No | 128380 | |
著者(漢字) | 大久保,俊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオクボ,シュン | |
標題(和) | 剰余体が非完全な場合のp進モノドロミー定理について | |
標題(洋) | The p-adic monodromy theorem in the imperfect residue field case | |
報告番号 | 128380 | |
報告番号 | 甲28380 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第388号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 記法1. p を素数とし,K を混標数(0; p) を持つ完備離散付値体とし,剰余体をkK とかく.GK をK の絶対Galois 群とする. 本学位論文では,p-基底の有限性等の剰余体kK に関する仮定なしで,GK のp 進表現論におけるp 進モノドロミー定理を証明した.さらに応用として,水平なド・ラーム表現におけるp 進モノドロミー定理の類似などを証明した. kK が完全体の場合,J.-M. Fontaine によりGK のp 進表現がクリスタリン,半安定,ド・ラーム,ホッジ-テイトである,ということの定義が与えられた([Fon1, Fon2] 等).さらにFontaine は,ド・ラーム表現は潜在的半安定であろう,というp 進モノドロミー予想をした.この予想はLaurent Berger により肯定的に解決された([Ber]).Berger はド・ラーム表現V に対しフロベニウス作用付きのp 進微分方程式論を対応させ,Yves Andr´e,Kiran Kedlaya,Zoghman Mebkhout によるp 進局所モノドロミー定理を適用することで,V が潜在的半安定であることを示した. kK が非完全でp-基底有限の場合も,GK のp 進表現に対し,クリスタリン,半安定,ド・ラーム,ホッジ-テイトという概念がOlivier Brinon によって定義されている([Bri]).この場合における,上記のp 進モノドロミー定理の類似が森田和真によって証明されている([Mor]).森田の手法もある意味で微分方程式を用いるものであり,その微分方程式はFabrizio Andreatta-Olivier Brino によるBdR のSen の理論により定義されるものである.Andreatta-Brinon の理論は,副完備群〓に対するTate-Sen の形式論を用いて証明されるものであり,この場合のTate-Sen の形式論は,JohnTate による正規化された跡写像の類似を繰り返し用いて証明される.よって森田の手法はkK のp-基底が無限である場合には拡張することはできないことに注意しておく. kK のp-基底が有限とは限らない場合にも,クリスタリン,半安定,ド・ラーム,ホッジ-テイトという概念が自然に定義することができる.本学位論文の主定理は次である: 主定理(本学位論文Main Theorem). 記号は記法1 の通りとする.V をGK のド・ラーム表現とする.このときK の有限次拡大L が存在し,V |L は半安定である.ここでV |L は,V のL の絶対Galois 群への制限を表すものとする. 先ほど注意したように,森田の手法はkK のp-基底が有限でない場合には拡張できない.本学位論文では,Pierre Colmez によるkK が完全な場合のp 進モノドロミー定理の別証明([Col])を拡張することで,主定理の証明をした.Colmez の手法は微分方程式論を必要としないものであるので,本学位論文の証明はkK のp-基底が有限の場合にも森田の手法とは本質的に異なるものである. 次に,主定理の応用について述べる.剰余体が非完全な場合にはK に非自明な接続が作用する.接続の作用を考慮することで,GK のp 進表現に対し,水平なクリスタリン,水平な半安定,水平なド・ラーム表現という概念が定義される.この水平な概念は上記の対応する概念よりも一般には強いものである:たとえば,水平なド・ラーム表現はド・ラーム表現であり,逆は一般には成立しない.主定理の応用として,p 進モノドロミー定理の水平な類似を証明した: 定義2. kK の最大完全部分体をk := ∩n∈NkpnK とし,W(k) をk のヴィット環とする.W(k) の商体W(k)[pー1]のK 内での代数閉包をKcan と書く.Kcan は混標数(0; p) の完備離散付置体で,k を剰余体として持つ. 定理I (本学位論文Theorem 7.4). V をGK の水平なド・ラーム表現とする.このときKcan の有限次拡大K' が存在し,V |KK' は水平な半安定表現である. また,定理I の応用として,水平なド・ラーム表現の特徴づけを得ることができる:GKcan でKcan の絶対Galois 群を表す.自然な全射制限写像 〓 により,GKcan のp 進表現のなす圏から,GK のp 進表現のなす圏への引き戻し関手が定義される.この関手はド・ラーム表現を水平なド・ラーム表現に移す,つまり関手〓を誘導する. 定理II (本学位論文Theorem 7.6). 関手ldR は圏同値を与える. 最後に,定理II の応用を述べる. 定義3. K の代数閉包Kalg のp 進完備化をCp と書くGKcan のド・ラーム表現V のホッジ-テイト分解を〓とする.このとき,i ∈ Z に対し,V のホッジ-テイト重みがすべてi 以上であるということを,〓となることとする. 定理III (本学位論文Theorem 7.8). 副有限群G と位相G-加群V に対し,H1(G; V ) でV の連続群コホモロジーを表すこととする. 1. V をGKcan のド・ラーム表現で,ホッジ-テイト重みがすべて1 以上であるものとする.このとき,以下の自然な完全列が存在する: 〓 2. 上記の仮定に加え,さらにV のホッジ-テイト重みがすべて2 以上であるとする.このとき,〓である.特に上記の完全列により自然な同型〓を得る. 完全列(1)はテイトひねりV = Zp(1) の場合,同型(2)はV = Zp(n)(n ∈ Z {1})かつ剰余体が分離閉体の場合に,それぞれ兵頭治によって証明されている([Hyo1, Hyo2]).定理III は兵頭の結果の,水平なド・ラーム表現に対する類似になっている. | |
審査要旨 | p を素数とする.K を混標数(0; p) の完備離散付値体とし,その剰余体をkK と書く.K の絶対Galois 群GK の表現を調べることは数論幾何学における局所理論の重要な課題である.l をp と異なる素数とするとき,GK のl 進表現はK についての適当な仮定のもとで,適当にK を有限次拡大すれば冪単表現と呼ばれるものになることが知られている(Grothendieck).これはl進モノドロミー定理と呼ばれ,半安定還元定理のl 進表現論における類似である. 大久保氏の博士論文ではGK のp 進表現を扱う.p 進表現はl 進表現に比べて複雑であり,特に上の形の定理はそのままでは成り立たない.Fontaineはp 進表現論の様々なクラス(クリスタリン表現,半安定表現,de Rham 表現) をp 進周期環を用いて定義した.良還元をもつ(半安定還元を持つ,一般の還元の) 代数多様体のp 進エタールコホモロジーはクリスタリン表現(半安定表現,de Rham 表現) である.そして,Fontaine はl 進モノドロミー定理の類似として,GK のde Rham 表現は必ず潜在的半安定表現になることを予想した.これをp 進モノドロミー予想という p 進モノドロミー予想はK の剰余体kK が完全体のときはBerger によりp進微分方程式に関するCrew の予想に帰着され,このCrew の予想はAndr´e,Kedlaya, Mebkhout により独立に証明された.また[kK : kpK] が有限のときは森田知真氏により,Andreatta-Brinon のp 進微分方程式の理論とBerger の結果を用いることにより証明された.本博士論文の主定理において,大久保氏はp 進モノドロミー予想を剰余体kK に関する一切の仮定を置かずに証明することに成功した.また,この主定理の応用として以下の3つの結果を示した:一つは水平de Rham 表現は適当なK の標準部分体Kcan の有限次拡大からくるK の有限次拡大をした後に水平半安定表現になるというp 進モノドロミー予想の水平版である.二つ目はGK の水平de Rham 表現の圏はKcan のGalois 群GKcan のde Rham 表現の圏と圏同値となるという定理である.3つ目はGK の水平de Rham 表現の1次Galois コホモロジーを対応するGKcan のde Rham 表現の1次Galois コホモロジーと微分加群を用いて計算する結果であり,これは兵頭治氏によるGalois コホモロジーの計算のある種の一般化である.どれもp 進表現論において重要な興味深い結果である. 本論文における主定理の証明手法も興味深いものである:kK が完全体の場合,Berger の証明の後にColmez はp 進微分方程式論を使わない別証明を行ったが,大久保氏の証明はこのColmezの証明をkK が完全とは限らない場合に拡張するものである.以下,Cp をKの代数閉包のp 進完備化,B+cris μ B+st μ B+dRをFontaine のp 進周期環の+ 部分とし,またBr+cris μ Br+st μ Br+dR をその水平部分とする. またe Br+rig :=Tn2N 'n(Br+cris ) とおく(但し' はFrobenius作用素). Colmez はHodge-Tate 重みが0 以下のde Rham 表現V に対してFrobenius 作用素' およびGK の作用を持つe Br+rig 加群e Nr+rig (V ) で' の作用に関してDieudonne-Manin 型分解を持つものを構成した.Sen の定理の一般化(kK が一般の時はこれも大久保氏の結果である) を用いることにより,Kを有限次拡大でおきかえればe Nr+rig (V ) へのGK 作用が冪単になるように出来る.この作用を表わすコサイクルcがK KO B+st 係数(K0 はkKのCohen 環の商体) でコバウンダリになることを示せばよい.大久保氏はこのことを以下の手法により証明した.まずK u Kpf u Cp を満たす剰余体が完全な完備離散付値体Kpf をとる.そしてGalois コホモロジーの完全列および(B+cris)GKpf に対するPoincareの補題を用いてc をK KO(B+cris)GKpf 係数のコバウンダリとBr+dR 係数のコバウンダリの和として表わす.前者へのGKpf 作用が自明であることとColmez によるKpf に対する結果を用いることにより後者はあるBr+st 係数コバウンダリとの差が(Br+dR )GKpf 係数コバウンダリとなることがわかる.〓なので以上により主定理が証明される. 以上に説明した大久保氏の証明は非常に独創性の高くかつ極めて巧妙なものである.主定理はp 進表現論における重要な結果であることは間違いない.また証明中に現れたe Nr+rig (V ) は剰余体が非完全な混標数(0; p) の完備離散付値体のガロア群のp 進表現の更なる解明において役立つものであると期待され,この点においても本博士論文における研究は重要なものである.よって,論文提出者 大久保俊 は博士(数理科学) の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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