No | 128382 | |
著者(漢字) | 神本,晋吾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カミモト,シンゴ | |
標題(和) | Schrodinger方程式の完全WKB解析に関して | |
標題(洋) | On the exact WKB analysis of Schrodinger equations | |
報告番号 | 128382 | |
報告番号 | 甲28382 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第390号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本稿では, 大きなパラメータη を含み, 解析的なポテンシャルQ(x) を持つ次の1次元定常型Schroodinger 方程式を考える: 〓 Part I On the Borel summability of WKB-theoretic transformation se-ries (1) の完全WKB解析(Borel 総和法を用いた解析) はA. Voros により始められ, [V] では(1) の単純変わり点から出るStokes 曲線上でのWKB 解 (x; η) の接続公式が与えられた. そこではWKB 解のBorel 和の変わり点での一価性の議論を用いて接続係数が求められた. この接続公式を別の視点から捉えるべく, 青木-河合-竹井により(1) の次のAiry 方程式へのWKB解析的な変換が導入された([AKT1]): 〓 ここで, WKB 解析的変換とは, η に関する形式冪級数(WKB 解析的変換級数と呼ぶ) による形式的座標変換, 及びgauge 変換のことである. これは, (1) のWKB 解のBorel 変換像ψB(x; y) の持つ「動く特異点」と呼ばれる特異点の解析を目的としたもので, この特異点での B の特異性の記述を通して, Voros の接続公式は説明された. (実際, (2) のWKB解ψ(x,η)のBorel 変換像ψB(x; y) は具体的に超幾何関数を用いて表示することが可能であり, ψB の動く特異点での特異性の記述から, WKB解析的変換を通して,ψB の動く特異点での特異性の記述が行われていた.) ここで次に注意する: [AKT1] では変わり点の近傍, 及びBorel 平面の「基準の特異点」の近傍での, ψB の特異性の局所的な記述は与えられていた. しかし, のBorel 和, 及びStokes 現象を扱うためには, 変わり点から出るStokes 曲線の近傍, 及び基準の特異点からBorel 平面の実軸に平行に延びる直線の近傍での B の特異性の記述が必要になる. Part I では, 注目している単純変わり点から出るStokes 曲線が, 全てQ(x) の二位以上の位数の極に流れ込むというStokes 幾何に関する仮定の下, WKB解析的変換級数のBorel総和可能性を示すことにより, 上記の場所での B の特異性の記述を与えた. この結果から, [AKT1] の立場からのVoros の接続公式の完全な証明が得られたことになる. また, Q(x) の単純極も変わり点と同様の役割を果たすことが, 小池によりWKB解析的変換を用いた方法により明らかにされているが([Ko1],[Ko2]), そこで用いられたWKB解析的変換級数に対しても, 同様の仮定の下, Borel 総和可能性を示した. Part II On the WKB theoretic structure of a Schrodinger operator witha merging pair of a simple pole and a simple turning point Part I では一つの単純変わり点(あるいは一つの単純極) が考察の対象であった. しかし, このように一つの変わり点に注目しているだけでは捉えることができない, 「動かない特異点」と呼ばれる B の特異点が知られている. この動かない特異点の解析に関して, 青木-河合-竹井による, 二つの合流する単純変わり点を持つSchr¨odinger 方程式(MTP 方程式) の完全WKB 解析が知れている([AKT2]). 簡単のため, まず次のWeber 方程式を考えてみる: 〓 ここではE が合流パラメータの役割を果たしている. この場合, 動かない特異点は基準の特異点から2πE の周期で現れることが知られている. はx =±2√E に単純変わり点を持っているが, この動かない特異点は, 二つの単純変わり点がStokes 曲線で結ばれるという, Stokes 幾何の退化と関係しており, 動かない特異点での特異性の記述, 特にalien derivative の計算は, 合流パラメータE に関するStokes 現象を記述する際に重要となる.(3) に関しては, 動かない特異点の解析に有効なVoros 係数」と呼ばれる級数のBernoulli 数を用いた明示的な表示が得られており([SS], [T]), これにより動かない特異点の具体的な解析が可能である. [AKT2] ではMTP方程式の変わり点の合流点の近傍での(3) へのWKB 解析的変換を通して, 合流する二つの単純変わり点に起因する動かない特異点の解析が行われた. 上述したように, 単純極も変わり点と同様の振る舞いをすることが知られている. すると, 単純変わり点と単純極の組, あるいは, 二つの単純極の組に関しても, これらに起因する動かない特異点が現れると期待される.Part II では, 単純変わり点と単純極の組に起因する動かない特異点の解析を行うべく, 合流する単純変わり点と単純極の組を持つSchr¨odinger 方程式(MPPT 方程式) の完全WKB 解析を行った. ここでは[AKT2] と同様に, 合流点の近傍でのWhittaker 方程式へのWKB解析的変換を通して,合流する単純変わり点と単純極の組に起因する動かない特異点の解析を行った. Part III Exact WKB analysis of a Schrodinger equation with a mergingtriplet of two simple poles and one simple turning point ー itsrelevance to the Mathieu equation and the Legendre equation [AKT2], Part II での結果を踏まえて, 次の自然な問いが生じる: 二つの単純極の組に起因する動かない特異点の解析も, 同様に合流操作を用いて解析を行えないであろうか? しかし, この場合には次の困難が生じる: 例えば, ポテンシャルとして次のものを考えてみる: 〓 ただし,a は合流パラメータとする. Q1(x; a; Γ) はx = _a にa = 0 で合流する単純極を持っているが, これらに起因する動かない特異点の現れる周期はa に依存せず2_ipΓ となる. (実際, この周期は二つの単純極の周りを回るQ1(x; a; Γ) の周回積分により与えられる.) 一方, MTP 方程式,MPPT 方程式では, 解析の対象であった動かない特異点の周期は合流に伴い0 となり, この性質は動かない特異点の解析を行う上で重要であった.では, 次の形の単純極の合流ではどうなるであろうか: 〓 すると,〓の場合, 二つの単純極に加えて新たにa = 0 で合流する単純変わり点が現れてしまう. しかし, Q2(x; a) の二つの単純極に起因する動かない特異点の現れる周期はO(√jaj) となり, Q1(x; a; Γ) の動かない特異点よりは扱い易い. これらを踏まえて, Part III では合流する二つの単純極と一つの単純変わり点を持つSchr¨odinger 方程式(M2P1T 方程式) の完全WKB 解析を行った. ここでは, まず合流点の近傍において,代数的Mathieu 方程式 〓 (A;B 6= 0 は方程式のパラメータ) へのWKB解析的変換の構成を行った.では, (6) の二つの単純極に起因する動かない特異点の解析は可能であろうか? 当然ながら, 単純変わり点と単純極に起因する動かない特異点も混在しているため, これらを取り除く必要が生じる. Part III では, 更に単純変わり点の合流の速度をパラメータB により調節し, 単純変わり点の影響を取り除くことにより, 二つの単純極の近傍におけるQ1(x; a; aΓ) をポテンシャルに持つSchr¨odinger 方程式(Legendre 方程式) へのWKB 解析的変換を通して, 二つの単純極に起因する動かない特異点の解析を行った. 謝辞 学部生の頃からご指導下さった片岡清臣先生, 京都での充実した研究環境を提供して下さった河合隆裕先生, 竹井義次先生, 研究を行う上での貴重な助言を下さった青木貴史先生, 小池達也先生, 共に切磋琢磨した岩木耕平氏, 佐々木真二氏, 廣瀬三平氏に心からの感謝を捧げたい. | |
審査要旨 | 本論文提出者は,large parameter η を含む1次元Schroodinger 方程式〓の完全WKB 解析を研究し,WKB 解〓とそのBorel 変換ψB(x, y) =Σnψn(x)Γ(n+1/2) (y + y0(x))n-1/2(ただしy0(x) = ∫ x√Q(x)dx),およびQ(x) を特定の標準形に変換する方程式の変換級数論に関して3つの大きな成果をあげた. 第1の結果はQ(x) が1つの1位のゼロ点を持つ場合で,Q(x) = x への変換論が展開された. 通常の議論は(x, y)-空間においてx-変数については単純変わり点(Q の1位のゼロ点)の近傍,y-変数については基準点である-y0(x) の近傍という,局所的な考察に限られていたが神本はこの議論を大域的なものに拡張することに成功した.これは彼が多変数函数論のHartogs現象からの着想で得た「Stokes 曲線上での変換級数のBorel 総和可能性を,そこでの一様Borel 変換可能性とそこ以外でのBorel 総和可能性から導く」という画期的なアイデアによるものである.通常,WKB 解のBorel 総和可能性を問題にする際は,当然のことながらその特異集合であるStokes 曲線を除外する.WKB 解のBorel 総和可能性については以前からいくつかの結果が知られていたが,ここではそれを特異集合であるStokes 曲線上にまで拡張するものである.例えば,x がStokes 曲線上の点であるとき,y-平面においては,基準点である-y0(x) から見て実軸に平行に延びる直線上に動く特異点y = y0(x) が存在するが,このy = y0(x) を越えた先にはもはや特異点は存在しないことは,この結果によって初めて確かめられた.この結果は,完全WKB 解析で最も基本的なStokes 曲線上でのWKB 解の接続公式に完全な数学的意味付けを与えており,その意味で非常に基本的かつ画期的な成果だと言うことができる.この結果は神戸大学の小池達也准教授との共著であるが上記の画期的なアイデアなど神本による貢献は大きい. 第2,第3の結果は,それぞれQ(x) が,1位のゼロ点と1位の極を1つずつ持つ場合,1つの1位のゼロ点と2つの1位の極を持つ場合,に関するもので,いずれも零点と極がパラメーターの変化によって1点に合流する場合の状況を解析した.これらはWKB 解のBorel 変換のいわゆる「動かない特異点」を解析することを目的とし,第2では青木・河合・竹井の先行結果[AKT2] T. Aoki, T. Kawai and Y. Takei: The Bender-Wu analysis andthe Voros theory. II, Advanced Studies in Pure Mathematics, Vol. 54, Math.Soc. Japan, 2009, pp.19-94を1個の単純変わり点と1個の単純極が合流する場合に拡張した.他方,単純極が2個合流する場合は特に大きな困難が生じるため,2個の合流する単純極とそれに付随して現れる「動かない特異点」を議論しようとすれば,必然的に他にもう1個の単純変わり点を扱わざるを得なくなる.そこで第3部では,2個の単純極と1個の単純変わり点が同時に合流する場合を論じた.3個の点のまわりでの標準形を論じた論文は,完全WKB 解析の枠組のみならず古典的な漸近解析の分野を含めてもこれが初めてであり,極めて先駆的で重要な結果である.これら3つの結果はいずれも共著であるが,そのいずれにおいても変換級数の評価といった実質的な解析の部分をもっぱら担当したのは神本であり,寄与は決して小さくない.また第3部では単純変わり点の合流速度を支配するパラメータの微妙な調整を最後までやり通したのは神本の計算力によるところが大きく,彼の貢献なしには第3の結果は得られなかったことが共同研究者であり研究指導委託教員である京都大学の竹井義次准教授からのコメントも頂いている. 以上の結果において先駆者や共同研究者による寄与の分を除いてもこの分野において重要な新しい結果を得ただけでなく新しい研究の境地を開き,今後のこの分野の発展に大きく貢献している。 よって, 論文提出者 神本晋吾 は, 博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
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