学位論文要旨



No 129487
著者(漢字) 加藤,直樹
著者(英字)
著者(カナ) カトウ,ナオキ
標題(和) ベキ零リー環を横断構造に持つリー葉層構造について
標題(洋) Lie foliations transversely modeled on nilpotent Lie algebras
報告番号 129487
報告番号 甲29487
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第402号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 小林,俊行
 東京大学 教授 金井,雅彦
 東京大学 准教授 足助,太郎
 東京大学 准教授 吉野,太郎
内容要旨 要旨を表示する

Mを向き付けられた閉多様体,FをM上の横断的に向き付け可能な余次元q葉層構造,l(M,F)を(M,F)の横断的ベクトル場全体のなすリー環とする.M上の各点で線形独立なFの横断的ベクトル場X1,…,Xqが存在するとき,Fを横断的に平行化可能であるという.更に,{X1,…,Xq}によりR上張られるL(M,F)の線形部分空間〈X1,…Xq〉Rがl(M,F)うの部分リー環でかつgと同型であるとき,Fをリーg-葉層構造という.Molinoの構造定理により,リーg-葉層構造に対して構造リー環と呼ばれるgの部分リー環hが定まる.

本論分ではこの問題の逆,すなわちリー環gとその部分リー環hが与えられたときhを構造リー環とするリーg-葉層構造が存在するかという問題について考察をする.リー環gとその部分リー環hに対して,閉多様体Mとその上のリーg-葉層構造で構造リー環がhであるものが存在するとき,(g,h)を実現可能であるという.

Fがflowすなわち1次元葉層構造の場合には,Carriereの定理により構造リー環hは可換になる.そこでリー環gと整数mに対して,閉多様体Mとその上の1次元リーg-葉層構造で構造リー環がm次元(すなわちRm)であるものが存在するとき,(g,m)を実現可能であると定義する.(g,m)がいつ実現可能かという問題は,gが3次元の場合にはGallegoとHerreraとLlabresとReventosによりその必要十分条件が完全に決定された.

本論文ではこの二つの実現問題,すなわち(g,h)がいつ実現可能かという問題と(g,m)がいつ実現可能かという問題についてgがベキ零リー環の場合に考察をする.

主定理は以下の二つである.

定理gを有理構造を持つベキ零リー環とする.このとき,(g,m)が実現可能であるための必要十分条件はm≦dimc(g)である.ここでc(g)はgの中心.

定理gをベキ零リー環,hをgの部分リー環とする.このとき,(g,h)が実現可能であるための必要十分条件はhがgのイデアルでありg/hが有理構造を持つことである.

第一章は導入である.第二章では本論文に必要な葉層構造に関するいくつかの定義及び性質について述べる.リー葉層構造や実現可能であることの定義はこの章で述べる.また第四章及び第五章で必要となる葉層構造に関するいくつかの結果についても述べる.

第三章では本論文に必要なべキ零リー環及びベキ零リー群に関するいくつかの定義及び性質について述べる.また単連結べキ零リー群及びベキ零リー環に関するMal'cevの結果について紹介をする.

第四章では一つ目の主定理を証明する.またこの章ではChaoにより構成された有理構造を持たないリー環の例について紹介する.その例が,1次元リー葉層構造として実現ができない有理構造を持たないベキ零リー環の例になっていることを示す.

第五章では二つ目の主定理を証明する.また主定理の系として,有理構造を持たないベキ零リー環gであるmに対して(g,m)が実現可能となるものが存在することを示す.

審査要旨 要旨を表示する

葉層構造の構成と分類の問題は、葉層構造の基本的な理論が1960年代に完成された後、現在に至るまで重要な問題である。初期の葉層構造の構成は、群作用を用いるものであって、リー群のそれ自身への部分群の作用によって構成されるものは典型的なものである。このような葉層構造は、横断的構造がリー群とその群自身の作用をモデルとしたものになっている。これをリー葉層と呼ぶ。1980年代のMolinoの横断的にリーマン構造を持つ葉層(リーマン葉層)の研究においては、リーマン葉層の横断的正規直交枠場への持ち上げにおける葉の閉包は、リー葉層であることが示されている。リー葉層は、局所的に定義されている構造であるから、多様体のベクトル場、葉に接するベクトル場、葉に横断的なベクトル場とリー群のリー環によって表現することができるので、構造を与えるリー環gにより、リーg葉層とよぶ。葉層の余次元はdimgである。

閉多様体上のリー葉層に対しては、葉の閉包によるファイバー束構造が得られることが知られている。葉の閉包はモデルとするリー群のリー環gの部分リー環hで記述され、hは構造リー環と呼ばれる。リー葉層の構成と分類の問題は、リー環gと構造リー環hの対に対しての問題として定式化される。dimhが葉の閉包の次元と葉の次元の差となる。リー葉層の次元が1のとき、構造リー環は可換リー環R(dimh)となる。

リー葉層の構成の問題については、余次元1,2の場合は容易にわかる。それ以外では、余次元3で葉層の次元が1の場合にGallego,Herrera,Llabres,Reventosによって解決されているが、一般の余次元に対しては、その次元のリー環の一部に対してしか知られていない。そこで、一般の余次元に対しては、適当なリー環の族に対して考えることになる。

論文提出者加藤直樹は、ベキ零リー環について、この構成の問題を研究している。

論文の主結果は次の2つである。

定理.gを構造定数が有理数であるようなべキ零リー環とする。gのある部分リー環Rmに対し、Rmを構造リー環とする閉多様体の次元1のリーg葉層が存在するための必要十分条件はmがgの中心の次元以下であることである。

定理.gをベキ零リー環、hを部分リー環とするとき、hを構造リー環とする閉多様体のリーg葉層が存在するための必要十分条件は、hがgのイデアルであり、h\gが構造定数が有理数であるようなべキ零リー環の構造をもつことである。

また、論文提出者は、構造定数が有理数にとれないベキ零リー環gで、閉多様体の次元1のリーg葉層が存在しないものもあることを示している。このようなリー環は12次元以上のべキ零リー環として実際に構成される。一方、構造定数が有理数にとれないベキ零リー環gで、閉多様体の次元1のリーg葉層が存在するものの存在も示している。このあたりの微妙なところは、新しい問題を提示している。

これらの結果は、今後の横断構造をもつ葉層構造の研究において重要なものである。よって論文提出者加藤直樹は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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