学位論文要旨



No 116512
著者(漢字) 山本,剛
著者(英字)
著者(カナ) ヤマモト,ゴウ
標題(和) superconformal代数の準一次状態における代数構造
標題(洋) Algebraic structures on quasi-primary states in superconformal algebras
報告番号 116512
報告番号 甲16512
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第183号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 加藤,晃史
 東京大学 教授 神保,道夫
 東京大学 助教授 吉川,謙一
 東京大学 助教授 松尾,厚
 東京大学 助教授 寺田,至
内容要旨 要旨を表示する

 無限次元Lie超代数gが次の条件を満たす状況を考える.

(1) ある形式的べき級数の集合F⊂g[z,z-1]が存在して,gはFの元の係数で生成される.

(2) Lie超代数の積は作用素積展開で書ける.すなわち,任意のa,b∈C[∂]Fの積は

という形の有限和で書ける.

対(a,b)にa(j)bを対応させる写像をaとbの積とみなして留数積という.留数積は一般には非可換,非結合的である.留数積をC[∂]Fの上の抽象的な積とみなして定式化したものは共形超代数とよばれる.本論文ではさらにVirasoro部分代数の存在を要請する.共形超代数は,一般に無限次元ベクトル空間上の代数構造である.

 本論文では第一に,ある条件を満たす共形超代数の別定式化を与えた.この定式化は可換(または反可換)代数を定義し,もし共形超代数が有限生成であれば,有限次元ベクトル空間に実現される.2つの定式化は,射の対応を含めて互いを一意的に決定するという意味で互いに等価である.

 この対応は次のようにして得られる.条件を満たす共形超代数Rに対し,部分空間R={x∈R|L(2)xは中心的}を考える.すると任意のx∈Rに対して,xj∈Rが存在して〓と分解され,しかも分解はj>0についてxjに中心的な元を加えるあいまいさを除いて一意的である.R上の積をa〈n〉b=(a(n)b)0で定義すると,これは本論文で与えた定式化を満たす.逆にその定式化を満たす任意の構造が与えられれば,対応する共形超代数Rが一意に存在する.さらに分解〓を用いて,射の間にも1対1の対応があることがわかる.

 この別定式化を応用して,単純物理的superconformal代数の分類が得られる,Virasoro代数やNeveu-Schwarz代数,N=2 superconformal代数,N=4 superconformal代数などの代数がこの範疇に含まれる.

 定理単純物理的superconformal代数は,同型を除いて8種類のみ存在する.

 証明の概要は次のとおりである.上記の定式化によれば,これらは有限次元ベクトル空間の上に定式化される.共形ウエイトに関する条件から,その構造はClifford代数Cl(V,q)がある条件を満たして作用するLie超代数Rであることがわかる.その条件から左Cl(V.q)-加群の射ι:Cl(V,q)→Rが存在する.Clifford代数の一般論から,まずιの像での代数構造が分類される.分類結果の各々について,それを部分代数にもつ代数系Rを分類することができる.

 単純物理的superconformal代数に対応する共形超代数は,次のとおり列挙される:Vir,K1,K2,K3,S2,W2,N4,N4αおよびCK6,ただしα∈C/±1でα≠[±1].それぞれに対応するLie超代数は次のとおりである:VirはVirasoro代数,j=1,2,3についてKjはN=j superconformal代数として知られる無限次元Lie超代数,S2はN=4 superconformal代数として知られる無限次元Lie超代数,W2は4つのsuperchargeを持つある無限次元単純Lie超代数,CK6は6つのsuperchargeを持つある無限次元単純Lie超代数,N4およびN4αにはK4として知られる4つのsuperchargeを持つ無限次元単純Lie超代数.K4'のある中心拡大はlargeN=4superconformal代数としても知られる.

 共形超代数の分類の結果から,次の事実もわかる.

 定理Lie超代数Vir,K1,K2,K3,S2,W2,CK6について,物理的作用素積展開を与えるVirasoro部分代数は一意に存在する.Lie超代数K4'について,物理的作用素積展開を与えるVirasoro部分代数の選び方は1パラメータの自由度のみが存在する.

 謝辞 この論文を書くにあたって松尾厚先生に大変お世話になりました.この問題を考えるきっかけを与えてくださるとともに,論文中で追及した方針を私が放棄しかけた時も,幾度となく励ましていただきました.また,Shun-JenCheng氏にはN4αの共形ベクトルを取り替えることについて貴重なコメントをいただきました.加藤晃史先生,脇本実先生,庵原謙治氏,秦泉寺雅夫氏には議論のために貴重な時間を割いていただき,さらに有益なコメントをいただきました.この場を借りて深く感謝します.

審査要旨 要旨を表示する

 リーマン面上の場の理論である共形場の理論は,数理物理学の主要なテーマであって,その数学的に厳密な基礎付けを与えることは重要な課題である.これを代数的に扱うためには,場の演算子と演算子積展開のきちんとした定式化が必要になり,その試みが頂点作用素代数(vertex operator algebra)や共形超代数(conformal superalegbra)である.これらは,無限個の非可換・非結合的な積を持ち,無限個の複雑な関係式によって定義される無限次元の代数である.このように複雑な代数構造では,公理を満たすことの確認だけでも非自明な作業となる.従って,そのような代数系を分類することは一般に非常に困難である.

 共形超代数の定義を述べる.RをZ/2Z次数付きK-線形空間で,可算個の積〓,(n∈N),と線形変換∂:R→Rが与えられているとする.また,L)∈Revenとする.(R,{(n)}n∈N,∂,L)が以下の条件を満たすとき共形超代数(conformal superalgebra)という:

(C)任意のa,b,c∈Rに対し,

 (C0)十分大きなn∈Nに対してa(n)b=0,

 (C1)任意のn∈Nに対して(∂a)(n)b=-na(n-1)b,

 (C2)任意のn∈Nに対して

 (C3)任意のm,n∈Nに対して

(V)L∈Rは次を満たす:

 (V1)L(0)L=∂L,L(1)L=2L,L(2)L=0

 (V2)R上の作用素としてL(0)=∂であり,L(1)は対角化可能.

論文提出者山本剛は,「単純な共形超代数の分類せよ」という基本問題を物理的(physical)と呼ばれる重要なクラスについて研究し,完全な解答を与えた.

本論文で鍵となる最初のアイデアは

 ・共形超代数Rに対し,その“deformation retract”とも言うべき,より取り扱い易い代数系Rを定義する.

もし共形超代数が有限生成であれば,Rは有限次元ベクトル空間に実現されるZ/2Z次数付き可換代数となる.Rの公理系P0,P2,P3,PVは紙数が足りないので省略するが,RとRは,射の対応を含めて互いを一意的に決定するという意味で互いに等価(圏同値)であることが証明できる.

 さて,共形超代数Rについて,対応するRがL(1)の固有値(共形ウエイト)2,〓,1,〓に対応する部分空間CL,V,A,Fの直和に分解できるとき,Rは物理的(physical)であるという.

 本論文で鍵となる第二のアイデアは

 ・Rが物理的という仮定の下で,V上のClifford代数Cl(V,q)が,Rに自然に作用する.

この作用を利用して,Rの,従ってRの次のような分類が得られた.添字は対応するRにおけるVの次元を表している:

 定理 単純物理的共形超代数は,次のいずれかに同型である:Vir,K1,K2,K3,S2,W2,N4,N4αおよびCK6,ただしα∈C/±1でα≠[±1].

 証明の概要は次のとおり.物理的という条件下では共形ウエイトに関する条件から,RはClifford代数Cl(V,q)が一定の仕方で作用する“Lie”超代数としての構造を持つことがわかる.左Cl(V,q)-加群の射ι:Cl(V,q)→Rの存在とClifford加群の一般論から,まずιの像での代数構造が分類され、各々について,それを部分代数にもつ代数系Rを分類することができる.

 共形超代数の分類の結果から,次の事実もわかる.

 定理 共形超代数からそれに付随する“Lie”超代数への対応は殆ど1対1であるが,N4とN4αについては同じLie超代数K'4に対応する.

 定理 Lie超代数Vir,K1,K2,K3,S2,W2,CK6について,物理的作用素積展開を与えるVirasoro部分代数は一意に存在する.Lie超代数K4'について,物理的作用素積展開を与えるVirasoro部分代数の選び方は1パラメータの自由度のみが存在する.

 実は,物理的超共形代数を分類したと称する論文がVictor Kacによって数年前に提出されていた.論文提出者はその証明の論理に誤りがあり,分類結果に見落とし(N4αのクラス)があることを発見した.Kac自身,論文提出者への私信において自身の誤りを認めている.このように,論文提出者の研究は共形場理論の代数的基礎づけである共形超代数について,従来の結果の誤りを正し,独自の方法で分類を完成させた点で,非常に価値の高いものである.よって,論文提出者山本剛は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める.

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