No | 216264 | |
著者(漢字) | 早坂,靖 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハヤサカ,ヤスシ | |
標題(和) | 実機データ活用による実働荷重を考慮したガスタービンの構造健全性向上に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216264 | |
報告番号 | 乙16264 | |
学位授与日 | 2005.05.19 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16264号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 研究の目的と背景 コンバインド発電設備は,熱効率の高さと優れた起動特性からその需要が増加している.その主機となるガスタービンでは,高効率化を狙ったタービン入口温度の高温化と圧縮機の圧縮比の高圧化が進められている.また,頻繁な起動停止など,運用の過酷化も進んでいる.一方で,電力規制緩和による,参入規制と保安規制の改正により,発電設備の信頼性維持と経済的な運用に対する要求がますます強くなってきている. ガスタービン部品(燃焼器,動静翼,圧縮機)は,高温燃焼ガスや圧縮空気のような高速作動流体にさらされ,作動流体による劣化損傷(熱疲労,クリープ,腐食疲労など)を受ける. タービン部品には高い信頼性と経済性が要求されており,部品の劣化損傷を正確に予測し,制御する必要がある.このため,部品の損傷を的確に把握する損傷評価手法と損傷評価に基づく余寿命評価手法が研究されている. 従来,損傷評価では,損傷解析結果と実機損傷の定期検査記録とを比較し,境界条件などの解析条件の妥当性と損傷解析の妥当性を検証する.解析結果と実機損傷が一致しないときは,損傷解析モデルや解析の境界条件を修正し,実機損傷を模擬する損傷解析モデルと実機の実働環境下の損傷を再現する境界条件,いわゆる実働境界条件を同定する.次に,その実機損傷を模擬する損傷解析に,実働境界条件を与えて,実機の損傷・余寿命を評価する.しかし,高速作動流体や高温燃焼ガスにさらされるガスタービン高温部品の実機環境における損傷挙動と実働境界条件は複雑であり,これらの損傷評価モデルと実働境界条件を定めるためには,多数の試行錯誤を必要とした.このため,(1) タービン作動流体環境の実働境界条件把握 (2) 構造の実働荷重環境下の劣化損傷評価,がきわめて重要であると考えられる. そこで,本研究では,実際に使用されたガスタービン部品の損傷記録や実機特殊計測などの実機データを損傷・余寿命評価に有機的に活用する,たとえば,逆問題解析を用いてガスタービン部品の実働境界条件を効率的に同定する,損傷評価手法を考案し,ガスタービン部品の損傷評価モデルと実働境界条件を効率的に同定し,損傷解析と余寿命評価の効率化と高精度化を図った.また, 高精度化した損傷解析をもとに,高温部品の長寿命化の方法についても研究した.さらに,本手法をシステム化し,イントラネット上で余寿命診断するシステムとインターネットを介して入手したガスタービンのセンサ信号を利用し,オンラインで部品の余寿命を診断する手法も研究した. 研究の構成 本研究は,第1章〜第8章で構成されている. 第1章では,本研究の序論として,研究の背景,目的,必要性を述べるとともに,研究を総括し,本研究の構成とオリジナリティを示した. 第2章「実機データを活用した実働荷重環境におけるガスタービン構造の損傷評価手法」では,実際に使用されている実機ガスタービンのデータ,たとえば,運転時の特殊計測データやガスタービン部品の損傷記録を有機的に活用し,ガスタービン部品の損傷評価モデルと実働境界条件を効率的に同定し,損傷解析と余寿命評価の効率化と高精度化を図る手法をまとめる.特に,実験計画法を用いた逆問題解析を適用し,実機損傷と解析結果の誤差平方和を最小化することにより,解析の実働境界条件を効率よく,かつ,高精度に同定し,高温部品の余寿命を予測する手法を示した(図1). 第3章「ガスタービン圧縮機翼の実働荷重における損傷評価」では,ガスタービン圧縮機翼の余寿命評価の精度向上を目的とし,翼振動応力解析と実機環境データを用いた疲労損傷率解析手法を研究した.翼の振動解析では,実機圧力変動データを用い,この圧力変動波形の特徴に着目し,複数の卓越する応力スペクトルの重畳を考慮した翼の応力評価を行った.また,翼の振動解析結果から実働波形を合成し,応力振幅のみならず,発生応力頻度も高精度に予測し,圧縮機翼の疲労損傷率を解析的に予測する手法を提案した(図2). 第4章「ガスタービン動翼の逆問題解析を用いた損傷評価」では,本手法をガスタービン第1段動翼の適用し,金属強化組織から推定した翼温度と熱境界条件を変数とした直交表による解析により,実働境界条件を同定する方法について述べる.そして,同定した境界条件を用いた損傷解析により,実機損傷をよく模擬できること示した(図3). 第5章「ガスタービン静翼の逆問題解析を用いた損傷評価」では,静翼の余寿命評価技術の高精度化を目的とし,実験計画法を用いた逆問題解析と有限要素法き裂進展解析による損傷評価を述べる.本手法では,金属組織観察から温度推定の難しい,Co基超合金の実働境界条件の同定手法について提案する.具体的には,実機き裂記録から算出した疲労損傷率より,実働境界条件を同定し,同定した条件による有限要素法き裂進展解析を行う手法である.本手法により,従来は予測が困難であった翼壁のき裂に関し,初回定検の記録を用いて,第2回定検時の最大き裂長さを予測することができ,き裂を許容長さ以下としながら,定検間隔を最大化することが可能となることを示した. 第6章「ガスタービン高温部品寿命管理システム」では,ガスタービンの高温部品の逆問題解析を用いた損傷評価と寿命評価のシステム化に関し述べる.ここでは,ガスタービン高温部品の寿命消費量を合理的に且つ迅速に評価し,部品交換やメンテナンスサイクル及び運用法を考慮した保全計画を支援するシステムの開発を目的とし,ガスタービン高温部品の余寿命評価技術をWWWブラウザにより利用が可能なクライアントサーバーシステム化について示した. 第7章「ガスタービン高温部品の遠隔監視システム」では,ガスタービン高温部品の長寿命化と保守保全の合理化を目的として,インターネットを利用した高温部品の遠隔損傷診断システムを開発と実機適用を示した(図4).このシステムは,ガスタービン稼動状態におけるセンサ信号をインターネットなどの通信回線を用いて受信し,センサ信号を逆問題解析を用いた損傷解析の境界条件とするものである.これにより,機器の損傷予測を高精度化し,機器信頼性向上を図った. 第8章では,研究の結論を述べた. 図1 ガスタービン部品の逆問題 解析による損傷評価フロー 図2 圧縮機翼の振動応力(本解析結果と実測の比較) 図3 動翼 前縁の温度(解析結果と金属組織からの推定温度比較) 図4 ガスタービン高温部品の遠隔損傷診断システム | |
審査要旨 | タービン部品には高い信頼性と経済性が要求されており,部品の劣化損傷を正確に予測し,制御する必要がある.このため,部品の損傷を的確に把握する損傷評価手法と損傷評価に基づく余寿命評価手法の開発が急務となっている. 従来の損傷評価では,損傷解析結果と実機損傷の定期検査記録とを比較し,境界条件などの解析条件の妥当性と損傷解析の妥当性を検証していた.解析結果と実機損傷が一致しないときは,損傷解析モデルや解析の境界条件を修正し,解析モデルと境界条件を同定し,次にその実機損傷を模擬する損傷解析に,実働境界条件を与えて,実機の損傷・余寿命を評価していた.しかし,ガスタービン高温部品の実機環境における損傷挙動と実働境界条件は複雑であり,これらの損傷評価モデルと実働境界条件を定めるためには,多数の試行錯誤を必要とした.そこで,本研究では,実際に使用されたガスタービン部品の損傷記録や実機特殊計測などの実機データを損傷・余寿命評価に有機的に活用する手法について検討した.また, 高精度化した損傷解析をもとに,高温部品の長寿命化の検討方法,本手法のシステム化についてもあわせて研究したものである. 本論文は,第1章〜第8章で構成されている. 第1章では,本研究の序論として,研究の背景,目的,必要性を述べるとともに,研究を総括し,本研究の構成とオリジナリティを示している. 第2章では,実機ガスタービンの運転時の特殊計測データやガスタービン部品の損傷記録などのデータを有機的に活用した上で,ガスタービン部品の損傷評価モデルと実働境界条件を効率的に同定し,損傷解析と余寿命評価の効率化と高精度化を図る手法を提案している.特に,実験計画法を用いた逆問題解析を適用し,実機損傷と解析結果の誤差平方和を最小化することにより,解析の実働境界条件を効率よく,かつ,高精度に同定し,高温部品の余寿命を予測する点に特徴がある. 第3章では,ガスタービン圧縮機翼の余寿命評価の精度向上を目的とし,翼振動応力解析と実機環境データを用いた疲労損傷率解析手法を提案している.翼の振動解析では,実機圧力変動データを用い,この圧力変動波形の特徴に着目し,複数の卓越する応力スペクトルの重畳を考慮した翼の応力評価を行っている.また,翼の振動解析結果から実働波形を合成し,応力振幅のみならず,発生応力頻度も高精度に予測し,圧縮機翼の疲労損傷率を解析的に予測する手法を提案した. 第4章では,本手法をガスタービン第1段動翼に適用し,金属強化組織から推定した翼温度と熱境界条件を変数とした直交表による解析により,実働境界条件を同定する方法について考察している.そして,同定した境界条件を用いた損傷解析により,実機損傷をよく模擬できること示した. 第5章では,静翼の余寿命評価技術の高精度化を目的とし,実験計画法を用いた逆問題解析と有限要素法き裂進展解析による損傷評価を考察している.本手法では,金属組織観察からCo基超合金の実働境界条件の同定手法を提案している.この結果,実機き裂記録から算出した疲労損傷率より,実働境界条件を同定し,同定した条件による有限要素法き裂進展解析を行う手順をまとめている.本手法により,従来は予測が困難であった翼壁のき裂に関し,初回定検の記録を用いて,第2回定検時の最大き裂長さを予測することができ,き裂を許容長さ以下としながら,定検間隔を最大化することが可能となることを示した. 第6章では,ガスタービンの高温部品の逆問題解析を用いた損傷評価と寿命評価のシステム化に関してまとめている.ここでは,ガスタービン高温部品の余寿命評価技術をWWWブラウザにより利用が可能なクライアントサーバーシステム化を行うことにより,ガスタービン高温部品の寿命消費量を合理的に且つ迅速に評価し,部品交換やメンテナンスサイクル及び運用法を考慮した保全計画を支援することが可能となったことを述べている. 第7章では,ガスタービン高温部品の長寿命化と保守保全の合理化を目的として,インターネットを利用した高温部品の遠隔損傷診断システムの開発と実機適用結果を示している.このシステムは,ガスタービン稼動時のセンサ信号をインターネットなどの通信回線を用いて受信し,これを逆問題解析を用いた損傷解析の境界条件とするものである.これにより,機器の損傷予測を高精度化し,機器信頼性向上が実現されることを示した. 第8章では,研究の結論を述べた. 以上のように、本論文ではガスタービンの構造健全性を向上するため,実機データを活用する手法を検討し,高温部品の寿命管理システム,遠隔監視システムとして実用化したものであり,信頼性工学の分野に大きな貢献があり、その波及効果は極めて大きなものがある. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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