No | 128378 | |
著者(漢字) | 伊藤,哲也 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イトウ,テツヤ | |
標題(和) | 位相幾何の視点からの群の不変順序の構成 | |
標題(洋) | Construction of invariant group orderings from topological point of view | |
報告番号 | 128378 | |
報告番号 | 甲28378 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第386号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 群G 上の、G 自身の左(右)作用により保たれる全順序<G をG の左(右)不変順序と呼ぶ。全順序<G が左不変かつ右不変であるとき、<G を両側不変順序と呼び、これらをまとめて以下不変順序と呼ぶ。群G の不変順序<G に対し、単位元よりも真に大きいG の元のなすG の部分半群P(<G) を<G のPositive cone と呼ぶ。群上の不変順序は、一次元力学系と密接に関連し、近年トポロジー・幾何学などの観点から着目されるようになった対象である。 本論文では、位相幾何の手法および観点から、群G 上の非自明な不変順序の構成について考察した。論文の前半では、代数的位相幾何学の手法を用いて両側不変順序について考察し、反復積分を用いた幾何的な両側不変順序の構成および三次元多様体の基本群上の両側不変順序の存在とねじれアレキサンダー不変量との関連について調べた。主となる論文の後半では、孤立順序と呼ばれる位相的に特別な左不変順序の構成について研究し孤立順序の新しい例を多数構成することに成功した。 G 上の左不変順序全体のなす集合LO(G) 上には自然な位相が定まり、位相空間となることが知られている。Sikora[4] により、位相空間LO(G) は完全不連結、コンパクト、距離付け可能であり、Cantor 集合と近い性質を持つことが知られている。Cantor 集合との違いはLO(G) は孤立点を持ちうることである。 定義1. 群G の左不変順序< が左不変順序全体のなす位相空間LO(G) の孤立点であるとき、< をG の孤立順序であると呼ぶ。 孤立順序は群G の性質を強く反映していることが期待される。孤立順序の性質についてはこれまでに様々な研究がなされている。例えば、Navas[3] はPositive cone が有限生成半群であるような不変順序<G は孤立順序であることを示した。しかし、現在のところ具体的に知られている孤立順序の例は非常に少なく、孤立順序の具体例の発見および一般的な構成についてが大きな問題となっている。 本論文では、二つの異なる手法での孤立順序の一般的構成法を与えるともに孤立順序の新しい具体例を多数構成した。 群の左不変順序< の重要な例として、Dehornoy により発見されたBraid 群Bn 上のDehornoy順序が知られている。この順序は非常に豊富な組み合わせ・代数的な構造を持ち、多くの異なる定義が知られている[1]。Dehornoy 順序は孤立順序ではないが、Dehornoy 順序を代数的に変形することにより、ubrovina-Dubrovin 順序と呼ばれるBraid 群の孤立順序が得られる[2] など、Dehornoy 順序は多くの興味深い性質を持つことが知られている。 本論文ではDehornoy 順序の定義を一般化したDehornoy-like 順序と呼ばれる順序を導入し、その一般的な性質を調べた。 定義2 (Dehornoy-like 順序). <G を有限生成群G 上の左順序とする。あるG の順序のついた有限生成系S = fs1, . . . , sng が存在し、g が下の条件σ(S)-positive を満たす事と1 <G g が同値であるとき、<G をS の定めるDehornoy-like 順序であると呼ぶ。 σ(S)-positive: あるi が存在し、g は正の生成元si を少なくても一つ含むようなsi, s§1i+1, . . . , s§1n .のみを用いたword で表される。 群G をBraid 群Bn、生成系S を標準生成系S =() g としたとき、S の定めるDehornoy-like 順序はDehornoy 順序に他ならない 生成系S がProperty F というある性質を満たすとき、Dehornoy-like 順序は多くの点でDehornoy順序と同様の興味深い性質を持つこと(Dehornoy 順序で成り立つ多くの結果が拡張されること)を示し、特に、Dehornoy-like 順序を用いて孤立順序の一般的な構成法を与えた。 定理1. <G を(S) の定める群G のDehornoy-like 順序とする。生成系S がProperty F を持つとき、Dehornoy-like 順序を変形することでG の孤立順序が得られる。 また、Dehornoy-like 順序の非自明な例を構成した。 定理2. m, n > 0 についてGm,n を二つの無限巡回群Z の融合積Z〓とし、生成元〓とする。このとき、生成系〓上のDehornoy-like 順序を定める。 系として、これらの群が孤立順序を持つことが示される。 Dehornoy-like 順序の定義は組み合わせ・代数的なものであるが、定理2 は、群Gm,n が融合積であることを利用し、Gm,n のBass-Serre Tree への作用を用いた幾何的な議論により証明される。 また、孤立順序の別の一般的な構成法として、融合積上の孤立順序について考察し次の結果を得た。 定理3. <G、<H をそれぞれ群G、H 上のpositive cone が有限生成となるような孤立順序とする。zG をG の非自明な中心の元、zH をH の非自明な元とする。<G,<H, zG, zH が次の3つの条件を満たすと仮定する。 Inv(H) 順序<H はzH の右からの作用で不変である。つまり、a <H b であればazH <H bzH が常に成り立つ。 Cof(H) 任意のh 2 H に対しある自然数N が存在〓 が成り立つ。 Cof(G) 任意のg 2 G に対しある自然数N が存在しzNG <G h <G zNG が成り立つ。この時融合積〓i H 上に孤立順序<X が存在し、次が成り立つ。 1. <X のPositive cone は有限生成である。 2. h, h0 2 H X2-1 についてh <H h0 であれば、h <X h0 が成り立つ。 3. g, g0 2 G 2-1 X についてg <G g0 であれば、g <X g0 が成り立つ。 この定理は既存の孤立順序二つを混合して新しい孤立順序を構成するものであり、定理を用いる事で孤立順序を持つ群を多数構成できる。 例1. 1. 自然数n1, . . . , nm に対し、群G =() は孤立順序を持つ 2. 自然数m, n, p, q に対して、群G =〓で生成される部分半群をpositive cone とするような孤立順序を持つ。 これまでに知られている孤立順序を持つ群はすべて非自明な中心を持っていた。上の例(2) で現れる群は、中心が自明となるような孤立順序を持つ群の最初の例を与えている。また、定理3 で得られる孤立順序の多くがDehornoy-like 順序の変形として得られないことを示し、孤立順序とDehornoy-like 順序が完全に対応するわけではない事を示した。 | |
審査要旨 | 本論文の目的は,群の不変順序について位相幾何学的な視点から考察し,特に孤立順序について,新しい組織的な構成方法を与えることである 群G上のGの左作用によって保たれる全順序を,群の不変全順序とよぶ.G が不変順序をもつことは,G がRの向きを保つ同相写像に埋め込まれることと同値であり,不変順序は力学系の観点からも興味がもたれている対象である.90 年代半ばに,組みひも群が,不変全順序をもつことがDehornoy によって集合論的手法で証明され,その後,Thurston による写像類群への拡張などをへて,不変順序の存在の幾何学的な意味が明らかにされてきた.群Gの不変順序全体の集合LO(G) には位相が自然に入り,Cantor 集合と類似の性質をもつことが知られているが,一般には,LO(G) には孤立点が存在するという特徴をもつ.このような順序は孤立順序とよばれ,しばしば,幾何学的に重要な役割をはたす. 本論文において,群の孤立順序を組織的に構成する二通りの新しい手法が確立された.一つは,Dehornoy が組みひも群について構成した順序を一般の群に拡張したDehornoy-like 順序に対して,ある種の変形を行なうことにより,孤立順序を構成する方法である.群の生成系に関するある種の仮定のもとで,このような変形による孤立順序の構成が可能であることを証明した.もう一つは群の融合積によって構成する方法である.ここでは,Bass-Serre のtree の議論が本質的に用いられる.孤立順序をもつ二つの群の融合積に,新たな孤立順序を構成する方法を与えた.これらの手法により,これまでほどんど存在が知られていなかった孤立順序を,組織的に構成することが可能になった. 本論文は,群の不変順序について,新しい知見をもたらしたものであり,位相幾何学の分野に大きく貢献する.よって,論文提出者 伊藤哲也は,博士(数理科学) の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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