学位論文要旨



No 117450
著者(漢字) 上原,北斗
著者(英字)
著者(カナ) ウエハラ,ホクト
標題(和) 無限個の因子的収縮写像を持つ3次元Calabi-Yau多様体
標題(洋) Calabi-Yau threefolds with infinitely many divisorial contractions
報告番号 117450
報告番号 甲17450
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第194号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 教授 宮岡,洋一
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
内容要旨 要旨を表示する

 本論文の目的は、無限個の因子的収縮写像を持つ3次元Calabi-Yau多様体について考察することである。ここでCalabi-Yau多様体とは複素数体上の滑らかな射影的代数多様体であってその標準束が自明であり、かつそのAlbanese多様体が0次元のものとする。MorrisonのCone予想([1])が正しければCalabi-Yau多様体のネフ錐への自己同型群による作用が有理多面体の基本領域を持つ。よって、無限個の収縮写像を持つCalabi-Yau多様体の自己同型群は無限群になると考えられる。逆に自己同型群が無限のとき、そのCalabi-Yau多様体が無限個の収縮写像を持つことはよく起こると思われ、従って冒頭の3次元Calabi-Yau多様体を調べるのは3次元Calabi-Yau多様体を分類するという立場から見ても重要であると考えられる。

 定義 Xを3次元Calabi-Yau多様体、ψ:X→Yをψ*H・c2=0をみたすような収縮写像とする。但しHはY上の豊富因子であり、またc2は第2種チャーン類c2(X)を表すとする。このような写像をc2−収縮写像と呼ぶ。

 c2−収縮写像をもつ3次元Calabi-Yau多様体はYの次元が2以上の時においては、小木曽氏によって分類されている([2]参照)。以下Xは3次元Calabi-Yau多様体のこととし、{ψi}i∈IをX上の全ての因子的収縮写像の集合とする。次はMorrisonのCone予想の特別な場合である。

 問題1 集合Iの自己同型群の作用による商集合は有限か?

 さらにi∈Iに対しEiでψiの例外集合を表す。また*が=, <, >のいずれかを表す時、それぞれに対しIc2*0 : ={i∈I|Ei・c2*0}とおく。

 3次元Calabi-Yau多様体上のネフ因子は何倍かすれば定点がないと予想されていて(この性質を半豊富、この予想を半豊富予想と呼ぶ)、この半豊富予想とMorrisonのCone予想が正しければ、自己同型群が無限であるような3次元Calabi-Yau多様体の多くはc2−収縮写像を持つと考えられる(詳細は本論文参照)。本論文ではこの考察を踏まえ、Ic2=0が無限であるような3次元Calabi-Yau多様体は一般ファイバーが楕円曲線となるc2−収縮写像を常に持つことを直接示し、上に述べた小木曽氏の分類を使ってその構造を完全に決定した。さらにこの構造定理を使ってIc2=0の自己同型群の作用による商集合が有限であることを示した。またこれとは全く別にIc2<0は常に有限集合となることも得た。これらの結果から問題1は問題2に帰着される。

 問題2 Ic2>0の自己同型群の作用による商集合は有限か?

 集合Ic2=0が無限であるような3次元Calabi-Yau多様体は、本論文中で構成されている。

 またMorrisonのCone予想が正しければ、すべてのi∈Iに対しEi・c2は有界となるはずである。実際にEiが正規でない場合についてはこの数たちは有界となることが本論文中で示されている。

参考文献

[1] D. Morrison, Compactifications of moduli spaces inspired by mirror symmetry, Asterisque 218, Soc. Math. France, Paris(1993), 243-271.

[2] K. Oguiso, J. Sakurai, Calabi-Yau threefolds of quotient type, Asian J. Math. 5, (2001).

審査要旨 要旨を表示する

 論文提出者 上原北斗は,無限個の因子収縮写像を持つような3次元Calabi-Yau多様体の構造を研究した.ここで言うCalabi-Yau多様体とは,複素数体上の滑らかな射影的代数多様体であって,その標準束が自明でありかつその非正則数が0になるようなものと定義する.

 Calabi-Yau多様体Xのネフ錐体にはXの自己同型群が作用するが,Morrisonはこの作用には有理多面体からなる基本領域が存在すると予想した.一方,Xの収縮写像にはネフ錐体の端射面が対応するので,この予想が正しいと仮定すると,無限個の収縮写像を持つCalabi-Yau多様体の自己同型群は無限群になり,しかも収縮写像全体の集合の群作用による軌道は有限集合になることになる.このような考え方を背景として,論文提出者は無限個の因子収縮写像を持つCalabi-Yau多様体の構造を解析した.

 以下では,無限個の因子収縮写像φi:X→Yiを持つCalabi-Yau多様体Xを考える.

 論文提出者は,まずφiの例外因子Eiと第2チャーン類の交わりEi・c2(X)が0と等しいような因子収縮写像が無限個ある場合を考えた.因子収縮写像の例外因子Eiたちの線形結合の線形系を考えることにより,Xの収縮写像φ : X→Wであって,像Wの次元が2で,像の豊富因子Hの引き戻しとXの第2チャーン類の交わりφ*H・c2(X)が0になるようなものを構成した.

 このような収縮写像は小木曽啓示氏によってすでに分類をされている.小木曽氏のリストのうちで,この場合に相当する場合を選び出すことによりXの双有理同値類が決定された.すなわち, WはDuVal特異点を許したK3曲面Sの有限群Gによる商多様体と同型になり,XはSと楕円曲線Eの直積S×Eの商多様体(S×E)/Gのクレパント特異点解消Yと双有理同値になる.

 さらに,K3曲面Sは無限個の滑らかな有理曲線でSの特異点を通らないものを含み,これらからYの無限個の因子収縮写像が導かれる,それらがXに伝わる様子を記述することができた.Sの自己同型群は無限群になり,したがってXのの自己同型群も無限群になる.論文提出者は因子収縮写像φiたちの自己同型群による軌道は有限集合になることを証明し,Morrison予想の傍証を与えた.

 これとは全く別に,Ei・c2(X)<0となるような因子収縮写像は常に有限集合であることも証明した.したがって,残るのはEi・c2(X)>0となるような因子収縮写像の自己同型群の作用による商集合は有限か?という問題である.

 また,すべての因子収縮写像の対して,Ei・c2の値は有界となるということを,Eiが正規ではない場合について証明した.これもMorrison予想から導かれる結果と一致する.

 以上の結果はCalabi-Yau多様体の構造の研究に貢献するものである.よって,論文提出者上原北斗は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

UTokyo Repositoryリンク