学位論文要旨



No 215408
著者(漢字) 大江,隆史
著者(英字)
著者(カナ) オオエ,タカシ
標題(和) 可搬型ステレオ透視装置の開発とその臨床応用
標題(洋)
報告番号 215408
報告番号 乙15408
学位授与日 2002.09.04
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15408号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 教授 上野,照剛
 東京大学 助教授 山岨,達也
 東京大学 講師 五嶋,孝博
内容要旨 要旨を表示する

 現在整形外科手術においてX線透視装置は必須のものとなっている。特に骨折治療における透視装置の必要性は骨折の固定法の変化とともに著しく増大した。骨折部を観血的に展開して整復し、プレートやネジなどの内固定材を用いて固定する方法-open reduction internal fixation法に代わり、骨折部を展開せず透視下に整復して骨折部から離れた部位から髄内釘などの内固定材を刺入して固定する方法-closed reduction internal fixation法や骨折の固定に創外固定器を用いる方法-external fixation法が多用されつつある。

 closed reduction internal fixation法やexternal fixation法の頻度が増加した理由としてはそれらの方法を可能にし、その適応を増大させた横止め式髄内釘や創外固定器の開発など、骨折固定のための器具が大きく進歩が大きい。これらの器具を用いた骨折の手術には透視装置が必須となっている。

 また近年の社会の急速な高齢化に伴う骨粗鬆患者の急増により、骨折治療における透視装置の使用頻度が増大した。骨粗鬆症患者が転倒して生じる大腿骨近位部骨折では患者の早期離床、機能回復を目的として多くの場合手術療法が採用される。この骨折のうち、大腿骨転子部骨折の最も標準的な手術にも透視装置が必須である。

 closed reduction internal fixation法やexternal fixation法において透視装置を使用するのは骨折を整復する際の骨片と骨片の位置関係を知ろうとする時、骨の中にガイドワイヤー、ピン、髄内釘などの金属を刺入する際に骨と金属の位置関係を知ろうとする時、骨の中にある髄内釘の横穴に向かって骨の外から骨を穿孔する際、金属どうしの位置関係を知ろうとする時などである。これらの場面において2つの物の空間的位置関係を把握する作業の多くを術者は透視装置に依存している。既存の透視装置でこの作業を行うには透視装置を移動させて透視方向の異なる複数の2次元画像を見て、それを頭の中で3次元画像に組み立てることが必要である。

 手術では外科用透視装置のCアームを動かして正面像、側面像などを見て3次元構造を推測しているが、この方法は操作が面倒で、人手を要し、しかもリアルタイムで3次元情報を得る事ができない。そこで筆者はリアルタイムで3次元情報を提供してくれる装置の開発を計画した。その装置は複数の手術室で共用でき、患者のどの部位にも使用できるために可搬型で、リアルタイムに3次元画像を見ることができ、術者が装置を見つつ手術を行え、整形外科手術のどれにも使用できる汎用性が必要であると考えた。

 手術で3次元画像を提供してくれる装置にはCT、オープンMRI、各種のナビゲーションシステムなどが有るが、整形外科手術全体に汎用性のあるものは存在しなかった。筆者は目的の装置としては可搬型ステレオ透視装置が適していると考え、この計画を東芝医用機器・システム研究所に提案し、共同研究としてこの計画を実行した。

 可搬型透視装置でリアルタイムのステレオ視が可能となるためには、視差のあるX線透過像がリアルタイムで左右の目にそれぞれ見えるシステムを軽量の可搬型で実現しなければならない。そのために、(1)X線透過像によって整形外科領域において有効なステレオ視ができるか、(2)立体視に必要な視差を作る方法-即ち、視差のある2方向のX線を照射できるX線管はどのようなものがよいか、(3)手術中の術者に3次元画像を提供するディスプレイはどの方法がよいか、(4)整形外科の実用に耐えるシステムに必要な要素はなにか、の4点について検討し、各種の基礎実験を行った。

 その結果から市販の外科用透視装置を改造して、以下の様な試作機を作成した。試作機では右目用、左目用の二つのX線管を並べて設置し、一つのimage intensifierに対して交互にX線を照射し、視差のある画像を得る。右目用、左目用の画像を一つのモニタに交互に表示する。モニタ前面に液晶シャッタを配置し、右目用、左目用の画像に同期させて偏光の向きを切り替える。観察者が右目と左目で偏光の向きの異なった偏光メガネを装着することによって観察者の右目には右目用の画像が、左目には左目用の画像が投影され、立体視ができる(図-1,2)。

 臨床応用に先立ち、この試作機を用いて整形外科手術のシミュレーションを行い、ステレオ透視による立体視の有効性を検討した。行った手技は経皮的椎体穿刺、髄内釘の遠位横止め、脛骨骨幹部骨折の整復、関節関節内骨折の整復である。その結果試作機はステレオ透視機能を備えているにもかかわらず、既存の外科用透視装置と同等の機能性と安全性を有していることが分かった。また同一時間の通常連続透視に比べて被爆線量は理論上1/2であった。

 この試作機を44例の整形外科手術のX線透視に使用した(表-1)。

 骨折の整復では術者はCアームを動かすことなく、骨と骨の空間的位置関係を知ることができた。また骨片を移動させている方向をリアルタイムで知ることができた。髄内釘のためのガイドワイヤー刺入では、術者は彎曲させたガイドワイヤー先端の向きを3次元的に知ることができ、Cアームを動かすことなくガイドワイヤーの進めるべき方向を知ることができた。髄内釘の横止めでは、術者は骨の髄内に挿入された髄内釘の横穴とドリル先の空間的位置関係をCアームを動かすことなく知ることができ、横止め式髄内釘の遠位部の横止めをフリーハンドで行うことができた。異物の摘出では術者はワイヤーや伏針などの空間的位置を知ることができ、これらを容易に摘出できた。術者は前述の偏光メガネを装着して手術を行ったが、視野の明るさは手術を行うのに支障のない程度に保たれていた(図-3,4)。

 X線透視装置を用いて行う整形外科手術において、リアルタイムで3次元情報を提供してくれる装置を開発しようという計画は、市販のものの改造型ではあるが可搬型ステレオ透視装置の試作機という形で実現した。この試作機により整形外科手術において術者は骨片と骨片、ドリルと髄内釘の横穴、異物と摂子などの空間的位置関係をリアルタイムで知ることができた。また術者は骨片をどの方向へ動かしているのか、ドリルをどの方向へ進めているのかについての3次元情報をリアルタイムで得ることができた。

 全ての外科手術が低侵襲を目指している中で整形外科が新たな術式を開発するには、術者に3次元情報をリアルタイムで提供してくれる装置が必須となることは明らかである。整形外科手術で扱うもの多くが骨であり、手術材料の多くが金属であることを考えると、今後しばらくの間情報はX線画像により提供されるであろう。筆者らの開発したステレオ透視装置は前述の目的にかなっており、今後の改善によりさらに高性能とすることが期待できる。

図-1:試作した可搬型ステレオ透視装置

図-2:試作機のシステム図

表-1;可搬型ステレオ透視装置を用いて行った整形外科手術とその件数

図-3:試作機を用いた手術風景

図-4:偏光メガネをかけての作業

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は現在の整形外科手術において必須となっているX線透視装置を改良し、リアルタイムで3次元情報を得る装置を開発することを目的としたものであり、以下の結果を得た。

 1)既存の血管造影用ステレオ撮影装置を用いた実験から、X線透過像によって整形外科領域においても有効なステレオ視ができることが示された。立体視に必要な視差を作る方法としては、外科用装置のX線管を2本並べて各々からX線を交互に照射する方法でステレオ視が可能であった。術者に3次元画像を提供するディスプレイは、液晶シャッタつきステレオモニタとパッシブ型偏光メガネが適当であった。また整形外科の実用に耐えるには、既存のポータブルC-アームと同等の機能性に加えて、拡大率の変化やモニタと術者の距離の変化に対応するために左右画像をシフトさせる機能を追加する必要があった。

 2)市販のポータブルC-アームを改造した試作機が作成された。試作機では右目用、左目用の二つのX線管を並べて設置し、一つのImage Intensifierに対して交互にX線を照射し、視差のある画像を得た。右目用、左目用の画像を一つのモニタに交互に表示し、液晶シャッタと偏光メガネで観察者の右目には右目用の画像が、左目には左目用の画像が投影され、立体視ができた。

 3)試作機を用いて経皮的椎体穿刺、髄内釘の遠位横止、脛骨骨幹部骨折の整復、関節関節内骨折の整復、の4種類の整形外科手術のシミュレーションを行った。これにより試作機はステレオ透視機能を備えているにもかかわらず、既存のポータブルC-アームと同等の機能性と安全性を有していることを示した。

 4)試作機を44例の整形外科手術のX線透視に使用した。術者は骨片と骨片、ドリルと髄内釘の横穴、異物と摂子などの空間的位置関係をリアルタイムで知ることができた。また術者は骨片をどの方向へ動かしているのか、ドリルをどの方向へ進めているのかについての3次元情報をリアルタイムで得ることができた。試作機は可搬型で既存のポータブルC-アームと比べても著しく重くはなかったので、その機能性も遜色無かった。前掲の手術のうち大腿骨骨折に対する髄内釘固定術における試作機と通常の外科用透視装置との比較を行い、試作機の有用性を示した。

 以上、本論文は整形外科手術に利用可能なステレオ透視装置の開発を、基礎的実験から、試作機の作成、そしてその臨床応用まで示した。全ての外科手術が低侵襲を目指している中で整形外科がそのための新たな術式を開発するには、術者に3次元情報をリアルタイムで提供してくれる装置が必須となることは明らかである。本研究はそのために重要な貢献をすると考えられ、学位の授与に値するものである。

UTokyo Repositoryリンク