学位論文要旨



No 217435
著者(漢字) 小林,俊一
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,トシカズ
標題(和) イオン伝導性高分子を含有するポリマーブレンドの帯電防止特性の研究
標題(洋)
報告番号 217435
報告番号 乙17435
学位授与日 2010.12.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第17435号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 竹村,彰夫
 東京大学 教授 松本,雄二
 東京大学 教授 磯貝,明
 東京大学 准教授 岩田,忠久
 東京農工大学 名誉教授 秋山,三郎
内容要旨 要旨を表示する

イオン伝導性ポリマーであるポリエーテルエステルアミド(PEEA)を含有するポリマーブレンドの熱的特性や結晶化挙動をDSC、偏光顕微鏡、動的粘弾性装置などを使用して調べた。また、表面抵抗率や帯電減衰特性などの電気特性を測定し、ブレンドのモルフォロジーを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、帯電防止特性との関係を明らかにした。さらに成形した試験片の表面をAFM(原子間力顕微鏡)で観察し、ブレンドのphaseイメージを得た。またConductive AFM (電流計測AFM)で表面の導電性領域のマッピングを行い、topographical イメージ、phase イメージとの近似性を確認することができた。Fig. 1にPLA/PEEA ブレンドのAFM写真を示した。

まず、ポリエチレンテレフタレート(PET)にPEEAをブレンドする2成分系ポリマーブレンドが帯電防止性能を有することを確認し、さらにナトリウムアイオノマー(ナトリウムで中和されたエチレン・メタクリル酸共重合体)やリチウムアイオノマー(リチウムで中和されたエチレン・メタクリル酸共重合体)などの特定のポリマーを第3成分として添加すると帯電防止性能が格段に向上することが分かった。アイオノマー単体は絶縁体であるので、PET/PEEAにアイオノマーを添加することで表面抵抗率が低下することは予期できないことであった。モルフォロジーをTEMで調べた結果、特定のポリマーを第3成分として添加すると、それがPEEAに内包される、つまりPEEAが第3成分ポリマーをコーティングするようなコアシェル構造を形成することが確認された。(Fig. 2 参照) このモルフォロジーは同じPEEAの量で表面積を増大させる効果があるため、帯電防止性能を向上させると考えられる。さらにPEEA が近隣のPEEAと連結しネットワークを形成することがTEMによるモルフォロジーで観察された。また、3成分ポリマーブレンドにおける分散相ドメインの取りうるモルフォロジーをSpreading Coefficient(拡張係数)の観点から整理を行い、コアシェル構造を形成する妥当性を計算式から示した。

他のベースポリマーとしてポリトリメチレンテレフタレート(PTT)への展開を検討し、PETの場合と同様に特定のアイオノマーが PTT/PEEAブレンドの帯電防止特性を劇的に向上させることを確認した。PTTはトウモロコシの糖分を原料とし、遺伝子組み換えを経た特殊な酵母により生産される1,3-プロパンジオール(1,3―propane diol)とテレフタル酸(TPA)の重縮合から作られるバイオベースのポリマーである。PTT/PEEA ブレンドではイオン伝導性ポリマーである PEEAのガラス転移温度を溶融混練の際にin situで変化させることが可能な添加剤ポリマーを見出して、PEEAのTg が電気特性、特に帯電減衰性能にどのように影響するかを検討し、Tg が 低いほど、帯電防止特性が向上することが分かった、これは PEEAのTg 降下によりあらかじめ含有していた PEEA 中のNa イオンのMobility が向上することによると推察した。逆にPEEAとmiscible なポリカーボネートを添加することにより Tgを上昇せしめた場合は、Tg が上昇するほど絶縁体に近くなっていくことを確認した。これは PEEA 中のイオンのmobility が制限されるからと推察された。ここでは透過型電子顕微鏡(TEM)によるモルフォロジー観察に加えて原子間力顕微鏡(AFM)による表面の直接観察を行った。その際にタッピングモードによるトポロジー観察、phase イメージに加えて Conductive AFM モードにより成形品表面の導電性のイメージ化を行い、優れた帯電防止特性を示す樹脂はConductive AFMで導電性領域のマッピングが可能で、PEEA が表面に存在することも確認できた。さらに乳酸から作られるポリ乳酸(PLA)をマトリックスポリマーとして、PEEAを用いて帯電防止特性を検討し、反応性エチレンコポリマーEthylene Butylacrylate Glycidyl methacrylate 共重合体(EBAGMA)が PLA/PEEAの帯電減衰性能を向上させることが分かった。これはマトリックスポリマーであるポリ乳酸が EBAGMAと反応し、溶融粘度が増大し相対的にPEEAの粘度が低下することなり、イオン伝導性ポリマーが効率的に表面方向に濃縮する表面濃縮効果によると推察した。

Fig. 1. AFM phase image: g) PLA/20% PEEA-275Na, i) PLA/20% PEEA-3515Na

Conductive AFM image : h) PLA/20% PEEA-275Na, j) PLA/20% PEEA-3515Na

Fig. 2 TEM of PET/25%PEEA/5%EMAA-Na

審査要旨 要旨を表示する

イオン伝導性ポリマーであるポリエーテルエステルアミド(PEEA)を含有するポリマーブレンドの熱的特性や結晶化挙動をDSC、偏光顕微鏡、動的粘弾性装置などを使用して調べた。また、表面抵抗率や帯電減衰特性などの電気特性を測定し、ブレンドのモルフォロジーを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、帯電防止特性との関係を明らかにした。さらに成形した試験片の表面をAFM(原子間力顕微鏡)で観察し、ブレンドのphaseイメージを得た。また Conductive AFM (電流計測AFM)で表面の導電性領域のマッピングを行い、topographical イメージ、phase イメージとの近似性を確認することができた。Fig. 1にPLA/PEEA ブレンドのAFM写真を示した。

まず、ポリエチレンテレフタレート(PET)にPEEAをブレンドする2成分系ポリマーブレンドが帯電防止性能を有することを確認し、さらにナトリウムアイオノマー(ナトリウムで中和されたエチレン・メタクリル酸共重合体)やリチウムアイオノマー(リチウムで中和されたエチレン・メタクリル酸共重合体)などの特定のポリマーを第3成分として添加すると帯電防止性能が格段に向上することが分かった。アイオノマー単体は絶縁体であるので、PET/PEEAにアイオノマーを添加することで表面抵抗率が低下することは予期できないことであった。モルフォロジーをTEMで調べた結果、特定のポリマーを第3成分として添加すると、それがPEEAに内包される、つまりPEEAが第3成分ポリマーをコーティングするようなコアシェル構造を形成することが確認された。(Fig. 2 参照) このモルフォロジーは同じPEEAの量で表面積を増大させる効果があるため、帯電防止性能を向上させると考えられる。さらにPEEA が近隣のPEEAと連結しネットワークを形成することがTEMによるモルフォロジーで観察された。また、3成分ポリマーブレンドにおける分散相ドメインの取りうるモルフォロジーをSpreading Coefficient(拡張係数)の観点から整理を行い、コアシェル構造を形成する妥当性を計算式から示した。

他のベースポリマーとしてポリトリメチレンテレフタレート(PTT)への展開を検討し、PETの場合と同様に特定のアイオノマーが PTT/PEEAブレンドの帯電防止特性を劇的に向上させることを確認した。PTTはトウモロコシの糖分を原料とし、遺伝子組み換えを経た特殊な酵母により生産される1,3-プロパンジオール(1,3―propane diol)とテレフタル酸(TPA)の重縮合から作られるバイオベースのポリマーである。PTT/PEEA ブレンドではイオン伝導性ポリマーである PEEAのガラス転移温度を溶融混練の際にin situで変化させることが可能な添加剤ポリマーを見出して、PEEAのTg が電気特性、特に帯電減衰性能にどのように影響するかを検討し、Tg が 低いほど、帯電防止特性が向上することが分かった、これは PEEAのTg 降下によりあらかじめ含有していた PEEA 中のNa イオンのMobility が向上することによると推察した。逆にPEEAとmiscible なポリカーボネートを添加することにより Tgを上昇せしめた場合は、Tg が上昇するほど絶縁体に近くなっていくことを確認した。これは PEEA 中のイオンのmobility が制限されるからと推察された。ここでは透過型電子顕微鏡(TEM)によるモルフォロジー観察に加えて原子間力顕微鏡(AFM)による表面の直接観察を行った。その際にタッピングモードによるトポロジー観察、phase イメージに加えて Conductive AFM モードにより成形品表面の導電性のイメージ化を行い、優れた帯電防止特性を示す樹脂はConductive AFMで導電性領域のマッピングが可能で、PEEA が表面に存在することも確認できた。さらに乳酸から作られるポリ乳酸(PLA)をマトリックスポリマーとして、PEEAを用いて帯電防止特性を検討し、反応性エチレンコポリマーEthylene Butylacrylate Glycidyl methacrylate 共重合体(EBAGMA)が PLA/PEEAの帯電減衰性能を向上させることが分かった。これはマトリックスポリマーであるポリ乳酸が EBAGMAと反応し、溶融粘度が増大し相対的にPEEAの粘度が低下することなり、イオン伝導性ポリマーが効率的に表面方向に濃縮する表面濃縮効果によると推察した。

以上のように本研究の結果は、イオン伝導性ポリマーの合成高分子および生分解性高分子との相互作用を検討し、帯電防止ポリマーを実用可能な複合高分子として利用するための基礎的、応用的な知見を与え、今後の生物生産ポリマーの付加価値を伴った材料化のために大きく貢献することは明らかである。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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