学位論文要旨



No 215205
著者(漢字) 前田,茂伸
著者(英字)
著者(カナ) マエダ,シゲノブ
標題(和) 絶縁膜上のシリコンMOSFETの信頼性とLSI応用に関する研究 : 多結晶シリコンTFTとSOIデバイス
標題(洋)
報告番号 215205
報告番号 乙15205
学位授与日 2001.12.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15205号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 平本,俊郎
 東京大学 助教授 藤島,実
内容要旨 要旨を表示する

 SRAM (Static Random Access Memory)は、高速にデータを読み書きすることができ、待機時には電池1本で何年もデータを保持できるほど低消費電力である。そのため、爆発的に普及が進んでいる携帯電話にとって必要不可欠な部品の1つとなっている。実は、このSRAMを製造するためには、絶縁膜上のシリコンMOSFET (Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の技術が欠かせない。SRAMメモリセルは通常6つのトランジスタを必要とするが、TFT (Thin Film Transistor)負荷型SRAMは、SRAMのメモリセルの中に、負荷トランジスタとして、多結晶シリコンをチャネルとする絶縁膜上のMOSFET、すなわちTFTを3次元的に積層して、低消費電力化と大容量化を達成している。

 また、絶縁膜上のMOSFETをロジックLSIに利用した場合には、回路動作の高速化・低消費電力化が可能になる。SOI (Silicon On Insulator)基板を利用すると、SOI MOSFETと呼ばれる絶縁膜上のMOSFETを実現できる。このデバイスは、寄生容量が小さいなどの理由により、高速で動作し消費電力が小さい。そのため、携帯電話やノートパソコンなどの連続使用時間を延ばすことができる技術として注目されている。

 本研究の大きな目的は、これらのTFTやSOI MOSFETのような絶縁膜上のMOSFETを製造し、信頼性を確立して実用化することにある。各章は以下のように構成されている。

 第1章では、低消費電力デバイスの求められる背景を、これまでの半導体発展の歴史に基づいて議論する。また、この章では、多結晶シリコンTFT負荷型SRAMとSOIデバイスのデバイス物理の基礎を解説し、以下の章へ展開する。

 第2章のテーマは、TFT負荷型SRAMセルの負荷トランジスタに用いられる多結晶シリコンTFTの信頼性である。SRAM用多結晶シリコンTFTの長期信頼性の確立を阻害する最も大きな要因はBT (Bias Temperature)ストレスである。また、メガビット級のSRAMを製造するには、個々のTFTのバラツキを抑制することは非常に重要である。この章では、多結晶シリコンTFTのBTストレスによる特性劣化を取り扱い、その劣化メカニズムについて述べる。更に、多結晶シリコンTFTの初期特性とBTストレス劣化のバラツキに関する新しい解析手法を示す。これらにより、多結晶シリコンTFTの−BTストレス劣化とそのバラツキを抑えるためのデバイス製造指針が得られる。この章で得られた知見により、安定なTFT負荷型SRAMを製造することが可能になった。

 第3章のテーマは、SOI MOSFETの過渡的なフローティングボディー効果である。この過渡的なフローティングボディー効果こそが、SOI MOSFETの実用化を阻んできた最も大きな問題である。これを解決する1つの方法として、ボディーの電位を固定する方法がある。この章では、ボディー固定した場合のボディー電位の過渡的な動きと基板バイアス効果に関する考察を行い、SOIデバイスの構造設計指針を提示する。

 第4章のテーマは、SOI MOSFETの定常的なフローティングボディー効果である。インパクトイオン化起因の定常的なフローティングボディー効果によるホットキャリア寿命の低下はSOIデバイスを実用化する上でのもう1つの問題点である。特に、フローティング状態でSOI MOSFETを使用し、過渡的なフローティングボディー効果を回路シミュレーションで予測して回路設計・製造しようとする場合には、この問題が重要になる。この章では、インパクトイオン化起因のフローティングボディー効果を考慮したSOI MOSFETのホットキャリア寿命の予測方法を示す。第3章と第4章から得られた知見により、高速・低消費電力のメリットを生かして、SOIデバイスを実用化することが可能になった。

 第5章では、TFT技術とSOI技術の別の応用について述べる。TFT技術の応用では、TFTの構造自由度を生かして、縦型Φシェイプトランジスタ(Vertical Φ-Shape Transistor=VΦT)という構造を作製し、1G(ギガ)ビット以降のDRAM (Dynamic Random Access Memory)セルを提案する。このセルによりスケーリングによる微細化だけでは達成できないブレークスルーの可能性を示す。SOIデバイスに関しては、SOIの、高周波(RF=Radio Frequency)/アナログ応用に対するメリットを明らかにする。

 第6章は、結論である。まとめと今後の課題・展望を示す。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「絶縁膜上のシリコンMOSFETの信頼性とLSI応用に関する研究〜多結晶シリコンTFTとSOIデバイス〜」と題し、絶縁膜上のシリコン多結晶もしくは単結晶薄膜に形成されるMOSデバイスについて、大規模集積回路に採用した場合の信頼性向上を主眼としてデバイス物理的研究を行った結果を述べたもので、七章で構成されている。

 序章「イントロダクション」が本論文の序論を成す。絶縁膜上の多結晶シリコンによる薄膜トランジスタ(TFT)および絶縁膜上の単結晶シリコン層(SOI)を用いたSOI MOSFETを主題として、高速・低消費電力の大規模集積回路(LSI)への適用を論じるという主旨を述べ、本論文の構成を説明している。

 第1章は「なぜ低消費電力デバイスか?」と題して、LSIにおいて低消費電力デバイスが要求される背景を開発の歴史に基づいて論じている。またTFT負荷型スタティックRAM (SRAM)とSOI MOSFETのデバイス物理的な基礎を説明して後続の章への準備としている。

 第2章は「多結晶シリコンTFTにおけるBTストレス信頼性」と題し、SRAMの負荷として使う場合の多結晶シリコンTFTについて、バイアス・温度(BT)ストレスによる特性劣化の機構が、ゲートと絶縁膜の界面および多結晶シリコンゲートの結晶粒界に存在する水素化されたダングリングボンドの反応で説明できることを示し、劣化の抑制には多結晶シリコンの粒界拡大が有効であると指摘している。

 第3章は「ボディー固定型SOIデバイスのデバイス物理」と題して、SOI MOSFETの過渡的なボディー浮遊効果を論じている。ボディーの定常電位を固定した場合の過渡的な電位変化と基板バイアス効果に関する検討を行い、前者については静電誘導結合の影響が最も大きいがフィールドシールド分離技術によって抑制できること、後者はボディー電位固定SOI MOSFETの場合小さく、SOIデバイスの利点が発揮されていることを示し、デバイス構造設計上の具体的指針を提示している。

 第4章は「フローティングSOI MOSFETのホットキャリア寿命予測方法」と題し、SOIMOSFETにおける衝突電離に起因する定常的なボディ浮遊効果を論じて、正孔電流を測定することによってホットキャリヤ寿命の低下を予測し回路シミュレーションに取り入れる方法を提示している。

 第5章は「絶縁膜上のMOSFETの他の応用」と題してTFTとSOI MOSFETのLSIにおけるその他の応用を論じている。TFTについては、その構造自由度を生かした1ギガビット以降のダイナミック・ランダムアクセス・メモリ(DRAM)セルヘの適用を提案してスケーリングに沿った微細化では達成できないブレークスルーが可能であることを示し、またSOI MOSFETについては、高周波/アナログ応用において静電誘導損失の減少によって能動素子、受動素子とも性能が向上すること、絶縁性基板による回路分離でディジタル・アナログ混載のシステムLSI実現が容易である等の利点があることを明らかにしている。第6章は結論であって、以上の各章の結果を要約するとともに今後検討を要する問題が考察され、また将来に向けての展望が示されている。

 以上、本論文は絶縁膜上のシリコン多結晶もしくは単結晶薄膜で構成されるMOSトランジスタについて、大規模集積回路に採用して高速・低消費電力の優れた性能と高い信頼性を発揮させるために、主としてデバイス物理の観点からデバイス動作の不安定性の原因を実験と解析によって解明し、問題点を工学的に解決するとともにデバイス設計のための指針を提示したものであって、電子工学の発展に寄与する所が少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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