No | 128384 | |
著者(漢字) | 千葉,優作 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チバ,ユウサク | |
標題(和) | 射影代数多様体内の正則曲線について | |
標題(洋) | Entire curves in projective algebraic varieties | |
報告番号 | 128384 | |
報告番号 | 甲28384 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第392号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1 背景 R. ネヴァンリンナは, 複素平面上の有理型関数の値分布を調べるために1925 年の論文においてネヴァンリンナ理論を創始した([Ne]). ネヴァンリンナ理論では第一主要定理と第二主要定理と呼ばれる2 つの主定理があり, 第一主要定理は特性関数, 個数関数, 接近関数と呼ばれる3 つの関数の関係を表したもので, 第二主要定理は個数関数の大きさを特性関数の大きさで漸近的に評価したものである. ネヴァンリンナ理論はその後高次元化され, 複素多様体の中の正則曲線(複素平面から複素多様体への正則な写像)を研究する有力な手段となっている. 第二主要定理が確立されている主な場合として次のようなものがある: (a) 複素射影空間Pn(C) における一般の位置にある超平面に対する第二主要定理(H. Cartan[Ca]). (b) 準アーベル多様体とその因子に対する第二主要定理(Noguchi-Winkelmann-Yamanoi [NWY1],[NWY2]). (c) 一般型曲面の正則葉層構造に沿った正則曲線に対する第二主要定理(M. McQuillan [Mc]). また小林双曲性も, 正則曲線を調べる際には重要な概念である. 小林双曲的多様体は非定値な正則曲線を持たないような複素多様体であり, 小林双曲性については次の小林予想が有名である. (1) 複素射影空間Pn(C) において次数d ≧ 2n ー 1 の一般な超曲面は小林双曲的である. (2) 複素射影空間Pn(C) において次数d ≧ 2n + 1 の一般な超曲面の補集合はPn(C) に小林双曲的に埋め込まれている. 小林予想については, 任意次元で存在がK. Masuda-J. Noguchi [MN] で示された. 小林予想(1)についてn = 3 のときはJ.-P. Demailly, J. El Goul [DE], M. Paun [Pa] などで詳しく研究されて部分的な解決をしている. また小林予想(2) についてもn = 2 のときはG. Dethloff, S. Lu [DL],E. Rousseau Ro] により部分的に解決している. 本論文の構成は以下のとおりである. 第一節ではジェット束, ネヴァンリンナ理論や小林双曲性の基本的な定義や性質について述べる.これらは後の節で何度も使われる基本的な概念である. 第二節ではJ.-P. Demailly [De] で導入された射影的有理型接続を使ってある第二主要定理を証明する. Pn(C) での特別な超曲面や一般の位置にない超平面の第二主要定理を扱っている. 第三節では有理型接続を使ってP1(C) × P1(C) に対する第二主要定理を証明する. 第四節では代数的トーラスから因子を除いた空間が, あるトーリック多様体に小林双曲的に埋め込まれる十分条件を与える. 2 複素射影空間の超曲面に対する第二主要定理 H. Cartan [Ca] により複素射影空間Pn(C) の一般の位置にある超平面に対する第二主要定理が証明されて以来, 超曲面に対する第二主要定理を証明することが大きな問題となった. 論文の第二節では特殊な超曲面に対する第二主要定理を証明する. s0, . . . , sn をC[X0, . . . ,Xn] のd 次斉次多項式で, ある正整数l0, . . . , ln に対して〓を満たすとする. このときCn+1 上の有理型接続∇ = d +Γ を〓で定義する. この接続はPn(C) 上に射影的有理型接続∇ を誘導する(J.-P. Demailly [De] 参照).我々は,この∇ を使って次の第二主要定理を証明する. 定理2.1 (Theorem 0.0.1) σ1, . . . , σq を線形系|{s0, . . . , sn}| の元でΣqk=1 σk は単純正規交叉的とする. H をPn(C) の超平面束とする. またf : C → Pn(C) を正則曲線で, その像が線形系|{s0, . . . , sn}| の元の台や, ∇ の極の集合に入っていないものとする. このとき次が成り立つ. 〓 ここで,Sf (r) は増大度の小さい項を表し,(0,∞) の測度有限な例外集合の外で次の評価をみたす. 〓 またX を射影代数多様体としてeX → X をその固有改変(proper modification) としたときにX 上の射影的有理型接続を引き戻すことで, eX 上にも射影的有理型接続が誘導される. これによって一般の位置にない超平面に対する次の第二主要定理を得た. 定理2.2 (Theorem 0.0.2) S1, . . . , Sq をP2(C) のm-準一般の位置にある超平面とする. {x1,. . ., xp} をS1, . . . , Sq が単純正規交叉的ではないP2(C) の点全体とする. eP2(C) → P2(C) を{x1, . . . , xp} でブローアップしたものとして, H1,H2,H3 をP2(C) の超平面で, {x1, . . . , xp} を通らないものとする. 正則曲線f : C → P2(C) を線形非退化なものとする. ここでf が線形非退化とは, f の像を含むP2(C) の超平面が存在しないこととする. このとき次が成り立つ. 〓 一般の位置にない超平面に対する第二主要定理はE. Nochka [Noc] により任意次元で解決されているが上の定理2.2 はNochka のものとは異なる. 3 リーマン球面の直積における第二主要定理 第三節ではリーマン球面の直積であるP1(C)×P1(C) 内の正則曲線を扱う. 先行する結果としてJ.Noguchi [Nog] が, ある特別な条件下で得た第二主要定理がある. ここでは, そのような条件を仮定せずに成立することを証明する. P1(C)×P1(C) には2 次元代数トーラスC※ ×C※ が含まれているが, その中の部分群である因子のコンパクト化D',D'' に対する第二主要定理を証明する. ここで〓でありz,w はC × C ⊂ P1(C) × P1(C) の局所座標系とする. 代数的トーラス上には平坦な接続∇が存在し, 部分群は∇に関して全測地的になる. この接続∇をP1(C)×P1(C) 上に有理型接続として拡張しておく.Z = P1(C) × 1(C) とおいて, π : e Z → Z を適当な固有改変とする. するとe Z 上にも有理型接続が誘導されて, それをe∇ とおく. このとき次の定理が示される. 定理3.1 (Theorem 0.0.3) f : C → P1(C) × P1(C) を正則曲線としてe f : C → e Z をそのリフトとする. またeD', eD'' をD',D'' のπ による強変換, E =Σi=1 Ei をe∇ の極の既約分解とする. fの像がC※ × C※のある真部分群の平行移動の閉包に含まれることはないとすると次が成り立つ. 〓 4 トーリック多様体への小林双曲的な埋め込み 代数的トーラス(C※)r 上の因子D をローラン多項式〓で与えられるものとする. このとき, 補空間(C※)r D があるトーリック多様体へ小林双曲的に埋め込まれるようなD の条件について考察する. 以下に定理に必要な定義を述べる. 階数r のZ 上の自由加群をN = Zr として, M = HomZ(N, Z) とする. 係数をR に拡張したものをNR = N ×Z R, MR = M ×Z R とおく. r 次元代数的トーラスをTN = N ×Z C※ とする. Mに含まれる有限部分集合A に対して,〓と定義する. VA をLA の元全体で生成されるMR のR 上線形部分空間として,〓と定義する. ただしここでいう超平面とは, 余次元1 のR 上の線形部分空間である. また, P をMRに含まれるr 次元整凸多面体とする. このときP に付随した射影的トーリック多様体X が自然に定義される. 定理4.1 (Theorem 0.0.4) S をM の中の有限部分集合でS ⊂ P とする. P に含まれる任意の正次元面τ に対して次の条件を仮定する: (i) τ ∩ S = O であり, τ ∩ S の凸包の次元はτ の次元と一致する. ii) H ∈ Ht∩S に対して, H : Vt∩S → Vt∩S/H を自然な準同型とする. x をτ ∩ S のある一点としたとき, ♯(φH(τ ∩ S ー x)) ≧dim τ + 1 が任意のH ∈ Ht∩S に対して成り立つとする. このとき, 線形系〓 の一般な元で与えられるTN の因子D に対して,TN D はX に小林双曲的に埋め込まれている. また, 主結果の応用として小林予想(2) に関連した次の系が得られる. 系4.2 (Corollary 4.1.1) n 次元射影空間Pn(C) において一般の位置にある(n + 1) 本の超平面H0,H1, . . . ,Hn をとる. このとき次数n の一般な超曲面S に対して, Pn(C) (S ∪ ∪ni=0 Hi)はPn(C) に小林双曲的に埋め込まれる. 注:*chiba@ms.u-tokyo.ac.jp | |
審査要旨 | 本論文では複素射影代数的多様体内の正則曲線の値分布を論じ、主結果は、第2 章~4 章で述べられている。初めの二つでは正則曲線のネヴァンリンア理論を扱い、第4 章では小林双曲的多様体の理論を扱っている。 ネヴァンリンナ理論では、柱となる定理が二つあり第1 主要定理・第2 主要定理と呼ばれる。これらは、対象とする正則曲線の位数関数と個数関数についての関係式で互いに逆の評価を与える、相互補完の関係にある。特に第2 主要定理が重要で、例えば古典的なピカールの定理(整関数が値として2 点を除外すれば定数)などはこれから従う。第2 主要定理が確立されているのは、Pn と超平面和の場合、つまり線形の場合(H. Cartan, 1933; Nochka, 1983) 、非線形な場合として準アーベル多様体の場合(Noguchi-Winkelmann-Yamanoi, 2002~2008) などしかない。 第2 章では、Pn の非線形ではあるが特別な超曲面と整曲線f : C ! Pn に対して新しい第2 主要定理が示されている。方法的には、J.-P. Demailly による射影的有理型接続" が重要な役を果たす。ここでは、扱う超曲面は単純正規交叉と仮定される。そうでない場合についても、P2 の場合に新しい第2 主要定理を証明できた。非正規交叉の場合については、Nochka の仕事があるがそれとは異なる形の評価式になっている。 第3 章では、P1 の直積であるP1×P1 の場合をトーリック多様体の理論を用いて扱った。これにより、先行する結果(Noguchi, 2011) で附されていた特別な条件を除くことが出来た。ここでは、有理型接続としては代数的トーラス(C*)2 上の平坦接続(境界で対数的極をもつ接続)が使われる。2 次元ではあるが、非線形な場合を扱っておりその点が新しい。一般次元のトーリック多様体を扱うのは今後の重要な課題である。 第4 章では、小林双曲性、小林双曲的埋め込みの問題を論じている。上述のH. Cartanの第2 主要定理からの帰結として、Pn から2n + 1 個の超平面の正規交叉を持つ和の補集合は小林双曲的にPn に埋め込まれていることが知られている(Fujimoto, 1972).このことより、Pn 内の一般の次数2n+1 の超曲面の補集合は、Pn に小林双曲的に埋め込まれているだろうという予想がある(小林予想、1967)。この予想は、大変難しく現在でも未解決である。一般次元で、少なくともそのような超曲面が存在すること(Masuda-Noguchi, 1996), n = 2 の場合にフランス学派による次数が大きい幾つかの最近の結果が知られている程度である。 ここでは、一般n 次元の代数的ト-ラスT 上に一般の既約因子D をとり、ある組み合わせ的な条件の下でT nD が、あるトーリック多様体に小林双曲的に埋め込まれることを証明した。ここでは準アーベル多様体内の整曲線に対する退化定理(Noguchi,1998) が有効に使われる。この系として、Pn からn + 1 個の一般の位置にある超平面と位数n の既約超曲面の和について上記小林予想が成立していることが結論される。この結果は、一般次元n で、既約成分の個数がFujimoto の2n + 1 の約半分であるn + 2 であって、次数はオプティマルな2n + 1 である、という意味で現在先端を行っている。 以上要するに、本論文では射影代数的多様体への正則曲線に対するネヴァンリンア理論、特に第2 主要定理について新しい重要な成果をあげ、小林双曲的多様体の理論における重要な未解決問題である小林予想について部分的ではあるが一般次元で意義深い結果を出している。よって、論文提出者千葉優作は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
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