No | 116492 | |
著者(漢字) | 伊東,利雄 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イトウ,トシオ | |
標題(和) | ある正則ファイバー空間内にある、特異ファイバーの分裂について | |
標題(洋) | Splitting of Singular Fibers in Certain Holomorphic Fibrations | |
報告番号 | 116492 | |
報告番号 | 甲16492 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第163号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | リーマン面の退化族に現れる複雑な形をした特異ファイバーを、いくつかのより単純な特異ファイバーに分裂させる問題が興味をもたれている。とくにこれ以上分裂しない、いわゆる「原子ファイバー」の形状の決定は重要である。 例えば種数が2の場合、[Ho1]および[AA]により既に「原子ファイバー」が決定されていて、種数2の「原子ファイバー」は2種類しかない事が分かっている。また種数が2より大きい場合、[AA1により退化超楕円曲線に対する「原子ファイバー」の形状が徐々に決定されつつある。 「原子ファイバー」の形状の決定は重要な問題であるが、特異ファイバーの分裂に伴ってその特異ファイバーの周りの位相的モノドロミーがどのように分解するのか、という事も興味深い問題である。 そこで筆者はある具体的な種数gの特異ファイバーを取り上げ、この特異ファイバーがどのような原始ファイバーに分裂するのか、また位相的モノドロミーがどのように分解するのかについて研究した。 1.本論文の内容 題目 Splitting of Singular FibersinCerta in Holomorphic Fibrations(ある正則ファイバー空間内にある、特異ファイバーの分裂について) Σgを種数gの閉曲面としωg:Σg→Σgを図1の様なhyperelliptic involutionとする。 またτ:S2→S2をS2の南極と北極を通る軸の周りの180度回転とする。この時商空間Σg×S2/ωg×τは2(2g+2)個の特異点を持つ。そこでこれらの特異点をブロウアップすることにより複素曲面Mgを得る。この複素曲面MgはCP2#(4g+5)CP2に微分同相となる。 そしてΣg×S2の第2成分への射影ΣgxS2→S2から自然に射影〓が誘導される。この射影fより複素曲面MgにはS2を底空間とする種数gのholomorphic fibrationの構造が入る。 このholomorphic fibration fg:Mg→S2はτの2つの固定点に対応して2本の特異ファイバーがあり、それらの位相形は共に同じになる。また各特異ファイバーの周りの位相的モノドロミーはhyperelliptic involutionωgによって与えられる。それ故これら2本の特異ファイバーを同じ記号Fωgによって表わす事にする。ここでFωgの形を図2に表わす。図2内の各線分はS2を表し添字は重複度を表す。 筆者はこの特異ファイバーFωg、がどのようなLefschetz型の特異ファイバーに分裂するのか、またその分裂に伴ってFωgの位相的モノドロミーωgがどのように分解するのかについて調べた。 特異ファイバーFωgの分裂を調べる為に、まず始めに特異ファイバーFωgを含む種数gのリーマン面の退化族を具体的に構成する。すなわち次のものを具体的に構成する。 Nをnoncompact complex surfaceとしDをC内の原点を中心に持つopen diskとする。またψ:N→Dは次の条件を満たすproper surjective holomorphic mapとする。 1.ψ|ψ-1(D\{o}):ψ-1(D\{o})→D\{o}はファイバーΣgを持つファイバーバンドル, 2.ψ-1(0)=Fωg・ そして本論文における主な結果は次のとおりである。 主定理: あるパラメータによってψをperturbしNの複素構造を変形させると、特異ファイバーFωgは2g本のI型のLefschetz特異ファィバーとLefschetz型ではない特異ファィバーF'へと分裂する。さらに特異ファイバーF'はF'の小さな近傍内で2g+2本のI型のLefschetz特異ファイバーへと分裂する それ故、特異ファイバーFωg、は2(2g+1)本のI型のLefschetz特異ファイバーへと分裂する。 b1,b2,…,b2(2g+1)を2回の分裂によって得られたD内の新しいcritical value達とする。そして基準点としてD内の0に近い正の実数b0を1つ固定し、図3に示されたループ達をとる。 この時、図4に示されたelementary transformationを何回か行って図3に示されたループ達を変形させてやると、モノドロミー表現ρ:π1(D\{b1,…,b2(2g+1)},b0)→Mgは次の2(2g+1)-tupleによって表わされる。 (ζ1,ζ2,ζ3,…,ζ2g,ζ2g+1,ζ2g+1,ζ2g,…,ζ3,ζ2,ζ1). ここでMgは種数gの写像類群を表し、ζiは図5に示された単純閉曲線Ciに沿った(-1)回のDehn Twistを表す。 それ故Fωgのモノドロミーωgは のように分解する。 以上が主定理のステートメントである。 上の主定理は[Ma2]のFact 1で述べられている特異ファイバーFωg,の分裂に関する結果の一般化である。筆者は研究の初期の段階で、種数gが小さい時の特異ファイバーFωg、の分裂について調べた。その際、分裂によって得られた新しい特異ファイバー達に関する消滅サイクルを調べる為にMiathematicaを使った。しかし本論文の証明の中でMiathematicaを使う所はない。研究の初期の段階において何処でMathematicaを使ったのかは本論文のRemark8.2を参照していただきたい。 さてholomorohic fibration fg:Mg→S2に話を戻す。MgはCP2#(4g+5)CP2に微分同相であり、holomorohic fibration fg:Mg→S2は2本の特異ファイバーFωg、を持っていた。そこでこれら2本の特異ファイバーをそれぞれ分裂させることにより次の系を得る。 系: 2本の特異ファイバーFwg、の分裂により4(2g+1)本のI型の特異ファイバーを持つ種数gのLefschetz fibration CP2#(4g+5)CP2→S2 が得られる。 また対応するモノドロミー表現は4(2g+1)-tuple (ζ1,ζ2,…,ζ2g,ζ2g+1,ζ2g+1,ζ2g,…,ζ2,ζ1,ζ1,ζ2,…,ζ2g,ζ2g+1,ζ2g+1,ζ2g,…,ζ2,ζ1) で与えられる。それ故全体のモノドロミーは (ζ1ζ2ζ3…ζ2gζ2g+12ζ2g…ζ3ζ2ζ)2=1 となる。この関係式は種数gの写像類群Mgのよく知られた関係式になる。 謝辞 本論文作成に際して、指導教官の松本幸夫先生から多大な助言、御指導をいただきました。心より深く感謝すると共にお礼申し上げます。 REFERENCES [AA] T.Arakawa and T.Ashikaga,Local splitting families of hyperelliptic pencils, I preprint. [B] J.Birman, Braids,links,and mapping class groups, Princeton Univ. Press, Princeton, N. J. USA.,(1974). [Ho1] E.Horikawa,Local deformation of pencils of curues of genus two,Proc.Japan Acad.Ser.A,Math、Sci.,64(1988),241-244. [Mal] Y. Matsumoto, Diffeomorphism types of elliptic surfaces, Topology 25 (1986), 549-563. [Ma2] Y. Matsumoto, Lefschetz fibrations of genus two - a topological approach -, Proceedings of the 37th Taniguchi Symposium on Topology and Teichmuller Spaces, ed. Sadayoshi Kojima et al., World Scientific Publishing Co. (1996), 123-148. [Ma3] Y. Matsumoto, Topology of torus fibrations, Sugaku 36 (1984), 289-301 (in Japanese). [Ma4] Y. Matsumoto, Torus fibrations over the 2-sphere with the simplest singular fibers, J. Math. Soc. Japan 37 (1985), 603-633. [Ma5] Y. Matsumoto, Splitting of certain singular fibers of genus 2, preprint. [MM1] Y. Matsumoto and J. M. Montesinos-Amilibia, Pseudo-periodic homeomorphisms and degeneration of Riemann surfaces, Bull. AMS. 30 (1994), 70-75. [MM2] Y. Matsumoto and J. M. Montesinos-Amilibia, Pseudo-periodic maps and degeneration of Riemann surfaces. I, II, preprint, University of Tokyo and Universidad Complutense de Madrid (1991/1992). [Mo] B. Moishezon, Complex surfaces and connected sums of complex projective planes, Lecture Note in Math. 603, Splinger Verlag (1977). 図 1 図 2 図 3 図 4 図 5 | |
審査要旨 | 複素数円板Δ上に与えられた閉リーマン面の退化族を変形(perturb)して,そこに含まれる特異ファイバーを,いくつかのより簡単な特異ファイバーに分裂させる問題は,代数幾何,位相幾何双方の観点から興味ある問題である.このような問題は,ファイバーの種数が1の場合にMoishezon(1977)により研究され,種数2の場合は堀川(1988),一般の種数かつ超楕円的の場合に荒川-足利(1998)により研究された.G.XiaoとM.Reidは,このような変形によってそれ以上分裂させることが不可能であるような特異ファイバー(原子ファイバー)を分類することを問題として提起している.特別な場合として,リーマン面上の単純閉曲線を1点につぶして得られるLefschetz型特異ファイバーは原子ファイバーの一種である. 一方,特異ファイバーの跡の周りを1周する底空間のループに沿って,正則ファイバーを動かすと,正則ファイバーからそれ自身への向きを保つ同相写像のイソトピー類が得られる.これを特異ファイバーの周りの位相的モノドロミーと呼ぶ.特異ファイバーの位相形と位相的モノドロミーの共役類とは全単射的に対応する(松本-Montesinos).例えば,Lefschetz型の特異ファイバーに対応する位相的モノドロミーはその消滅サイクルの周りの負型Dehnツイストである.特異ファイバーの分裂に伴い,その周りの位相的モノドロミーが写像類群の中でどのように分解するか,という問題は位相幾何学の観点からも重要である. 提出された論文は,種数gの閉リーマン面Σgの超楕円的対合ωg:Σg→Σgを位相的モノドロミーとするような特別の形の特異ファイバーFωgの分裂を扱っている.主定理は次のように述べることができる. 定理.Fωg、は,途中にC∞の操作を含む変形により,非分離的単純閉曲線を消滅サイクルとする2(2g+1)本のLefschetz型特異ファイバーに分裂させることができる.基準となる正則ファイバーの跡と新しく生まれた2(2g+1)本のLefschetz型ファイバーの跡を結ぶ底空間のアークをうまくとると,消滅サイクルはリーマン面上標準的なサイクルCl,C2,…,C2g+1(下図)に持ち来すことができ,対応する負型Dehnツイストをζ1,ζ2,_,ξ2g+1とすると,全体のモノドロミーは ζ1ζ2…ζ2g+1ζ2g+1…ζ2ζ1 により与えられる. 写像類群Mgのなかで,超楕円的対合ωgが ωg=ζ1ζ2…ζ2g2+1…ζ2ζ1 と書けることは良く知られており,上の定理の分解はこのような代数的表示を特異ファイバーの分裂として幾何学的に実現したものと考えられる.主定理の証明は次のようになされる.まず,ある具体的な有理関数hをつかって,特異ファイバーFωg、を中心ファイバーとするΔ上の種数gのリーマン面の退化族φ:N→Δを構成する.その全空間Nと射影φを変形のパラメータ∈により変形し,新しく得られた退化族φ∈:N∈→Δのなかに生じた複数個の特異ファイバーの周りの位相的モノドロミーを詳しく観察する.その際,はじめにとった有理関数hがCP1からCP1への(g+1)重の分岐被覆になっており,その2g個の分岐点では2重の分岐が起きているという幾何的事実が本質的である.論文提出者ははじめ,コンピュータを用いて分岐点の動きを観察し,小さなgについて現象論的に上の主定理を得ていたが,この幾何的事実に気づくことによって全てのgについて主定理を証明することに成功したのである. この論文の結果は,特殊な型の特異ファイバーに関する結果とはいえ,全ての種数gについて,特異ファイバーの分裂の様子を位相的モノドロミーまで込めて完全に記述した初めての成果であり,特異ファイバーの分裂に関する研究に多大の示唆を与えるものである. よって,論文提出者 伊東利雄は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. 図1:標準的サイクルC1,C2,…,C2g+1 | |
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