No | 217124 | |
著者(漢字) | 李,新蕊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リ,シンズイ | |
標題(和) | バイオマス燃料等の熱危険性評価 | |
標題(洋) | Thermal Risk of Biomass Fuels and Related Materials | |
報告番号 | 217124 | |
報告番号 | 乙17124 | |
学位授与日 | 2009.03.04 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 第17124号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地球環境に配慮して廃棄物などを再利用する取り組みが進められ、バイオマス燃料をはじめとする多くの再生資源燃料が誕生しています。しかし、これらのなかには、大量貯蔵時に堆積物の内部からの蓄熱発火するなど、危険性がよくわからないものも多くあります。例えば、2003年8月の三重県でのごみ固体燃料(RDF)発電所の火災爆発事故は、バイオマス燃料開発と同時に安全性に対する認識と対策が厳重に不足ように思われる。なお、大量不法投棄の木材チップの自然発火など事例も多い。本研究は、再生資源燃料の危険性の評価を行うなど、「安全なバイオマス燃料」の実現に向けた研究も行っています。 まず、生ごみの減量化のために同様な生ごみ処理機が稼働していることから、出火原因について知見を得ることは火災予防の点で重要である。平成15年11月、神奈川県大和市にある大規模ショッピングセンターの生ごみ処理室で火災が発生した。生ごみ処理槽において底部のパイプから熱風を出して、生ごみの水分を蒸発させて生ごみの減量化を図っていた。生ごみ処理槽内に生ごみの他に処理底部に杉チップが敷き詰められていた。4章において、火災爆発の出火原因を解明するために、TG-DTA(示差熱分析―熱重量分析)によって生ごみ試料および生ごみ試料に油を添加した試料の分解開始温度等の発熱挙動を調べた。また、燃焼実験において、およそ90kgの生ごみ試料を用いて火災の可能性を検証した。また、燃焼実験において燃焼に伴い発生するガスの定性・定量分析を行った。発酵槽底層部は、攪拌装置による熱の拡散がなくなると同時に、高温空気による加熱が継続される状態になった。放熱よりも蓄熱が上回ることにより温度が上昇し、その結果、底層部、とくにエアノズル先端付近にある杉チップや処理物の熱分解が急激に進行し、くん焼状態となり白煙が部屋に充満した。くん焼状態から有炎燃焼に移行し、充満したガスに着火して爆発したと考えられる。 つぎは、大量に堆積したバイオマス燃料の自然発火に起因する火災、爆発が目立って起きているように思われる。バイオマス燃料は、複数の可燃物の混合物であり、また、組成が一定でないため再現実験が難しく、事故の原因究明は、極めて難しい場合が多々ある。特に、RDFや木材チップといった生物による発酵現象が絡む可能性がある場合、原因究明はより難しくなります。一般的に消防法上、指定可燃物に該当する可能性のある物質等は国連勧告書では、廃棄物自然発火性物質として輸送上の規制が係る場合があることから、各種バイオマス燃料(生物起源燃料)等の熱的危険性評価方法と危険性評価結果を検討した。火災の発生では、必ず熱の発生があります。特に初期段階での非常に微少な熱の発生とその蓄積は、火災原因と直接結び付くため極めて重要で、これを捉える必要があります。そのため、本研の手法として、以下の手順で行った。まず、高感度の熱分析計、熱量計を使って、微小の発熱を検知し、結果をもとに蓄熱発火を推定した。つぎに断熱性の高い条件で、ある程度の量の試料を使って、微小反応による温度上昇の状況を調べた。少量の試料で安全に測定できる高感度の熱分析機器は、バイオマス燃料、リサイクル燃料及び廃棄物等の危険性評価に適用が可能です。出火メカニズムと出火温度を追及する一つの手段として、熱分析(TG-DTA)、SIT(自然発火試験)、高感度熱量計などの熱測定を試みた。最後はRDFの爆発事故等を考えれば、サイロ等での貯蔵時の危険性を知る上で可燃性ガス等(水素、メタン、一酸化炭素等)の発生の分析、確認は重要である。燃料509を1000mLガラス瓶中に(1)受領のまま、および(2)更に水12.59を加え、それぞれを26℃ と60℃ での環境下に10~11日間密栓保持した。発生ガスの分析はガスクロマトグラフによった。ここでは、このような蓄熱発火に伴う火災、事故を防止するために、広く流通する前の段階で、危険性評価を行った。試料は表2に示す提供されたそのまま、及び水20(重量%)添加して以下の項目に注目して、その危険性を明らかにする。 (1)発熱開始温度 発熱開始温度は、測定方法によって大きく異なる。昇温速度を落として、感度の高いC80によって得られた値やTAMによる等温実験がより現実的なものに近いと考えられる。C80の結果から汚泥燃料、鶏糞は30℃ 以下でも発熱することが判る。TAMの実験からいずれの物質も50℃である程度の発熱があることが判るが、このような低温での発熱が、直ちに火災に至る引き金になるかどうかは判らない。SITによってある程度判るが、同結果では、木質ペレット(バーク)が最も低い温度から発熱を始めた。この結果、高感度熱量計からは45℃ ~60℃ に発熱反応を確認し、SITの結果と併せて、この発熱が火災に至る可能性を有することを確認した。 (2)発熱量 室温~50℃ 程度での発熱量は、高感度で発熱を検知出来るTAMのデータを採用した。汚泥燃料が最も発熱している。 (3)ガスの発生 試料をそのまま放置した場合、及び水を20%(重量)加えた場合のガス発生を調べた。汚泥燃料化物、木質ペレット、RDFが、水素をわずかに発生することが判った。従って、サイロ等での貯蔵時、条件によっては発生したガスによって爆発が起こる可能性はある。ガス発生の原因は、発酵によると確認した。 (4)水の影響 一般には水は、防火に役立つはずであるが、場合によっては水が存在することで、発熱量が増し、また、ガスを多く発生して火災危険が増す場合がある。鶏糞は、水添加で発熱、ガス発生量が大きく増加した。原因としては、発酵によるほか、化学反応、吸着等によっても発熱が起こる可能性がある。 (5)提供された物質の危険性の評価 各バイオマス燃料問及び水の有無による危険性を相対的に評価し、比較しやすくするために相対的な危険性ランクを基に、グラフを作成した。適用した各試料の危険性ランクは汚泥燃料、鶏糞は30℃ 以下でも発熱しやすい。また、これらは、いずれもガスを多く発生する。また、水添加で、発熱、ガス発生が促進される。 (6)大量貯蔵時の発熱発火の推定 再生資源燃料等の大量貯蔵時の大略の発熱発火挙動を知るために数m~10m程度まで堆積した場合の発熱開始温度の推定をフランク・カメネツキー(Frank-Kammenetskii)式に基づき行った。解析結果のうち、低温と高温側の反応メカニズムが同一なのか、現実的に妥当と思われるものを、図3に示した。 表1生ごみ処理の検証実験結果 *事故機の発酵槽に対し、水平投影面積比50:1のステンレス製の実験装置を製作した。高温空気は、ヒータで150℃ に昇温し、4本のエアノズルから底層部に吹き込んだ。 表2バイオマス燃料一覧 Fig.1木材チップの発熱速度(TAMどMS80) Fig.2.RDF(ゴミ固形化燃料)の発熱速度(TAMどC80) 表3ガスクロマトグラフによるガス分析結果(60℃) Fig.3.F-K計算結果 (a)RPF-低温と高温側の反応同じ (b)木材チップ-低温と高温側の反応違い | |
審査要旨 | 本論文は「Thermal Risk of Biomass Fuels and Related Materials(バイオマス燃料等の熱危険性評価)」と題し、エネルギー・環境問題に対応して導入が促進されている木質ペレット、汚泥燃料、RDF(Refuse Derived Fuel)、RPF(Refuse Paper and Plastic Fuel)などのバイオマス燃料等について、熱分析による発熱開始温度や発熱量測定、および発生ガス分析などによる発火・爆発危険性の評価手法に関する研究をまとめたもので7章からなる。 第1章、第2章ではバイオマス燃料の導入状況や種類・特徴、製造・貯蔵時における発火・爆発事故例などの本研究の背景と目的について述べている。 第3章では本研究で用いた実験手法について述べている。すなわち、熱発生挙動の把握のために一般的に用いられるTG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)、室温付近での微少発熱現象把握のための高感度等温熱量計TAM(Ther mal Activity Monitor)、高感度熱流速型熱量計C80とMS80、自然発火性の確 認のためのワイヤーメッシュキューブ試験や断熱条件で自然発火試験を行うSIT(Spontaneous Ignition Test)、貯蔵時の可燃性ガスの発生挙動を調べるガス発生試験などについて測定 法の特徴や試験機器の性能について解説している。 第4章では生ゴミ貯蔵乾燥施設での爆発事故の原因について検討を行っている。まず、生ゴミについてTG-DTA測定を行い、発熱挙動を調べた。次に、1/50スケールの断面積の容器内に生ゴミを入れ、熱風を吹き込んで発酵による発熱とガス発生プロセスについて観察した。その結果、メタンや水素、一酸化炭素などの可燃性ガスの継続的な発生による発火・爆発の可能性を確認した。 第5章では各種バイオマス関連燃料の発熱挙動について検討している。TG-DTAでは検知できなかった100℃ 以下で起こる微少な発熱がTAMでは検知可能であった。C80ではTG-DTAよりも精密に100℃ 以上の発熱挙動を追跡可能であり、自然発火性についてはSITによる測定が有効であった。また、特に木質チップ、RDF、RPFの発熱挙動について詳細に解析し、木質チップとRDFでは50℃ 付近で発酵による発熱が生じることや、RPFでは120℃ 付近で自然発火が起こる可能性を指摘している。 第6章では、バイオマス関連燃料の貯蔵時のガス発生挙動について検討を行い、第5章の結果と合わせて熱危険性評価手法についての提案を行っている。そして発熱・ガス発生挙動への60℃ 付近での発酵過程と100℃ 以上での化学反応過程の寄与、さらには水分の影響について解析している。これらの結果より、C80による発熱開始温度とTAMによる発熱量を用いてスクリーニングを行い、境界付近のものについてはSITでの発熱挙動により熱的危険性を判定し、可燃性ガス発生についてもガス発生試験の結果によりランク付けを行う手法を提案している。 第7章では本研究を総括して、結論を述べている。 以上、本論文はバイオマス関連燃料の熱危険性評価手法についてまとめたものであり、安全工学ならびに環境学の発展に寄与するものである。 なお本論文第4、5、6章は古積博、岩田雄策、桃田道彦、Lim Woo-Subとの共同研究であるが、論文提出者が主体となって研究を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
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