No | 116506 | |
著者(漢字) | 鶴田,知久 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツルタ,トモヒサ | |
標題(和) | グラフにおけるラプラシアンのスペクトルと閉路について | |
標題(洋) | On the closed chains and the spectrum of Laplacian on graphs | |
報告番号 | 116506 | |
報告番号 | 甲16506 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第177号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 伊原ゼータ関数は、伊原[I]により、有限グラフに対して以下の様に定義された。すなわち、有限(正則)グラフG=(V,E)に対して、伊原ゼータ関数Z(u)は である。ここでPはG内のback-tracking, tailのない(以下、これをnon-BTで表す。)primeな閉路からなる集合であり、|p|はpの長さをあらわすものである。 そしてこれに対して、伊原[I]、Bass[Ba]らが、隣接行列Aとの関係を次のように明らかにした。すなわち、有限グラフG=(V,E)(正則グラフは伊原、それ以外のグラフについてはBass)に対して、隣接行列を で定義する。このとき ここで〓はGのオイラー数、DはDxx=degx(degx=#{y∈V;x〜y})で定義される|V|次正方対角行列である。 (0.2)により、non-BTかつprimeな閉路の個数と隣接行列との間には密接な関係が得られる。すなわち、隣接行列と単位行列の線型和で表される行列の行列値として得られる多項式のn次の係数が、長さn以下のnon-BT,primeな閉路の数の線型和として表せる。 これに対し、non-BTな閉路cに関して、これの確率的な値p(c)、すなわちcを一周する確率をとる。このとき、これと推移行列との関係、特にラプラシアンの固有値との関係について調べたい、またその関係を具体例について求めてみたいというのが、我々の研究のモチベーションである。 ここで、グラフ上の推移行列、ラプラシアンの定義を紹介する。 G=(V,Eに対して、推移行列Pは、x,y∈Vに対し と定義する。このとき、G上のラプラシアンΔ0:C(V)→C(V)は とするのである。ここでC(V)は、G内の頂点に関する関数全体の集合である。 我々はそのために、いわばデュアルグラフ(これは小谷・砂田[KS]等で有向ライングラフと呼ばれているものである)を用い、これの推移行列P'Eを仲介させることにより、back-trackingやtailを持たない閉路の確率的な値と、ラプラシアンの固有値との関係を求めるという方針で研究を行った。その結果、この値とラプラシアンの固有値との関係が、以下のように表されることがわかった。 Theorem 1.1. 有限グラフGに対して、G内の長さlの閉路全体の集合をC'(l)、長さlのback-tracking、tailのない閉路全体の集合をC(l)とする。また、Δ0の固有値を〓とする。このとき、 ここで、C={C0,C1,…,Cl}に対し、 また、 である。 次に我々は、より具体的な値を求めるために、次のような特殊な準正則グラフG=(V,E)、すなわち、V1、V2からそれぞれ任意に頂点をとったとき、その2頂点が隣接しているような非交和〓を持つグラフである。このグラフに関して(0.3)、(0.4)の値を求めた。それが以下の結果である。 Theorem 1.2. 有限グラフGが、上記の条件を満たすとする。このとき次が成り立つ。 ここで、ni=Vi(i=1,2)である。 最後に、本論文の構成について述べる。 2章では、まず本論文で用いる用語の説明、簡単な事実について述べる。 3章では、グラフの辺上のラプラシアンと、有向ライングラフの推移行列の2つの道具についての説明を行う。そしてこれと上記のΔ0との関係について言及する。 4章では、これらの道具を用いた上で、Theorem 1.1の証明を行う。 5章では、4章で得た結果を用いて、準正規グラフの特殊なものに関して、(0.3)と(0.4)の値を求めることにより、Theorem 1.2の証明を行う。 参考文献 [Ba] H. Bass, The Ihara-Selberg zeta function of a tree lattice, Internat. J. Math 3 (1992), 717-797. [I] Y. Ihara, On discrete subgroups of the two by two projectiv linear group over p-adic fields, J. Math. Soc. Japan, 18 (1966), 219-235. [ST] H. M. Stark and A. A. Terras, Zeta functions of finit graphs and coverings, Adv. Math, 121 (1996), 124-165. [Su] T. Sunada, Fundamental Group and Laplacian, Kinokuni ya, (1988). [KS] M. Kotani and T. Sunada, Zeta functions of finite graphs J. Math. Sci. Univ. Tokyo, 7 (2000), 7-25 | |
審査要旨 | 向き付けられた有限グラフG=(V,E)上には色々なラプラシアンが知られており、そのいくつかは、グラフの幾何学的、解析的な性質を記述するに有効であることが知られている。申請者はこの方面の全く新たな興味ある問題を提起し結果を得た。 申請者の問題を述べるために、この方面の最も基本的な結果をまず紹介する。有限(正則)グラフG=(V,E)に対して、伊原ゼータ関数Z(u)を で定義する。ここでPはG内のback-tracking, tailのない(以下、これをnon-BTで表す。)primeな閉路からなる集合であり、|P|はPの長さをあらわすものである。一方、隣接行列を で定義する。このとき ここで〓はGのオイラー数、DはDxx=degx(degx=#{y∈V;x〜y)で定義される|V|次正方対角行列である。 (2)により、non-BTかつprimeな閉路の個数と隣接行列との間には密接な関係が得られる。すなわち、隣接行列と単位行列の線型和で表される行列の行列値として得られる多項式のn次の係数が、長さn以下のnon-BT,primeな閉路の数の線型和として表せる。 これに対し、non-BTな閉路cに関して、これの確率的な値p(c)、すなわちcを一周する確率をとる。このとき、これと推移行列との関係、特にラプラシアンの固有値との関係について調べたい、またその関係を具体例について求めてみたいというのが、申請者の研究のモチベーションである。 ここで、グラフ上の推移行列、ラプラシアンの定義を紹介する。 G=(V,E)に対して、推移行列Pは、x,y∈Vに対し と定義する。このとき、P上のラプラシアンΔ0:C(V)→C(V)は とするのである。ここでG(V)は、G内の頂点に関する関数全体の集合である。 申請者はそのために、いわばデュアルグラフを用い、これの推移行列P右を仲介させることにより、back-trackingやtailを持たない閉路の確率的な値と、ラプラシアンの固有値との関係を求めるという方針で研究を行った。その結果、この値とラプラシアンの固有値との関係が、以下のように表されることを証明した。 Theorem 1.1.有限グラフGに対して、G内の長さlの閉路全体の集合をC'(l)、長さlのback-tracking、tailのない閉路全体の集合をC(l)とする。また、Δ0の固有値を〓とする。このとき、 ここで、C={C0,C1,...,Cl}に対し、 また、 である。 次に申請者は、より具体的な値を求めるために、次のような特殊な準正則グラフG=(V,E)、すなわち、V1、V2からそれぞれ任意に頂点をとったとき、その2頂点が隣接しているような非交和〓を持つグラフである。このグラフに関して(3)、(4)の値を求めた。それが以下の結果で述べられる。 Theorem 1.2.有限グラフGが、上記の条件を満たすとする。このとき次が成り立つ。 ここで、ni=Vi(i=1,2)である。 | |
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