学位論文要旨



No 217691
著者(漢字) 西川,壽一
著者(英字)
著者(カナ) ニシカワ,トシカズ
標題(和) 二次共生藻のオルガネラにおける原核型分裂遺伝子ftsZの進化とその輸送機構に関する研究
標題(洋) Studies on the evolution and protein transport mechanism of a prokaryotic division gene, ftsZ in the organelles of the secondary endosymbiotic algae
報告番号 217691
報告番号 乙17691
学位授与日 2012.06.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 第17691号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,重行
 東京大学 教授 馳澤,盛一郎
 東京大学 教授 宇垣,正志
 東京大学 准教授 鈴木,邦律
 東京大学 准教授 箸本,春樹
 東京大学 准教授 野崎,久義
内容要旨 要旨を表示する

序論

藻類にはシアノバクテリアが非光合成真核生物に共生して誕生した一次共生藻とその一次共生藻(共生体)が別の真核生物(宿主)に共生して誕生した二次共生藻が存在する。一次共生藻と二次共生藻では葉緑体包膜の数が異なっており、一次共生藻は2枚であるのに対し二次共生藻は3枚あるいは4枚である。一次共生藻の葉緑体移行タンパク質には、2枚の葉緑体包膜を通過するために葉緑体移行配列(Plastid Transit Peptide: pTP)が存在する。一方、二次共生藻では、外側の2枚の膜(外側より葉緑体ER、ペリプラスチド膜)と一次共生藻由来の内側2枚の包膜を通過するためにER移行配列(Signal Peptide: SP)が必要となる。また、ミトコンドリア移行タンパク質には、ミトコンドリア移行配列(Mitochondrial Transit Peptide: mTP)が存在する。

二次共生藻では、葉緑体タンパク質輸送機構は2種類あることが知られている。一つは不等毛植物やクリプト植物に見られる直接葉緑体に輸送されるタイプと、もう一つはユーグレナ植物やアピコンプレクサに見られるゴルジ体を経由し葉緑体に輸送されるタイプである。ユーグレナ植物にはpTPにゴルジ体の膜貫通ドメインが存在している(Slavikova et al. 2005)。二次共生藻のハプト植物では、葉緑体タンパク質輸送機構は明らかになっていないが、二次共生藻の中でも特に発達したゴルジ体を持つため、どちらの輸送機構が働いているかは興味深い。

二次共生藻の珪藻Phaeodactylum tricornutumを用いた形質転換系が確立され、タンパク質移行や局在の解析に広く利用されている(Zaslavskaia et al. 2000)。近年この形質転換系を用い、pTPを短くし葉緑体へのタンパク質移行を不完全にした研究が行われ、葉緑体の最外膜と外から2枚目の膜の間と考えられる区画にGFPの蓄積が観察された(Kilian & Kroth 2004)。このGFPは、区画の限られた部分に塊となって局在しており、この塊はBlob-like Structure(BLS)と呼ばれている。

本研究では、原核生物の細胞分裂遺伝子の1つであるftsZを二次共生藻のハプト植物Pavlova pinguisと不等毛植物の珪藻Chaetoceros neogracileで同定し、二次共生藻におけるタンパク質のオルガネラへの輸送機構を解明することを目的とした。ftsZは真核生物にもホモログがある。陸上植物及び藻類のFtsZは、陸上植物及び緑色植物の葉緑体型FtsZ1、FtsZ2と紅色植物の葉緑体型FtsZA、FtsZB、紅色植物由来の二次共生藻の葉緑体型FtsZA、FtsZC、さらにミトコンドリア型FtsZのクレードに分類される(Miyagishima et al. 2004)。また、FtsZは一次共生藻の原始紅藻で葉緑体とミトコンドリアの分裂に関与しており、葉緑体とミトコンドリアの内部で機能していることが明らかになっている。二次共生藻におけるFtsZ移行配列の機能解析には、形質転換系が開発されていないハプト植物はタバコ培養細胞の一過的発現系を、珪藻はPhaeodactylumの形質転換系を用いた。タバコ培養細胞の一過的発現系はヘテロな系であるが、タバコの2枚の葉緑体包膜を通過するかどうかを確認するとともに、珪藻の形質転換系で得られる結果と対比するため、採用することとした。

1. ハプト植物からのftsZの単離とオルガネラ移行配列の解析

(1) ftsZの単離と分子系統解析

P. pinguisから縮重プライマーを用いたPCR法により、ftsZ全長配列を決定した。最尤法およびベイズ法を用いた分子系統解析の結果、葉緑体型FtsZCと同じクレードを形成した(図2)。

(2) FtsZのオルガネラ移行配列の解析

オルガネラ移行配列予測ソフトSignalP、 TargetPを用いて移行配列を予測した結果、SPとそれに続いてpTPを保持していた(図3)。このSPとpTPの配列は、ユーグレナ植物やアピコンプレクサの移行配列とは異なり、pTPにゴルジ体の膜貫通ドメインはなく、不等毛植物やクリプト植物の移行配列構造と同様であった。したがって、ハプト植物ではゴルジ体を経由せず、直接葉緑体にタンパク質が輸送される可能性が示唆された。

(3) タバコ培養細胞の一過的発現系を用いたオルガネラ移行配列の機能解析

移行配列とsGFPを結合したコンストラクトを作成し、それらをプロトプラスト化したタバコ培養細胞に導入して一過的に発現させ、sGFPの局在を観察した(図4)。SPのみを導入したものでは、網目状のsGFPの蛍光がERと考えられる部位に観察された。このsGFPの蛍光の局在は、ER-Trackerで染色されたERと同じであった。pTPを導入したものは、葉緑体の自家蛍光とsGFPの蛍光が一致した。SPとそれに続くpTP (SP + pTP)を導入したものは、ERにsGFPの蛍光が観察されたが、葉緑体には局在しなかった。

2.不等毛植物の珪藻からのftsZの単離とオルガネラ移行配列の解析

(1) ftsZの単離と分子系統解析

C. neogracileからftsZを単離した。P. pinguisと同様の方法を用い、4種類のftsZ全長配列を決定した。それらをもとに行った最尤法およびベイズ法を用いた分子系統解析の結果、C. neogracile のFtsZは、2種類(CnFtsZ-cp2, 3)が紅色植物由来の二次共生藻の葉緑体型FtsZA、1種類(CnFtsZ-cp1)がFtsZC、残り1種類(CnFtsZ-mt1)がミトコンドリア型FtsZ と同じクレードを形成した(図2)。

(2) FtsZのオルガネラ移行配列の解析

予測されるアミノ酸配列をSignalP、 TargetP、 PSORTで解析した。葉緑体型にはSPとそれに続いてpTPがあり、ミトコンドリア型にはmTPがあると予測された(図3)。

(3) 珪藻の形質転換系を用いたオルガネラ移行配列の機能解析

予測されたオルガネラ移行配列が、C. neogracile と同じ珪藻で機能するかどうかを確認するため、Phaeodactylumの形質転換系を用いて実験を行った(図5)。移行配列をsGFP配列とともにpPha-T1ベクターと結合し、それを野生株に導入した。

CnFtsZ-mt1のmTPを導入した株はDASPMIで染色した野生型と同様、ひも状にsGFPの蛍光が伸びていた。

CnFtsZ-cp1, -cp2, -cp3のpTPを導入した株では、細胞質全体に弱いsGFPの蛍光が見られた。

CnFtsZ-cp1, -cp2, -cp3のSPを導入した株は、細胞の長軸を中心として細胞全体にsGFPの蛍光が局在しているもの(CnFtsZ-cp1)と、葉緑体のくびれの周囲にsGFPの蛍光が局在しているもの(CnFtsZ-cp2, 3)が観察された。これはBLSと呼ばれる葉緑体のくびれ部分に蓄積するGFPの局在に似ていたため、SPを導入した株(cp3)からソルビトールの浸透圧ショックにより葉緑体を単離し、葉緑体とsGFPの位相を確認した。観察の結果、sGFPは葉緑体の一部分に結合あるいは局在していた(図6)。予測されたSPにpTPの一部が含まれていた可能性はあるが、外側から2枚目の葉緑体膜を通過する直前のタンパク質の局在を観察することができたと考える。

CnFtsZ-cp1, -cp2, -cp3のSP + pTPを導入したものは、葉緑体の自家蛍光とsGFPの蛍光が重なった。また、CnFtsZ-cp1のSP + pTPを導入した株を新しい培地に植え継ぎ後9~16時間の早い段階で観察すると、同調的にsGFPが合成され、葉緑体への様々な移行段階のsGFP局在が見られた。sGFPは葉緑体近傍からくびれ部分を通過し、徐々に葉緑体内に移行する様子が観察された。以上より、葉緑体移行タンパク質は葉緑体の限られた部位を通過する可能性がある。

結論

本研究では、二次共生藻におけるオルガネラの原核型分裂遺伝子ftsZ の進化とタンパク質のオルガネラ移行機構に関するについて以下のことを明らかにした。

1. ハプト植物P. pinguisより1種類のftsZを単離した。分子系統解析の結果、紅色植物の葉緑体型FtsZCと同じクレードを形成した。オルガネラ移行配列予測の結果、移行配列は不等毛植物やクリプト植物と同様の構造であり、ゴルジ体を経由せず直接葉緑体へタンパク質が輸送されている可能性が示唆された。

2. タバコ培養細胞の一過的発現系を用いた局在観察により、P. pinguisの葉緑体移行配列は、一次共生藻由来の陸上植物でも機能し、内側2枚の包膜は陸上植物と同様の輸送機構がある可能性が示唆された。この系で葉緑体へのタンパク質輸送能力があったのはpTPのみであり、SPとSP + pTPはERまでの輸送能力しかなかった。しかし、外側から2枚目の葉緑体膜(PPM)通過以外の機構は、陸上植物でも二次共生藻でも同様である可能性を示すことができた。PPMの通過機構はいまだ不明であり、これが二次共生藻に特有の葉緑体タンパク質輸送機構であると考えられる。

3. 珪藻C. neogracile より4種類のftsZを単離した。分子系統解析の結果C. neogracile のFtsZのうち2種類が葉緑体型FtsZA、1種類が葉緑体型FtsZC、残り1種類がミトコンドリア型FtsZ と同じクレードを形成した。ゲノム解読が終了している他の2種類の珪藻も3種類の葉緑体型FtsZを保持しており、それぞれが同じクレードを形成することから、現在の珪藻に分岐する前の始原的な珪藻で葉緑体型FtsZが3種類存在していた可能性がある。

4. 珪藻P. tricornutumの形質転換系を用いた観察により、C. neogracile のオルガネラ移行配列は、二次共生藻のオルガネラ移行配列として機能していることが示された。SPを導入した株の観察より、外側から2枚目の葉緑体膜を通過する直前に、BLSが形成されるくびれ近傍の限定された箇所にタンパク質が局在あるいは結合されることが示された。また、同調的にsGFPを発現させたSP + pTPを導入した株の観察から、葉緑体タンパク質は葉緑体のくびれ部分近傍を通過し、葉緑体内に輸送されることが示唆された。以上の結果より、以下の葉緑体タンパク質輸送機構について考察する。葉緑体タンパク質は最外膜のcERを通過後、cERとPPMで挟まれた区画にあるBLSが存在する限定された箇所で蓄積され、そこから内側の2枚の葉緑体包膜を通過し、葉緑体内へタンパク質が輸送される。内側から2枚目の葉緑体包膜のトランスロケータであるOmp85も、葉緑体のくびれ近傍に局在が見られる(Bullmann et al. 2010)ことから、内側3枚の葉緑体膜のトランスロケータは限られた部分に存在している可能性が考えられる。

発表論文

1) Nishikawa, T., Moriyama, Y., Sato, M., Sano, T., Hasezawa, S., Ota, S., and Kawano, S.: Isolation of mitochondrial and plastid ftsZ genes and analysis of the organelle targeting sequence in the diatom Chaetoceros neogracile (Diatoms, Bacillariophyceae). Phycol. Res. 60, 123-136 (2012).

2) Nishikawa, T., Kajitani, H., Sato, M., Mogi, Y., Moriyama, Y., and Kawano, S.: Isolation of chloroplast FtsZ and AtpC, and analysis of protein targeting into the complex chloroplast of the haptophyte Pavlova pinguis. Cytologia 75, 203-210 (2010).

3) Sato, M., Mogi, Y., Nishikawa, T., Miyamura, S., Nagumo, T. and Kawano, S.: The dynamic surface of dividing cyanelles and ultrastructure of the region directly below the surface in Cyanophora paradoxa. Planta 229, 781-791 (2009).

4) Yamamoto, M., Nishikawa, T., Kajitani, H. and Kawano, S.: Patterns of asexual reproduction in Nannochloris bacillaris and Marvania geminata (Chlorophyta, Trebouxiophyceae). Planta 226, 917-927 (2007).

5) Sato, M., Nishikawa, T., Kajitani, H. and Kawano, S.: Conserved relationship between FtsZ and peptidoglycan in the cyanelles of Cyanophora paradoxa similar to that in bacterial cell division. Planta 227, 177-187 (2007).

6) Sato M., Nishikawa T., Yamazaki T., Kawano S.: Isolation of the plastid FtsZ gene from Cyanophora paradoxa (Glaucocystophyceae, Glaucocystophyta). Phycol. Res. 53, 93-96 (2005).

図1 二次共生藻(不等毛植物)におけるタンパク質の葉緑体移行の模式図

二次共生藻の葉緑体は、共生した一次共生藻の葉緑体由来の2枚包膜(Outer Envelope Membrane: OEM, Inner Envelope Membrane: IEM)に、細胞核膜と融合した葉緑体ER膜(cER)及びその内側のペリプラスチド膜(PPM)の2枚の包膜が加わっている。そのため、4枚の包膜を通過して葉緑体にタンパク質を移行させる必要がある。PPC:ペリプラスチダルコンパートメント

図2 FtsZの分子系統樹

予測されるアミノ酸配列を用いて、最尤法とベイズ法によりFtsZ の分子系統解析を行った。数字はブートストラップ値(%)/ベイズ事後確率を表す。

図3 FtsZのN末端オルガネラ移行配列

SP: Signal Peptide, pTP: Plastid Transit Peptide, mTP: Mitochondrial Transit Peptide

Scy: Synechocystis sp., Cm: Cyanidioschyzon merolae, Gt: Guillardia theta, Tp: Thalassiosira pseudonana, Pt: Phaeodactylum tricornutum, Cn: Chaetoceros neogracile, Pp: Pavlova pinguis, Atu: Agrobacterium tumefaciens

図4 タバコ培養細胞の一過的発現系を用いたPpFtsZのオルガネラ移行配列:sGFPの局在

SP;PpFtsZcp-SPを導入した細胞、pTP;PpFtsZcp-pTPを導入した細胞、SP + pTP;PpFtsZcp1-SP + pTPを導入した細胞、Bar:10 μm

図5 珪藻Phaeodactylumの形質転換系を用いたCnFtsZのオルガネラ移行配列:sGFPの局在

mTP;CnFtsZmt1-mTPを導入した株、SP;CnFtsZcp1-SPを導入した株、pTP;CnFtsZcp1 pTPを導入した株、SP + pTP;CnFtsZcp1-SP+pTPを導入した株、Bar:10 μm

図6 単離葉緑体におけるSP:sGFPの局在

CnFtsZcp3-SPを導入した株から単離した葉緑体を観察した。

a:葉緑体の自家蛍光、b:葉緑体の自家蛍光とsGFP蛍光のマージ像、Bar:5 μm

審査要旨 要旨を表示する

本論文は2章からなり、共に二次共生藻のオルガネラにおける原核型分裂遺伝子ftsZ の進化とその輸送機構について述べられている。第1章では、ハプト植物Pavlova pinguisよりftsZを単離し、タバコ培養細胞の一過的発現系を用いて機能解析を行い、第2章では、不等毛植物の珪藻Chaetoceros neogracileよりftsZを単離し、同じ珪藻Phaeodactylum tricornutumの形質転換系を用いて機能解析を行っている。

第1章では以下の1, 2を、第2章では以下の3, 4を明らかにした。

1. ハプト植物P. pinguisより1種類のftsZを単離した。分子系統解析の結果、紅色植物の葉緑体型FtsZCと同じクレードを形成した。オルガネラ移行配列予測の結果、移行配列は不等毛植物やクリプト植物と同様の構造であり、ゴルジ体を経由せず直接葉緑体へタンパク質が輸送されている可能性が示唆された。

2. タバコ培養細胞の一過的発現系を用いた局在観察により、P. pinguisの葉緑体移行配列は、一次共生藻由来の陸上植物でも機能し、内側2枚の包膜は陸上植物と同様の輸送機構がある可能性が示唆された。この系で葉緑体へのタンパク質輸送能力があったのはpTPのみであり、SPとSP + pTPはERまでの輸送能力しかなかった。しかし、外側から2枚目の葉緑体膜(PPM)通過以外の機構は、陸上植物でも二次共生藻でも同様である可能性を示すことができた。PPMの通過機構はいまだ不明であり、これが二次共生藻に特有の葉緑体タンパク質輸送機構であると考えられる。

3. 珪藻C. neogracile より4種類のftsZを単離した。分子系統解析の結果C. neogracile のFtsZのうち2種類が葉緑体型FtsZA、1種類が葉緑体型FtsZC、残り1種類がミトコンドリア型FtsZ と同じクレードを形成した。ゲノム解読が終了している他の2種類の珪藻も3種類の葉緑体型FtsZを保持しており、それぞれが同じクレードを形成することから、現在の珪藻に分岐する前の始原的な珪藻で葉緑体型FtsZが3種類存在していた可能性がある。

4. 珪藻P. tricornutumの形質転換系を用いた観察により、C. neogracile のオルガネラ移行配列は、二次共生藻のオルガネラ移行配列として機能していることが示された。SPを導入した株の観察より、外側から2枚目の葉緑体膜を通過する直前に、BLSが形成されるくびれ近傍の限定された箇所にタンパク質が局在あるいは結合されることが示された。また、同調的にsGFPを発現させたSP + pTPを導入した株の観察から、葉緑体タンパク質は葉緑体のくびれ部分近傍を通過し、葉緑体内に輸送されることが示唆された。以上の結果より、以下の葉緑体タンパク質輸送機構について考察する。葉緑体タンパク質は最外膜のcERを通過後、cERとPPMで挟まれた区画にあるBLSが存在する限定された箇所で蓄積され、そこから内側の2枚の葉緑体包膜を通過し、葉緑体内へタンパク質が輸送される。内側から2枚目の葉緑体包膜のトランスロケータであるOmp85も、葉緑体のくびれ近傍に局在が見られることから、内側3枚の葉緑体膜のトランスロケータは限られた部分に存在している可能性が考えられる。

二次共生藻のオルガネラ移行配列をタバコ培養細胞で確認した報告はこれまでになく、珪藻の形質転換系を用いて同一遺伝子においてER、葉緑体、ミトコンドリアの各移行配列をすべて解析した報告もない。また、タバコ培養細胞と珪藻の形質転換系を用いた移行配列の機能解析結果の比較により、二次共生藻のオルガネラにおけるタンパク質輸送機構の特徴が明らかとなった。さらに、珪藻の形質転換体の観察により、珪藻Phaeodactylumの葉緑体トランスロケータの位相に関し、新たな知見を展開している。以上より、本論文は二次共生藻におけるオルガネラタンパク質の輸送機構に関し、これまでの報告を踏まえた上で新たな知見を提唱するものとして、非常に重要である。

なお、本論文第1章は梶谷博之、佐藤繭子、森山陽介、茂木祐子、河野重行、第2章は森山陽介、佐藤繭子、佐野俊夫、馳澤盛一郎、大田修平、河野重行との共同研究で、共著論文として論文発表もしているが、論文提出者が主体となって研究および論文作成を行ったもので、本論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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