学位論文要旨



No 117448
著者(漢字) 周,健
著者(英字)
著者(カナ) シュウ,ケン
標題(和) Scholl元について
標題(洋) On Scholl elements
報告番号 117448
報告番号 甲17448
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第192号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,和也
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 辻,雄
内容要旨 要旨を表示する

 この論文はKuga-Sato多様体のK−群にある元を対象にして作成しました。

 Kuga-Sato多様体〓を与えたとき、Eisenstein符号を使ってKk+2(〓)に元(多数あり)を作ることがBeilinson-Deninger-Schollの仕事の一部であり、彼達はそれらの元を複素regulator写像を通して、〓のあるL−関数のs=0での値と結び付いた。その元のp−進的性質を調べるのは、この文章の主旨である。

 p−進的性質を調べる為に、ノルム写像との協調さが欠かせないものである。多数の元の中に協調さのある元を探すのをSchollによって始められた。Schollは開集合〓のKk+2にノルム写像と協調する元c,c'〓を発見した。この論文はSchollの仕事を基にし、より精密的な方向へと推進しようとした。まず、全〓の〓Kk+2−群にScholl元に似た元c,c'〓を作り上げ、そのノルム写像との協調さを調べることにした。その次、p−進regulator写像

とHochschild-Serre spectral sequence

そしてweight filtrationの分析によって、以下の写像

を定義することができ、Scholl元のp−進的性質を探るドアを開けた。初めて探求するのはScholl元とEisenstein seriesとの関係である。その背景として、L−関数のp−進理論という奥深い分野がある。まず、〓のL−関数のs=0(或はs=k+2)での値と関係するKk+2−群の元(Scholl元)が、写像vを通して、〓, の元c,c'〓(p−進zeta元という)を定め、ノルム協調性があるので

に属す。一方、同じく〓のL−関数のs=r(1〓r〓k+1)での値を決めたのはEisenstein series c,c'〓である(周期写像によって)。また、そのEisenstein seriesはH1(〓(〓pn), 〓(〓, 〓p(r)))のある元c,c'〓(加藤和也氏が定義)のdual exponential map下での像であることもわかった。H1(〓(〓pn), 〓(〓, 〓p(r)))にある元(c,c'〓)とH1(〓(〓pn), 〓(〓, 〓p(k+2)))にある元(c,c'〓)と(Tate twistによって)結び付いたのが一般の予想である。つまり、複素L−関数の値から違った道によってp−進世界に入ると、また合流する。

 加藤氏の一般化したexplicit reciprocity lawをこの場合での適用性を検証した。また、それを用いた計算の結果をまとめた。

 定理:ξ∈〓p(1)をZp-basisとすると、〓と〓は非零定数〓を除いてdual exponential map下の像は等しいである。

 本文では、定数Cξ,c,c'の形も定めた。

 また、次のことが予想される。

 予想:

 加藤先生が筆者にこの問題を紹介し、その後も、暖かく見守ってくれたことに深く感謝致します。

参考文献

[Bei] Beilinson, A. : Higher regulators of modular curves. Applications of algebraic K-theory to algebraic geometry and number theory, Comtemporary Mathematics 5 (1986) p. 1-34

[Del1] Deligne, P. : Theorie de Hodge, II. Inst. Hautes Etudes Sci. Publ. Math. 40 (1971) p. 5-57

[Del2] Deligne, P. : Theorie de Hodge, III. Inst. Hautes Etudes Sci. Publ. Math. 44(1974) p. 5-77

[Den] Deninger, C. : Higher regulators and Hecke L-series of imaginary quadratic field, I. Invent. Math. 96(1989)p. 1-69

[Ka1] Kato, K. : p-adic Hodge theory and values of zeta functions of modular forms preprint.

[Ka2] Kato, K. : Lectures on the approach to Iwasawa theory for Hasse-Weil L-functions via BdR. Lecture Notes in Math. 1553, Springer (1993) p. 50-163.

[Ka3] Kato, K. : Generalized explicit reciprocity laws. Advanced studies in contemporary Math. 1(1999) p. 57-126.

[Sch] Scholl, A. : An introduction to Kato's Euler systems. in Galois representations in arithmetic algebraic geometry, London Math. Soc. Lect. Notes 254, Cambridge Univ. Press (1998) p. 379-460.

審査要旨 要旨を表示する

 Beilinsonは1980年代に、代数体上の代数多様体のゼータ関数と代数的K群の深い関係を研究した。そして、代数多様体のK群からある実線形空間へのregulator写像を定義し、いくつかの例において、K群の中に特別な元を構成し、その元のregulator写像による像を計算して、そこにその代数多様体のゼータ関数の整数点におけるTaylor展開の最初の係数が現れることを示した。特に久賀−佐藤多様体の高次K群の中に、そのような元を構成している。Schollは、Beilinsonが定義した久賀−佐藤多様体の高次K群の多くの元の中の特別なものが、Euler系と呼ばれる良い性質を持つ系をなすことを見い出した。これをScholl elementと呼ぶ。

 この周氏の論文は、Scholl elementのp進性質を解明したものである。高次K群からp進eta1e cohomology群へ、Chern class写像と呼ばれる写像がある。またp進etale cohomology群から微分形式の空間へ、双対指数写像と呼ばれる写像がある。周氏は、これらの写像によるSchol1 elementの像を調べ、特に、その微分形式の空間における像が、二つのEisenstein級数の積でありその周期が保型形式のゼータ関数の特殊値になるものであることを、証明した。

 これは、モジュラー曲線のK2群の中のBeilinsonの元に対して加藤和也がおこなったことを、久賀−佐藤多様体の高次K群へと一般化したものである。

 周氏はまた、この論文において、様々の次元の久賀−佐藤多様体の高次K群のScholl elementが、p進etale cohomology群の逆系の中で、ある自然な操作によって、次元の違いを越えて互いに移りあうことを証明した。

 これは、Beilinsonが様々の次数の高次K群の中に定義した円単数の類似物が、p進etale cohomology群の逆系の中で、Tate twistの操作によって、次数の違いを越えて互いに移りあうという、Beilinsonの定理の,久賀−佐藤多様体版である。

 詳しく言うと、この論文の中で周氏は、Scholl elementを少し改善し、それを考察している。もとのScholl elementは、最善の元ではなく、それをそのままもちいたのでは優れた結果は出てこないことを、周氏は見い出したからである。もとのScholl elementは、久賀−佐藤多様体からいくつかの等分点を除いた開集合のK群に定義されるものであった。周氏は、Deningerの理論を用いて、ある作用素によってScholl elementを分解して特別な成分をとり、その成分を久賀−佐藤多様体全体のK群に拡張した元を、Scholl elementの代わりに用いた。これはこの仕事にとって必要な良い工夫であったが、このように微妙な方法で構成した元であるがために、その微分形式の空間における像の計算は難しくなる。周氏はEisenstein級数の理論を駆使してその困難を克服し、本論文の結果を得たのである。

 この論文により、久賀−佐藤多様体のK群とゼータ関数の関係の理解が深まった。この論文によって、久賀−佐藤多様体のChow群や、Selmer群や、高次K群らの、重要な群の解明が促進されると思われる。それらの群と保型形式のゼータ関数との関係の解明も進むと期待できる。

 この論文は、K群を用いたし數論的代数幾何の研究に新境地を開くものであり、多くの応用の期待できる優れた研究である。審査委員は全員一致で、周健氏が本論文によって博士の学位を授与されるに相応しいと判定した。

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