No | 116497 | |
著者(漢字) | 本田,龍央 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ホンダ,タツオ | |
標題(和) | 退化アフィンヘッケ代数の特別なパラメータを持つ主系列表現の幾つかの例 | |
標題(洋) | Some examples of principal series representations with special paramter of the degenerate affine Hecke algebra | |
報告番号 | 116497 | |
報告番号 | 甲16497 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第168号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 岩堀-Hecke代数の1つのvariantとして退化(次数化)afffine Hecke代数と呼ばれるC上の代数HがDrinfeld,Lusztig等によって独立に導入された.この代数はDunkel作用素等の微分差分作用素やWeyl群の作用を経由して関数空間に表現が構成され,Calogero-Sutherland模型の固有値問題や共形場理論に現れるKZ方程式系等,様々な応用を持つ.ここではHの有限次元表現を考える.特にHの有限次元の表現論はaffineHecke代数の有限次元の表現論と等価になることが知られている.退化affne Hecke代数の既約表現は同変cohomology等を用いた幾何学的構成による分類等が知られているが,一方,主系列表現と呼ばれる特別な加群の族が存在し,任意の既約表現はその1つのsub-quotientとして実現されることが知られている.そこで特にこの主系列表現を解析する. 主系列表現について述べるために少し記号を導入する.aをn次元Euclid空間とし,hをその複素化とする.不定元cをとりh=h(1)〓Ccとし,S(h)をhの対称代数とする. Rをa上のroot systemとし,そのpositive system R+を1つ固定する.WをRのWeyl群とし,C[W]をその複素数体C上の群環とする.またR上のW不変な関数kをとるとき,退化affine Hecke代数H=H(R+,k)とはC線形空間として〓という形であり,S(h),[CW]を部分代数として含み,更にκを含む或る関係式をみたすものとして定義される.Hの主系列表現とはhの双対空間h*の元λに対し というλに付随するS(h)の1次元表現Cλからの誘導表現として得られる加群のことをいう.任意のroot αに対しλ(αv)≠±kaλ(c)となることとIλが既約であることが同値であり,また,IωλとIλは重複度を込めて同じ組成因子を持つことが知られている.特に後者に注意して,我々は“λのW軌道内の適当な1つparameter ωλに対応するIωλの組成列を具体的に構成する”という問題を考えることにする.ただし,この適当なωλの取り方は主系列の別の模型との関連から自然に与えられることに注意する.ここでこのωλを改めてλと記すことにする. λが正則(任意のα∈Rに対しλ(αv)≠0)であるとき,αに対しλ(αV)=kaλ(C)となるとIλの既約性が崩れることに注意して,このようなsimple rootからなるrootの部分集合をFとすると,各α∈Fに対しπaα:ITαλ→Iλというintertwinerが存在し,これらの共通部分,及びその和を取ることにより組成列が構成できる.このようにして得られる組成列を放物型組成列と呼ぶことにする.従ってλが正則な場合は簡単に組成列が構成できるのだが,一方,λが正則ではない場合には問題は非常に複雑になる. この論文では,第一に,一般のλに対するIλの組成列の構成は,任意のsimplerootαに対しλ(αv)が0かkaλ(C)のどちらか一方になる特殊なλに対するIλの組成列の構成に帰着されることを示した.もう少し詳しく述べると,先ずλ(αv)=0またはKaλ(c)となるsimple rootの集合Fに対し,Fによって生成されるWの放物型部分群をWFとし,更にαv(α∈F)及びcから生成されるhの部分空間をhF,またhFをhFの直交補空間とするとき,WFとS(hF)(resp.S(h))によって生成されるHの部分代数HF(resp.PF)を考える.また,λをhF,hFに制限したものをλF,λFとする.λFに対応するS(hF)の1次元表現CλFから誘導されるHFの表現〓の任意の組成列 をとる.このとき〓に注意すると (1)というIλの部分加群の狭義単調減少列を得る.このとき Theorem 1狭義単調減少列(1)はIλの組成列となる. 従ってIλの構造は〓のみに依存することになる. 第二に,RをA型に限定し,また任意のsimpleroot αに対し,λ(αv)=0,κλ(c)となる場合を考え,幾つかの典型的なIλの例を与えた.これらの例からの帰結として,Iλが放物型組成列を持つためのλについての必要十分条件を与えた.これについてもう少し詳しく述べるために,Dynkin図形の頂点に対応するαがλ(αv)=O(resp.=kλ(c),≠0,kλ(c))となるとき,その頂点を■(resp.◎,○)として,λに対しDynkin図形の類似の図形D(λ)を対応させる.またD(λ)の連結な部分図形Dで各頂点が■,◎のみからなり,更にこのような連結な部分図形でDを真に含むものが存在しないとき,DをD(λ)の特異成分と呼ぶことにする.このとき次が成立する: Theorem 2 RがA型のとき,Iλが放物型組成列を持つための必要十分条件はD(λ)の各特異成分が次のいずれかになる場合である.type 1 type 2 更に標準加群と呼ばれるH加群とそのsimple quotientに関する重複度公式を組み合わせることにより,各組成因子の重複度が1であるための必要十分条件が同一のもので与えられることを示した. | |
審査要旨 | 退化ヘッケ環は、DrienfeldとLusztigにより独立に導入された。その後、DunkI作用素やWeyl群の作用を通じて、退化ヘッケ環とその表現は、最近進展しているHeckman-Opdamの超幾何微分作用素の理論や、有理関数または三角関数をポテンシャルに持つ完全積分可能量子系の理論と密接にかかわり、応用されてきた。 退化ヘッケ環の有限次元表現は完全可約とは限らないが、半単純リー群の無限次元表現と同様に、Langlandsの分類理論や主系列表現への埋め込み定理に対応することが成り立つ。特に、退化ヘッケ環の任意の既約有限次元表現は、その主系列表現の既約部分商として実現されるので、主系列表現のJordan-Holder列を具体的に求めることが興味の対象となる。 退化ヘッケ環の主系列表現のパラメータとルートとの内積がある値、すなわち適当な正規化で±1をとらない限り既約であり、また±1となることがあると可約となることが知られている。そのパラメータにはWeyl群が作用しているが、その作用で移りあう主系列は、Grothendieck群の意味では同値となることが知られている。 論文提出者本田は、主系列表現のパラメータが退化していない場合、すなわち、ルートとの内積が0にならない場合、パラメータをWeyl群のある基本領域に移した主系列表現のJordan-Holder列を具体的に決定し、その構造に自然な双対性があることを参考論文で示した。このとき、パラメータとの内積が1になるルートの個数をmとすると、Jordan-Holder列の長さは2mとなる。この明確に記述されたJordan-Holder列を持つ場合を放物型と呼ぶ。 主系列が可約で、しかもパラメータの退化があると、その主系列のJordan-Holder列の構造は極めて複雑になり、その現象はほとんど理解されていない。提出論文において、本田はこの困難な場合の研究を行い、Dynkin図式を用いて表せる基本的な場合への帰着定理、および、特にA型の場合は、Grothendieck群の意味で放物型になるための必要十分条件を得た。 パラメータをWeyI群の作用で移して、パラメータとの内積が0または1になるのは、単純ルートに限ると仮定する。なお、A,D,.E型の時は、この仮定は常に満たされる。この場合、主系列のJordan-Holder列の構造は、内積が0または1の単純ルートのみから生成される部分Weyl群に対応する退化部分ヘッケ環の場合のJordan-Holder列の構造に帰着される、というのが最初の主要結果である。 この結果により、Grothendieck群の意味での主系列の既約分解は、単純ルートとパラメータとの内積が0または1のみの値をとる場合のJordan-Holder列から分かることになる。論文では、まずいくつかの基本的で重要な例におけるJordan-Holder列を考察した。その結果の解析から、A型のとき分解が放物型になる必要十分条件は、Dynkin図式において、パラメータとの内積が0となる1つ以上の単純ルートの列が1の値をとる単純ルートに挟まれることがなく、また、1の値をとる単純ルートの両側が0の値をとる単純ルートではない、ということであることを示した。これが提出論文の主要結果であるが、論文における考察はより広い場合に適応可能であり、A型以外の場合にも放物型になる必要条件を与えていて、一般のルート系の場合の研究の足がかりとなっている。 退化ヘッケ環の表現は、基本的でかつ重要であるにもかかわらず、まだ解明されていない部分が多い。論文提出者本田は、その一般的な研究の足がかりを与えており、この方面の研究の発展と応用が期待される。よって、論文提出者本田龍央は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
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