No | 116511 | |
著者(漢字) | 安田,正大 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤスダ,セイダイ | |
標題(和) | トーション係数の局所定数 | |
標題(洋) | Local Constants in Torsion Rings | |
報告番号 | 116511 | |
報告番号 | 甲16511 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第182号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景. 大域体Fの複素Galois表現(ρ,V)に対するArtinの,L-関数L(V,s)は無限因子も付け加えると関数等式 を持つが,ここに現れるε(V,s)はある定数a,b,に対して,ε(V,s)=ba-sの形をしている.a,bのうち,aの方は,表現のArtin導手a(V)に等しい.しかし,もう一方の値bの統一的な記述は難しい. Vが1次元の場合,大域類体論により,(ρ,V)はイデール類群の表現とみなせる.イデール群上の調和解析により,アデール上の非自明な指標であってF上自明なものを補助的にとると,ε(V,s)は局所的な関数ε(Vv,ψv,s)の積に分解する.(vはFの素点.簡単のため,Haar測度の部分は省略して書く).ε(Vv,ψv,s)はVのFvのガロア表現への制限、およびFvの加法指標ψvにしか依存せず,Fに依存しない.さらに定数ε(Vv,ψv)によって、ε(Vv,ψv,s)=ε(Vv,ψv)qv-s(a(V)+ordψ)と表される(ここでqv,はvの剰余体の位数,ordψはψの導手である.) Dwork,LanglandsおよびDeligneにより、Vが一般次元の場合にも,ε(Vv,ψv)が一般化され,ε(Vv,ψv)の,すべてのvにわたる積をとるとL(V,s)の関数等式の定数と結びつく. 以下では,局所ε-定数のみを考察する.記号を変えてKを非アルキメデス局所体,すなわち完備離散付値体であって,剰余体kが有限体のものとする.以下このKを固定する. 体kの標数をP,kの位数をqとする.OKをKの整数環,vK:K×→Zを正規化されたKの指数付値とする. WKをKのWeil群,rec:K×→WKを局所類体論による写像とする.ただし,Kの素元と,WKの幾何学的フロベニウスとが対応するように正規化しておく. lをpと異なる素数とする.Deligneは論文[D]において,WKのl-進連続表現Vに対してもε(V,ψ)を定義している.l-進表現を考える場合,ε(V,ψ)を少し修正したε0(V,ψ)を考察したほうが都合がよいことがわかる.このε0(V,ψ)を(V,ψ)のε0-定数と呼ぶことにする. 主結果 木論文の目標は,より一般の環上の,必ずしも標数0に持ち上がるとは限らないWKの連続表現に対し,局所ε0-定数を定義することである. Rを,noether局所環であって,次の2条件をみたすものとする: ・Rの剰余体は,標数がpと異なる代数閉体. ・p乗写像R×→R×は単射でなく,かつ全射. 上記の性質をみたす環R,に対し,Rep(WK,R)を,有限生成自由R-加群上におけるWKの表現のなす圏とする.R,Rep(WK,R)の対象(ρ,V)および非自明な連続準同型ψ:K→R×からなる3つ組(R,(ρ,V),ψ)を考える. 本論文の主結果は,以下のものである. 定理1 上記の各3つ組(R,(ρ,V),ψ)に対し,Rの可逆元ε0,R(V,ψ)であって,以下の7性質をみたすものを標準的に構成できる' 1.ε0,R(V,ψ)は(R,(ρ,V),ψ)の同型類にしか依存しない. 2.(R,(ρ,V),ψ),を上記の3つ組,R'を上記の条件をみたす新たな環,h:R→R'を局所環準同型とする.このとき が成り立つ. 3.共通のR,ψをもつ3つの3つ組(R,(ρ,V),ψ),(R,(ρ,V'),ψ),(R,(ρ,V"),ψ)であって,Rep(WK,R)内の短完全系列 が存在するものに対し, が成り立つ. 4.(R,(ρ,V),ψ)を上記の3つ組とし,さらにRを体と仮定する.このとき, が成り立つ.ここでdxはKのR-値Haar測度であって,OKの測度が1のもの. 5.(R,(ρ,V),ψ)を上記の3つ組とし,さらにVの階数が1であると仮定する.このとき, が成り立つ.ここで右辺はDeligne[D,6.4]で定義された局所定数,dxはKのR-値Haar測度でOKの測度が1のものである. 6.(R,(ρ,V),ψ)を上記の3つ組とする.α∈Kに対し,新たな加法指標ψa:K→R×をψa(x)=ψ(ax)により定める.このとき, が成り立つ. 7.(R,(ρ,V),ψ),(R,(σ,W),ψ)を,共通のR,ψをもつ2つの3つ組とする.さらにWを不分岐と仮定する.このとき が成り立つ.ここでFrobq∈WKは幾何学的Frobenius, sw(V)はVのSwan導手. 以下に定理の証明の方針を述べる.(R,(ρ,V),ψ)を上記の3つ組とする.Vはtameな表現V0とtotally wildな表現V=V>0との直和に一意的に分解する.V0,V>0の各々に対してε0,R(V0,ψ),ε0,R(V>0,ψ)を定義し,最後にε0,R(V',ψ)を によって定める. まずε0,R(V>0,ψ)の構成について述べる.斎藤[S]による,refined slope分解により,Vが純粋なrefined slopeを持つ場合に帰着される.μ⊂R×を,Rにおける1のp-巾乗根令体のなす群とする.さらにHenniart[H],および斎藤[S]により,ε0,R(Vψ)のR/μにおける値ε0,R(Vψ)は,Vのrefined slopeおよび2次のGauss和を使って表される.この表示を用いて,Rが一般の場合にもε0,R(Vψ)を定義し,さらにε0,R(Vψ)εR×を,modμでε0,ψ(Vψ)に一致し,さらにRの剰余体KR上で〓に一致するただ1つの元として定義する. 次にε0,R(V0,ψ)の構成について述べる.Kを等標数としてよい.Vを,Rep(WK,R)の対象とする.簡単のため,Rに有限部分環R0が存在して,VがR0定義されていると仮定する.このとき,Vに付随して,Gm,k上のsmooth R0-層Vが定まる.R0に1の原始p-乗根が存在するとし,非自明な加法指標φ0:k→R0×をひとつ取ると,φ0に付随して,A1上にArtin-Scheier層Lφ0が定まる.ε0,R(Vψ,φ0)∈R×を,〓に対して積公式が成り立つように定める.最後に,ε0,R(V,ψ,φ0)がφ0の取り方に依存しないことを示す. 以上のようにして,ε0,R(V0,ψ),ε0,R(V>0,ψ)を定義すると,これらが定理に記述された性質を満たすことは比較的容易に示される, 加藤の予想.応用として,論文[K]において,予想されている,局所ε元の存在を証明することができる.以下,[K]とほぼ同じ記号を用いて,局所ε元について復習する. lをpと異なる素数とする.Flを位数lの有限体,FlをFlの代数的閉包,W(Fl)をFl上のWittベクトルのなす環とする.Pro-l局所環Λ,Rep(WK,Λ)の対象(ρ,V),および非自明な連続加法指標ψ:K→W(Fl)×(Λ,V)からなる3つ組(Λ,(ρ,V),ψ)について考える. このような3つ組(Λ,(ρ,V),ψ)に対し,Λの乗法群Λ×の元avを により定める.可逆Λ-加群ΛVを により定める.(ここでψはFrobenius.) プレプリント[K]において,加藤は,可逆Λ-加群 の基底εΛ,ψ(V)であって,いくつかのよい性質を満たし,Deligneの局所定数と関係するものの存在を予想し,それを(l≠pに対する)局所ε予想と呼んだ. 系 2 (l≠Pに対する)局所ε予想は正しい. 実際,〓は,§の条件をみたす有限個のNoether局所環Riの直積となり,局所ε予想は各Riに対して,定理1の主張1-6をみたすε0,Ri(V,ψ)が存在するという命題(の±1倍を無視したもの)と同値である. Tameな局所ε0-定数の積分表示. G=WK/(WK)0+,I=(WK)0/(WK)0+とおく.pと素な自然数nに対し,[n]:Gm,k→Gm,kをn乗写像とする.Hc1(Gm,k,[n]*L'φ0)の逆極限をとることにより,完備群環.R[[I]]上の階数1の自由加群Wであって,Gが半線型に作用するものが構成される.幾何学的Frobeniusの持ち上げFrob∈Gを1つ定めると,Frobの“固有値”uがG-coinvariant(R[[I]]×)Gの元として定まる.するとε0,R(V,ψ)は次の形の積分表示を持つことが示される. 定理 3 uをu∈R[[I]]に勝手にもちあげ,uをI上のdistributionとみなす.ψ:K→R×を導手-1の加法指標であって,任意のx∈OKに対しψ(x)=φ0(rec-1(Frob-1)x)が成り立つものとする.このとき,有限生成自由R-加群上の,WK任意のtameな表現(ρ,V)に対し, が成り立つ. 誘導表現に対する局所ε0-定数の公式. さらに本論文では,誘導表現に対する局所ε0-定数に関する次の公式も証明している. 定理 4 LをKの有限次分離拡大,Rを上記のような環,ψ:K→R×を非自明な連続加法指標とすると,定数λR(L/K,ψ)εR×が存在して,有限生成自由R-加群上のWLの任意の表現Vに対し, が成り立つ.さらにλR(L/K,ψ)は局所環準同型h:R→R'とcompatible. 以下この定理の証明を述べる.Vがtameの場合とVがtotally wildのときとに分けて考える. まずVがtotally wildの場合について述べる.Rが体であれば,上記定理の成立は容易にわかるのでR/μにおいて等式を示せばよい.IndWLWkVのrefined slope分解を,L/Kに非自明な中間体が存在しない場合に精密に調べることによって,2次のGauss和に関する式に示すことに帰着される.Rが標数0の体の場合には定理が成り立つことから,このGauss和に関する式が従う. 次にVがtameの場合を考える.L/Kが完全分岐かつ分岐指数がp巾の場合は,Vがtotally wildな場合と同じ方法で定理が示される.L/Kが不分岐であれば定理は容易に示せるので,L/Kは完全分岐かつtameとしてよい.この場合,定理の主張は,積分表示のところで出てきたWまたはuに関する命題に帰着される.最後に,エタールコホモロジーのdeteriminantを計算することで,命題が証明される.本論文では,Deligne-Henniart[DH]の結果のε0,R(Vψ)に対する類似も与えている. 参考文献 [D] P. Deligne, Les constantes des equations fonctionnelles des fonctioris L, in Modular functions in one variable II, 501-597, Lecture Notes in Math. 349, Springer, Berlin (1973). [DH] P. Deligne, G Henniart, Sur Ia variation, par torsion, des constantes locales d'?quations fonctionnelles de fonctions L, Invent. Math. 64 (1981), no. 1, 89-118. [H] G. Henniart, Galois ε-factors modulo roots of unity, Invent. Math. 78 (1984), 117-126. [K] K. Kato, Lectures on the appoach to Iwasawa theory of Hasse- Weil L-functions via BdR. Part II. Local main conjectures, preprint. [S] T. Saito. Ramification groups and local constants, UTMS preprint 96-19, University of Tokyo (1996). | |
審査要旨 | 安田君は本論文において,局所体のGalois表現に関する局所定数の理論を一般のねじれ局所環係数の場合へと拡張した。 この研究の背景は次のとおりである.局所体Kの絶対Galois群GKの連続表現Vを考える。VがGKの複素表現,l進表現,lを法とする表現の場合には,Dwork, Langlands, Deligneらにより局所定数の理論が構成されている.これは補助的にKの加法的指標ψとKのHaar測度dxをとると,Vに対し数ε(V;ψ,dx)を定めることができるというものである。これはVが大域体のGalois表現の制限として得られる場合には,積公式の予想により,VのL関数の関数等式に現れるものと考えられている.また最近証明された局所Langlands予想の定式化にも現れる重要な不変量である. 従来は,この局所定数の理論は,上でのべたように,体上の表現に対してしか構成されていなかった.安田君は,たとえばZ/lnZの最大不分岐拡大のようなより一般の局所環に対してもこの理論が拡張されることを示した.この結果の帰結として,Galois群の表現の変形にたいし,局所定数が連続的に変化することがわかる.またこの拡張された局所定数に対しても,従来のものと同様に誘導表現についての公式がなりたつなどの基本的な性質を証明している.さらに論文提出後ではあるが,関数体の場合にこの論文で定義された局所定数を使って,L関数の関数等式の定数項に対する積公式も示した.これは従来の理論の自然な拡張であり,今後の応用も期待されるものである. 論文の内容は次のとおりである.この論文では,係数環として,剰余体が局所体Kの剰余体の標数pと素な標数の代数閉体であるような局所環Rで,p乗写像R×→R×が全射であるようなものを考えている.局所体Kの絶対Galois群GKの,有限生成自由R加群Vと非自明な加法的連続指標ψ:K→.R×に対し,ε0,R(V,ψ)∈R×が定義され,次の諸性質1-7がみたされているというのがこの論文の主結果である. 1. ε0,R(V,ψ)∈R×はVの同型類だけで定まる. 2. 局所準同型h:R→R'に対し,〓. 3. 表現の短完全列0→V'→V→V''→0に対し,ε0,R(V,ψ)=ε0,R(V',ψ)・ε0,R(V'',ψ). 4. Rが体なら,dxをOKの体積が1となるR値のKのHaar測度とすると,ε0,R(V,ψ)=ε0,R(V,ψ,dx). 5. Vの階数が1なら,局所類体論により対応する指標をX:K×→R×とし,dxをOKの体積が1となるR値のKのHaar測度とすると,ε0,R(V,ψ)=ε0,R(X,ψ,dx). 6. a∈K×に対し,ψa:K→R×をψa(x)=ψ(ax)で定め,detVを,局所類体論によりdetVに対応するK×の指標とすると,ε0,R(V,ψa)=detV(a)・ε0,R(V,ψ). 7. Wが不分岐なら,〓. またLをKの有限次分離拡大としVをGLのR係数の表現とすると,誘導表現の公式 がなりたつことも示している. この結果から,剰余体の標数がpと異なる場合には,加藤和也により予想されていた局所ε元の存在が導かれる. 局所定数ε0,R(V,ψ)の定義は次のようにしてなされる.Vをtame部分とwild部分の直和に分解し,Vがtameな場合と完全にwildな場合に分けて考える.Vがwildな場合には,従来の場合には,ε0,R(V,ψ)の明示的な公式が1のp巾乗根を法として知られていた.Rの極大イデアルを法としてはε0,R(V,ψ)の値は定まっているので,この公式とあわせることにより,定義している.したがってこの場合には,絶対Galois群GKの分岐群のfiltrationとその各部分商Gv/Gv+の構造をみることが重要である。ここでは標準同型Hom(Gv/Gv+,Fp)→HomF(Nv,F)が使われる.ここでNvは剰余体の代数閉包F上の1次元線型空間〓を表わす. 一方tameの場合には,幾何的な方法を使って定義する.局所体のGalois群の最大tame商は剰余体上の乗法群の基本群の最大tame商と同一視できることを用いる.tameな表現Vと対応する層Fをとり,これとArtin-Schreier層Lとのテンソル積のコホモロジー〓への幾何的Frobeniusの作用の行列式を使って定義する.Vの階数が1のときには,これは通常のGauss和と一致する.したがってこの定義はGauss和の一般化を幾何的に定義したものと考えることができる. 証明においては,tameな表現Vに対するε0,R(V,ψ)がwell-definedであることと,VがtameなGLの表現でL/Kがwildに分岐するときの誘導表現の公式の証明が特に困難である.ここでは曲線の対称積を使った幾何的な議論により,証明がなされる.またVが完全にwildなGLの表現でL/Kがwildに分岐するときにも誘導表現の公式の証明には注意深い議論が必要である.ここでは,wildな拡大における分岐群のfiltrationの変化,特に標準同型Hom(GKv/GKv+,Fp)→Hom(NKv,F)とHom(Gψ(v)0L/GLψ(v)+,Fp)→Hom(NLψ(v),F)の関係をみることが大事である. この論文において,安田君は局所定数の理論を,より一般のねじれ係数環へと拡張した.その際,分岐群のFiltrationや代数曲線の対称積のエタール・コホモロジーなどについて,の精密な議論を展開している.この拡張は従来の理論の自然な発展であり,今後の応用も期待させるものである.よって論文提出者安田正大は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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