学位論文要旨



No 128935
著者(漢字) 菅野,正一
著者(英字)
著者(カナ) カンノ,ショウイチ
標題(和) 4次元N=2超対称ゲージ理論におけるW1+∞対称性
標題(洋) W1+∞ symmetry in 4D N=2 supersymmetric gauge theories
報告番号 128935
報告番号 甲28935
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5912号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 特任教授 堀健,太朗
 東京大学 教授 加藤,光裕
 東京大学 教授 駒宮,幸男
 東京大学 専任講師 和田,純夫
 東京大学 准教授 白石,潤一
内容要旨 要旨を表示する

N=2超対称ゲージ理論は1994年のSeibergとWittenによる低エネルギー有効理論の厳密解の決定で大きな注目を集めて以来、多くの研究者によって精力的に研究されてきた。その中に、WittenによるM理論からのN=2超対称ゲージ理論構成や、Nekrasovによるオメガ背景下で経路積分を厳密に求めたNekrasov分配関数の導出があり、これらの研究自身もその後の研究に大きな影響を与えたもので、あった。

近年、この2つの研究をより強く結ひ、つける発見がなされた。まずGaiottoによってWittenによる構成の再解釈がなされ、4次元N=2超対称ゲージ理論を複数枚のM5ブレーンを穴の開いたリーマン面に巻きつけた理論の低エネルギー有効理論として捉える見方が提示された。これによりゲージ理論の様々な性質がこの穴の開いたリーマン面の幾何学で理解することが可能になった。特にS-dualityと言われる強弱双対性がリーマン面のパンツ分解という極めて明快な描像で記述できることが明らかになった。この構成はWilsonloopを含んだ場合や新しいおibergdualityの構成、巻きつける空間を3次元にした場合の3次元超対称ゲージ理論の構成など様々な応用がなされた。この4次元理論とリーマン面との関係は、Alday、Gaiotto、Tachikawaによって更に深められた。彼らは、4次元N=2超共形SU(2)ゲージ理論のNekrasov分配関数とそれを記述する穴の聞いたリーマン面上のLiouville理論という2次元共形場理論の相関関数が一致するとしづ予想(AGT対応)を提唱した。またその後、WyllardによりSU(N)ゲージ理論の場合に拡張された(AGT-W対応)。この場合、対応する2次元共形場理論はA(N-1)型Toda理論となる。この予想は大きな注目を集め、様々な検証がなされloop演算子やsurface演算を含んだ場合やゲージ理論が漸近的自由な場合、行列模型のと関係や5次元ゲージ理論の場合などの拡張がなされた。AGT対応が注目を集めた要因は、超弦理論やM理論の立場でみると、未だに謎の多いM5ブレーンの物理と深い関係があると期待されていたからである。一方、数理物理学的な観点から興味深い点は、一見全く異なる数学的起源を持つ量を結びつけていることにある。Nekrasov分配関数はゲージ理論のインスタントンモジュライ空間の幾何学と密接な関係を持つ一方で、2次元共形場理論の相関関数はVirasoro代数またはWN代数といった無限次元代数の表現論に深く関わるものである。

AGT対応の検証や構造の理解、証明において困難な点は、WN 代数がVirasoro代数を除いて非線形な代数で表現空間の構造の理解や相関関数の計算が非常難しいことにある。また、Nekrasov分配関数はU(N)ゲージ理論に対して与えられているため、相関関数と比較する際にU(1)ゲージ場の寄与を適切に除く必要がある。これをU(1)因子といい、限られた場合を除き一般的なクイパーゲージ理論に対して、U(1)因子を決定する方法も明らかになっていない。

このような問題に対して重要なステップはNekrasov分配関数が各インスタントンごとの寄与の和になっており更にそれぞれがゲージ理論にある多重項ごとの寄与の積で与えられるとしづ非常にfactoraizeした形をしていることを共形場理論の立場から理解することにある。これは、相関関数を三点関数の積に展開する基底としてNekrasov分配関数の形を直接再現するようなものが取れることを示唆している。実際そのような基底の存在がSU(2)ゲージ理論の場合に提示された。そこではVirasoro代数だけでなく余分なU(1)代数を適切に組み合わせることで、表現空間の基底として2つのYoung図の組で指定されるものが取れCU(N)ゲージ理論のインスタントンはN個のYoung図の組で指定される)、SU(2)ではなくU(2)ゲージ理論のNekrasov分配関数が再現できると示された。ただしこの基底は片方が空の場合を除いて間接的に存在が示されているだけである。しかしLiouville理論の背景電荷が消える場合(Virasoro代数の中心電荷が1、ゲージ理論側では自己双対オメガ背景に相当)には、2つの、ンューア多項式の積で書くことが可能である。この結果はゲージ理論側でのU(1)因子に対応する余分なU(l)代数を付け加えることが特殊な基底を構成する上で非常に重要であることを伝えており、更にはVirasoro代数やWN代数とU(1)代数が結びついたより大きな代数がAGT対応の背後にあることを強く示唆している。

本学位論文の主張は、少なくとも自己双対オメガ背景下ではW(1+∞)代数がAGT対応の背後にある本当の対称性である、ということである。W(1+∞)代数は自然にU(1)代数を含んでいる。また我々は、中心電荷が整数Nのquasi-finite表現という特別な表現を取るとWN x U(1)代数と等価であることを強くする示唆する結果を得ることを確認した。またこの表現はN個の自由フェルミオンによって記述されるためN個のYoung図の組で指定される基底を持ち、さらにボソン化するとN個のシューア多項式の積になる。我々は、特にN=2の場合に以前提唱された基底が正しく再現できていることを確認しN=3の場合にもNekrasov公式を再現する基底が得られることを確認した。また一般のNにおいてNekrasov分配関数がW(1+∞)代数から示唆される非自明なVirasoro拘束条件を満たすことを示した。これらの結果はW(1+∞)代数の存在を確証付けるものである。

本学位論文の構成は以下のようになっている。chapter1はintroductionであり研究の背景と動機、結果の全体像が提示されている。chapter2では、4次元N=2超対称ゲージ理論の性質について特にSeiberg-Witte理論、Nekr加ov分配関数の紹介、WittenによるM理論からの構成、それのGaiottoによる再構成によるリーマン面の幾何学によるゲージ理論の理解について紹介する。chapter3では、2次元共形場理論の性質のrevlewとAGT対応およびその一般化の説明を行う。chapter4では、我々が論文[1]で、行ったSU(3)クイパーゲージ理論でのAGT-W対応の検証を説明する。W3代数は非線形であるため、confornlalidentityによって相関関数を解くことが可能かどうかは明らかではなし、。我々は、対応するゲージ理論がLagrngianで記述できる理論の場合には、相関関数が計算可能であることを示し、その計算手順の構築した。またそれを用いて3インスタントンまでで対応が正しいことを確認した。計算は複雑なため本論中では結果の提示のみを行い、具体的な計算結果はappendixにまとめた。chapter5では、論文[2]で、行った、W(1+∞)代数とU(1) X WN代数の関係と、Nekrasov分配関数の形を直接再現する基底がW(1+∞)代数では自然に構築できることを述べる。chapter6では、論文[3]で、行った、Nekrasov分配関数がW(1+∞)代数から示唆されるVirasoro拘束条件を満たすことを説明する。W(1+∞)代数の表現空間への作用について詳しく調べた後、満たされるべき拘束条件の導出を行い、その証明を行なう。ただし詳細な証明は複雑なためappedixにまとめた。chapter7は本学位論文のまとめと今後の展望について述べられている。

1. Shoichi Kanno,Yutaka Matso,Shotaro Shiba"Analysis of correlation functions in Toda theory and AGT-W relation for SU(3) quiver" Phys.Rev.D82:066009,2012. Shoichi Kanno,Yutaka Matso,Shotaro Shiba"W(l十infinity)algebra as a symmetry behind AGT relation" Phys.Rev.D84:026007,20123. Shoichi Kanno,Yutaka Matso,Zhang Hong "Virasoro constraint for Nekrasov instanton partition function" JHEP1210(2012)097
審査要旨 要旨を表示する

本論文は4 次元N = 2 超対称ゲージ理論に関するものであり、特に2 次元共形場の理論との関係に焦点が当てられている。あるクラスの理論にはW(1+∞) なる無限次元リー代数の構造が存在すると提唱し、いくつかの非自明な証拠を与えている。

本論文の構成は以下のようになっている。第2章と第3章は4 次元N = 2 超対称ゲージ理論に関するレヴュー、その後の章でオリジナルな研究について述べられている。第4章では4 次元インスタントン分配函数と2 次元共形場の理論の間のAGT-W 対応を具体例において調べ、計算できる範囲内で成り立っていることを確認した。第5章ではW(1+∞) 代数を導入しその表現や他の代数との関係について明らかにした後、インスタントン分配函数の因子の一部がW(1+∞) 代数を用いて再現できることを見た。第6章では「インスタントン分配函数から定まるあるベクトルがW(1+∞) 代数の作用で不変である」という予想を提唱し、部分代数であるU(1) カレントとヴィラソロ代数のもとでの不変性を証明した。

4 次元N = 2 超対称ゲージ理論と2 次元共形場の理論の関係は近年盛んに研究がなされているが、2 次元側のWM 代数対称性がM > 2 で非線形であるため扱いに困難が生じていた。本論文の提唱する線形なW(1+∞) 代数の構造がこの状況の打開につながるかどうかは今後の研究が明らかにして行く所であるが、少なくとも上記の関係に新たな視点をもたらしていることは確かである。

本論文の主要部分は、松尾泰、柴正太郎、張弘との共同研究に基づいているが、論文提出者が主体となって計算及び解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

以上のような理由により、博士(理学) の学位を授与できると認める。

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