No | 116684 | |
著者(漢字) | 川室,圭子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワムロ,ケイコ | |
標題(和) | 部分因子環から来る両側加群の延長 | |
標題(洋) | An induction for bimodules arising from subfactors | |
報告番号 | 116684 | |
報告番号 | 甲16684 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第185号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1 An induction for a bimodule 定理1.1 Type II1 factor N,Pのbimodule NXPとN-P cyclicかつ両側boundedなvectorξ∈Xのペア(NXP,ξ)(以下、pointed bimoduleと呼ぶ)と、completely positive (CP)-mapφ:N→Pで1〓φ1∈N〓φPをbounded vectorとして持つものは、Stinespring dilation theoremにより、bimoduleのconjugatetionやCP-mapのadjoint operationとcompatibleになるように一対一対応している。 ここで、ξ∈XがN-P cyclicとは、vectorξに両側からN,Pを作用させ、ヒルベルト空間Xの内積で完備化したもの〓が、Xに一致することである。またξ∈Xが両側bounded vector(以下、単にboundedと書く)であるとは、あるCξ>0が存在して、任意のn∈N,p∈Pに対し、〓nξ〓Cξ〓n〓2,〓ξp〓Cξ〓p〓2が成り立つことである。 以下で本論文の主定理を述べるが、その前にそれの背景と位置づけを簡単に説明する。 まず、LongoとRehrenがnets of subfactorのendomorphismを大きいfactorのendomorphismに延長する方法を発見した。後にXuはconformal inclusionから生じるsubfactorにそれを適応し、興味深い例を計算したため、多くの研究者がendomorphismの延長に関心をよせるようになった。その方法はα-inductionと名付けられた。Bockenhauer, Evans, Kawahigashiは、α-inductionにおいて本質的なのは、「endmorphismのなすfinite systemがbraidingをもっていることである」と指摘した。さらにIzumiはsystemではなくて、個々のendomorphismに対してhalf braidingという概念を導入し、Longo-Rehren subfactorについては、あるendomorphismが大きい環に延長出来ることと、そのendomorphismがhalf braidingを持つことが、必要十分の関係にあることを発見した。 ところで、フォンノイマン環はタイプI,II,IIIに分類されていて、以上はIII型の結果である。II型では同じようなことは考えられないであろうか?Masudaにより、Longo-Rehren inclusion(type III subfactorの構成法)と、Ocneanuにより定義されたasymptotic inclusion(type II1 subfactorの構成法)は本質的に同じものであることが知られている。またcategoricalには(type III factorのendomorphismのなすsystem, intertwiner spaces)と(type II1 subfactorから生じるbimoduleのsystem, intertwiner spaces)はきれいに対応している。始めに述べたように、pointed bimoduleとCP-mapは一対一に対応していることを考えれば、「II型subfactorのCP-mapを大きい環のCP-mapに延長する方法はないか」、という問題が自然におこる。実際、JonesやPopaを始めとする多くの研究者がこのことに疑問を抱き続けてきた。それに対する一つの答えが以下の定理である。 この定理のポイントは、今までのIII型factorのendomorphismの延長では(IzumiのLongo-Rherenという特定のinclusionに関する結果を除いて)十分条件のみを与えていたが、ここでは、CP-mapが延長できるための必要十分条件を与えることに成功している点である。またα-inductionは以下の定理の3⇒1にあたり、Izumiの結果は2⇔3から導かれる。さらに、幸崎のIII型subfactorのautomorphismの延長に関する定理も1⇔2に含まれる。他には、CP-mapの定義域と値域が異なるように条件が設定してある点も、endomorphismやautomorphismの延長問題の設定よりも一般的である。 定理1.2 N⊂M,P⊂Qを有限Jones indexをもつtype II1 subfactorとする。NXPを有限index ([NXP]<∞)をもつbimoduleとする。以下の条件は同値である。 1.有限indexをもつbimodule MYQが存在して、それは左N作用と右P作用がcompatibleになるようにXをsubspace (X⊂Y)として含んでおり、以下の条件も満たしている。つまり、subfactorのJones indexとbimoduleの左次元が等しい、i.e., [M:N]=[Q:P]<∞,dimNX=dimMY<∞. (この二つの等式から右次元の一致dimXP=dimYQも導かれる。)またN-P cyclicでboundedなvectorξ∈Xが存在し、それを埋め込み写像X〓YによってY埋め込んだものをη∈Yとおくと、η∈YはM-Q cyclicかつboundedである。さらにペア(NXP,ξ),(MYQ,η)に対応するCP-mapをそれぞれφ:N→P,ψ:M→Qとすると、 ψ|N=φ,ψ*|P=φ* が成り立つ。 2.有限indexをもつbimodule MYQが存在して、Bimoduleの同型 〓:NX〓PQQ〓NM〓MYQ, σ:MM〓NXP〓MY〓QQP が成立ち、さらにN-P cyclicかつboundedなξ∈Xと、η∈Yが存在し、 〓(ξ〓P1)=1〓Mη, σ(1〓Nξ)=η〓Q1 をみたす。 3.Bimoduleの同型 ψ:NM〓NXP〓NX〓PQP が成り立ち、以下をみたす。まず、N-P cyclicかつboundedなvectorξ∈Xが存在し、φ(1〓Nξ)=ξ〓P1をみたす。そして、bimoduleのhomomorphism s∈Hom(MM〓N MM,MMM),t∈Hom(QQ〓P QQ,QQQ)とφに対して以下のようなペンタゴン条件(braiding fusion equationともいう)が成り立つ。ζ∈NM〓N XPに対し、 (1〓Nψ)(s*〓N1X)(〓)=(ψ-1〓P1)(1X〓Pt*)ψ(〓) 条件2,3はより強い条件にいいかえることもできる。つまり、ベクトルξ∈Xはcyclicなので、他のcyclicベクトルに置き換えることも可能で、そうすると、ステートメントは"任意のN-P cyclicかつboundedなvectorξ∈Xに対して"という記述に書き換えられる。 Definition 1.3ペア(NXP,ξ),(MYQ,ξ)が上の定理の条件1又は2を満足しているとき (NXP,ξ)⊂(MYQ,ξ) とかく。 2 An extension of an inclusion of bimodules 本論文の後半では(NXP,ξ)⊂(MYQ,η)から出発してJones basic construction:N⊂M⊂M1,P⊂Q⊂Q1と相性のよくなるように(NXP,ξ)⊂(MYQ,η)⊂(M1ZQ1,ν)を構成したい。α-inductionやhalf braidingを用いたinductionでは、一般に、一段階のinductionはできるが、それを繰り返してtowerを作ることはできない。ところが、前章のようにpointed bimoduleを延長し、pointed bimoduleのinclusionを定義すれば、以下の方法でtowerを構成できる。 Φ:Y→Xを左右の作用とcompatibleな直交射影、{mj},{nk}をそれぞれN⊂M,P⊂QのPimsner-Popa basisとおく。そして、(M1ZQ1,ν)をそれぞれ M1ZQ1:=M1M〓NX〓PQQ1, υ:=[Q:P]-1/2〓mj〓NΦ(mj*ηnk)〓Pnk と定義すればよい。左右のM1,Q1作用と内積は、e,fをそれぞれN⊂M,P⊂QのJones projectionとし、εN:M→N,FP:Q→Pをtraceを保つconditional expectationとすると、 (aeb)・x〓Nλ〓Py・(pfq):=aεN(bx)〓Nλ〓P〓P(yp)q, <x〓Nλ1〓Py|z〓Nλ2〓Pw>z:=<εN(z*x)λ1〓P(yw*)|λ2>x. ヒルベルト空間Yの元は MYQ∋η〓[Q:P]-1/2〓mj〓NΦ(mj*ηnk)〓Pnk*∈M1ZQ1 によってZにnormを保つように埋め込まれている。 | |
審査要旨 | 本論文では論文提出者は,作用素環上のbimoduleの新しいinductionについて,これまで知られていたさまざまな結果を統一した興味深い結果を得た. 作用素環上のbimoduleが,(compact)群のunitary表現の「正しい」類似を与えることは1980年頃Connesによって指摘された.作用素環上のbimoduleに対し,テンソル積,次元,既約分解などが定義され,Frobenius相互律などの期待されるような性質を持つのである.それ以来,作用素環上のbimoduleについて多くの研究があるが,特に近年,量子群の表現論や共形場理論との関連のため多くの注目が集まっている.作用素環Mが,III型factorと呼ばれる環の場合は,M-M bimoduleを考えることと,Mの自己準同型を考えることは同値であることが知られており,代数的場の量子論との関連で作用素環の自己準同型を研究することも盛んに行われている.Bimoduleのテンソル積に対応する演算は,自己準同型の合成である. 本論文の研究テーマの元になっているのは,古典的な群の誘導表現の理論である.一般に群Gとその部分群Hがあるとき,Gの表現をHに制限することは自明である.また,Hの表現に対し,Gの表現を作る誘導表現と呼ばれる構成法があり,表現の制限とは適当な意味で双対の関係にある.この操作の類似を作用素環Mとその部分環Nに対して行いたい,というのがもともとの動機である.一般にM-M bimoduleがあるとき,左右の作用をNに制限することは自明にできる.また,N-N bimoduleからM-M bimoduleを構成するcanonicalな構成法も昔から知られている.そこで,これらが群の表現の制限,誘導の類似だと考えたいが,これらの操作には,自明なbimoduleを保たない,bimoduleのテンソル積も保たない,という問題点がある.そこで,これらの問題点を解消した,別の操作が求められることになる.Bimoduleのかわりに,作用素環の自己準同型を考えることにして,環Mの自己準同型を部分環Nに制限する,部分環Nの自己準同型をMに延長する,という操作を考えれば,上記の問題点は解消されることがわかるので,これが表現の制限,誘導の「正しい」類似であると思いたい.しかし,Mの自己準同型をNに制限しても像は一般にNには含まれない,また,Nの自己準同型をMに延長することは一般にはできない,という問題がある.この困難は,自己準同型をそのunitary同値類の中で取り替えることを許してもなお解消されない.一方,代数的場の量子論に現れる,braiding条件を仮定すればこの困難がクリアできるということがLongo-Rehren, Xuによって1990年代半ばに発見された.自己準同型を制限するのと延長するのは双対な操作で,どちらを考えても同じことなので以下では,延長の方を考えることにする.この自己準同型の延長の理論は,誘導表現の類似でα-inductionと呼ばれて近年盛んに研究されている. 一方,このbraidingを用いたα-inductionの構成と,Longo-Rehren subfactorと呼ばれる別の構成の研究に現れる,泉のhalf-braidingを用いた最近の構成とがよく似ていることは専門家の目には明らかである.すなわち,この泉の研究に現れるのも作用素環の自己準同型の制限,延長であって,その際,通常のbraidingより弱い,half-braidingという条件が重要な役割を果たすのである.(この,Longo-Rehren subfactorは,Drinfel'dのquantum doubleに相当するものを作用素環的に実現する構成法として近年大いに注目されているものである.)しかし,α-inductionと泉のhalf-braidingを用いた自己準同型の延長は,その類似性にもかかわらず,別々の定義による別々の構成として研究されてきた.また,自己準同型の部分環から大きな環への延長という立場からすると,幸崎による1993年の自己同型の部分環から大きな環への延長の研究も同じ枠組みで捉えられるが,これはα-inductionとの類似という文脈では捉えられてきていなかったものである. そこで,本論文提出者は,これらの類似した構成すべてを特別な場合として含む新しいinductionを定義し,それが可能になるための必要十分条件が,braidingに関連した非常に弱い条件で与えられることを示したのである.これが本論文の主結果であり,大変興味深いものである. また,上ではbimoduleを考えることと自己準同型を考えることは同値であると述べたが,環がIII型ではないときに片方の枠組みでの構成,結果からもう片方での構成,結果を導くことは,ある場合には非常に簡単であり,またある場合には比較的困難である.α-inductionの構成の場合は,これまでIII型環の自己準同型に対してのみ,自己準同型の特性を使って研究されてきており,II型のbimoduleで対応する構成が何かということは明らかではなかった.これは多くの人に近年問題とされてきたことである.本論文提出者はbimoduleの枠組みで研究しているので,この問題に対する答えを与えたことにもなっている.さらにこのinductionに対して,Jonesのbasic constructionの類似の構成が行えることも示している. 以上の結果は作用素環論に対する重要な貢献であり,よって,論文提出者川室圭子は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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