位子1 から調製されるガドリニウム触媒を用いることで不斉制御と反応点の制御を同時に実現した。1c そこで、Gd.1 触媒を用いた最適反応条件をβ-二置換エノンを基質として用いた不斉四級炭素構築型反応に適用したところ、反応は1,4-付加選択的に進行したものの、反応性・不斉選択性ともに満足のいく結果を与えなかった(Table 1, entry 1)。そこで、配位子1 を用いて触媒金属の検討を行った。その結果、ストロンチウムを触媒として用いることで反応性が大幅に向上した一方、不斉選択性は20% ee にとどまった(entry 2)。次に、触媒金属源としてストロンチウムジイソプロポキシドを用いて、不斉選択性を向上させるべく配位子構造の検討を行った(entries 3.6)。その結果、ルイス塩基性のフォスフィンオキシドをジフェニルメチルヒドロキシル基に変えた配位子2 を用いることで、反応性・不斉選択性が大幅に向上した(entry 3)。さらに、フリーのアルコールをエーテルとすることで、不斉選択性がさらに向上した(entry 4-6)。最終的に、嵩高いイソブチルエーテル基を含む配位子5 を用いることで、97% ee の不斉収率で目的物を得ることに成功した(entry 6).また、配位子5 を用いることで、触媒活性も大幅に向上した。その一方でイソブチルエーテル基を除いた配位子6 を用いると不斉収率が非常に低くなった(entry 7)。このことから、ルイス塩基性のイソブチルエーテル基が不斉選択性発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。現時点で、このエーテル基は触媒の高次構造の安定化に寄与しているものと考えている。反応条件検討の結果、シアノ源としてTBSCNを、溶媒としてトルエンを用いることで、触媒量を0.5 mol %に減じても、高い収率・不斉選択性で目的物を与えた(entry 8)。 最適化反応条件の下、基質一般性の検討を行った(Table 2)。その結果、種々のβ-二置換エノンに対して高い収率・不斉選択性で目的物を与えた。(E)体及び(Z)体の基質からはそれぞれ逆のエナンチオマーが得られた(entries 1 and 2)。α,β,β -三置換エノンを基質として用いた場合にも高い不斉選択性で目的物が得られた(entry 5)。このとき、不斉シアノ化反応の生成物は1:1 のジアステレオ混合物であるものの、反応粗生成物を塩基性条件に付すことでカルボニルα位のエピマー化が進行し、ジアステレオ比を20:1 に高めることができた。また、全ての基質において反応は完全に1,4-付加選択的に進行した。さらに、本反応条件はエステル等価体であるN-アシルピロールにも適用可能であった(Table 3) 続いて本触媒反応の反応機構解析を行った。触媒構造に関する知見を得る目的で触媒のESI-MS 測定を行った結果、金属/配位子=3:5 からなる錯体のみが観測された(Figure 1)。この錯体の高次構造は安定であり、錯体調製時の金属と配位子の混合比によらず、金属/配位子=3:5からなる錯体が主要ピークとして観測された。 さらに、本触媒系においては、望みでない1,2-付加体が生成した場合には触媒がその逆反応を進行させることで、生成物を1,4-付加体に収束させる機能があることが明らかとなった。すなわち、1,2-付加体であるracemicなシアノヒドリンを触媒溶液に加えたところシアノヒドリンは完全に消失し、1,4-付加体が定量的に、高い不斉収率で得られた(Scheme 2) 【まとめ】 新規触媒の開発を基盤とした本研究の結果、世界初の合成化学的に有用な不斉四級炭素構築型シアノ共役付加反応が達成され、カルボニルβ位に不斉四級炭素を含む化合物の汎用性の高い合成法が確立された。また、本反応の生成物はγ-アミノ酸を始めとする様々な化合物へと変換可能であり、合成化学的に意義深いものと考えられる。 Scheme 1. Catalytic Enantioselective Conjugate Cyanation Table 1. Optimization of Reaction Conditions Table 2. Catalytic Enantioselective Conjugate Addition of Cyanide to β, β-Disubstituted Enones Table 3. Catalytic Enantioselective Conjugate Addition of Cyanide to β, β-Disubstituted a, β-Unsaturated N-Acylpyrroles Figure 1.ESI-MS Analysis of Sr(OiPr)2-5 Catalyst Scheme 2. Catalytic Asymmetric Rearrangement of Cyanide | |
審査要旨 | 田中雄太は、「不斉四級炭素構築型α,β-不飽和カルボニル化合物に対する触媒的不斉シアノ共役付加反応の開発」というタイトルで、以下の述べる研究を行った。 触媒的反応による不斉四級炭素中心の構築は、未だ十分に解決されていない困難な課題である。β-二置換α,β-不飽和カルボニル化合物に対するシアノ基の触媒的不斉共役付加反応は、カルボニルβ位に不斉四級炭素を構築する方法である。しかし、立体的に込み入った不斉四級炭素を高い選択性をもって構築する本反応の実現のためには、高い活性と選択性を兼ね備えた新規触媒の開発が必要である。田中は複核錯体による求電子剤と求核剤のデュアルアクティベーションの概念に基づき、不斉四級炭素構築型触媒的不斉シアノ共役付加反応に有効な独自の不斉配位子1 (Figure 1) とSrからなる触媒を見出した。また、配位子1の特徴的構造といえるルイス塩基性のイソブチルエーテル基がエナンチオ制御において重要な役割を果たしていると示唆されることをコントロール配位子を用いた実験により示した。 田中はSrと配位子1からなる触媒をβ-二置換エノンに対する触媒的不斉シアノ共役付加反応で最適化し、適用した (Scheme 1)。その結果、TBSCNをシアノ化剤として用い、プロトン源として2,6-DirnethylphenolをTBSCNと等量添加することで、完全な1,4-付加選択性と、高いエナンチオ選択性、高い触媒活性、高い基質一般性が発現することを見出した。多くの基質に対して約200回の触媒回転と97%ee以上の高いエナンチオ過剰率が得られた。また、エナンチオ制御に加えてジアステレオマー選択性制御も必要なα,β,β-三置換エノンに対しては、反応粗生成物を塩基で処理することで良好な結果が得られた。 さらに田中はSrと配位子1からなる触媒をエステル等価体であるβ-二置換α,β不飽和N-アシルピロールに対する触媒的不斉シアノ共役付加反応に適用した (Scheme 2)。その結果、高いエナンチオ選択性、高い触媒活性、高い基質一般性が発現することを見出した。最適な基質に対しては約200回の触媒回転が得られ、また、全ての基質に対して95%ee以上のエナンチオ過剰率が得られた。これらは既存の触媒では実現することのできない、世界初の合成化学的に有用な不斉四級炭素構築型触媒的不斉共役シアノ化の反応例である。本反応の生成物は、シアノ基の合成的な汎用性の高さを活かして、加溶媒分解による1,4-ジエステルへの変換や還元に続く環化によるγ-ラクタムへの変換が可能であった。 質量分析を用いた触媒の構造的解析から、系中で生成する金属と配位子の5対3錯体が活性触媒種であると提唱した。さらに、エノンに対する触媒的不斉シアノ共役付加反応においては、完全な1,4-付加選択性発現の鍵が触媒のもつ校正効果、すなわち、たとえ系中で望みでない1,2-付加体が生成したとしても、触媒がその逆反応を進行させるために最終的な生成物を1,4-付加体に収束させる効果によるものであると提唱した。そして、それを支持する実験結果、すなわち,1,2-付加体であるラセミ体のシアノヒドリンを触媒溶液に加えることで高いエナンチオ過剰率で1,4-付加体が定量的に得られることを示した (Scheme 3)。 以上のように、田中の業績は新しい不斉触媒反応の開発に有意に貢献するものであり、博士(薬学)の授与に相当するものと判断した。 Figure 1. Ligand 1 Scheme 1. Catalytic Enantioselective Conjugate Cyanation of β,β-Disubstituted Enones Scheme 2. Catalytic Enantioselective Conjugate Cyanation of β,β-Disubstituted α,β-Unsaturated N-Acylpyrroles Scheme 3. Catalytic Asymmetric Rearrangement of Cyanide | |
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