学位論文要旨



No 117462
著者(漢字) 萩原,学
著者(英字)
著者(カナ) ハギワラ,マナブ
標題(和) 星型Dynkin図形上及びA型Dynkin図形上のminuscule heap
標題(洋)
報告番号 117462
報告番号 甲17462
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第206号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 寺田,至
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 岡本,和夫
 東京大学 助教授 小林,俊行
 東京大学 助教授 加藤,晃史
 東京大学 助教授 松本,久義
内容要旨 要旨を表示する

 minuscule heapはラベル付き半順序集合の一つであり、組み合わせ論的に興味深い性質を持つことが期待され、近年活発に研究されている対象である。この論文は二部構成になっており、そのどちらもminuscule heapを主要な研究対象としている。第一部ではsimply-lacedな星型Dynkin図形上のminuscule heapについて、第二部ではA型のDynkin図形上のminuscule heapについての幾つかの結果をまとめている。

 Γを一般Cartan行列Aを表すDynkin図形とする。またA,Γと対応するKac-Moody Lie環をgとする。Aの行、列はΓのnode集合N(Γ)でインデックスされているとする。Wをgに関するWeyl群とする。minucule heapはWのλ-minuscule元に由来するラベル付き半順序集合である。

Definition.WをgのWeyl群とする。λをgのintegral weightとする。ω∈Wがλ-minuscule元であるとは、最短表示ω=Si1Si2…Sirであって

という条件をみたすものがあることをいう。ここで、Siκはsimple reflectionで、αiκはSiκと対応するsimple rootである。

 λ-minuscule元はfully commutativeと呼ばれる性質、つまりω∈Wの最短表示を一つ与えると他の最短表示全てが可換な生成元の交換によって得られるという性質、をもっている。このfully commutative元はheapと呼ばれるΓ−ラベル付きposetと関連が知られる。Γ−ラベル付きposetとは、poset(P,〓)と写像φ:P→N(Γ)の組(P,〓,φ)のことをいう(このφをラベル写像と呼ぶ)。minuscule heapとはminuscule元ω∈Wと対応するheapのことである。このminuscule heapをΓ上のminuscule heapと呼ぶ。

 minuscule heapに関して特に研究されてきたものは対応するλ-minuscule元のλがdominant weightであるときだった。例えばA型のDynkin図形上のminuscule heapに関して、対応するλ-minuscule元のλがdominantであるとき、そのminuscule heapはYoung図形ということができる。R.Proctorはsimply-laced Dynkin図形上のminuscule heapのうちλがdominantであるものを、slant既約という概念を用いて15種類に分類した。そしてそれらを既約なd-complete posetと名づけ、Young図形のもつ性質であるhookの公式やJeu de taquinをそれらに拡張させた。そしてStembridegeがmultiply-lacedなDynkin図形上のminuscule heapのうち、やはりλがdominantであるもののslant既約なそれを分類した。この論文ではλをdominantと仮定せず、一般のintegral weightλに対するminuscule heapを研究している。そして、星型のDynkin図形上のminuscule heapとA型のDynkin図形上のminuscule heapを特徴付けたのが主要な結果である。

 この論文の第一部では、まず星型のDynkin図形というDynkin図形のあるクラスを定義する。星型のDynkin図形とは、simply-lacedなDynkin図形で幾つかのA型のDynkin図形をそれぞれの端の点で連結させたものである。連結されたnodeを中心と呼ぶ。そして星型Dynkin図形の持つacyclic性から得られるminuscule heapの性質、それはランクが定義できる性質、を用いてslant latticeというΓ−ラベル付きposetを定義するまずN(Γ)×Zの元(υ,m),(u,m+1)に対し、υ,uがΓ上隣り合っているときに(υ,m)<(u,m+1)と関係を定義しこのreflective, transitive closure〓により順序を定める。そして中心をoとし、(o,0)を含むN(Γ)×Zのconnected componentをslant latticeと呼ぶ。このslant latticeのcover subposet、つまり部分集合の中のカバー関係だけで生成した順序による順序集合を定義しする。そして全ての星型Dynkin図形上のminuscuhe heapを、slant latticeに自然に埋めこんだ。更に、slant latticeのcover subposetが星型Dynkin図形上のminuscule heapである為の必要十分条件を与えた。つまり、星型Dynkin図形上のminuscule heapの特徴づけを結果として得た。この特徴づけの際に、D-matrixという組み合わせ論的に定義できる行列を定義した。このD-matrixにはminuscule heapの中核的な情報が含まれ、D-matrixごとにcoreとよぶminuscule heapを定義した。全てのminuscule heapはcoreに飾り付けをしたものとして捕らえられる。この論文では、coreへの飾り付けの条件を記述できた。またD-matrixを導入し、それに関する考察の系としてminuscule elementが有限個しかないsimply-laced Dynkin図形に対応するWeyl群を決定した。

 第二部ではA型のDynkin図形上のminuscule heapを特徴付けた。A型のminuscule heapは殆どがranked posetにならないことが知られている。また、サポート(Imφのこと)がN(Γ)全体となるときはλは決してdominantにならないことも知られている。A型のDynkin図形上のminuscule heapは殆ど研究されていなかったと言える。この論文では、slant latticeの類似と考えられるΓ−ラベル付きposet Lκというposetを定義した。LκはZ×Zにslant lattice同様に順序を定義し、ある向きへの平行移動が生成する群Gκにより割ってできる順序集合のうち(0,0)を含むconnected componentである。主定理はLκのconvex subsetがminuscule heapであり、また全てのA型Dynkin図形上のminuscule heapがあるLκのあるconvex subsetと同型になることである。もう一つの主定理として、A型のaffine Weyl群と同型であることが知られるaffine permutation groupに対し、maximal parabolic subgroupで右から割った剰余類の最短代表元に対して、minuscule元か否かの組み合わせ論的判定条件を与えた。その為にcapped Young図形という対象、視覚的にはYoung図形にあるcapをかぶせた対象、を定義しそれを用いて特徴付けした。

審査要旨 要旨を表示する

 萩原学氏の論文は,星型Dynkin図形およびA型Dynkin図形の上のminuscule heapの組合せ論的な分類を与えたものである。

 minuscule heapは,Weyl群Wのminuscule元をCoxeter生成系に関する最短表示の観点から組合せ論的に捉えたものである。ここでいうWeyl群はgeneralized Cartan matrix A=(aij)i, j∈I(またはIを頂点集合とするDynkin図形Γ)から決まるKac-Moody Lie環のWeyl群であり,simple root αiに対応するreflection si, i∈I,全体を生成系とするCoxeter群になっている。Wの元ωがminusculeであるとは,ωの最短表示Si1Si2…Siι及び整weightλが存在してSiκSiκ+1…Siιλ=Siκ+1…Siιλ−αiκ(1≦〓κ≦ι)が成立することをいう(この定義はD.Petersonによる)。これはCoxeter群に関する概念ではなく,Cartan行列Aに依存した概念である。このλとしてdominantな整weightがとれるときωはdominant minusculeであるという。例えばAが有限型の場合,λがminuscule表現のhighest weightならばW/Wλの最短代表元はどれもdominant minusculeである。一般にWの元ωの最短表示全体は,表示の中の隣接する可換な生成元の順序の交換を繰返して移り合えるものどうしに同値類別でき,その各同値類に対しheap呼ばれるΓ-labeled poset(P,φ)すなわち半順序集合Pと写像φ:P→Iとの対が定義される。Pの任意のlinear extension E:P→[1,ι](ι=│P│)に対しSφ(E-1(l))Sφ(E-1(2))…Sφ(E-1(ι))がωの最短表示になり,これによりPのlinear extension全体とこの類に属する最短表示全体とが一対一に対応する。ωの最短表示全部がこの意味の一つの同値類に属するときωはfully commutativeであるといい,この唯一の同値類に対応するheapをωのheapという。上述のminuscule元はfully commutativeであることがR.ProctorやJ.Stembridgeによって示され,さらにΓ-labeled posetがminuscule元のheapすなわちminuscule heapになるための構造上の条件がStembridgeによって与えられている。

 本論文はこの条件を出発点とし,Γを固定してΓ上のminuscule heapがどれだけあるかを同型を除き全部書き上げる方法を,ある種のΓに対し具体的に与えるものである。この種の最初の結果はS.Billey, W. Jockusch及びR.StanleyによるA型のWeyl群に関するもので,fully commutative元とminuscule元は一致し,そのheapはすべてskew Young図形を斜めに回転した形になる。特にheapがskewでないYoung図形になるものがdominant minusculeで,その場合no最短表示の個数すなわちlinear extension(標準盤)の個数はhook length formulaで与えられる。その後ProctorはΓがsimply-lacedのときdominant minuscule heapは彼の用語でd-completeと呼ばれる性質を持ち,これがあるとhook length formulaやjeu de taquinなどYoung図形と類似した著しい性質を持つことを示した。

 本論文ではΓを制限するが,dominantと限らないminuscule heap全体を分類するところに特徴がある。Γがsimply-lacedでacyclicな場合,Γ上の任意のminuscule heapは本論文で導入されているΓ上のslant latticeと呼ばれるI×Zの部分集合に埋め込まれ,一種の座標表示が決まる。この座標表示を使って,slant latticeの部分集合としてminuscule heapを分類するのが本論文の特徴である。前半のstar-shapedの場合,すなわちΓが1点oから何本かの枝が出ている形をしている場合にはこれがまさに適用できる。ラベルがoでrankが最大の元をto,最小の元をboと書くと,[bo, to]の部分のは各枝に上に三角形の旗をいくつか並べた形をしており,その具体的な配置はD-matrixと呼ばれるものによって記述できる。その外部にも若干の元があるのが一般的で,各三角形の外にどういう形に元が付属しうるか,それが全体として可能なのは付属物がさらにどういう条件を満たしているときかも正確に記述している。後半のAn型の場合はacyclicでなく,ほとんどのminuscule heapはranked posetにならず,supportが全体の場合はslant latticeへの埋め込みの手法はそのまま使えないが,本論文ではそこをLκというslant latticeを変形したもの(A型のslant latticeを,1周するとrankに相当するものがκずれるように張り合せたもの)を導入することにより突破している。A型の場合の分類結果がslant latticeのconvex subsetとなったのと同様に,Lκの有限なconvex subset(ただしκは1からnまで動く)全体がΓ上のminuscule heap全体の分類結果を与える(ただしrank方向に平行移動しただけのものは同じとみなす)。An型Weyl群にはdominant minuscule元はsupportが全体でないものしかないが,本論文ではそれに準ずるものとして,極大放物型部分群であるAn型Weyl群で割った剰余類の最短代表元になっているminuscule元に対し,Zの置換として表示したときどういう条件を満たす元になるかも決めている。

 以上のように本論文は,組合せ論とLie環論の双方が興味をもちうるある対象を完全に分類し,特にAn型の場合について結果も大変興味を引く形にまとめている。よって,論文提出者萩原学は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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