No | 115859 | |
著者(漢字) | 落合,友四郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オチアイ,トモシロウ | |
標題(和) | コンツェビッチ積分に対する組み合わせ論的計算公式 | |
標題(洋) | The Combinatorial Gauss Diagram Formula for Kontsevich Integral | |
報告番号 | 115859 | |
報告番号 | 甲15859 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第3903号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 結び目の分類は数学において重要な未解決問題のうちのひとつである。この問題に対して1920年代にアメリカのJ.W.Alexanderが部分的解答として最初の絡み目不変多項式であるAlexander多項式を発見した。Alexander多項式は向き付けられた結び目の位相同値類に対して多項式を対応させるものである。しかしAlexander多項式はある程度結び目を区別することが出来るが、すべての結び目を分類出来るほど強力ではない。その後60年ほど結び目理論は停滞気味であったが、1980年代半ばにV.F.R.Jonesが作用素環の研究から大きな発見をした。彼は60年ぶりに新しい結び目多項式であるJones多項式を発見したのである。これを契機に、Yang-Baxter方程式の解などを用いて次々と新しい不変多項式がたくさん発見された。これら多数の不変多項式は、量子群やKZ方程式を用いて量子不変量として統一的に理解される事となった。 一方、思いがけない事に物理学の領域から大きな進歩がもたらされた。1989年、E.WittenはChern-Simons場の量子論と結び目不変多項式の関係を明らかにしたのである。彼はChern-Simons場の量子論でWilson loopsの真空期待値はJones多項式をはじめとする結び目不変多項式になることを示したのである。 1990年に量子不変量とは独立に、V.A.VassilievによりVassiliev不変量(有限型不変量)という新しい概念が導入された。その後、Birman-LinによりJones多項式をはじめとする量子不変量の展開係数はVassiliev不変量になることが示された。このことはChern-Simons場の量子論においてWilson loopsの真空期待値の摂動展開係数はVassiliev不変量になることが示唆される。Vassiliev不変量の登場により、量子不変量の摂動展開係数の重要性が認識されるようになった。 1993年に、M.KontsevichはVassiliev不変量に関して重要な発見をした。彼は、KZ方程式より反復積分を使いKontsevich積分を定義した。Kontsevich積分からweight systemを通して全てのVassiliev不変量が構成できる。さらにその特別の場合として、Lie環とその表現から定義されるweight systemとKontsevich積分を組み合わせる事により、すべての量子不変量を再構成する事もできる。つまりVassiliev不変量と量子不変量は両方ともKontsevich積分より導かれることが示された。これらの意味で、Kontsevich積分は結び目を研究する上で重要な対象であると考えられている。 この博士論文ではKontsevich積分を利用して多成分絡み目の場合4次まで、Vassiliev不変量に対する組み合わせ論的公式を導出した。この公式は、実際に計算実行可能という望ましい性質を持つ。 一方、Hirshfeld,Sassenberg,Klokerらは1連の論文の中でChern-Simons場の理論を利用して、多成分結び目3次までの場合にVassiliev不変量の組み合わせ論的公式を導出した。その後、LabastidaもChern-Simons場の理論を利用して、1成分結び目4次までの場合にVassiliev不変量の組み合わせ論的公式を導出した。 この博士論文の公式は彼らの結果を完全に含むもので、4次の多成分絡み目の場合には完全に新しい公式である。さらに場の量子論を使っていないので、公式の導出が数学的である。この公式は実際にVassiliev不変量(またはKontsevich積分)を組み合わせ論的に計算することを可能にする具体的な公式である。 この論文では以下の結果を示す。定理1において多成分絡み目の場合4次までKontsevich積分は、絡み目不変量ν1,ν2,ν3.1,ν3.2,ν4.1,ν4.2,ν4.3,ν4.4を用いて表される事を示す。次に定理2において、これらの絡み目不変量ν1,ν2,ν3.1,ν3.2,ν4.1,ν4.2,ν4.3,ν4.4に対して、Gauss Diagramを用いた組み合わせ論的公式を与える。その際、Kontsevich積分に対する帰納的議論より、これらの組み合わせ論的公式を導びく。weight systemにリー環su(N)を採用することによりKontsevich積分からHomfly多項式が導かれることが知られている。そこで定理2の系においてHomfly多項式の展開係数に対する組み合わせ論的公式が得られる。組み合わせ論的公式の検証としてこのHomfly多項式の展開係数に対する組み合わせ論的公式がHomfly多項式のskein relationを満たすことを直接示す。これで確かに得られた組み合わせ論的公式が正しいものであることが傍証できる。 以下、論文の構成を述べる。まず第2、3、4、5章において、結び目不変多項式、Chern-Simons場の理論、Vassiliev不変量、weight sysytemとKontsevich積分を復習する。そして第6、7章においてGauss Diagramを用いた組み合わせ論的公式とその公式に必要な概念の定義を与える。第8章において、Homfly多項式との関係を議論して、組み合わせ論的公式を特別な例の場合に実際に計算してみる。第9章において、Kontsevich積分に対する帰納的議論より、これらの組み合わせ論的公式の証明を与える。第10章において組み合わせ論的公式をHomfly多項式のskein relationに代入することにより傍証をする。 | |
審査要旨 | まず第1章では結び目の分類問題の歴史的背景と本論文の結論の要約を与え、続いて第2、3、4、5の各章において、各々結び目不変多項式、Chern-Simons場の量子論、Vassiliev不変量、weight系とKontsevich積分についてreviewを行っている。第6、7章でさらにKontsevich積分と絡み目不変量について述べ、Gauss Diagramなどの必要な概念を与えた後、Vassiliev不変量に対する組み合わせ論的公式を提示する。第8章においては、組み合わせ論的公式を特別な場合に適用して、Homfly多項式との関連を議論する。第9章では、Kontsevich積分に対する帰納的議論により、第7章で提示した組み合わせ論的公式に対する証明を与える。第10章では組み合わせ論的公式をHomfly多項式のskein relationに代入して、その整合性を示す。第11章ではArnoldによって与えられたplane curveに対する不変量を用いて、Gauss Diagramに対する前出の公式の別形式を求める。そして第12章で、同様な方法でVassiliev不変量に対する組み合わせ論的公式を議論したPolyak-Viroの結果との比較を行う。最後に、第13章で本論文の結論と今後の展望を述べる。Appendixとして、本文で行った技術的操作を補足し、記法の一覧を加えて第14章としている。 本論文の研究テーマの学問的背景、および本文で行われた議論とその結果は以下の通りである。 数学における重要な未解決問題に結び目の分類問題がある。この問題に対するアプローチとして、結び目(あるいは絡み目)に対応する位相不変量を構成する試みがなされているが、その系統的な構成法として近年、位相的ゲージ理論であるChern-Simons場の量子論が用いられている。特に、最近位相不変量として重要視されているVassiliev不変量については、これをWilson loopの真空期待値の摂動展開係数として導くことができ、実際これに基づいて(不完全ながら)結び目の次数で4次までが構成されている。しかしこの方法では、場の量子論特有の発散の問題、およびゲージ理論特有のゲージ固定の問題の両方の存在により、厳密な意味での基礎付けが難しく、また高次の構成も実際上困難になっている。 本論文では、Vassiliev不変量を構成するにあたり、上記の困難の無い、組み合わせ論的公式を用いた方法を展開し、実際に完全な4次までの結び目のVassiliev不変量を構成している。その基礎となったのは、最近明らかになったKontsevich積分とVassiliev不変量との関係であり、これは任意のVassiliev不変量を、適当なweight系をKontsevich積分に対応させることによって導くことができるというものである。この関係を具体的に4次までのKontsevich積分について書き出し、これから4次までの絡み目の不変量がどのように与えられるかを明示している(定理1)。さらに定理2において、この4次までのVassiliev不変量に対してGauss Diagramを用いて組み合わせ論的公式を確立し、これに基づいて系統的にVassiliev不変量を計算することに成功している。得られた不変量の表式は、LabastidaらがChern-Simons場の量子論を用いて以前に求めたもの、あるいはPolyak-Viroによって既に(異なる組み合わせ論的公式を用いて)与えられたものについては一致しており、またある種の4次の不変量は、本論文で初めて導かれたものである。 またさらに、本論文で導かれた組み合わせ論的公式に対する別の角度からの検証として、設定を変えてHomfly多項式等、他の不変量を導出することも合わせて議論し、何れも肯定的な結論を得ている。 審査結果として、結び目の分類問題につき、新たな不変量構成の方法を確立し、かつ従来知られなかった次数の不変量を発見したこと、およびこれらを独力で行ったことを評価し、論文提出者に博士(理学)の学位を授与できるものと判定した。 | |
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