学位論文要旨



No 116502
著者(漢字) 落合,理
著者(英字)
著者(カナ) オチアイ,ダダシ
標題(和) 肥田のモジュラーガロア変形に対するコールマン写像
標題(洋) COLEMAN MAP FOR HIDA DEFORMATIONS
報告番号 116502
報告番号 甲16502
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第173号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 加藤,和也
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 辻,雄
内容要旨 要旨を表示する

本論文ではある種の(ordinary typeの)2次元ガロア表現の変形(定義については本論文3節を参照のこと)に対するColeman(-Perrin Riou)写像の構成を適当な条件のもとで行った.特にこの論文で得られた結果をBeilinson-Kato elementsに適用することで,肥田氏のΛ-進カスプ形式に付随する2変数のp-進L函数を得たのが主結果である.以下では肥田氏によって構成されたモジュラーガロア変形の場合に話を限って主結果を説明したい.

 以下素数〓を固定し,また有理数体Qの代数閉包Qの複素埋め込み〓とか進埋め込み〓を固定しておく.1の原始ps乗根のノルム系〓をひとつ固定する.Γdをダイヤモンド作用素からくるpro-p群とする.つまり,〓をモジュラー曲線Y1(pt+1)のダイヤモンド作用素のなす群のp-Sylow部分群とし,〓で定義する.Γdから1+Zp⊂Zp×への標準同型をκdであらわす.以下本稿ではZp(resp.Qp,zp[[Γd]])上の有限生成自由加群Mに対してM*でその線形双対をあらわすことにする.

 肥田氏の仕事により〓-加群〓で次のような性質をみたすものが構成されている:

 1. 各整数〓とΓdの重さk-2の数論的指標〓(ηdはΓdの位数有限指標)に対して,ある重さkのカスプ形式〓が存在して,〓での特殊化〓がDeligneの意味でのfXdに付随するGQのp-進表現となる.

 2.Τdへの作用をpでの分解群GQpに制限すると,F+Τd,Τd/F+Τd各々が階数1の自由Zp[[Γd]]-加群となるフィルトレーション

でF+ΤdへのGQpの作用がある不分岐指標αdで与えられるものがある.更にα(Frobp)=Ap(Frobpは幾何的フロベニウス)とすると,Γdの各重さ〓の数論的指標)Xdに対して,Xd(Ap)=αp(fXd)となる.

 G∞をQp(ζp∞)/Qpのガロア群とする.有限生成Zp[[G∞×Γd]]-加群Mに対して,Twc(M)(resp.Twd(M))を,Mと同じunderlying moduleをもちg∈G∞(resp.g∈Γd)の作用がg*x=Xcyc(g)(g*Mx)(resp.g*x=κd(g)(g*Mx))とtwistされたZp[[G∞×Γd]]-加群とする(ここで,x∈Twc(resp.x∈Twd)であり,*MはMへの元のG∞-action(resp.Γd-action)をあらわす).

 各整数〓に対して,ガロア表現ΤdのZp[[Γd]]-加群としての構造を,γd*x:=κdκ-2(γd)γd・x(γdのΓdの位相的生成元,・はもともとの作用)とtwistして得られたガロア表現をΤd(k)とおく.各〓で〓とする.〓なる自然数jに対して,階数1の自由Zp[[Γd]-加群Dを〓とおくと,〓はFontaineのde Rham加群DdR(Vt(k))/Fil0DdR(Vt(k))と同一視される.

 ここで,at(k)は不分岐表現F+Τd(k)に対応する不分岐指標をα(k)とするとき,α(k)(Frobp)∈Zp[[Γd]]のZp[[Γd]]/(γdpt-1)での像である.

 VをQpの絶対ガロア群GQpのp-進表現とするとき,加藤氏により,dual exponential map H1(Qp(ζps),V)〓が定義されている.この写像はBloch-Katoのfinie partと呼ばれる部分Hf1(Qp(ζps),V)⊂H1(Qp(ζps),V)による商〓を経由する.各整数の組j.k(resp. j',k')で〓(resg.〓)なるものに対して,次のようなZp[[G∞×Γd]]-加群としての標準的な同一視がある:

本論文での主定理は次のとおりである:

定理.記号等は上述の通りとする.階数1の自由Zp[[Γd]]-加群Dの基底dをひとつきめる.Zp[[G∞×Γ]]-線形写像〓で次の性質をみたすものが構成される:

 1. Zp[[G∞×Γd]]-線形準同型Ωdは単射で,Coker(Ωd)はZp[[G∞×Γd]]-加群としてpseudo-nullとなる.

 2. 〓を満たす整数の組j,kごとに,

をnorm compatibleなcohomology elementsのシステムとする.また〓(resp.〓)なる組j,k(resp.j',k')に対して,Zp[[G∞×Γd]]-加群の構造を忘れたunderlying moduleの射

によって{cs',t'(j',k')}s',t'は{cs',t'(j,k)}s',t'に写されると仮定する.

 各整数〓とG∞の重さの数論的指標Xc=Xcycj-1ηc(ηcは有限指標)で〓なるものに対して,次のような補間性質を満たす:

 ηc≠1がconductor psの有限指標とすると,

 ここで,〈,〉sはペアリング

 とする.

 ηc=1が自明な指標とすると,

 まず最初に定理の系として2変数p-進L-函数が構成されることを述べ,後に主定理の証明について少し説明したい.

 重さkのカスプ形式〓に対して,fをそのdual modular〓とする(ここで,an(f)はan(f)の複素共役).またカスプ形式fのBetti realizationをMB(f)と記し,MB(f)±をその複素共役での±1-固有空間とする.MiB(f)±はそれぞれQf=Q({an(f)})上の1次元ベクトル空間となる.Dirichlet指標ηでtwistしたfのL-函数を〓とし,L(p)(f,η,s)をp-factorを抜いた〓とする.次のことを思い出そう:

 1. 〓とする.Eichler-Shimuraの同型により,

 2. Vfをfのdual modular form fに付随するp-進表現とする.各〓に対して,〓はFil0DdR((Vf)*(1-j)))と同一視される(ここでQfpはQfのp-進完備化をあらわす).

 先の通り,Τdを肥田氏による2変数のモジュラーガロア変形とする.Fに付随する表現Τdの剰余表現が既約であるとき,加藤氏の仕事[Ka]によって,s,tに関して,norm compatibleなガロアコホモロジーの元の系,Z(j,k)={zs,t(j,k)∈H1(Qp(ζps),(Tt(k))*(1-j))}s,t〓0で次の性質をみたすものが構成される:

 1. Xd=κdk-2ηdをΓdの重さk-2の数論的指標とし,ηdがΓd/Γdptの指標であるとする.exp*-写像での像exp*(zs,t(j,i)))∈Fil0DdR((Vt(k))*(1-j)))ηdはQfXd・fXdに含まれる.

2. 〓の写像:

 での像は,L(p)(fXd,η,j)・δXdB,(-1)j-1η(-1)に等しい.ここで,上の最初の写像は,Q(fXXd)とQ(ζps)のQへの固定された埋め込みから定まる写像であり,δXdB,±はMB(fX')±のあるQfXd上の基底である(正確な定義は本論文3節を参照).

上述の主定理をこのZ(j,k)に対して適用することで次の系を得る.

系.Fに付随する表現Τdの剰余表現が既約であると仮定する.また,階数1の自由Zp[[Γd]]-加群D(1,2)の基底dをひとつ固定する.このとき,Kato elements Z(1,2)の像Ωd(1,2)(Z(1,2))∈Zp[[G∞×Γd]]は次のような補間性質をみたす:

ここでXcycj-1ηc(resp.Xd)はG∞(resp.Γd)の重さj-1(resp.k-2)の数論的指標で〓をみたすものとする.また,G(ηc,ζps)はガウス和を表し,Cp,d(fXd)(resp.C∞(-1)k-j-1ηc(-1)(fXd))はp-進周期(resp.複素周期)である(本論文3節を参照).

Remark. 肥田氏のΛ-進カスプ形式に付随する2変数のp-進L函数は,Greenberg-Stevens([GS]),北川氏([Ki]),太田氏らによっても構成されている.これらの仕事は,modular symbolの空間の補間を構成することによっており,本論文での構成と由来がことなる.

 主定理の証明は,古典的なコールマン写像の定理への帰着によって行う.(Vt(k))*(1-j)のde Rham加群Fil0DdR((Vt(k))*(1-j))が,DdR((F+Vt(k))*(1-j))に等しいこと,また,dual exponential mapが,

と経由されることにより,dual exponential mapの補間の構成の問題を1次元ガロア表現(F+Τd(k))*(1-j)へと帰着する.この表現(F+Τd(k))*(1-j)は不分岐指標によるtwistの差を除いて円分指標のでdefbrmationであることより証明がclassicalなColeman写像の話に帰着される.

REFERENCES

[GS] R. Greenberg, G. Stevens, p-adic L-functioris and p-adic periods of modular forms, Invent. Math. 111 no. 2, 407-447, 1993.

[Ka] K. Kato, p-adic Hodge theory and values of zeta functions of modular forms, preprint, 1998.

[Ki] K. Kitagawa, On standard p-adic L-functions of families of elliptic cusp forms, p-adic monodromy and the Birch and Swinnerton-Dyer conjecture, 81-110, Contemp. Math., 165, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 1994.

審査要旨 要旨を表示する

 落合君は本論文において,肥田表現に対し,双対指数写像がp進連続に補間できることを示した.そしてこのことを使って肥田表現に対する2変数p進L関数の新しい構成を与えた.

 この論文の背景は次のとおりである.fを,Qp係数の正規化された重さk,指標eの保型形式で,すべてのHecke作用素の同時固有ベクトルであるものとする.このようなfに対し,絶対Galois群GQ=Gal(Q/Q)のp進表現pf:GQ→GL2(Zp)で,ほとんどすべての素数qで不分岐かつdet(1-Frqt)=1-aq(f)t+e(q)qk-1t2をみたすものが構成されている.Λd=Zp[[1+pZp]]〓Zp[[T]]を岩澤環とし,整数kと,Qpの有限次拡大の整数環0への位数有限な指標η:1+pZp→0×に対し|k,η:Λd→Oをk-2乗写像1+pZp→Zp×とηの積が定める環の準同型とする.f∈Λd[[q]]を,各〓に対しf|k,η∈O[[q]]が重さkの保型形式で,すべてのHecke作用素の同時固有ベクトルであるようなものとする.このようなfを以下Λ-進形式とよぶ.肥田はΛ-進形式fに対し,連続表現ρf:GQ→GL2(Λd)で,各〓に対し,ρf|k,η:GQ→GL2(O)が,ρf|k,η:GQ→GL2(O)を与えるようなものを構成した.この表現を以下肥田表現とよぶ.Greenberg-Stevens,北川,大田は,Λ-進形式fに対し,次のような性質をもつ2変数p進L関数L(f)∈Λc,dを構成した.ここで〓である.整数j,k,Qpの有限次拡大の整数環Oへの位数有限な指標ηc:1+pZp→O×,ηd:1+pZp→O×に対し,指標1+pZp→O×:a→aj-1ηc(a),a→ak-2ηd(a)が定める環の準同型をΛc,d→OによるL(f)の像を,L(f|k,ηd,ηc-1,j)で表わすことにする.このとき〓をみたす整数j,kに対し,L(f|kηd,ηc-1,j)を保型形式f|k,ηdのp進周期でわったものは,代数的数であり,それは複素L関数L(f|k,ηd,ηc-1,j)のs=jでの値を保型形式f|k,ηdの周期積分でわったものに簡単な因子をかけたものと等しい.

 落合君は本論文で双対指数写像をp進補間することにより,2変数p進L関数の新しい構成を与えている.この構成は,Beilinson-加藤により定義されたモジュラー曲線のK2の元がなすEuler系を使うものであり,岩澤主予想への応用が期待できるものである.

 主結果をのべるためにいくつか準備をする.T=Λd2を肥田表現とする.整数〓に対し,〓をk乗写像1+pZp→(1+pZp)/(1+pt+1Zp)に関するテンソル積とし,Tt(k)*をその双対表現,〓とする.p進体Qpの有限次拡大Kの絶対Galois群GKのp進表現Tに対し,〓とおき,DdR(V)を〓のGQp-不変部分とする.Hf1(K,T)を〓の核とし,exp*:H1(K,T)/Hf1(K,T)→F0DdR(V)を双対指数写像とする.整数〓に対し,加藤は,ノルムに関する逆極限の元〓で,次の性質をもつものを構成した.〓とする.各s,tに対し,exp*(zs,t(j,k))を保型形式f|k,ηdのp進周期でわったものは,代数的数であり,それは複素L関数L(f|k,ηd,ηc-1,s)のs=jでの値を保型形式f|k,ηdの周期積分でわったものに簡単な因子をかけたものと等しい.

 落合君は,肥田表現Tに対し,次の性質をみたすΛc,d-線型形式

を構成した.Ω(j,k)は単射で,かつΛc,dの高さ1の各素イデアルでは同型である.さらに,Ω(j,k)をk乗写像1+pZp→(1+pZp)/(1+pt+1Zp)がひきおこす環の準同型Λd→Zp[(1+pZp)/(1+pt+1Zp)]によってテンソルしたものは,簡単な修正ののち双対指数写像H1(Q(ζps),Tt(k)*(1-j))/Hf1(Q(ζps),Tt(k)*(1-j))→F0DdR(V)と一致する.この写像Ω(j,k)による〓の像は,上で述べたことから2変数p進L関数L(f)を与えることがわかる.

 証明の方針は次のとおりである.肥田表現は,階数1の部分表現F+Tで,商T/F+Tが階数1の不分岐表現となるものをもつことが知られている.そこで,Ω(j.k)を定義するにはTのかわりにF+Tを考えれば十分であることがわかる.さらに階数1の表現F+Tは比較的簡単な表現であるので,これはさらにColeman写像〓を使って構成する.

 本論文では,肥田表現に対する2変数p進L関数の新しい構成がp進Hodge理論を使った新しい方法で与えられている.またこの方法は岩澤主予想への応用も期待できるものである.よって論文提出者 落合 理は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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