学位論文要旨



No 214918
著者(漢字) 池田,耕
著者(英字)
著者(カナ) イケダ,コウ
標題(和) ホログラムによる密度噴流の定量可視化技術開発
標題(洋) Development of three-dimensional quantitative visualization technique using hologram, for jet with density variation
報告番号 214918
報告番号 乙14918
学位授与日 2001.01.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14918号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 中澤,正治
 東京大学 助教授 長谷川,秀一
 東京大学 助教授 岡本,孝司
 東京大学 助教授 越塚,誠一
内容要旨 要旨を表示する

 密度分布を持つ流れ場はは密度分布と流れ場の相互作用がおこるため、往々にして複雑な非常に複雑な流動を生じる。このような流動の詳細な情報を得るためには、空間的に精度の高い定量計測手法が必要になってくる。そこで、近年盛んに研究されはじめた手法が可視化画像を用いることによる各種物理量の定量的空間計測である。

 流体の3次元密度情報、流速情報の高精細可視化技術には現在それぞれホログラフィク干渉計を用いたoptical tomography(OT)法、Holograpihc Particle Image Velocimetry(HPIV)手法が盛んに研究されているが、その両者とも非常に複雑な手続きを持ち、容易に適用することが困難である。一方で、3次元の密度流速情報を同時に計測する手法は現在ほとんど存在しておらず、新たに開発される必要がある。

 そこで本論では以下の3点について議論を行なった

 ・簡易な実時間計測が可能なホログラフィック干渉計を用いたOT法の開発を行なう。

 ・HPIV手法の手続きの簡略化を目指す。

 ・HPIV手法とOT手法を組み合わせた新たな3次元流速及び密度の同時計測手法を提案する。

 実時間ホログラフィー干渉計は、撮影時と計測時にホログラムが移動してはいけないため、通常のホログラム感材を使用する場合特殊な現像装置を用意するか、職人的再セッティングの技量が必要となる。しかし、近年熱プラスチックホログラフィーの分野において進展がなされ、光導電プラスチックホログラフィーという技術が開発され、同手法を用いることにより、熱歪みや現像時のホログラフィーの移動が不要になり簡易に実時間ホログラフィー干渉系を実現可能になった。本論ではPPHを用いた実時間ホログラフィー干渉計をhe-air置換現象に適用することにより、その有効性を示した。

 HPIV手法は手続きとしては3種の手続き、粒子像の撮影、粒子像の再生及び3次元位置の取り込み、3次元位置からの流速の計算からなる。再生時の3次元粒子位置の取り込みに付いて考える。通常のHPIVは位相共役再生を用い実像再生を行ない拡大率の大きなレンズを用いることにより粒子位置の正確さを追求している。しかし位相共役再生を用いた場合再生参照光学系を別途用意する必要があるため、例えば再生光学系と記録光学系の間に1mrad角度ずれを起こした場合を考えると、ホログラムと対象の距離が20cmであった場合、200μm程度のずれを生じることになる。このような誤差を減らすために粒子位置のキャリブレーション手続きが非常に繁雑になる。

 ここで、実像ではなく虚像を使用した場合を考えると難点はS/N比と拡大率にある。また、利点としてキャリブレーションの容易さがあげられる。そこで垂直噴流に同手法を適用することにより虚像再生HPIVの有用性を示した。

 図1に虚像再生粒子位置から計算を行った流速分布の一部を示す。計算された流速の平均は平面位置の誤差を加味し、4.4±0.14m/sとなる。さまざまな計測上の要因を考慮すると流量から計算した平均流速3.7m/sに対し、若干大きい4.4m/sは妥当な値である。

 3次元の流速分布及び密度(温度)分布を同時計測する手法であるFiltering Extraction法(FX法)を提案した。HPIV手法、OT手法は共に利用するデータが光のコヒーレンス情報を用いることで共通である。そこで、記録時には分離を行なわず再生時に分離を行なうことが可能であれば同時計測手法が開発できることになる。

 FX法ではフアクシス型HPIV法と、OT法のホログラフィック干渉系を組み合わせた光学系となる。対象領域を通過する物体光と、対象領域外を通過する参照光を角度θで干渉させ、ホログラムを記録する。

 参照光と位相共役な光Pθ*によって、物体光の方向に再生された光のうち、粒子像情報を持った光は収束光束(拡散光)として再生され、屈折率分布情報を持ったを光は平行光束として再生されている。このように平行光と収束光(拡散光)が混在した場において両者を分離する手法として、レンズを使用したスペイシャルフィルタの応用がある。レンズを透過した焦点面で平行光はフーリエ面において一点に収束し、収束光はフーリエ面において平面の分布を持つ。そこで、焦点位置にピンスポットを置くことにより粒子画像の高次成分のみを取り出すことが可能である(図2(a))。また焦点にピンホールを設置することにより粒子画像の成分の大半を削除することが可能であり、平行光成分のみを取り出すことが可能になる(図2(b))本手法を空気中に上向きに内径5mmの円形ノズルから純粋なヘリウムに適用し可能性を探った。

 図3にフィルタリングにより撮影された粒子像の一例を示す。集光点近傍で粒子像がはっきりととらえられていることが分かる。得られた画像データから自己相関によって2次元流速分布を求めた(図4)。得られた流速は平均して7m/s程度であり、流量から計算されるノズルでの初速がおよそ6.6m/sであることを考慮すると比較的良い値であり、FX法による流速分布取得の可能性が示された。

 図5に本実験で得られた干渉縞を示す。ノズル出口において、理論的に求められる光の位相差は、干渉縞約2.2本分となる。得られた画像のノズル出口における干渉縞の本数は2.5本目の暗線と2本目の明線の境界付近であることより,干渉縞の本数は2.2本付近であり、本手法における密度計測の妥当性をしめしている。また、最大エントロピー法を適用することにより図6に示すような、各断面におけるモル分率分布が得られる。

 本論では密度噴流の乱流構造の定量可視化測定法を開発するために以下の3種の計測手法について調査、提案を行った。

 ・Photoconductor plustic Hologram装置を用いた実時間OT手法

 ・虚像再生を用いた簡易HPIV手法

 ・Filtering Extraction法を用いた3次元密度流速分布同時計測

 その結果3種の計測全てにおいてよい結果を得ることが出来た。よって、さらに理想的な計測方法に向かって着実に一歩先に進むことができた。

図1:Calculated 3 dimensional Vector

図2:Spatial filter in the reconstruction

図3:Example of particle image extracted by high-pass filter

図4:Two-dimensional velocity distribution at nozzle center

図5:Interferogram image extracted by low-pass filter

図6:Three-dimensional density distribution around nozzle exit

審査要旨 要旨を表示する

 密度分布を持つ流れ場の測定は、高温ガス炉のスタンドパイプ破損事故時挙動の把握など様々な工業分野で必要とされている。3次元の速度・密度分布を十分な時間・空間分解能で時系列で同時測定できることが理想である。密度測定だけをとれば光学的トモグラフィ手法で3次元分布を得ることが可能になっているが、時系列データの取得には問題があり、速度との同時測定という視点からの研究はこれまでほとんどなされていない。さらに既存の流速測定法は主として点計測であり、粒子画像流速測定法などでようやく2次元分布測定が実用段階に達したところである。本論文は新しく開発された3次元速度・密度分布同時測定法に関するものである。具体的にはホログラフィック粒子画像流速測定法と光学的トモグラフィ密度測定法の組み合わせにより同時測定を実現している。

 第1章は序論であり、まず測定対象として想定する密度流に関する研究についてまとめることで測定法への要件を明確化し、次いでこれまでの測定法の利点欠点を幅広く整理し、最後に本論文の目的を整理している。

 第2章では、3次元密度分布を時系列で測定する方法として実時間オプティカルトモグラフィ手法を提案している。光導電プラスティックを乾板に利用すると現像のための乾板取り外し・再装着が不要である。標準状態で乾板を露光し、その再生光と密度分布のある状態での透過光とを干渉させることにより、時系列測定が可能である。トモグラフィによる3次元分布再構築のためには多方向からの測定データが必要となるが、これは拡散板の使用で解決できる。ヘリウムタンク上部の出口での密度差置換流を実際の測定対象とし、提案した手法を用いてヘリウム噴流の偏りが変動する様子の定量的測定に成功している。

 第3章では、3次元流速分布測定法としてホログラフィック粒子画像流速測定法を提案している。ホログラムでは多方向からの投影でなく1方向からの撮影だけで3次元情報を記録することが可能である。この性質を利用し再生画像を移動カメラで撮影することで、多方向投影画像を用いた3次元速度分布測定に比べ桁違いに高解像度な流速情報を取得することができる。粒子同定の際生じる誤差の少ない3次元測定法が実現できる。具体的構成の検討ではインライン型とオフアクシス型の比較、実像再生と虚像再生の比較などを行ない、オフアクシス型虚像再生法を採用している。他に粒子径に関する考察なども実施している。実験では噴流の速度分布を測定し、実際に3次元速度場の再構築を実施している。

 第4章は速度・密度同時測定のためのフィルタリングエクストラクション法について述べている。速度情報と密度情報を1枚のホログラムに記録できれば光学系が簡素化できる。しかしながら両者を適切に分離できないとS/N比が悪くなる。密度は空間分布が比較的滑らかで空間周波数が低く、速度情報はその逆であることを利用し、フィルタリング処理でS/N比を損わずに両者を分離できることを示した。具体的には、密度情報はほぼ平行光、速度情報は拡散光として再生されることに着目し、平行光をレンズで収束させてそれのみを通過させる、あるいは遮断する方法で両者を分離する。ヘリウムの密度差置換流について実際に速度・密度同時測定を実施し、その有効性を確認している。

 第5章は結言で、本研究の成果をまとめている。

 以上のように、本論文は3次元の速度・密度分布を時系列で同時測定する方法を提案し、その可能性を実際に示したもので、工学の進展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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