学位論文要旨



No 115708
著者(漢字) 呂,志
著者(英字)
著者(カナ) ロ,シ
標題(和) 閉多様体の変換群の研究
標題(洋)
報告番号 115708
報告番号 甲15708
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第162号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 森田,茂之
 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 古田,幹雄
 東京大学 助教授 河澄,響矢
 大阪市立大学 教授 枡田,幹也
内容要旨 要旨を表示する

 この論文は閉多様体の上の変換群についての三つの考察からなる。広義Smith予想、閉多様体の上の(Z2)κ-作用と半線型のホモロジーG-球面及びこれらの同変慣性群である。一般に、閉多様体の変換群の研究は、位相幾何学のほとんど全ての理論と方法を必要とする。我々の研究では、主に以下の理論が重要である。結び目の理論、同変同境(cobordism)理論、同変手術理論、特性類の理論、代数理論と表現論である。また、符号(Signature)、Arf不変量と特性数も使用する。論文は以下の三つの章からなる。

 第一章では、余次元が1を超える広義Smith予想について議論する。これは、l-h>1及びl>3の条件の下で、不動点集合が従順(tame)な非自明な結び目のh次元球面Shとなるようなl次元球面Sl上の周期変換は存在しないという予想である。これは本来のSmith予想(すなわち、l=3及びh=1)の自然な一般化である。本来のSmith予想は、トポロジカルカテゴリーとPLカテゴリーではいくらかの特殊の場合を除いて成り立たず、可微分カテゴリーでは成り立つ、ということが分かっている。本章の目的は、Brieskorn多様体を使用することにより、広義Smith予想に対する明示的な反例を与えることである。このようなアイディアはDavisにより示されている。l-h>1及びl>3の条件の下で、球面Shの球面Slへの埋め込みの状況により、広義Smith予想を、余次元が2である場合と余次元が2を超える場合に分けて議論する。

 余次元が2である広義Smith予想に対しては、Giffen、SumnersとGordonは、それぞれ異なった方法で、どんなカテゴリー(すなわち、トポロジー、PLと可微分)でも、成立しないことを証明している。この章では、Brieskorn球面を使用することにより、トポロジーと可微分のカテゴリーにおいて、5を超える奇数次元のBrieskorn球面について余次元が2の広義Smith予想に対する明示的な反例を与える。

 定義. Brieskorn多様体Σa=Σ(a1,…,an)は、f-1(0)と中心が原点である半径が十分小さい球面Sεの横断的交叉である。ここで、f:Cn→Cは、1を超える整数aκに対して、

 f(Z1,…,Zn)=za11+…+Zann

により定義される複素多項式関数である。

 Brieskorn多様体の代数的な定義から、Σa=Σ(a1,…,ak,…,an)には常に自然な周期akの微分同相Tkで、その不動点集合がΣ(a1,…,ak,…,an)(=Σak)となるものが存在する。先ず、我々はΣakがΣa内で非自明な結び目であることを示す以下の定理を証明する。

 定理A.1〓κ〓n及びn〓4という条件の下で、補空間Σa-ΣakはS1のホモトピー型を持たない。

 トポロジカルカテゴリーでは、Brieskornによって与えられた「a=(a1,…,an)の言葉で、Σaが位相的球面になることを決定する」簡単な方法を用い、Σaとあるκに対し、Σakが位相的球面になる特殊なa=(a1,…,an)を選ぶことにより、広義Smith予想に対する明示的な反例を得る。

 定理B. m〓2,n〓5を満たす整数m,nを取る。この時、〓に対し、Brieskorn多様体ΣaとΣanはそれぞれ2n-3次元と2n-5次元の位相的球面になる。従って、Σaの上のZm-作用Tnの不動点集合ΣanはΣaにおいて非自明な結び目である。

 可微分のカテゴリーでは、多様体の符号に対するHirzebruchとMayerの計算方法を改良することにより、広義Smith予想に対する明示的な反例を得る。

 定理C. 整数m,nがm〓2かつn〓5を満たすと仮定する。

 (i).a=(2,・・・,2,}2l-1 2mσl+1,2mσl-1,m)に対し、Brieskorn多様体ΣaとΣa2l+2はそれぞれ4l+1次元と4l-1次元の標準的な球面に微分同相になる。従って、Σaの上のZm-作用T2l+2の不動点集合Σa2l+2はΣaにおいて可微分な非自明な結び目である。

 (ii).a=(2,・・・,2,}2l-2 2mσl+1,2mσl-1,m)に対し、Brieskorn多様体ΣaとΣa2l+1はそれぞれ4l-1次元と4l-3次元の標準的な球面に微分同相になる。従って、Σaの上のZm-作用T2l+1の不動点集合Σa2l+1はΣaにおいて可微分な非自明な結び目である。

 ここで、σlは整数22l+1(22l-1-1)・numerator(4Bl/l)、及びβlはl番目のBernoulli数である。

 次に、余次元が2を超える広義Smith予想を考える。この場合は、球面Shを球面Slに埋め込む結び目の理論と直接に関係がある(ここで、l-h>2かつl>3である)。「もしl-h>2かつl>3ならば、トポロジカルカテゴリーとPLカテゴリーでは、球面Shの球面Slへの埋め込みについて、非自明な結び目は存在しない。また、2l>3(h+1)ならば、可微分のカテゴリーでは、球面Shの球面Slへの埋め込みについても、非自明な結び目は存在しない。」ということがよく知られている。従って、球面Shを不動点集合とするSlの周期変換は存在すれば、広義Smith予想は、上に述べたlとhの範囲内で、成立する。しかし、2h+4<2l〓3(h+1)の時、HaefligerとLevineは、「可微分のカテゴリーでは、球面Shを球面Slに非自明な結び目として埋め込むことは可能である」とことを示した。さらに、HaefligerとLevineは、「2h+4<2l〓3(h+1)かつh+1≡0(mod4)の条件の下で、球面Shを球面Slに非自明な結び目としての埋め込みは、可微分のカテゴリーでは、無数に存在する。」ということを証明した。従って、我々は、可微分のカテゴリーにおいて、2h+4<2l〓3(h+1)とh+1≡0(mod4)の条件の下で広義Smith予想を考察する。Brieskorn多様体の代数的性質に基づいて、Brieskorn多様体の上のZm-作用が構成される。そして、球面Shの球面Slへの結び目としての埋め込みに関するLevineの仕事により、2h+4<2l〓3(h+1)とh+1≡0(mod4)の条件を満たすには、h次元のホモトピー球面の球面Slへの埋め込みが非自明かを判定する不変量Λが定義される(標準的な球面Shの球面Slへの埋め込みに対して、類似な不変量Δも定義される)。さらに、Brieskorn球面と以上の不変量を利用して、2を超える偶数l-h、奇数l、2l〓3(h+1)とh+1≡0(mod4)に対して、広義Smith予想に対する明示的な反例を与えることができる。具体の結果は下に述べられる。

 定理D.(i). 正整数r,κ,mがm>1及び〓を満たすとする。

に対し、Σ4r+1aとΣ4k-1a'はそれぞれ標準的な球面に微分同相である。さらに、Σ4r+1a上には、非自明な結び目Σ4k-1a'が不動点集合になるZm-作用が存在する。

 (ii). 正整数γ,κ,m,がm>1及び〓を満たすとする。〓に対し、整数aが存在して、〓はそれぞれ標準的な球面に微分同相である。さらに、〓上には、非自明な結び目〓が不動点集合になるZm-作用が存在する。

 また、上に述べた不変量ΛとΔを用いて、この章において、他の応用も得られてしいる。

 第二章では、閉多様体の上の(Z2)κ-作用を研究する。研究内容は二つの部分を分けられる。先ず、我々は、不動点集合の各成分の接束のStiefel-Whitney類が自明になるような閉多様体の上のZ2-作用(対合)を考察する。不動点集合F=UkFn-kの各成分がW(Fn-k)=1を満たす対合(T,Mn)は、同変的に境界とならなければ、dimFが下から評価される。(ここで、Wは全Stiefel-Whitney類を意味する)。具体的には以下の定理が得られる。

 定理E. n>2dimFならば、W(F)=1となる対合(T,Mn)は同変的に境界となる。

 定理Eは、性質:「〓に対しW(Fn-k)=1」を持つ不動点集合〓を持つ対合(T,Mn)にまで一般化することができる。結果は以下に述べる。

 定理F. (T,Mn)が 性質:「κ〓3-5nに対しW(Fn-k)=1」を満たす不動点集合F=UkFn-kを持つ対合であると仮定する、もしn>2dimFならば、(T,Mn)は同変的に境界となる。

 W(F)=1の性質を持つ対合(T,Mn)についてはさらに詳しいことがわかる。Thomの非有向同境群MOnの部分群Γk1,・・・,kln(不動点集合〓の各次元の成分がW(Fn-ki)=1なる性質を持つ対合(T,Mn)の非有向同境類の集合)が定義される。〓と定義して、Thomの非有向同境環M0*=Σn〓0MOnの部分環Γ*=Σn〓0Γnを得る。この章では、KosniowskiとStongの公式及び同境理論を利用して、Γ*の環構造を決定する。これにより、KosniowskiとStongの一つの予想が解決される。さらに、部分群Γk1,・・・,klnの群構造が決定できる。

主要な結果は

 定理G. Γ*は、実射影空間RP(2s)(S〓1)の非有向の同境類で生成されるZ2-多項式代数である。

 次に、不動点集合の各次元の成分が連結と仮定しない(Z2)κ-作用を考える。(Z2)κ-作用に関する不動点集合の線型独立性の条件を定義する。この条件の下で、不動点集合の各次元の成分の連結性の仮定なしで、(Z2)k-作用に対する結果が二つ得られる。ひとつはKosniowskiとStongによる結果を改良するものである。すなわち、不動点集合の線型独立性の条件により、KonsiowskiとStongの結果における不動点集合の各次元の成分が連結という条件を、除くことができる。具体的には

 定理H. (T,Mn)が不動点集合〓の各次元の成分Fn-hが線型独立性の条件を満たす(Z2)κ-作用であると仮定する。もしn>(2k+1-1)dimFならば、(T,Mn)は同変的に境界となる。

 もうひとつの結果は

 定理I. 孤立点のみから成る不動点集合を持つ(Z2)κ-作用(T,Mn)(n>1)の不動点集合は線型従属性の条件を持つ。

 定理Iから、不動点集合が一つまたは二つの孤立点を含む場合には、(Z2)κ-作用の同境類が決定できる。

 第三章では、半線型のホモロジーG-球面及びこれらの同変慣性群を考える。θnをn次元ホモトピー球面のホモトピー同境類の集合の連結和を演算とする可換群とする。また、Hθnをn次元ホモロジー球面のホモロジー同境類の集合の連結和を演算とする可換群とする。KervaireとMilnorはn≠3のとき、θnは有限群であることを示した。θ3の構造は決定されていない。これは3次元のPoincar6予想と直接関係している。一方、FintushelとStemはHθ3は無限群であることを証明した。θnとHθnの間の関係について、HsiangとKervaireは、n≠3のとき、θnとHθnは同型であることを示した。従って、任意のn次元のホモロジー球面の慣性群は、n≠3の場合は、自明である。この章では、以上のものの同変類似物を考える。θnの三つの同変類似物θGV、θG,8VとΓGVが知られているが、それらは大部分の場合に互いに同型である。ここで、GはLie群、VはG-表現とする。この章ではΓGVのホモロジー類似物を考える。ここで、θGVは、dimVG>0の条件の下で、不動点の接空間がVと同値であるような半線型のホモトピーσ-球面の同変ホモトピー同境類の集合の同変連結和を演算とする可換群である。θGVに対しては、Hθnの一つ同変類似物HθGVが構成できる。特に、θGVとHθGVは比較できる。HθGVを構成するために、次の定義を導入する。

 定義. Gの各部分群Hに対する不動点集合MHが空でないホモロジー球面であるようなホモロジーG-球面Mを半線型のホモロジーG-球面と呼ぶ。

 定義. 二つ有向的G-閉多様体M1,M2は、Gの各部分群Hに対して、∂WH=MH1U-Mh2及び包含写像ij:Mj→W(j=1,2)が同型〓を誘導するような有向G-多様体Wが存在すれば、G-ホモロジー同境と呼ぶ。

 定義. G-写像f:X→Yが、Gの各部分群Hに対して、同型〓を誘導する時、XとYはG-ホモロジー同値と呼ぶ。

 以上の三つの概念に基づいて、θGVを不動点の接空間がVと同値であるような半線型ホモロジーG-球面の同変ホモロジー同境類の集合と定義する。dimVG>0の時、θGVは、同変連結和の下で、可換群になる。さらに、半自由なG-作用に対し、θGVとHθGVの間の関係を考察する。

 定理J. G-作用は半自由、dimV-dimVG〓3+dimGがつdimVG>0とすると、T([Σ]G)=<Σ>Gにより定義される写像

は、dimVG≠3,4ならば、同型写像であり、dimVG=4ならば、単射準同型写像である。

 この結果は、半線型ホモロジーG-球面の同変慣性群の研究に応用できる。以下に述べる結果が得られる。

 定理K. G-作用は半自由、dimV-dimVG〓3+dimG、dimVG>0と仮定する。dimVG≠3ならば、任意の<M>G∈HθGVに対するMの同変慣性群は自明である。

審査要旨 要旨を表示する

 閉多様体上のコンパクト群の作用の研究は微分位相幾何学における重要な問題である。この研究では、群作用の固定点集合の位相あるいは配置と多様体の位相の関係を調べることが重要である。

 論文提出者呂志は、本論文において閉多様体上のコンパクト群の作用に関する3つの研究を行っている。それらは、広義スミス予想の反例の代数的構成、閉多様体上の(Z2)k作用の固定点集合の接束、ホモロジーG球面の同変慣性群の研究である。

 本論文の第1章において、奇数次元球面上の巡回群の作用を研究している。3次元球面上の滑らかな巡回群作用の固定点として現れる結び目は自明であるというのがスミス予想で、これは解決されている。また、それ以前に、Giffen.Sumners.Gordon等により、高次元球面における巡回群作用で固定点集合が非自明な球面結び目となるものは構成されている。ブリースコーン多様体を用いて、奇数次元球面上の巡回群の作用で、固定点集合が非自明な球面結び目となるものが構成できるであろうことはDavis等により示唆されていた。論文提出者は実際にこのような例を明示的に与えた。

 実際、ブリースコーン多様体Σ(a1,..,an)={(z1,・・・,zn)∈Cn:za11+・・・+zann=0,|z1|2+・・・+|zn|2=ε2}に対しては第k成分に作用するZak作用があり、その固定点はΣ(a1,・・・,ak,・・・,an)となる。まず、論文提出者は、この画定点の補空間が円周のホモトピー型を持たないことを注意した。それにより、特に4l+1次元(l〓1)あるいは4l-1(l〓2)次元ブリースコーン多様体Σ(2,…,2,2mσl+1,2mσl+1,m)は、4l+1次元あるいは4l-1次元標準球面であり、このブリースコーン多様体の最後の成分に作用するZm作用は、非自明な標準球面結び目Σ(2,・・・,2,2mσl+1.2mσl+1.m)を固定点とすることを示した。ただし、σl=22l+1(22l-1-1)numerator(βl/l)(βlはベルヌーイ数)。また、ヘフリガーの余次元の高い可微分結び目の例も構成している。すなわち、ブリースコーン多様体Σ(2,…,2,2mσl+1,2mσl+1,m,・・・,m)について、2は2k-1個、mは2r-2k+1個とすると、このブリースコーン多様体は、4r+1次元標準球面であり、このブリースコーン多様体の最後の2r-2k+1個の成分に作用するZm作用は、非自明な標準球面結び目Σ(2,・・・,2,2mσl+1,2mσl+1,m,・・・,m)を固定点とすることを示した。

 本論文の第2章において、閉多様体上の(Z2)k作用の固定点集合の接束の研究を行っている。Z2作用については、その固定点集合を次元により和に書いたとき固定点集合UFn-kの成分Fn-kの全スティーフェル・ホイットニー類W(Fn-k)について、k〓(3/5)nならばW(Fn-k)=1が成り立てばこの作用は同変的に境界となることを示した。また、固定点集合のすべての成分Fn-kiがW(Fn-ki)=1を満たすとき、そのようなZ2作用を持つ閉多様体の非有向同境類の集合のなす非有向同境類環MOnの部分環Γ*=ΣΓk1,・・・,klnが定義されるが、これの構造を決定した。すなわちΓ*は2の冪乗の次元の実射影空間の非有向同境類で生成されるZ2多項式環である。(Z2)k作用については、それが同変的に境界となるための条件を与えるとともに、固定点集合が1つまたは2つの孤立点のみからなる場合に同境類を決定している。

 本論文の第3章において、コンパクトリー群Gの作用を持つホモロジー球面の同変慣性群の研究を行っている。ホモトピー球面の群θnからZホモロジー球面の群Hθnへの写像はn≠3のとき同型であることが知られている。固定点集合VGの次元が正であるようなGの線形表現Vに対し定義される半線形ホモロジーG球面とは、固定点集合が空でないZホモロジー球面であり、その固定点の接空間へのGの作用がVと同型であるようなG作用を持つZホモロジー球面である。このようなもののホモロジー同境類HθGVは群をなす。このとき、同様に定義される半線形ホモトピーG球面のh同境類θGVからHθGVへの写像は、G作用が半自由、dimV-dimVG〓3+(dimG、dimV>0、dimVG≠3,4のとき、同型写像である。またdimVG=4ならば単射であることを示した。このことから、同様の仮定の元で、dimVG≠3ならば半線形ホモロジーG球面の同変慣性群は自明であることがわかる。

 このように論文提出者の研究は、多岐にわたっておりながら、非常に完成度の高いものであり、閉多様体のコンパクト群作用の研究において非常に重要なものである。よって本論文提出者呂志は博士(数理科学)の学位を授与されるに十分な資格があるものと認める。

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