学位論文要旨



No 215768
著者(漢字) 上村,康幸
著者(英字)
著者(カナ) カミムラ,ヤスユキ
標題(和) 延性モード切削加工システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 215768
報告番号 乙15768
学位授与日 2003.09.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15768号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 光石,衛
 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 講師 割澤,伸一
内容要旨 要旨を表示する

光学部品や半導体部品の高精度化・高能率化に加え、これら部品の加工法の環境問題も重要視されている.加工機械上で加工と計測を繰返し行えるシステムを構築すれば、加工行程の自動化が容易となり、部品の高精度化や加工における環境を改善できる.加工機械上でのシステムの構築には、延性モード加工技術やオンマシン測定用センサの開発は不可欠である.延性モード加工システムを構築するには、まずは工作機械の運動誤差によらず加工を実現することが必要である.

そこで、「浮上工具方式の切削加工法」を提案した.しかし、この方法では切削速度によって切込み量が変化するという問題があった.これを解決するために「負圧浮上工具方式の加工法」を提案した.この加工システムでは、微少量の切込みでクラックが発生するため、切込みの零点位置としての初期接触を高精度に検出することが必要であり、これについて検討した.延性モード切削の将来の用途は、大口径光学部品とシリコンウェーハの加工が主である.そこで、加工精度を機上で評価する方法について検討を行った.大口径光学部品に対しては形状精度を評価する方法について提案し、シリコンウェーハに対しては厚みむらを評価する方法について検討した.

本論文は、[延性モード切削加工システムに関する研究]と題して全8章より構成され、まとめたものである.

第1章「緒論」においては、硬脆材料の延性モード切削の必要性および工学的有為性について述べた.そして、延性モード切削する際の切れ刃と工作物の原点を検知する必要性を述べた.さらには、延性モード切削を実現するための新しい加工法の開発について提案した.一方、光学部品の形状やウェーハの平坦度を測定する際のオンマシン化の必要性について示した.以下に、本論文で行った研究の概略を述べた.

第2章「延性モード切削加工システムに関する従来技術」においては、硬脆材料の延性モード切削加工に対する従来の加工技術の問題点を明らかにし、そして延性モード切削を可能にする方法の詳細について検討し、新たな加工方法の提案を行った.一方、加工面の幾何学的評価方法に関する従来技術として、光学式測定法や静電容量式測定法を詳述した.そして、これらの測定技術をオンマシン測定に適用する際に問題となる課題を明らかにした.

第3章「浮上工具方式の切削加工法の提案」においては、磁気ディスクドライブ装置のように動圧によりスライダを工作物面上に浮上させながら、前加工面を基準とした切削加工法を提案した.この加工法は、使用する加工機械の運動精度によらない切削を実現でき、硬脆材料の延性モード切削に適用できる可能性があることを見出した.

第4章「延性モード切削における高精度初期接触検知技術の提案」においては、切れ刃と工作物の初期接触時の原点を高精度に検知する技術について提案した.そして、切れ刃と工作物の初期接触検知にAEセンサが適用できることを示した.

第5章「負圧浮上工具加工法の開発」においては、第3章において提案した浮上工具方式の利点を生かし、不安定な浮上高さや切屑排出の問題を克服できる負圧浮上工具方式の加工方法を提案した(図1).この加工法により、光学ガラスの延性モード切削が可能となった(図2).また、粗面ウェーハの1パス切削を試みた際、クラックフリー状態の鏡面切削に成功した(図3).この加工法の特長を以下に記す.(1)工具の浮上高さを一定に保持できること.(2)加工機械の運動精度に影響されない加工法であること.(3)切り屑の自動排除が可能であること.

第6章「4分割フォトセンサを用いたオンマシン形状精度測定法」においては、加工機械上で必要とする形状データを測定する場合、走査軸の運動誤差データを考慮する必要がある.QPDを2個使用すれば、一測定点の情報から変位と傾きを同時に測定できることから、求めたい形状データと走査軸の運動誤差データを同時に算出できる(図4).

第7章「二焦点レンズを用いたシリコンウェーハの厚み測定」においては、シリコンを透過する赤外光と二焦点を持つ対物レンズを適用した厚み測定装置を提案した(図5).シリコンウェーハの厚みを測定するためには、ウェーハの屈折率が必要である.二焦点レンズを使用すればウェーハの屈折率を算出できる.また、二焦点レンズのf2-f1を最適化すれば、移動距離が少なくなり、高精度化なセンサが適用可能となる.

第8章「結論」は以上の章を要約したものである.

負圧浮上工具加工装置

ソーダガラスの切削面

粗面ウェーハの1パス切削面

反射型変位・角度同時測定原理

二焦点レンズを使用した厚み測定装置

審査要旨 要旨を表示する

多くの光学部品や半導体部品の最終仕上げ加工が遊離砥粒研磨法で行われているが,この加工法では工具として弾性体を使用するため,だれや微小うねりなどの形状精度の劣化が問題となっている。そこで,この加工法を制御性の高い切削加工により置き換えたいと言う要求がある。これら部品の中にはガラスや結晶材料,セラミックスなどの硬脆材料も多く,これらを切削加工で精度よく仕上げるためには,延性破壊状態で加工を行う延性モード切削を適用することが必要となる。しかし,そのためには非常に微小なサブミクロンオーダの限界切込み深さ以下の実切込みを維持しなければならない。現在最も精度の高い超精密工作機械であっても,その運動誤差は限界切込み深さと同レベルであり,実現が困難とされていた。

そこで,本論文では工作機械の精度によらず延性モード切削を実現する方法について検討している。また、その際重要となる切込み原点を高精度に検出する方法についても検討している。現在延性モード切削の主たる用途としては、大口径光学レンズや大口径シリコンウェーハなどが考えられている。本論文で提案している方法は前加工面に倣いながら加工する方法であり、形状精度の修正機能を付加するには加工後の形状精度を計測し、切込み量を制御することが必要となる。そこで、大口径光学レンズに関しては形状精度を、大口径シリコンウェーハに関しては厚みむらを工作機械上で計測する方法について検討している。以上のように本論文では延性モード切削を行うために必要となる加工システム全体について検討を行っている。

本論文は,[延性モード切削加工システムに関する研究]と題して、全8章より構成されている。

第1章「緒論」においては,硬脆材料の延性モード切削の必要性および工学的有意性について述べている。また,延性モード切削を行う際の切れ刃と工作物の接触位置を検知する必要性を述べている。さらに,加工された工作物の幾何学的精度を機上で測定することの必要性について述べている。

第2章「延性モ−ド切削加工システムに関する従来技術」においては,硬脆材料の延性モード切削加工に対する従来の加工技術の問題点を明らかにし,延性モード切削を可能にする方法について検討し,新たな加工方法の提案を行っている。また,加工面の幾何学的形状を評価する従来技術として用いられている光学式測定法や静電容量式測定法について詳述し、これらの測定技術をオンマシン測定に適用する際に問題となる課題を明らかにしている。

第3章「浮上工具方式の切削加工法の提案」においては,磁気ディスクドライブ装置のスライダのように動圧により工具を工作物面上に浮上させながら,前加工面を基準として切削する方法を提案している。この加工方法を用いることにより使用する工作機械の運動精度によらない切削が実現できることを示し,硬脆材料の延性モード切削に適用できる可能性があることを示唆している。

第4章「延性モ−ド切削における高精度初期接触検知技術の提案」においては,切込みの原点となる切れ刃と工作物の初期接触を高精度に検知する技術について検討している。最も敏感とされている電気導通による方法に比較して,硬脆材料の場合にはAEセンサにより同程度の高精度な検出が可能になることを示している。

第5章「負圧浮上工具加工法の開発」においては,第3章において提案した浮上工具方式の利点を生かし,浮上高さの速度依存性や切屑排出の問題を克服できる負圧浮上工具方式の加工方法を提案している。この加工法により,光学ガラスやシリコンウェーハの延性モード切削が可能となることを確認している。従来はクラックの伝播により難しいとされていた粗面の延性モード切削を世界で初めて実現している。

第6章「4分割フォトセンサを用いたオンマシン形状精度測定法」においては,オンマシンで形状精度を測定する4分割フォトセンサを用いた新しい方法を提案している。機上で加工機械の走査軸を利用して形状精度の測定を行うには,走査軸の運動誤差デ−タを考慮する必要がある。4分割フォトセンサを2個使用すれば,一測定点の情報から変位と傾きを同時に測定できることから,求めたい形状データと走査軸の運動誤差データを同時に算出できることを確認している。

第7章「二焦点レンズを用いたシリコンウェーハの厚み測定」においては,シリコンを透過する赤外光と二焦点を持つ対物レンズを用いた厚み測定装置を提案している。合焦点を利用してシリコンウェーハの厚みを測定するためには,ウェーハの屈折率が必要となる。二焦点レンズを使用すれば、機上で未知のウェーハの屈折率を算出できるようになる。また,二焦点レンズの焦点間距離を最適化すれば,移動距離が少なくなり,高精度な測定が可能となることを示している。

第8章「結論」は以上の章を要約したものである。

以上のように、本論文は切削加工に新しい分野を開くものであり、工学的にも工業的にも非常にインパクトのある結果を導出している。機械加工学の進展に大いに寄与するものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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