学位論文要旨



No 214946
著者(漢字) 佐藤,文彦
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,フミヒコ
標題(和) 自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタの研究
標題(洋)
報告番号 214946
報告番号 乙14946
学位授与日 2001.02.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14946号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 尾鍋,研太郎
 東京大学 教授 前田,康二
 東京大学 教授 白木,靖寛
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 助教授 平本,俊郎
内容要旨 要旨を表示する

インターネット、携帯電話を代表とした情報通信ネットワークは近年急速な発展をとげており、その基盤技術の一つである高速半導体デバイス技術が重要性を増している。バイポーラトランジスタは、電気信号を処理する各種半導体デバイスのなかでも高速動作に適しており、近年のSi/SiGe/Si系ヘテロ接合形成技術の向上によって、従来のSiホモ接合バイポーラトランジスタにかわってSiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタの期待が高まっている。本論文は、「自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタの研究」と題し、エピタキシャル成長によって形成されたシリコン・ゲルマニウム(Si1-xGex)合金膜をベースとするバイポーラトランジスタの自己整合化技術及び、この技術に基づいた高速光通信用集積回路への応用に関する研究成果についてまとめたものであり、全文6章より構成されている。

第1章では従来技術とその課題、本論文の概要を述べている。バイポーラトランジスタの性能指標は、遮断周波数fTや最大発信周波数fmaxである。これらを向上するために、ベース幅WB、ベース抵抗rbb'、ベース-コレクタ間容量CCBの3要素を低減する必要があり、ベース浅接合化技術と微細加工技術による寄生成分の低減が重要である。しかし浅接合化は他の電気特性たとえば接合耐圧とのトレードオフ関係にあり、実用限界に近づきつつあった。近年、半導体エピタキシャル成長技術の進歩によりSi系ヘテロ接合をデバイスに応用することが可能となり、SiGeをベースとするヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor;HBT)の研究が盛んとなった。しかし、研究されていたSiGe-HBT構造は、従来のSiバイポーラトランジスタでは標準である自己整合構造が困難であるという課題があった。

第2章では「エピタキシャル・ベースの自己整合化技術」と題して、ベースの浅接合化技術として有望なエピタキシャル成長技術を用いたトランジスタの自己整合化について述べている[1]。選択的エピタキシャル結晶成長法(Selective Epitaxial Growth;SEG)を用いた独自開発の自己整合化技術、「自己整合型選択成長ベース技術」(Super Self-aligned Selectively grown Base;SSSB)と名付けた技術を提案する。コレクタ用n-型Si基板に対して、側面と上面が絶縁膜(Si3N4)でカバーされ底面が露出しているp+型ベース電極用ポリシリコンのひさし構造(図1(a))に対して、このSEG技術を適用した。p型ベース用SiGeエピタキシャル膜とひさし構造ポリシリコンからの多結晶SiGe膜とを同時に成長させ、これらの結晶成長をお互いになめらかに接続させる(図1(b))ことで、2層ポリシリコン自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタを実現した。図2に示すコールドウォール型超高真空(UHV)/CVD装置にSi2H6+GeH4+Cl2ガス系を使って、この自己整合的SEG技術を実現した。

第3章では「SiGe/Siプロファイル検討による電気特性改善」と題して、SiGeエピ/Si界面制御がバイポーラトランジスタの電気特性に与える影響を論じている。結晶成長時に所望の不純物プロファイルであったSiGe/Siエピタキシャル膜が、後工程(CVD膜形成とエミッタドライブインなど)の熱処理によって、エピタキシャル成長SiGeベース層からホウ素拡散を引き起こす。ホウ素がn-型Siコレクタ領域へまで拡散してしまうとSiGe/Siヘテロ界面がpn接合空乏層と異なる位置に形成される。この結果として寄生エネルギー障壁が形成され、p型SiGeからp型siへと走行する電子の流れが阻害される。たとえば、同一as-grownホウ素ドーププロファイルのSi-BJTのfTが28GHzであるのに対して、寄生エネルギー障壁を持つと考えられるSiGeHBTのfTは12GHzと著しく低かった。この現象を抑制するためのスペーサー用undoped-SiGe層、及びスループロセスの低温化によるホウ素拡散の低減を提案し、その効果を検証している[2]。低温化プロセスを採用し、ホウ素拡散スペーサーであるアンドープSiGe膜厚の最適化(30nm)によって、最大63GHzの遮断周波数fTが得られている(図3)。またコールドウォール型UHV/CVD技術を使った選択的なエピタキシャル成長(SEG)に関して、希釈HF浸積と低温熱アニールとの組み合わせによる新しい前処理法をSiGe/Si成長に用いることでヘテロ界面のホウ素量を低減し、fTのVCBバイアス依存を減少させることが出来た[3]。

第4章では「エピベース・バイポーラのリンクベース抵抗の低減検討」と題して、エピタキシャルベースの抵抗低減に関して述べている。極浅接合ベースとして形成したエピタキシャル膜厚は100nm以下となっているためシート抵抗が数10KΩと高い。そこで真性領域の平面的スケーリングに加えてエピタキシャル成長時のin-situドープとは独立の不純物添加によるシート抵抗低減技術が重要である。シート抵抗低減方法として、ホウ素含有シリコン酸化(Boro-Silicate Glass;BSG)膜からのホウ素の固相拡散法によるベース抵抗低減を提案し、実験でシート抵抗が数100Ωへ低減出来ることを示した(図4)。トランジスタの適用は、自己整合的選択エピタキシャル成長技術による極薄SiGeベース形成後、エミッタ・ベース分離用BSG側壁構造を形成し、2ステップ・アニール技術を使った。熱処理は、第1ステップ・アニール(800℃)がBSG膜からのホウ素拡散、第2ステップ・アニール(950℃/10sec)がエミッタドライブイン工程である。このSiGeバイポーラの特性はfT=51GHz、fmax=50GHzであり、19psecゲート遅延時間tpdが得られた[4]。

第5章では「光通信システム用トランジスタ技術とその回路応用」と題して、新規開発した自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタを用いた光通信システム用ICについて述べている。本研究のトランジスタが基幹系光通信システムにおける電気回路部において20Gb/sと言う高速動作[5]、また2.4Gb/s受信部ICワンチップ化を示した[3]。トランジスタ単体性能は、ベース幅WB、ベース抵抗rbb'、ベース-コレクタ間容量CCBが支配項であるが、回路動作の高速化として第4に重要なファクターであるコレクタ-シリコン基板間容量Ccsの低減及び回路間の干渉現象であるクロストークの低減の観点から、張り合わせシリコン・オン・インシュレーター(SOI)基板にBPSG埋設トレンチを使って素子分離するトランジスタ構造を採用した(図5)。トランジスタの最小ルールを0.4μmと微細化することで60GHz-fT,51GHz-fmaxの自己整合型選択成長SiGeベースバイポーラ技術を開発した(図6)。このSiGe技術を用いて光通信トランスミッター用SiGeバイポーラIC(セレクター、マルチプライヤ、およびD-F/F)を作製し、20Gb/s動作が確認された。

第6章では「総括」と題して、本論文のまとめと今後の展望について述べている。

参考文献

[1]F.Sato et al.,IEEE Trans.Electron Devices,vol.41,p.1373(1994).

[2]F.Sato et al.,solid-state Electronics,vol.43,p.1389(1999).

[3]F.Sato et al.,IEEE J.Solid-State Circuits,vol.31,p.1451(1996).

[4]F.Sato et al,IEEE Trans.Electron Devices,vol.42,p.483(1995).

[5]F.Sato et al.,IEEE Trans.Electron Devices,vol.46,p.1332(1999).

図1.自己整合的選択成長の断面模式図

図2.コールドウォール型UHV/CVD装置

図3.プロファイルと電気特性との関係

図4.BSG膜ホウ素濃度とシート抵抗との関係

図5.トランジスタの断面模式図

図6.fT、fmax特性

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタの研究」と題し、エピタキシャル成長によって形成されたシリコン・ゲルマニウム(Si1-xGex)合金膜をベースとするバイポーラトランジスタの自己整合化技術を考案、実現するとともに、バンドプロファイルの影響、リンク・ベース抵抗の低減の効果等を明らかにし、さらにこれらの技術の高速光通信用集積回路への応用可能性の検討について述べたものであり、全6章から構成されている。

 第1章は序論であり、本研究の背景となる従来技術とその課題、本研究の目的と論文の構成を述べている。バイポーラトランジスタの性能指標である遮断周波数および最大発振周波数を向上させるために、ベース幅、ベース抵抗、ベース・コレク間容量の3要素を低減する必要があり、ベース浅接合化技術と微細加工技術による寄生成分の低減が重要であること、半導体エピタキシャル成長技術の進歩により可能となったSiGeをベースとするヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)は、上記性能向上に有利であるが、従来のSiバイポーラトランジスタでは標準である自己整合構造を実現することが困難だったことなどの背景を述べた上で、これらの問題を解決してバイポーラトランジスタの動作の高速化を実現することが本研究の目的であることを述べている。

 第2章では「エピタキシャルベースの自己整合化技術」と題して、ベースの浅接合化技術として有望なエピタキシャル成長技術を用いたトランジスタの自己整合化について述べている。選択的エピタキシャル結晶成長法(SEG)を用いた独自開発の自己整合化技術、「自己整合型選択成長ベース技術」(SSSB)と名付けた手法を考案し、超高真空化学気相成膜(CVD)装置を用いて、2層ポリシリコン自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタを実現した。

 第3章では「SiGe/Siプロファイル検討による電気特性改善」と題して、SiGeエピタキシャル膜/Si基板界面性状がバイポーラトランジスタの電気特性に与える影響を論じている。結晶成長後の工程における熱処理によってベース層からコレクタ領域へホウ素拡散が生じると、寄生エネルギー障壁が形成されるために、p型SiGeからp型Siへと走行する電子の流れが阻害され、遮断周波数が著しく低下する。この現象を抑制するために、拡散スペーサー用SiGe層の採用、およびプロセスの低温化によるホウ素拡散の低減を提案し、最大63GHzの遮断周波数を得ることに成功することによりその有効性を実証した。また選択的エピタキシャル成長(SEG)において前処理法の改善によりヘテロ界面のホウ素量を低減することにも成功している。

 第4章では「エピタキシャルベース・バイポーラのリンクベース抵抗の低減検討」と題して、エピタキシャル成長によって形成されたベースの抵抗低減に関して述べている。極浅接合ベースとして形成したSiGe膜は膜厚が100nm以下と薄いためにシート抵抗が数10KΩと高い。この問題を解決するために、ホウ素含有シリコン酸化(BSG)膜からのホウ素の固相拡散法によるベース抵抗低減を提案し、シート抵抗を数100Ωへ低減することに成功した。また、極薄SiGeベース形成後、エミッタ・ベース分離用BSG側壁構造を形成し、2ステップアニールを行うことにより、トランジスタ動作特性として、遮断周波数51GHz、最大発振周波数50GHz、ゲート遅延時間19psecがという優れた性能を得た。

 第5章では「光通信システム用トランジスタ技術とその回路応用」と題して、新規開発した自己整合型SiGe合金ベースヘテロ接合バイポーラトランジスタを用いた光通信システム用集積回路について述べている。トランジスタ構造として、回路動作の高速化のためのコレクタ・シリコン基板間容量の低減、および回路間の干渉現象低減の観点から、張り合わせシリコン・オン・インシュレーター(SOI)基板にBPSG埋設トレンチを使って素子分離する構造を採用した。トランジスタの最小加工寸法を0.4μmと微細化している。本研究のトランジスタを用いることにより、基幹系光通信システムにおける電気回路部において、20Gb/sの高速動作が可能なこと、2.4Gb/s受信部集積回路のワンチップ化が可能なことを実証した。

 第6章は本論文の総括であり、本研究で明らかにされた、エピタキシャル成長SiGe合金膜をベースとするバイポーラトランジスタの高速動作化に関する知見および実証された成果に関する要約が述べられているとともに、更なる高性能化へ向けての課題とその解決への展望が述べられている。

 以上をまとめると、本論文ではエピタキシャル成長によって形成するSiGe合金膜をベースとするバイポーラトランジスタの高速動作化の要因と有効な方法が詳細にわたり明らかにされている。それにより本トランジスタを光通信用集積回路として実用に供する上での物理的・技術的課題を解決している点で、物理工学への寄与は非常に大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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