学位論文要旨



No 216105
著者(漢字) 中村,貴子
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ,タカコ
標題(和) 多次元地球科学データの可視化による断裂系情報の抽出に関する研究
標題(洋) A Stndy on Extraction of Fracture System Information by Visualization of Multi-dimensional Geoscience Data
報告番号 216105
報告番号 乙16105
学位授与日 2004.10.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16105号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 六川,修一
 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 教授 松橋,隆治
 東京大学 助教授 登坂,博行
 東京大学 講師 定木,淳
内容要旨 要旨を表示する

 地球科学が扱う情報は,本質的に多次元である.それに加え,近年,取得データの種類や量も増えたため,解析結果も多種多様で,表示方法にも工夫が必要である.各種の地球科学的調査,例えば資源探査や環境調査などにおいては,調査チームの構成員に,チームが共有しなければならない情報を正確・迅速に伝える必要がある.このようなとき,重要な情報が1枚の画像で明瞭に示されていると,知見の共有化の過程を短時間で終えることが期待でき,探査の効率も高めることができる.金属鉱床探査,あるいは崖崩れなどの防災やトンネル掘削のための地球科学的調査は大掛かりなものが多く,取得するデータの種類も多種多様であり,解析も含めて膨大な費用と時間がかかる.そのことをふまえると,これらの多次元情報を効率良く取得・解析して,必要な知見を速やかに抽出する手法の開発は重要である.

 本研究は,実際の金属資源探査データとデジタル標高データを用いて,断裂系を抽出した結果を一枚の画像で表現できる手法を提案することと,実際のデータや既存の資料からそれらの結果を検証することを目的とした.具体的には,HSI色空間を応用して,多次元地球科学情報(物理探査データ)を重ね合わせ,断裂帯の分布区域を抽出する.また,ステレオ投影法とHSI色空間の融合空間で,デジタル標高データから算出した地表面の傾斜角と傾斜方向を合成し,それらを2次元平面上に表現することで,断裂系を制度よく抽出することを試みた.

 まず,CaWO4-CaMoO4- PbMoO4-PbWO4系鉱物の蛍光色と組成について,HSI色空間を利用し,蛍光鉱物とその組成の関係を明確に示すという,低コストで簡単に検量線を引く方法が開発できたことを事例として,データの表現に際してHSI色空間が有効であることを示した.この手法は,HSI表色系で用いる色の表現が人の目に自然に認識されやすいという利点を利用したものである.

 次に,HSI色空間内の2つの色とその補色の関係を利用して2つの情報を1つの平面上に同時に色で表現することも可能である.そのことを利用して,HSI色空間内の,R(赤)−Y(黄)−G(緑)−Bl(黒)の空間を使って物理探査データの重ね合せを行った.九州中部の豊肥地域は,地下資源探査や地熱資源探査の対象地域であり,地下の地質構造が重要であるが,地表は火山噴出物に覆われており,何らかの方法で地下の地質構造を推定する必要がある.ここで言う地質構造とは,主に埋没した陥没構造を含む地下の断裂系のことである.一般的に,地表に現れている情報から推定できない地下の地質構造は,重力や磁気(IGRF残差)等の物理探査データから得られる.そこで,豊肥地域の地形,重力,磁気データの重ね合せを行い抽出した断裂帯と,既知の地質構造との比較を行い良好な結果を得た.これらの重ね合せ画像から,低重力異常域で磁気異常が急激に高異常域から低異常域に移行している範囲を示す配色の区域に活断層が集中していることがわかった.このことは,この方法で,地下の断裂系と連続している可能性の高い活断層の分布域が簡単・明瞭に予測できる可能性を示している.

 最後に,傾斜方向と傾斜量の空間的分布を同時に表現するために,傾斜面の法線ベクトルをHSI円錐カラーモデルの底面に描いたウルフ網上の点に対応させることにより,斜面ベクトル図を作成した.この図は,単独で傾斜方向,傾斜量,地形の変化を表現することが可能である.豊肥地域において実際の活断層図と斜面ベクトル図を比較すると,かなりの精度で線形構造などの特徴的地形を抽出でき,新たに断裂系の可能性のある地形も抽出できることが分かった.さらに,斜面ベクトル図の立体視対を作成し立体視することで,断層や環状構造などの特徴的地形がより容易に認識できることがわかった.

 近年,地球上のどの地域でも人工衛星を使って簡単に細密DEMが作成されている現状を踏まえれば,DEMさえあれば簡単に作成できる斜面ベクトル図は,広域の事前調査の際,かなり有効に使える方法であるといえる.

審査要旨 要旨を表示する

 地球科学が扱う情報は,本質的に多次元である.それに加え,近年,取得データの種類や量も増えたため,解析結果も多種多様で,表示方法にも工夫が必要である.各種の地球科学的調査,例えば資源探査や環境調査などにおいては,調査チームの構成員に,チームが共有しなければならない情報を正確・迅速に伝える必要がある.このようなとき,重要な情報が1枚の画像で明瞭に示されていれば,知見の共有化の過程を短時間で終えることが期待でき,探査の効率も高めることができる.金属鉱床探査,あるいは崖崩れなどの防災やトンネル掘削のための地球科学的調査は大掛かりなものが多く,取得するデータの種類も多種多様であり,解析も含めて膨大な費用と時間がかかる.そのことを踏まえると,これらの多次元情報を効率良く取得・解析して,必要な知見を速やかに抽出する手法の開発は重要である.

 本研究は,実際の金属資源探査データとデジタル標高データを用いて,断裂系を抽出した結果を一枚の画像で表現できる手法を提案することと,実際のデータや既存の資料からそれらの結果を検証することを目的としている.具体的には,HSI色空間を応用して,多次元地球科学情報(物理探査データ)を重ね合わせ,断裂帯の分布区域を抽出することである.また,ステレオ投影法とHSI色空間の融合空間で,デジタル標高データから算出した地表面の傾斜角と傾斜方向を合成し,それらを2次元平面上に表現することで,断裂系を制度よく抽出することを試みている.

 次に,HSI色空間内の部分空間に属性の異なる複数のデータを効果的に投影することにより,判読や解釈を効果的に行うことのできる手段の開発を行った.そのことを利用して,HSI色空間内の,R(赤)-Y(黄)-G(緑)-Bl(黒)の空間を使って物理探査データを重ね合せ解析を行っている.九州中部の豊肥地域は,地下資源探査や地熱資源探査の対象地域であり,地下の地質構造が重要であるが,地表は火山噴出物に覆われており,何らかの方法で地下の地質構造を推定する必要がある.ここで言う地質構造とは,主に埋没した陥没構造を含む地下の断裂系のことである.一般的に,地表に現れている情報から推定できない地下の地質構造は,重力や磁気(IGRF残差)等の物理探査データから得られる.そこで,本研究では,豊肥地域の地形,重力,磁気データの重ね合せを行い,抽出した断裂帯と,既知の地質構造との比較を行い良好な結果を得ている.また,これらの重ね合せ画像から,低重力異常域で磁気異常が急激に高異常域から低異常域に移行している範囲を示す配色の区域に活断層が集中していることも明らかにした.このことは,この方法で,地下の断裂系と連続している可能性の高い活断層の分布域が簡単・明瞭に予測できる可能性を示している.

 さらに,傾斜方向と傾斜量の空間的分布を同時に表現するために,傾斜面の法線ベクトルをHSI円錐カラーモデルの底面に描いたウルフ網上の点に対応させることにより,独創的な斜面ベクトル図を考案している.この図は,単独で傾斜方向,傾斜量,地形の変化を表現することが可能であり,ステレオ投影とHSI色空間を巧みに融合させた点は極めて独創的である.豊肥地域において実際の活断層図と斜面ベクトル図の比較によって,かなりの精度で線形構造などの特徴的地形を抽出でき,新たに断裂系の可能性のある地形も抽出できることが示された.さらに,斜面ベクトル図の立体視対を作成し立体視することで,断層や環状構造などの特徴的地形がより容易に認識できることも示している.

 最後に,近年,地球上のどの地域でも人工衛星を使って簡単に細密DEMが作成されてきている現状を踏まえるとき,DEMのみによって容易に作成できる斜面ベクトル図は,広域の事前情報を容易に抽出できる大きな可能性を切り開いたものと考えられる.今後,付加価値のあるマップとして本手法の有効活用をはかることが期待される.

 これら一連の研究を通じ、本論文は地球科学データ可視化による断裂系情報の抽出に関する技術的発展に多大な貢献をしたと考えられる.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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