学位論文要旨



No 128375
著者(漢字) 及川,一誠
著者(英字)
著者(カナ) オイカワ,イッセイ
標題(和) 楕円型問題に対するハイブリッド型不連続ガレルキン法の研究
標題(洋) Hybridized Discontinuous Galerkin Methods for Elliptic Problems
報告番号 128375
報告番号 甲28375
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第383号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 齊藤,宣一
 東京大学 教授 楠岡,成雄
 東京大学 教授 時弘,哲治
 東京大学 教授 山本,昌宏
 東京大学 准教授 稲葉,寿
 東京大学 准教授 松尾,宇泰
 一橋大学 教授 菊地,文雄
 早稲田大学 講師 田端,正久
内容要旨 要旨を表示する

近年の不連続ガレルキン法の発達はめざましく,様々な偏微分方程式に対して数値計算スキームが提案され,理論解析の研究もなされるようなった。不連続ガレルキン法では,自由に近似関数や要素形状が選べるという利点がある反面,その代償として,係数行列のサイズとバンド幅の増加が避けられない。その問題点を解決するために,個体力学の数値計算で用いられていた「ハイブリッド変位法」という手法と,不連続ガレルキン法とを組み合わせることを考えた。ハイブリッド変位法では,要素内部の未知関数uh と要素間境界上の未知関数^uh の二種類を用いる。ある要素K 上の未知関数uhjK はその周り@K 上の未知関数^uhj@K から決定されるように定式化する。そうすることで,uh の方は消去され,最終的に残る未知関数は^uh だけになる。一般に,uh より^uhの方が少ない未知数で済むので,uh だけを用いる不連続ガレルキン法より出来上がる行列のサイズが小さくなる。特に,高次多項式を用いた場合にはその差が顕著にれる。ハイブリッド変位法はそのような優れた点をもつ手法ではあったが,安定性が弱いという欠点があった。安定性を改善するために,ハイブリッド変位法に不連続ガレルキン法のペナルティ法を導入した手法が「ハイブリッド型不連続ガレルキン法(以下HDG 法)」である。ポアソン方程式や弾性体の問題については,HDG のスキームは既に提案されており,論文で理論的な誤差評価や数値計算例などが報告されている。最近では,B. Cockburn らを中心に,本論文のHDG 法とは異なるアプローチによる不連続ガレルキン法のハイブリッド化の研究もなされている。楕円型問題を始めとし,ストークス方程式やナビエ・ストークス方程式等についても,彼らの研究例がある。

本論文の第一部では,以下の移流拡散方程式に対する新たなHDG 法の定式化を提案する。

ここで,ε" > 0 は拡散係数で, b; c; f; gD; gN は与えられた関数である。また,〓 であるとし,ディリクレ境界は移流ベクトルb の流入境界であると仮定する。つまり,であるとする。n は∂Ω上の外向き単位法線ベクトルである。さらに,以下の条件も仮定する

移流拡散方程式の数値計算を行うときには,移流項の近似に工夫を要する。その原因は,"ε がb に比べて非常に小さい場合に,厳密解に境界層が生じる可能性があるためである。そのようなケースは特殊というわけではない。例えば,Ω を正方形領域とし,〓,という場合,x = 1 の付近で境界層が現れる。この例について,従来の有限要素法をそのまま適用すると,厳密解には見られない不自然な振動が生じてしまうことが知られている。第一部で提案するHDG スキームでは,移流反応項を次のように離散化することで,そのような不都合を回避している

第二項目は,強圧性が成立するように加えた項であるが,同時にある種の上流化の役割を果たしているため,移流が卓越する場合でも,安定性が保たれている。理論的には,区分H1 セミノルムに関して,最良オーダーの事前誤差評価を与えた。さらに,近似解と" = 0 の場合の厳密解との関係を調べることによって," が極めて小さい値であっても,不安定性が生じないことの理論的な根拠を明らかにした

第二部では,安定化にリフティング作用素を用いたHDG 法について述べる。モデル問題としてポアソン方程式を対象とした。元々は,不連続ガレルキン法で導入されていたリフティング作用素のアイデアを,HDG 法にも取り入れ,ハイブリッド法に合うように新たに定義した。リフティング作用素による安定化項をオリジナルのHDG 法に付け加えることによって,任意の正のペナルティパラメータについて,安定性が成り立つスキームが得られる。リフティング作用素を用いないオリジナルのHDG 法では,ペナルティパラメータが小さすぎると,不安定性を示すことがあるので,「任意の正の値」について安定性が保証されることは重要である。ただし,リフティング作用素による安定化項を加えることは,係数行列のバンド幅と条件数を増加させることになり,反復解法の収束性に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。それを調査するため,小さなペナルティパラメータについて数値実験を実施し,反復法の収束速度を比較した。理論的な誤差評価としては,区分H1 セミノルム及びL2 ノルムに関して,最良オーダーであることを示した

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,Part I. Hybridized Discontinuous Galerkin Method for Convection Diffusion-Reaction Problems (SIAM Journal of Numerical Analysisに投稿中)

Part II. Hybridized Discontinuous Galerkin Method with Lifting Operator (JSIAM Letters, vol. 2, 2010に掲載済み)

の2部からなり,楕円型偏微分方程式に対する,不連続ガレルキン有限要素法(DGFEM)の数学的基礎理論に寄与するものである.DGFEMとは, 偏微分方程式に対する離散化手法の一つである.通常の有限要素法(FEM)は,偏微分方程式の弱形式において,問題が定式化されている関数空間(ソボレフ空間)を有限要素空間に置き変えることで得られる.これは,ガレルキン近似の特別な場合であり,理論的にはとても扱いやすい.しかし,現実の様々な問題に対しては,不足な点も多く,近年,より一般的な近似の枠組みとして提案されたのがDGFEMである.この方法では,微分方程式を解く領域を,2次元なら多角形,3次元なら多面体で分割する(これを要素と呼ぶ).この際,様々な種類の多角形・多面体の混在を許す.そして,近似関数を,各要素上の多項式とするが,要素毎に,多項式の次数が定義される.そうすると,かなり一般的な近似を考えることができるが,その代わり,要素境界上で不連続性が生じる.その不連続性を,近似方程式を定式化する際に,フラックス・バランス項や,ペナルティー項を導入することで制御するのが基本的な考えである.この方法は,数学的な性質も,計算結果も,とても良好であるが,一方で,近似方程式の次元がとても大きくなるという難点がある.この欠点を克服するために,要素の境界上にあらたに未知数を配置して,これも考慮して近似方程式を導く.要素内の未知数と要素境界上の未知数の2種類が出てくるので,これをハイブリッド型と呼ぶわけである.この方法では,境界内部の未知数をうまく消去でき,結果として要素境界上の未知数だけの方程式になるので,計算の手間を激減することが可能となるのである

本論文の第I部では,時間的には定常だが,拡散と移流の効果を含む偏微分方程式である移流拡散反応方程式に対するDGFEMを詳細に研究している.拡散と移流の効果は,微分方程式のレベルでは何の問題もないが,方程式を離散化して有限次元近似を施すと,これらは大変相性が悪く,これを制御することは現在でも大きな問題として認識されている.より,具体的には,微分方程式とは関係のない,離散化したことによる数値的振動が生じ,解が破綻するのである.特に,拡散の効果が小さいときが問題となる.普通は,移動の項を上流化や安定化という方法で近似して,近似スキーム自体を安定化する.そうすると,計算は安定になるが,その代わりに,精度の損失がある.本論文では,解の精度を保ったまま常に安定に計算が遂行できるDGFEMスキームを提案して,詳細な安定性解析,収束解析を行っている.また,実際に,いろいろな数値計算を実行し,理論の正当性を検証している.提案のスキームの良いところは,拡散の大きさとは全く独立に安定化がなされているところで,これは過去の上流近似や安定化手法の膨大な研究と比較しても,前例がなく,画期的で個性的ある.移流拡散方程式の離散化手法としては,ほぼ最良のものが得られたと言える.また拡散が十分に小さいときには,計算が良好であるにせよ,ないにせよ,通常の有限要素法の誤差解析の手法は役に立たないが,本論文では,この場合の数値解の善し悪しを説明するための定理を定式化しており,この点も高く評価できる

一方,第II部では,ポワッソン方程式をモデル問題にして,拡散安定化項における,ペナルティーパラメータの選択について議論している.スキームの安定化のためには,このペナルティーパラメータの果たす役割は,決定的に重要である.しかし,従来のスキームでは,このパラメータをある範囲から選べば良い,ということはわかっても,その具体的な範囲を特定することは難しく,計算してみなければわからないという問題があった.しかし,本論文では,拡散項の安定化の際に,リフティング作用素を導入し,ペナルティーパラメータと近似解をより具体的に関連づけると言う新しい手法が提案され,結果的に,任意の正数がペナルティーパラメータとして採用できるようになった.これにより,DGFEMの応用範囲は,大いに拡大することとなった

DGFEMは,国際的に非常に競争の激しい分野であり,この分野で,独自性,有用性,数学的正当性のすべて兼ね備えた結果を出したことは,高く評価できる.また,本論文の解析手法により,ハイブリッド型のDGFEMの有用性が再確認され,今後,ナヴィエ・ストークス方程式などの,現実の非線型問題への適用や解析が劇的に進展することが,期待できるようになった

よって,論文提出者 及川一誠,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしいと充分な資格があると認める

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