学位論文要旨



No 129093
著者(漢字) 畑中,輝義
著者(英字)
著者(カナ) ハタナカ,テルヨシ
標題(和) 高速低電力ソリッド・ステート・ドライブ向け電源回路の研究
標題(洋) Power supply circuit design for high-speed low-power solid-state drive
報告番号 129093
報告番号 甲29093
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7984号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,信一
 東京大学 教授 櫻井,貴康
 東京大学 教授 平本,俊郎
 東京大学 准教授 高宮,真
 東京大学 准教授 竹中,充
 中央大学 教授 竹内,健
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)の高速化、低電力化を実現する電源回路技術を提案する。さらに、電源回路とSSDの3次元実装に関する課題、および知見を示す。それにより、3次元集積されたSSD (3D-SSD)の電力削減に対する有効性を示す。

今日のインターネット上の情報量の増大は、情報通信機器の消費電力の顕著な増大を招いている。SSDは高速、低電力の不揮発性記憶装置として期待され、パソコンやサーバーに用いられている。従来のNANDフラッシュメモリに加えて、抵抗変化型メモリ(ReRAM)を用いたSSDは、SSDのさらなる高速化、高性能化をもたらす可能性がある。

SSDの電力削減に寄与する研究領域として、NANDフラッシュメモリやReRAMへの書き込み電圧生成回路の低消費電力化が挙げられる。NANDフラッシュメモリの書き込み動作では、20 V (V(PGM))から10 V (V(PASS))などの電源電圧よりも高く昇圧された電圧が必要である。また、ReRAMの書き込み動作においては3 V (V(SET/RESET))の電圧が必要である。さらに、ReRAMではデータ書き換えの際に20 mA程度の電流が必要となる。したがって、SSD向け書き込み電圧生成回路の設計課題は、複数・広範囲にわたる書き込み電圧および電流を、高速かつ低消費電力で生成することである。また、電源回路とSSDの3次元実装を検討する際に、電磁干渉(EMI)や、シリコン貫通電極(TSV)配線の寄生成分が、電源回路や隣接チップに与える影響を評価することが必要である。

本研究ではまず、NANDフラッシュメモリ3D-SSD向けの書き込み電圧生成回路の性能向上を行なった。選択書き込み電圧V(PGM)生成ブーストコンバータ向けに、一定電流昇圧手法を提案した。出力電圧の昇圧に伴うMOSダイオードにおけるスイッチングエネルギーロスを、スイッチングクロックのオン時間(T(ON))を徐々に増加させることにより補償し、出力端子への供給電流を一定にする手法である。本手法により、従来の固定TONを用いた昇圧と比較して、V(PGM)ブーストコンバータの昇圧時の消費エネルギーを、15%削減できることを示した。また、高負荷を充電する非選択書き込み電圧V(PASS)生成ブーストコンバータの昇圧立ち上がり時間を削減するために、2段階昇圧手法を提案した。ブーストコンバータの昇圧性能の入力電圧依存性を有効に利用し、また、各段において適切な耐圧のMOSトランジスタを配置することで、従来型と比較して消費エネルギーの増加なく、昇圧立ち上がり時間を76%削減した。

続いて、ReRAM/NANDフラッシュメモリハイブリッド3D-SSD向けの書き込み電圧生成回路を開発した。ReRAM向けの書き込み電圧V(SET/RESET)を、NANDフラッシュメモリ3D-SSDからインダクタの追加をすることなく、生成することを可能とした。単一インダクタで2つのブーストコンバータを構成し、V(SET/RESET)とV(PGM)を同時に昇圧、同時に出力することが可能である。インダクタンスの設計を適切に行なうことで、ブーストコンバータ間の干渉を抑えた。また、2つのインダクタを用いる従来型と比較して、昇圧立ち上がり時間や消費エネルギーの増加は無視できるほど小さい。本手法は、従来型の単一インダクタ2出力ブーストコンバータとは異なり、追加のスイッチを用いる時分割の昇圧手法ではない。したがって、2つの出力電圧の昇圧時間は遅延なく、両方とも最短にすることができる。

さらに、本研究では提案する電源回路の実用化に向けて、書き込み電圧生成回路とSSDの3次元集積に関する基礎検討、評価を行なった。3次元集積では、各チップ同士または電気的な素子との縦方向の距離が平面での集積よりも接近する。そこで、書き込み電圧生成回路/シリコンチップ/導体といった3次元積層構造を作製し、書き込み電圧生成回路の出力性能の評価を行なった。昇圧動作時にインダクタは上空3 mm程度の領域に磁界を発生させることが分かった。磁界中に導体がると渦電流により逆方向磁界が発生するため、実効的なインダクタンスが低下する。これにより、インダクタ上空0.84 mm以内に導体がある場合には、V(PGM)生成ブーストコンバータ最大出力電圧は11 V程度まで低下することが観察された。書き込み電圧生成回路/シリコンチップ/導体の積層構造の場合は、シリコンチップの厚みが1.02 mm以上あれば、20 Vまで昇圧可能であることを実証した。測定結果に基づき、NANDフラッシュメモリチップを100 μmピッチで12チップ積層すると十分な厚みとなり、提案する電源回路で3次元積層時においても書き込み電圧の生成が可能であることを示した。

結果として、ReRAM/NANDフラッシュメモリハイブリッド3D-SSD向け書き込み電圧生成回路の高速化、低電力化を実現し、3次元積層時における昇圧動作を実証した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「高速低電力ソリッド・ステート・ドライブ向け電源回路の研究」(英訳:Power supply circuit design for high-speed low-power solid-state drive)と題し、現在パーソナルコンピュータやサーバーのストレージデバイスとして使われているソリッド・ステート・ドライブ(SSD)を高速化、低電力化する上での問題点を解決する手法を提案している。特に、3Vから20Vの幅広い書き込み電圧を高速かつ低電力で生成する電源回路技術、及び電源回路の3次元実装に関する知見を提示するもので、全6章で構成される。

第1章は「序論」であり、近年のコンピュータシステムにおけるストレージ構成の変化について述べるとともに、本研究の背景を述べ、目的を明確化する。

第2章は「3D-SSD向け電源回路の研究課題」と題し、SSDを構成するNAND型フラッシュメモリと抵抗変化型メモリの書き込み特性を説明し、電源回路への要求を示す。また、本研究と関連研究の差異を明らかにする。

第3章は「NANDフラッシュ3D-SSD向け書き込み電圧生成回路の設計」と題し、書き込み電圧生成に要する時間を76%削減する回路技術、及び書き込み電圧生成時に消費するエネルギーを15%削減する回路技術について説明し、試作した電源回路の測定結果を併せて示す。書き込み電圧生成に要する時間と消費エネルギーを削減することは、同時に書き込むNAND型フラッシュメモリの数を増加させることを可能とし、結果としてSSDの性能を向上させることができる。

第4章は「ReRAM/NANDハイブリッド3D-SSD向け書き込み電圧生成回路の設計」と題し、1つのインダクタを用いて3Vと20Vの書き込み電圧を同時に昇圧し出力する回路技術を提案する。また、回路を試作及び測定し、動作を確認する。

第5章は「電源回路の3次元実装」と題し、書き込み電圧生成回路の3次元実装について測定結果を基に検討を行ない、書き込み電圧生成回路/シリコンチップ/導体といった試作した3次元積層構造において書き込み電圧20Vの昇圧動作を実証している。

第6章は「結論」であり、本研究の成果を要約し結論を述べるとともに、今後の展望についても触れている。

以上のように本論文は、パーソナルコンピュータやサーバーのストレージデバイスとして使われているソリッド・ステート・ドライブに用いられる電源回路の高速化、低電力化を実現する回路手法を提案し、設計・試作・測定を通じてその有効性を実証しており、電子工学上寄与するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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