学位論文要旨



No 129501
著者(漢字) 宮谷,和尭
著者(英字)
著者(カナ) ミヤタニ,カズアキ
標題(和) ある種の超曲面の単項的変形と2種の超幾何函数
標題(洋) MONOMIAL DEFORMATIONS OF CERTAIN HYPERSURFACES AND TWO HYPERGEOMETRIC FUNCTIONS
報告番号 129501
報告番号 甲29501
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第416号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 志甫,淳
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 松本,眞
 東京大学 教授 辻,雄
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,Dwork familyを含むような有限体Fq係数の射影空間におけるCalabi-Yau超曲面の族のクラスを与え,これらの族と2種類の超幾何函数との関連を調べる.

まず,登場する超幾何函数について説明する.1つめは,通常の超幾何級数

である((・)κはPochhammerの記号である).本論文には,パラメーターA1,...,A(n+1),B1,...,Bnが全て正の有理数である場合しか現れない.この級数は,W(Fq)の係数の級数とみなす.

2つめは,Greene[Gr]によって導入された「有限体上の超幾何函数」との関連である.この函数は,F×q上の指標A1,...,A(n+1),B1,...,Bnをパラメーターとして,F×qの元Xを

に対応されることで定義される(この定義は,正確にはMcCarthy[MC]による変種である).ここでGはFqの固定された非自明な加法的指標についてのGauss和であり,この超幾何函数自体はこの加法的指標に依存しない.この「有限体上の超幾何函数」は,通常の超幾何函数に似たいくつかの変換公式を満たすのみならず,G(m,Fq)\{1}上のあるsmooth Ql-層のtrace函数として実現できるという特徴をもっている[K1].

さて,我々は,互いに異なるモニックなn+1個のn+1次単項式M1,...,M(n+1)∈Fq[T1,...,T(n+1)]について

Xλ:c1M1+・・・+c(n+1)M(n+1)-λT1T2...T(n+1)

と表される族を考える.ここで,MiらのうちにT1T2...T(n+1)は現れず,λ=0においてこの超曲面はsmoothであるものとする(Dwork familyは,各i=1...,n+1についてci=1,Mi=T(n+1)iとおいたものであった).Dwork familyの対称性の高さに対して,我々の族は対称的ではないため,Dwork familyを調べるのに用いる手法が通用するとは限らない.それにもかかわらず,本論文では,この族が上に挙げた2種類の超幾何函数と次のように関係していることを証明した.以下では,XλがsmoothであるようなFqの元λを固定する.

1つめの関係は次の通りである.すなわち,H(n-1)(cris)(Xλ/W(Fq))のNewton polygonの最小スロープが0であるか否かを1つめの超幾何級数を用いて判定することができ,さらに0であるときには,Xλのunit rootをこの級数を用いた公式で表すことができる.これは,Dwork familyについては既にYU[Y]により知られている結果であり,この結果はその直接的な一般化である(族の対称性の低さも,ここでは殆ど影響しない).

2つめの関係は次の通りである(本結果においては,λについてさらに少しの条件を課す).すなわち,XλのHasse-Weilゼータ函数を統制する多項式

ζ(Xλ,x)((-1))n(1-x)(1-qx)...(1-q(n-1)x)

は,Fq上の超幾何函数からある方法で作られる多項式で割り切れ,また,この超幾何函数のパラメーターは,前段で対応させた通常の超幾何級数のパラメーターに対応するものである.Dworkfamilyの場合においては,Katz[K2】やGoutet[Go1],[Go2],[Go3]による部分的な結果があるが,本論文における結果はDwork familyに限ってもこれらからは導出されないものである.証明における新しい手法は,Xλの有理点の個数を数える際に,有限体の超幾何函数に関するKatzの前述の結果を援用することであり,これによって本質的でない部分の計算を簡略化し,族の対称性の有無にかかわらず上の結果を得ることに成功している.

[Go1] P. Goutet,"Link between two factorizations of the zeta functions of Dwork hypersurfaces,"preprint.[Go2] P. Goutet,"An explicit factorisation of the zeta functions of Dwork hypersurfaces,"Acta Arithmetica 144(3)(2010), 241-261.[Go3] P. Goutet,"Isotypic decomposition of the cohomology and factorization of the zeta functions of Dwork hypersurfaces,"Finite Fields and Applications 17 (2011), 113-147.[Gr] J. Greene,"Hypergeometric functions over finite fields,"Trans. Amer. Math. Soc. 301(1)(1987), 77-101.[K1] N. M. Katz,"Exponential sums and differential equations,"Ann. of Math. Studies. Princeton University Press, 1990.[K2] N. M. Katz,"Another look at Dwork family,"Progr. Math. 270 (2009), 89-126.[MC] D. McCarthy,"Transformations of well-poised hypergeometric functions over finite fields,"preprint, arXiv:1204.4377v2.[Y] J.-D. Yu,"Variation of the unit root along the Dwork family of Calabi-Yau varieties,"Math. Ann. 343 (2009), 53-78.
審査要旨 要旨を表示する

自然数nに対し,超幾何関数n+1Fn(A1,…,A(n+1)B1,…,Bn;χ)とはパラメーターA1,...,An+1∈C,B1,...,Bn∈C\(-N)を与えることにより定まるχに関するべき級数であり,Gaussによる2F1の研究以来,数学の多くの分野に現れる重要な関数である.またこの関数の有限体Fq上の類似として,有限体上の超幾何関数n+1Fn(A1,…,A(n+1)B1,…Bn,;χ)(が,F×q上の指標A1,...,A(n+1),B1,...,Bnをパラメーターとして与えることにより定まるQに値をとるχ∈F×qの関数としてGreeneにより定義されている.(有限体上の超幾何関数の定義の仕方は何通りかあるが,ここではMcCarthyによる定義を採用する.)

宮谷氏の博士論文は,ある種の超曲面の単項的変形として定義される有限体Fq上の超曲面の族が上記2種の超幾何関数と関係することを明らかにしたものである.n≧2を自然数,c1,...,C(n+1)∈Fqとする.また,1≦i≦(n+1)に対してαi:=(α1i,...,α(n+1),i)をΣ(n+1)(j=1)a(ji)=n+1となる0以上の整数の組で(1,...,1)ではないものとし,またαi達は相異なるとする.このとき,λ∈Fqに対してXλをFq上のn次元射影空間内でn+1次同次式

c1T(a1)+…+cn+1T(an+1)-λT1…T(n+1)∈Fq[T1,…,T(n+1)]

(ここでT(ai):=T(ai1)1…T(an+1,i)(n+1))により定義される超曲面とし,またX0は滑らかであると仮定する.この超曲面の族{Xλ}λが宮谷氏の研究対象である.c1=…=Cn+1=1,ai=(0,...,n+1,...,0)(n+1はi番目にあるとする)のときはこれはDwork族と呼ばれる有名な族であるが,宮谷氏の場合はDwork族とは異なり,対称性を持たない.

宮谷氏の1つめの結果は,qがai達(1≦i≦n+1)だけから定まるある正整数達α1,...,αn+1,αと互いに素なときに,滑らかなXλの(n-1)次元クリスタルコホモロジーのNewton polygonの最初のslopeおよびslope=0の場合のunit rootと通常の超幾何関数との間のある関係を示したことである:C∈W(Fq)×(W(Fq)はFqのWitt環)をC := ααII(n+1)(i=1) (ci)(αi)/(αi)(αi) ∈ Fxq のTeichmuller持ち上げとし,また

をW(Fq)を係数とする形式的べき級数と見て,F(p-1)(χ)をF(χ)の次数p-1以下の部分とする.このとき,宮谷氏は滑らかなXλの(n-1)次元クリスタルコホモロジーのNewton polygonの最初のslopeが0であることとFp-1(λ(-α))∈Fqが0でないことが同値であり,またこのときunit-rootは適当な意味でF(λ-α)/F(λ(-qα))(λはλのTeichmuller持ち上げ)と書けるということを示した.Dwork族に対するこの結果はDwork,Yuにより,またYu-Yuiによる計算例があるが,宮谷氏の結果はより一般的な場合の興味深い計算例である.証明は(n-1)次元Gm係数形式コホモロジーの形式群としての構造をStienstraの方法に従って計算することによりなされる.

宮谷氏の2つめの結果は,q-1がα1,...,α(n+1),αで割り切れるとし,更にq-1にある種の合同条件を課したもとで,滑らかでλα≠C,≠0なるXλのゼータ関数ζ(Xλ,χ)から定まる多項式

と有限体上の超幾何関数との関連を示したものである:ψ(α1),...,ψα(n+1),ψαをそれぞれF×q上の位数α1,...,α(n+1),αの指標とし,∈を自明な指標とする.このとき,宮谷氏はP(χ)が多項式

(ここでRedは重複するパラメーターを取り除くことを表す)で割り切れることを示した.更に多項式P(χ)の1-q((n-1))/2χおよび上記の多項式に似た多項式達による具体的な分解を示している.Dwork族に対する結果がKoblitz, Katz, Goutetにより知られているが宮谷氏はより一般的な場合を含めた結果を出すことに成功している.Katzの手法は有限体上の超幾何関数と関連するG(m,Fq)\{1}上の滑らかなl進層Hを用いる方法であり,Koblitz, Goutetの手法はXλの有理点の個数を直接勘定する方法であるが,宮谷氏の手法はXλの有理点の個数を勘定する際に滑らかなl進層Hの存在をうまく利用して巧みに計算するというものであり,独創性があり巧妙なものである.また,以上の2つの結果に現れている2種の超幾何関数のパラメーターが類似していることは大変興味深い現象である.

以上に説明した宮谷氏の結果は大変興味深いものであり,本博士論文における研究には充分な意義があると思われる.よって,論文提出者宮谷和尭は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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