学位論文要旨



No 116500
著者(漢字) 安藤,直也
著者(英字)
著者(カナ) アンドウ,ナオヤ
標題(和) 主分布の振る舞い
標題(洋) The behavior of the principal distributions
報告番号 116500
報告番号 甲16500
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第171号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 落合,卓四郎
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 野口,潤次郎
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 助教授 今野,宏
内容要旨 要旨を表示する

SをR3の滑らかな曲面としUmb(S)でSの臍点全体からなる集合とし,またRer(S):=S\Umb(S)とおく.もしReg(S)≠0ならばReg(S)上の一次元連続分布でReg(S)の各点に主方向を与えるものが存在する.そのような分布をS上の主分布という.Reg(S)の点の周りでの主分布の振る舞いを描写するのは容易である:その点で零ならざるベクトル場を用いて主分布を(局所的に)表すことができる.一方臍点の周りでの主分布の振る舞いは非常に複雑な場合が有り,また一般にはいかなるベクトル場を用いても主分布を表すことができない場合がある.臍点の周りでの主分布の振る舞いはしばしば興味の対象とされ,かつてはCayleyやDarbouxらによって主分布の振る舞いを把握することが試みられた([1]).p0を孤立臍点とするとき,二つの主分布の共通の孤立特異点であるp0の指数は互いに等しいが,この共通の数を3上でのp0の指数といいindp0(S)で表す.3が平均曲率一定曲面であればUmb(S)の内点ならざる点はすべて孤立臍点でありかつその指数は負である([3,pp.139]).より一般にSが特別なWbingarten曲面であれば同様の結論が得られる([2]).

 本論文の目的は実解析的な曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを調べることである.そのためにまず第1部において二変数同次多項式のgraph上の主分布の振る舞いを調べる.次数kの二変数同次多項式全体からなる集合をPkで表し,Pkの元でそのgraph上R3の原点oが孤立臍点であるもの全体からなる集合を塔でPokす.第1章においてg∈Pokのgraph Gg上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にind。〓を示し,また3以上の任意の自然数kおよび〓の任意の元lに対してindo(Gg)=1を満たすg∈Pokが存在することを示す,第2章ではGgのo以外の臍点の存在に関連させてoの周りでの主分布の振る舞いをさらに調べる.第3章ではg∈Po3に対しindo(Gg)とUmb(Gg)の関係を詳細に調べる.これらの研究においては特に“位置ベクトル場”〓が主方向に含まれるような点の近傍で主分布の振る舞いを位置ベクトル場の振る舞いと比較する.こうした点を見つけることができるのは同次多項式g∈Pkに対する関係式〓のおかげである,より一般の曲面上の孤立臍の周りでの主分布の振る舞いを調べるための方法として次の(i),(ii)が考えられ,そこでまずg∈Pokのgraph上で(i)(および(ii))を第2章(および第4章)で実践する:

 (i)gの勾配ベクトル場が主方向に含まれる点の近傍で主分布の振る舞いを勾配ベクトル場の振る舞いと比較する;

(ii)oを端点とする曲線に沿ってoに近づいていったときの主分布の極限を調べる.

また第4章ではo以外の孤立臍点およびGgに対する一点コンパクト化によって付け加えられた点の周りでの主分布の振る舞いを調べる.

 第2部では第1部の研究に基づいて実解析的な曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを調べる.lを自然数とし,FをR2における(0,0)の連結な近傍上定義された実解析的関数で〓が〓なる非負整数m,nに対し成り立つものとし,Fのような関数全体からなる集合をAo(l)で表す.またAo(2)の元でそのgraph上oが孤立臍点であるもの全体からなる集合をAo(2)で表す.Ao(2)の元Fを,そのgraph GFの各点でFの勾配ベクトル場が主方向に含まれるという性質を持ったものとするとき,第5章においてこのようなFのgraph GF上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にFがA(2)の元ならばGFは回転面の一部であることを示す.このときindo(GF)=1が成り立つ.さて各F∈Ao2に対しAo(3)の元fFでGFでGF-fFが全臍的であるものが存在し,またあるkF次同次多項式gFがあってfF-gF∈Ao(kF+1)を満たす.Ao2の元FでgF∈PokFを満たすもの全体からなる集合をAoo2で表す.第6章ではF∈Aoo2のgraph GF上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にind0〓を示す.またF∈Ao(2)のgraphが全臍的ならざる特別なWeingarten曲面でありかつoを臍点として有するとき,F∈Aoo2でありかつindo(GF)=indo(GgF)=1-kF/2であることを示す.

 一般に,孤立臍点poを有する滑らかな曲面Sに対しindpo(S)≦1という不等式が期待されてきた.この予想に関連して二つの予想が知られている:Caratheodory予想とLoewner予想である.Caratheodory予想とはcompactかつ強凸なる曲面には二つ以上臍点が存在するのではないかというものである.もしindpo(S)≦1ならばcompact,向き付け可能でgenus Oの曲面には二つ以上臍点が存在することがHopf-Poincareの定理を用いてわかり,compactかつ強凸なる曲面は向き付け可能かつgenusOなので結局Caratheodory予想を肯定的に解決することができる.Fを二実変数の実数値をとる滑らかな関数とし,〓とおく.このとき自然数n∈Nに対するLoewner予想とはベクトル場〓の孤立零点の指数は洲下なのではないかというものである([4],[6]).n=2に対するLoewner予想は上に述べた予想indpo(S)≦1と同値である([5]).第6章では3が実解析的であるときにindpo(S)≦1に対する十分条件を与える.

参考文献

[1] C.Gutierrez and J.Sotomayor, Structurally stable configurations of lines of principal curvature, Asterisque 98-99(1982), 195-215.

[2] P.Hartman and A.Wintner, Umbilical points and W-surfaces, Amer. J. Math., 76(1954) 502-508.

[3] H.Hopf, Lectures on differential geometry in the large, Lecture Notes in Math., vol.1000, Springer-Verlag.

[4] T.Klotz, On Bol's proof of Caratheodory's conjecture, Comm. Pure Appl. Math., 12(1959) 277-311.

[5] B.Smyth and F.Xavier, Real solvability of the equation 〓 and the topology of isolated umbilics, J. Geom. Anal., 8(1998), 655-671.

[6] C.J.Titus, A proof of a conjecture of Loewner and of the conjecture of Caratheodory on umbilic points, Acta Math., 131(1973), 43-77.

審査要旨 要旨を表示する

 SをR3の滑らかな曲面としumb(S)でSの臍点全体からなる集合とし,またreg(S):=S\umb(S)とおく.もしreg (S)≠0ならばreg(S)上の互いに直行する2つの一次元連続分布でreg(S)の各点で2つの主方向を与えるものが存在する.そのような分布をS上の主分布という.一般に臍点は主分布の特異点である。Poを孤立臍点とするとき,二つの主分布の共通の孤立特異点になり、Poにおける指数は互いに等しくなる。この共通の数をS上でのPoの指数といいindpo(S)で表す、Sが平均曲率一定曲面であればumb(S)の内点ならざる点はすべて孤立臍点でありかつその指数は負である(ホップの定理).一般の曲面3上の任意の孤立臍点Poについて

 となることが、予想されてきたがいまだ未解決である。この予想が肯定的であれば古典幾何で有名な「コンパクトな強凸曲面には2つ以上の臍点がある」

というカラテオドリ予想が証明できることになる。

 本論文で申請者は実解析的な曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを研究し、genericな曲面にたいしては上記の予想1が成り立つことをしめし、あわせて一般の曲面の場合に1が成り立つための十分条件を与えた。

 本論文は2部から成り立っている。まず第1部において二変数同次多項式のグラフ上の主分布の振る舞いを研究した.次数々の二変数同次多項式全体からなる集合をがで表し,Pkの元でそのgraph上R3の原点oが孤立臍点であるもの全体からなる集合を勢で表す.第1章ではg∈PokのグラフGg上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にindo〓を示し,また3以上の任意の自然数為および〓の任意の元lに対してindo(Gg)=lを満たすg∈Pokが存在することを示す.第2章ではGgのo以外の臍点の存在に関連させてoの周りでの主分布の振る舞いをさらに調べる.第3章ではg∈Po3に対しindo(Gg)とumb(Gg)の関係を詳細に調べる.これらの研究においては特に“位置ベクトル場”〓が主方向に含まれるような点の近傍で主分布の振る舞いを位置ベクトル場の振る舞いと比較するという独創的な視点を提案した.

 第2部では第1部の研究に基づいて実解析的な曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを調べる.lを自然数とし,FをR2における(0,0)の連結な近傍上定義された実解析的関数で〓が〓なる非負整数m,nに対し成り立つものとし,Fのような関数全体からなる集合をAo(l)で表す.またAo(2)の元でそのグラフ上oが孤立臍点であるもの全体からなる集合をAo2で表す.Ao(2)の元Fを,そのグラフGFの各点でFの勾配ベクトル場が主方向に含まれるという性質を持ったものとするとき,第5章においてこのようなFのグラフGF上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にFが4の元ならばGFは回転面の一部であることを示す.このときindo(GF)=1が成り立つ.さて各F∈Ao2に対しAo(3)の元fFでGF-fFが全臍的であるものが存在し,またあるkF次同次多項式gFがあってfF-gF∈A(kF+1)を満たす.Ao2の元Fで9F∈PokFを満たすもの全体からなる集合をAoo2で表す.第6章ではF∈Aoo2のgraph GF上のoの周りでの主分布の振る舞いを調べ,特にindo(GgF)≦indo(GF)≦1を示す.またF∈Ao(2)のgraphが全臍的ならざる特別なWeingarten曲面でありかつoを臍点として有するとき,F∈Aoo2でありかつindo(GF)=indo(GgF)=1-κF/2であることを示す.

 部分多様体の幾何学では、次元の低い曲面の場合がむしろ難しく興味ある問題がまだ未解決である。多くの場合に臍点での解析に帰着されるのだが、それを解く手段がないのが現状である。そのような中で、主分布の指数を視点として臍点に関する興味ある優れた成果を申請者は本論文で示している。

よって論文申請者安藤直也は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格あると認める。

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