No | 115883 | |
著者(漢字) | 幡山,五郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハタヤマ,ゴロウ | |
標題(和) | アフィンリー環の結晶基底を用いたソリトンセルオートマトン | |
標題(洋) | Soliton cellular automata associated with crystal base of affine Lie algebra | |
報告番号 | 115883 | |
報告番号 | 甲15883 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第3927号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1990年に高橋・薩摩によって提唱されたソリトン的なふるまいを示すセルオートマトンが導入された。これは、0と(有限個の)1という数字が一次元上に並んでおり、次のルールに従って変化して行くシステムである。 (i)もっとも左にある1を、その右にある一番近い0に動かす。1がいた場所は0にする。 (ii)残りの1のうち、もっとも左にあるものをその右にある一番近い0に動かす。1がいた場所は0にする。 (iii)以上の操作をすべての1が移動するまで続ける。 0を空箱、1を箱に1つの玉が入っている状態とみなすと、耳が1つだけ入る箱を1次元上に並べて、その中を有限個の玉がルールに従って動いていく系とも解釈できるので「箱玉系」と呼ばれる。この箱玉系は、11...1の並びを波とみなし、その長さを波の高さと読み変えると、このシステムはソリトンが有する下記の性質をもつ(図参照)。 ・波が単独で存在するときは、その形を変えずに進んでいき、その高さが高いほど速く進む。 ・速く進む高いほうの波が低いほうの波を追い越すときにはお互いが干渉しあって形を変えるが、その後充分時間がたつと、ふたたびそれぞれが元の形を復元し、高いほうの波が低いほうの波の先を進んでいく。 連続的な値を取る方程式からセルオートマトンを導く「超離散化」によって、Lotka-Vblterra方程式から箱玉系が導かれることがわかり、そのソリトン性が説明された。系のソリトン的な性質を保ちながら、箱に入る玉の容量を増やしたり玉の種類を増やして各々が順々に動いていくようなルールの拡張も知られており、これらをまとめて箱玉系と呼ばれている。 一方、1990年に柏原によって導入された結晶基底(crystal base)はqというパラメーターを持つ量子群のq=0における表現である。可解格子模型において絶対温度0度の状態、すなわち量子群のパラメーターqが0となる状態では現象が単純になるであろうという考察から導かれた理論であり、リー代数の表現論を組合せ論的な問題に帰着させることを可能にし、表現論や可解格子模型の研究を行う上での重要な道具となっている。たとえば、反強磁性体と関係する可解格子模型に対してバクスターの角転送行列法によってq=0における一点関数を求めると、その熱力学的極限においてアフィンリー代数の分岐関数が得られることが結晶基底の理論により説明された。 本論文では、箱玉系と結晶基底との関係性を明らかにし、それから結晶基底の理論を通して箱玉系を代数的に拡張したソリトンセルオートマトンを構成してその性質を研究する。以下、章ごとにその内容を説明する。 第2章では、まずU’q(A(1)n)の結晶基底の同型(組み合わせ的R行列))を用いて2次元可解格子模型を構成し、ほとんどのスピンがそろった境界条件、すなわち強磁性的な境界条件を与える。この模型は絶対0度(q=0)の状態であり境界条件を与えれば格子上の全ての状態変数の値が確定するので、模型のどちらか1次元方向の状態(たとえば横軸)だけに着目すると、その縦軸方向への変化はセルオートマトンのダイナミクスと考えられる。このオートマトンが、簡単な読み替えにより箱玉系と同一であることを示した。 このことを結晶基底の言葉を用いて書き直す。Uq(An)のl-階対称表現に対応するU’q(A(1)n)の結晶基底をBlとし、Uq(An)表現としてのhighest weight elementをul∈Blとする。箱玉系は、 と同一視できる。空箱がuθkに対応し、{θk}k∈zが各点における箱の容量を表すパラメーターである。そのダイナミクス〓は、同型〓によって、〓として表される。 また、こうして定義されたセルオートマトンのいくつかの性質を結晶基底の理論を用いて示された: (i)速さlで進む1-ソリトンはU’q(A(1)n)の結晶基底Blを用いてパラメトライズされた。 (ii)2-ソリトンの散乱は結晶基底の同型を用いて表された。 (iii)エネルギー関数やPシンボルなど表現論の言葉を用いて、箱玉系では知られていなかった保存量が無限個得られた。 第3章では、第2章で結晶基底を用いて定義したセルオートマトンを拡張する。gnをA(1)n以外の非例外型アフィンリー環、すなわちA(2)2n-1,A(2)2n,B(1)n,C(1)n,D(1)nまたはD(2)n+1とする。U1q(An(1)nのかわりに、U’q(gn)の結晶基底{Bl}l∈Nを用いて第2章と同様にセルオートマトンを定義し、それを「gnオートマトン」と呼ぶ。gnオートマトンに対しても、A(1)nオートマトンと同様な性質-ソリトン性、1-ソリトンをU’q(gn-1)の結晶基底を用いてパラメトライズできる、2-ソリトンの散乱は結晶基底の同型を用いて表される、エネルギー関数を用いた無限個の保存量がある− をもつことを示した。 第4章では、第2,3章でオートマトンを定義するときに用いた非例外型アフィンリー環の結晶基底のテンソル積表現の同型(組合せ論的R行列)を結晶基底に働くWeyl群のオペレーターを用いて分解できることを示す。 一般に組合せ論的R行列を具体的に表す表式は得られていないが、オートマトンの定義に使われたある種の定義域に限定すれば、 と分解して表せることを示した。ここで、σB,σはDynkin図の同型に対応するオペレーター、Siは結晶基底に働くWeyl群のオペレーター、Pは置換である。またこの分解を用いて、gnオートマトンのダイナミクスに対して箱玉系としての解釈を与えることができた。 以上が本論文の概要である。代数的な立場から箱玉系を眺めることにより、未知の保存量が得られ系統的な拡張も行えた。またgnオートマトンの性質を調べることにより、結晶基底の同型がオートマトンの散乱で表せ、Weyl群のオペレーターを用いて分解できることが示せた。箱玉系と結晶基底の双方の理論に対するこれらの発展をまとめたものが本論文である。 | |
審査要旨 | ソリトン方程式は通常、非線形偏微分方程式として物理学に登場する。近年、空間の離散化や時間の離散化に関する研究が活発に行われている。物理的な要請とともに、微分方程式の解法などにおける数値計算の基礎を調べる目的があるからである。独立変数と従属変数をすべて離散化した力学系をセルオートマトンという。本論文は、ソリトン的振る舞いを示すセルオートマトンとして知られていた「箱玉系」を、可解格子模型の研究において導入された結晶基底を使って定式化し、また、セルオートマトン模型の拡張をはかることを目的としている。 本論文は第1章〜第5章と付録A,Bから構成される。第1章では、本論文研究にいたる簡単な歴史と論文の構成がまとめられている。 第2章では、まず量子アフィン代数U’q(A(1)n)の結晶基底の同型を用いて2次元可解格子模型を構成し、ほとんどのスピンがそろった境界条件、すなわち、強磁性的な境界条件を与える。この模型は絶対0度(量子群パラメータq=0に相当)の状態であり、境界条件を与えれば格子上のすべての状態変数の値が確定する。したがって、2次元格子のどちらか1方向(たとえば横軸)上の状態変数だけに着目すると、他方向(縦軸方向)での変化はセルオートマトンのダイナミックスと考えられる。こうして、このオートマトンが、簡単な読みかえにより箱玉系と同一であることが示される。このようにして定義されたセルオートマトンは、次の性質をもつことを、結晶基底を使って示すことができる。 1)速さlで進む1-ソリトンはU’q(A(1)n)の結晶基底β,を用いて表される。 2)2-ソリトンの散乱は結晶基底の同型(組み合わせ的R行列)を用いて表される。 3)エネルギー関数やPシンボルなどの表現論の用語を用いて、保存量を無限個得ることができる。 上で得られる保存量は従来知られていないものである。 第3章では、結晶基底を用いて定義されるセルオートマトンを拡張する。すなわち、第2章で述べたA(1)nの代わりに、それ以外の非例外型アフィンリー環gn=A(2)2n-1,A(2)2n,B(1)n,C(1)n,D(1)nまたはD(2n+1)を採り、考察を進める。一般に、U’q(gn)の結晶基底{Bl}を用いてセルオートマトンを定義し、それを「gnオートマトン」とよぶ。gnオートマトンに対しても、A(1)nオートマトンと同様な性質(上記1)-3))があることが示される。興味深い問題の1つとして、同じ長さ(同じ速さ)のソリトンが共存しうるか、また、共存するならばどのような動的振る舞いをもっているか、がある。この問題は初期条件の設定と関連して残された問題である。 第4章では、gnオートマトンを定義するときに用いた非例外型アフィンリー環の結晶基底のテンソル積表現の同型(組み合わせ論的R行列)を、結晶基底に働くWeyl群のオペレーターを使って分解できることを示す。一般に組み合わせ論的R行列を具体的に表す表式は得られていないが、充分に広い定義域において分解できることが証明される。この分解を用いると、gnオートマトンのダイナミックスと箱玉系の規則がより適確にとらえることができる。第5章は全体のまとめ、付録A,Bは本文において用いられる数学的用語の説明に用いられている。 以上、本論文提出者は、ソリトンセルオートマトンを代数的な立場から定式化し、可積分理論との関連を明らかにした。結晶基底を用いた一般的なソリトンオートマトンの構成、保存量の表現、Weyl群オペレータを用いた散乱状態の記述は新しい。箱玉系においては時間発展が規則として与えられ、力学系との関連は超離散という極限に依っていた。今回の研究によって、それとは独立な視点が確立された。本論文は、当該研究分野に新しい知見を加え、その発展に寄与するものであることを審査員全員で認めた。 なお、本論文第2,3,4章は、国場敦夫、高木太一郎、尾角正人、山田泰彦、樋上和弘、時弘哲治、井上玲との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が充分であると判断する。 従って、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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