No | 128886 | |
著者(漢字) | 白谷,健一郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シラヤ,ケンイチロウ | |
標題(和) | 金融派生商品の価格評価に関する研究 | |
標題(洋) | Essays on Derivatives Pricing | |
報告番号 | 128886 | |
報告番号 | 甲28886 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(経済学) | |
学位記番号 | 博経第322号 | |
研究科 | 大学院経済学研究科 | |
専攻 | 金融システム専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 金融機関において扱うデリバティブ商品は多岐に渡り,その評価を高速かつ正確に行うことは重要な問題となっている.特にエキゾチック商品や長期のデリバティブといった取引は,その価格を推定すること自体が容易ではなく,高流動のプレーンな商品と整合的になるように評価をするために複雑なモデルを必要とする.本論文はそのようなデリバティブの価格を高速かつ正確に評価するための手法と,その精度について数値検証等を通じ分析することで金融実務での活用を念頭においた金融技術に関する研究成果をまとめたものである. 第一部では最初に長期の原油先物・先渡し価格を最大3ファクターの状態変数モデルを用いて推定し,実際の市場データを用いて検証を行った. 近年コモディティのデリバティブ市場は急拡大しており,金融機関のみならず商社,電力会社,ガス会社等の事業会社も市場に参入している.短期でプレーンな商品については取引所から価格が取得できるため価格の推定は容易であるが,OTCの市場では長期の先渡し取引や,平均オプションが主流であり,価格を推定することは容易ではない.長期の先渡し取引においては,Gibson and Schwartz (1990)により現物価格の変動以外にコンビニエンス・イールドを確率過程としたモデル,Schwartz (1997)ではコンビニエンス・イールドと金利を確率過程として明示的に取り入れたモデルが提案された.一方,商品の現物価格,コンビニエンス・イールド,金利を個別にモデル化するのではなく,現物価格を平均回帰する状態変数を用いて直接モデル化する方法も提案された.Schwartz and Smith (2000)では2ファクター平均回帰モデル,Casassus and Dufresne (2005)は3ファクター平均回帰モデル,Cortazar and Naranjyo (2006)はNファクター平均回帰モデルにより,直接現物価格をモデル化している.長期の先物・先渡し取引に対するヘッジとしてはKorn (2005)等で検討されている.しかし,近年の急激なコモディティの価格やフォワード・カーブの変動が起こった時期においては,長期の契約に対して適用可能かどうかについて研究がなされていない. 本研究ではstochastic mean-reversionを用いた3ファクター・モデルを構築するとともに,商品先物・先渡し価格の解析解を導出した.モデルには平均回帰水準を固定するタイプと固定しないタイプの2種類を用い,原油(NYMEX WTI)及び銅(LME Copper)の商品先物価格を推定し,実際に取引可能な先物価格に対する高い再現性を有することを示した.更に長期の先物・先渡しに対し,モデルに基づき適切なヘッジ・ポートフォリオを組むことにより,効率的なヘッジが達成できることを実証及びシミュレーションにより示した. 次に,コモディティのOTC市場で一般に取引されている平均オプションについて,連続平均,離散平均のそれぞれの場合のオプション価格の近似式を示す.平均オプションについては多くの先行研究が行われているが,その多くはBlack-Scholesモデルをベースとしたものであり,ボラティリティ・スマイルの要因を入れることができない.スマイルの影響を加味したモデルではモンテカルロ法での計算が一般的となるが,計算時間が問題となる.Fouque and Han (2003)等では特殊な確率ボラティリティ・モデルの解析近似解について研究されているが,現実のコモディティ市場で通用するモデルとは言えない.実務で用いられる平均オプションは連続平均型ではなく,日次で平均をとる離散平均型であり,平均の参照期間中に先物の限月交代が行われるが,ほとんどの平均オプションの研究においてこの点が加味されていない. 本研究ではコモディティ市場で主流となっている平均オプションの価格評価に関し,2つの(局所)確率ボラティリティ・モデルの下で漸近展開を用いた近似評価式を導出した.また,NYMEXで取引されているプレーンな先物オプションを用いてカリブレーションを行い,平均オプションの価格の数値計算を行うとともに,どのようなモデルがコモディティ市場に適しているかについても言及した.実務で用いる平均オプションは月の途中で先物の限月交代があるため,実際にはバスケット離散平均オプションとなるが,局所確率ボラティリティ・モデルを用いたこのタイプのオプションの解析近似解は筆者の知る限り本研究が初めてと思われる. 更に,実務において重要でありながら非常に複雑な,原資産の建値通貨と参照価格算出の際の通貨が異なり,複数資産を参照するタイプのオプションに対する解析近似式を導出し,数値検証によりその精度を分析した. このタイプのオプションは特に日本の事業会社が原料の輸入価格をヘッジする際によく用いるオプションであり,その複雑さからボラティリティ・スマイルと為替の変動との相関まで考慮したオプションの解析近似解は得られていなかった. 本研究ではこのオプションの解析近似解を導出し,実務上十分な精度で近似できることを数値検証により示した.更に局所確率ボラティリティ・モデルにおけるバスケット・オプションについても解析近似解を導出した.これまで局所確率ボラティリティ・モデルでのバスケット・オプションの近似は数資産程度でしか得られていなかったが,本研究では100資産200ファクターのバスケット・オプション価格を高速,高精度に近似できることも示した. 最後に,近年特に注目されているカウンターパーティーの倒産リスクを織り込んだデリバティブの価格評価について分析した.金融機関ではCVA等を通じ 倒産リスクを管理しているが,担保資産の有無や種類によって管理すべきリスクは変わるため,従来のCVAの計算手法では把握できないリスクを内在している. 本研究では現実に近いパラメータを用い,コモディティ・デリバティブにおけるカウンターパーティー・リスクも考慮した評価に重要なファクターが何であるかを,数値検証を通じ分析した. 第二部ではLIBOR Market Model (LMM)に局所確率ボラティリティ・モデルを組み合わせた新しい金利モデルを提案し,Cap, Floor, Swaptionの整合的な価格評価を行った. 金利デリバティブについては,1970 年代以降,瞬間的な金利の変動の記述に確率微分方程式を適用したスポット・レート・モデル が提案された(Cox, Ingersoll and Ross (1985)等).しかし,スポット・レートは市場で直接観測できず,モデルで使用する固有のパラメータの設定が困難であるとともに,フォワード・カーブが厳密に再現できない等の問題があり,実務において使い易いわけではなかった.その後,Heath, Jarrow and Morton (1992)により未来の時刻における金利の変動を考えるフォワード・レート・モデルが提案された.しかし,このモデルもパラメータの推定に関する問題は残った.Brace, Gatarek and Musiela (1997)等によりLIBOR Market Model (LMM)が提唱され,金利市場において標準的なモデルとなった.しかし,LMMではボラティリティ・スマイルの構造が入っていないため,異なった行使価格におけるオプション価格を再現することができなかった.近年,LMMに(局所)確率ボラティリティ・モデルを導入することでボラティリティ・スマイルを再現するモデルが提唱された.例えばWu and Zhang (2006)ではHeston型の確率ボラティリティを導入し,Hagan and Lesniewski (2008)等ではSABR型の局所確率ボラティリティ・モデルが導入された.しかし,単なるHeston型のボラティリティ・モデルでは実際の金利市場のスマイルを表現するには十分ではなく,SABR型のボラティリティ・モデルでは一部の近似に強引な部分が残る. 本研究では局所確率ボラティリティ・モデルとして中心回帰性を持つ確率ボラティリティに局所ボラティリティを組み合わせたモデルを考案し,このモデルに対し,ドリフト固定化の手法を用いることでCap, Floorだけでなく,それらと(近似として)整合的なSwaptionの価格を同一の価格近似式で算出する方法を示した.例としてHeston型の確率ボラティリティに,CEV型とQuadratic型の局所ボラティリティ・モデルを用いた場合のSwaptionの価格公式を導出した.また,実際のデータを用いてカリブレーションを行うことで,これらモデルが現実の市場に適合していることを検証するとともに,近似精度についても数値検証を行い,実務上十分な精度で近似できることを示した. 第三部では主に為替市場で取引されているバリア系オプションについて準解析近似解を与えた.特にインター・バンク市場で取引の行われる連続バリア・オプションと,カスタマー市場で扱いの多い離散バリア・オプションの2種類について考察した. これらバリア・オプションは,Black-Scholesモデルにおいては簡単な解析解が存在する一方,為替市場には一般にボラティリティ・スマイルが存在するため,それらの影響を織り込んで価格付けをする場合,難しい問題となる.特に連続バリア・オプションの近似にモンテカルロ法を用いる場合には,離散化する際の時間間隔が非常に重要となり,荒く分割した場合には大きな誤差が生じてしまう.また,離散バリア・オプションであっても,モンテカルロ法では計算に時間を要し,Greeksの計算も容易とは言えない. 本研究では(局所)確率ボラティリティ・モデルを用い,最初に連続バリア・オプションの近似方法を示した.これまで解析近似解が存在しない場合には準解析的にも連続バリア・オプションの解を近似することができなかったが,ここでは漸近展開の手法をスタティック・ヘッジの手法と組み合わせることで,一般のMarkov型の確率過程に従う原資産に対する連続バリア・オプションの価格導出方法を示した.数値例ではTakahashi, Takehara and Toda (2010)の5次の展開を用いた連続バリア・オプション,また,後半ではShiraya, Tkahashi and Yamada (2012)で計算された,2次の漸近展開による離散バリア・オプションの近似精度について分析を行った. | |
審査要旨 | 近年,金融機関において取り扱う金融商品,デリバティブ契約は多岐に渡り,その評価を高速かつ正確に行うことは非常に重要な問題である.特にエキゾチックと呼ばれる特殊な商品や長期のデリバティブ契約は,それらの価格を推定すること自体容易ではなく,流動性の高い標準的な商品と整合的になるように評価するためには極めて複雑なモデルを必要とする.白谷健一郎君は,そのような商品及びデリバティブの価格を高速かつ正確に評価するための新しいモデルや新手法を考案すると共に,詳細かつ膨大な実証分析及び数値実験を実施することにより、彼の開発したモデル・方法が国際的な金融市場取引やリスク管理の実務において極めて有用であることを示した. 以上により,本論文が博士学位授与に値するものであると審査委員は全員一致で判断した. なお、博士論文を構成する4章のうち,第2章の査読付き国際英文専門誌への掲載済み3本(第1,3,4セクション),査読付き和文専門誌への掲載済み1本(第2セクション), 第3章の査読付き国際英文専門誌への掲載済み1本(第1セクション), 第4章の査読付き国際英文専門誌への掲載済み2本(第1,2セクション)の総数7本の専門誌への掲載となっている.また,学会発表も審査付き国際学会2回,審査付き国内学会2回の報告と2012年末迄に計4回実施している. 本論文は研究テーマ毎に大別した,「第一部:コモディティ・デリバティブ」,「第二部:金利デリバティブ」,「第三部:バリアオプション」の三部構成としている. 第一部では最初に長期の原油先物・先渡し価格を最大3ファクターの状態変数モデルを用いて推定し,実際の市場データを用いて検証を行う.近年,コモディティのデリバティブ市場は急拡大しており,金融機関のみならず商社,電力会社,ガス会社等の事業会社も市場に参加している.短期で標準的な商品については取引所からの価格が取得できるため価格の推定は容易であるが,OTC市場では長期の先渡し取引や,平均型オプションが主流であり,それらの価格を推定することは容易ではない. 長期の先渡し取引においては平均回帰性を取り入れることが妥当であると考えられており,これに関しては多くの実証研究がなされている.例えば,Gibson and Schwartz (1990)では現物価格の変動以外にコンビニエンス・イールドを確率過程としたモデル,Schwartz (1997)ではコンビニエンス・イールドと金利を確率過程として明示的に取り入れたモデルが提案された.一方,商品の現物価格,コンビニエンス・イールド,金利を個別にモデル化するのではなく,現物価格を平均回帰する状態変数を用いて直接モデル化する方法も提案された.Schwartz and Smith (2000)では2ファクター平均回帰モデル,Casassus and Dufresne (2005)は3 ファクター平均回帰モデル,Cortazar and Naranjyo (2006)はNファクター平均回帰モデルにより,直接,現物価格をモデル化している. また,長期の先物・先渡し取引に対するヘッジとしてはKorn (2005)等で検討されている.しかし,近年の急激なコモディティの価格,フォワード・カーブの変動の起こった時期において,長期の契約に対し適用可能か否かについては我々の知る限りこれまで研究がなされていない. 本論文ではstochastic mean-reversionを用いた3 ファクター・モデルを構築するとともに,商品先物・先渡し価格の解析解を導出する.モデルには平均回帰水準を固定するタイプと固定しないタイプの2 種類を用い,原油(NYMEX WTI)及び銅(LME Copper)の商品先物価格を推定し,実際に取引可能な先物価格に対する高い再現性を有することを示す.更に長期の先物・先渡しに対し,モデルに基づき適切なヘッジポートフォリオを組むことにより,効率的なヘッジが達成できることを実証及びシミュレーション分析により確認する. 次に,コモディティのOTC市場で一般に取引されている平均オプションについて,連続平均,離散平均のそれぞれの場合のオプション価格の近似式を示す.平均オプションについては多くの先行研究が行われているが,その多くはBlack-Scholesモデルをベースとしたものであり,ボラティリティ・スマイルの要因を入れることができない.スマイルの影響を加味したモデルではモンテカルロ法による計算が一般的であるが,計算に要する時間が膨大であり実務上大きな問題となっている. Fouque and Han (2003)等では特殊な確率ボラティリティ・モデルの解析近似解について研究されているが,現実のコモディティ市場で通用するモデルとは言えない.また,実務で用いられる平均オプションは連続平均型ではなく,日次で平均をとる離散平均型であり,平均の参照期間中に先物の限月交代が行われるが,ほとんどの平均オプションの研究においてこの点が加味されていない. 本論文ではコモディティ市場で主流となっている平均オプションの価格評価に関し,2つの(局所)確率ボラティリティ・モデルの下で漸近展開を用いた近似評価式を導出し,数値例によりその精度を検証する.また,これらモデルに対する離散平均オプションの価格の近似解を導出し,CMEにおいて取引されているプレーン・バニラ先物オプションを用いてカリブレーションを行い,平均オプションの価格の数値計算を行うとともに,どのようなモデルがコモディティ市場に適しているかについても調査する.実務で用いる平均オプションは月の途中で先物の限月交代があるため,実際にはバスケット離散平均オプションとなるが,局所確率ボラティリティ・モデルを用いたこのタイプのオプションの解析近似解は我々の知る限り本研究が初めてである.更に,実務において重要でありながら非常に複雑な,原資産の決済通貨と参照価格算出の際の通貨が異なり,複数資産を参照するタイプのオプションに対する近似式を与え,数値検証によりその精度を確認する.このタイプのオプションは特に日本の事業会社が原料の輸入価格をヘッジする際によく用いるオプションであり,その複雑さからボラティリティ・スマイルと為替の変動と相関まで考慮したオプションの解析近似解はこれまで得られていなかった. 本論文ではこのオプションの解析近似解が実務上十分な精度で近似できることを数値計算で確認する.更に局所確率ボラティリティ・モデルにおけるバスケット・オプションについても解析近似解を導出する.これまで局所確率ボラティリティ・モデルでのバスケット・オプションの近似は数資産程度でしか得られておらず,本稿では100資産200ファクターに関するオプション価格の近似が非常に高速,高精度で得られることも確認している. 最後に,近年特に注目されているカウンターパーティーのデフォルトリスクを織り込んだデリバティブの価格評価について分析する.金融機関ではCVA等を通じ デフォルトリスクを管理しているが,担保資産の有無や種類によって管理すべきリスクは変わり,従来のCVAの計算手法では把握できないリスクも内在している.本論文では現実に近いパラメータを用いてコモディティデリバティブにおけるカウンターパーティーリスクも考慮した評価に重要なファクターが何であるかを,数値検証を通じ分析する. 第二部ではLIBOR Market Model (LMM)に局所確率ボラティリティ・モデルを組み合わせた新しい金利モデルを提案し,Cap, Floor, Swaptionの整合的な価格評価を行う. 金利デリバティブについては,1970 年代以降,瞬間的な金利の変動の記述に確率微分方程式を適用したスポット・レート・モデル が提案された(Cox, Ingersoll and Ross (1985)等).しかし,スポット・レートは市場で直接観測できず,モデルで使用する固有のパラメータの設定が困難であり,また,フォワード・カーブが厳密に再現できない等の問題により実務において使い易いわけではなかった.その後,Heath, Jarrow and Morton (1992)により未来の時刻における金利の変動を考えるフォワード・レート・モデルが提案された.しかし,このモデルもパラメータの推定に関する問題は残った.Brace, Gatarek and Musiela (1997)等によりLIBOR Market Model (LMM)が提唱され,金利市場において標準的なモデルとなった.しかし,LMMではボラティリティ・スマイルの構造が入っていないため,異なった行使価格におけるオプション価格を再現することができなかった.近年,LMMに(局所)確率ボラティリティ・モデルを導入することで,ボラティリティ・スマイルを再現するモデルが提唱された.例えばWu and Zhang (2006)ではHeston型の確率ボラティリティを導入し,Hagan and Lesniewski (2008)等ではSABR型の局所確率ボラティリティ・モデルが導入された.しかし,単なるHeston型のボラティリティ・モデルでは実際の金利市場のスマイルを表現するには十分ではなく,SABR型のボラティリティ・モデルでは一部の近似に強引な部分が残る. 本論文では局所確率ボラティリティ・モデルとして中心回帰性を持つ確率ボラティリティに局所ボラティリティを組み合わせたモデルを考案し,このモデルに対し,ドリフト固定化の手法を用いることでCap, Floorだけでなく,それらと(近似として)整合的なSwaptionの価格を同一の価格近似式で算出する方法を示す.例としてHeston型の確率ボラティリティに,CEV型とQuadratic型の局所ボラティリティ・モデルを用いた場合のSwaptionの価格公式を導出する.また,実際のデータを用いカリブレーションを行うことで,これらモデルが現実の市場に適合していることを確認する.更に,近似精度についても数値検証を行い,実務上十分な精度で近似できることを示す. 第三部では主に為替市場で取引されているバリア系オプションについて準解析近似解を与える.特にインター・バンク市場で取引の行われる連続バリア・オプションと,カスタマー市場で扱いの多い離散バリア・オプションの2種類について考える. これらバリア・オプションは,Black-Scholesモデルにおいては非常に簡単な解析解が存在する一方,為替市場には一般にボラティリティ・スマイルが存在するため,それら影響を織り込んで価格付けをする場合,非常に難しい問題となる.特に連続バリア・オプションの近似にモンテカルロ法を用いる場合には,離散化する際の時間隔が非常に重要となり,荒く分割した場合には大きな誤差が生じてしまう.また,離散バリア・オプションであったとしても,モンテカルロ法では計算に時間を要し,Greeksの計算も容易とは言えない. 本論文では(局所)確率ボラティリティ・モデルを用い,最初に連続バリア・オプションの近似方法を示す.これまで解析近似解が存在しない場合には準解析的にも連続バリア・オプションの解を近似することができなかったが,ここでは漸近展開の手法をスタティック・ヘッジの手法と組み合わせることで一般のMarkov型の確率過程に従う原資産に対する連続バリア・オプションの価格導出方法を示す.数値例ではTakahashi, Takehara and Toda (2010)の5次の展開を用い,数値計算により実務上十分な精度が得られることを確認する.また,Shiraya, Tkahashi and Yamada (2012)で計算された, 2次の漸近展開による離散バリア・オプションの近似精度を検証する. 以上により,白谷君の論文は、博士学位を授与するに十分な水準に達していると審査委員全員一致で判断した. | |
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