学位論文要旨



No 117466
著者(漢字) 張,果平
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,カヘイ
標題(和) 無限遠で優二次的なポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式について : 局所平滑化作用とストリッカーズ不等式及びその非線形シュレーディンガー方程式への応用
標題(洋) Schrodinger Equations with Potentials Superquadratic at Infinity : Local Smoothing Properties and Strichartz Inequality and Its Applications to Nonlinear Schrodinger Equations
報告番号 117466
報告番号 甲17466
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第210号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷島,賢二
 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 教授 新井,仁之
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 教授 片岡,清臣
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は,無限遠で優二次的なポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式の局所平滑化作用,Strichartz不等式とその非線形シュレーディンガー方程式に対する初期値問題への応用に関するものである。

 Rn上の時間依存型シュレーディンガー方程式に対する初期値問題

を考える。ただしポテンシャルV(x)に対して次を仮定する。

(0.2)を満たすVは無限遠で優二次的なポテンシャルと呼ばれている。

 第1章はIntroductionである。この研究の背景と動機について簡単に解説する。H0=−1/2△は自由シュレーディンガー作用素とする。

(1) Strichartz不等式:〓とn=2の時,p≠∞を満たす(p,θ)に対して,ある定数C>0が存在して,

が成り立つ。

(2) 局所平滑化作用:任意のT>0とΨ∈C∞0(Rn)に対して,ある定数C>0が存在して,

が成り立つ。ここでTは〓の時,T=∞にしてよい。D=(D1,...,Dn), Dj=-i∂/∂xjで,自己共役作用素Aに対して〈A〉=(1+|A|2)1/2とおいた。

 〓を満たすポテンシャルVに対しても(0.3)と(0.4)は成り立つ。しかし.ポテンシャルが無限遠方において優二次的である場合には,(0.3)や(0.4)のような評価は知られてないようである。この事実は,方程式(0.1)の基本解,すなわち発展作用素e-itHの超関数核E(t,x,y)の滑らかさあるいは有界性がポテンシャルの無限遠方での増大度がC|x|2を通過するとき劇的な転移をするということに関係していると思われる:すなわち,V(x)=o(|x|2)のときE(t,x,y)はすべてのt≠0において滑らかで,空間的に有界,V(x)=O(〈x〉2)の時には少なくとも小さい時間において同じ事が成立するのであるが,〓,の場合にはE(t,x,y)はいかなる点の近傍においてC1級にはならず,また空間的にも有界でない場合もある。実際,評価式(0.3)は|t|が小さいときの基本解に対する評価〓の帰結であり,(0.4)はx(t)=eitHxe-itHをハイゼンベルグ描像における位置作用素として,〓が−1階の擬微分作用素であることから得られるのであるが,これらの性質は上に述べた基本解の性質から明らかなようにポテンシャルが優二次的の場合には成立しない。われわれのこの研究の動機はこのE(t,x,y)に対する滑らかさと有界性に関する性質の変化が方程式(0.1)に対する平滑化作用にも遺伝するか?を調べることにあった。

 第2章では一次元空間R上の時間依存型シュレーディンガー方程式に対する初期値問題を考える。まず,Langer's turning point理論を用いてシュレーディンガー作用素の正規化された固有関数の漸近挙動を解析し,そのLp−ノルムの最良の評価を得た。

定理2.1.5 V(x)〜|x|mと適当な仮定を満たすとする。ψ(x,E)はH=-1/2△+V(x)の固有値Eに対する正規化された固有関数とする。この時,次のことが成立する。

(1)コンパクト区間K⊂Rと十分大きなEに対して,〓

(2)1〓p〓∞と十分大きなEに対して

ここで〓, ε>0であれば,Cpはpによらずにとれる。

定理2.1.5と時間変数についてのFourier変換を用いて次の二つの局所平滑化作用を得た。定理2.1.2と2.1.3において時間変数tと空間変数xに対する積分の順序はと(0.3), (0.4)異なることに注意。

定理2.1.2-2.1.3V(x)はV(x)〜|x|mでさらに適当な仮定を満たすとする。〓とする。任意のT>0とコンパクト区間K⊂Rに対して,ある定数CT>0が存在して,

が成り立つ。

 第3章はn次元空間〓上の時間依存型シュレーディンガー方程式に対する初期値問題を考える。Hormanderの擬微分作用素の理論と振動積分の理論を合わせて,すべての空間次元においてStrichartz不等式(定理3.1.3)を証明することができる。

定理3.1.3 V(x)はV(x)〜|x|mでさらに適当な仮定を満たすとする。〓のとき,p≠∞とする。任意の〓に対して,ある定数Cγ>0が存在して,

が成り立つ。

次に,h−擬微分作用素の理論を用いて,局所平滑化作用(Theorem 3.1.2)を得た。

定理3.1.2 V(x)はV(x)〜|x|mでさらに適当な仮定を満たすとする。任意のT>0と〓の対して,ある定数CT>0が存在して,

が成り立つ。

 第4章は第2章と第3章の結果を非線形シュレーディンガー方程式へ応用するための準備である。V(x)はV(x)〜|x|mでさらに適当な仮定を満たすとする,Hormanderの擬微分作用素の理論を用いて,定理4.1.1を証明することができる。すなわち,1<p<∞に対して,

が成立する。dyadic decompositionを用いて,the fractional derivativesのLeibniz's rule(命題4.2.3)を証明した。L'(Rn)≡S'(Rn)/Pとおく(PはRn上の多項式環である)。

命題4.2.3 F∈C(Cm;C).任意のξ,η∈Cmに対して,

が成立すると仮定する。

〓とu=(u1,…,um)とする。〓と仮定する。このとき,〓である。さらに,

が成り立つ。

 前述の結果の応用として非線形シュレーディンガー方程式に対する初期値問題

を考える。

 第5章では初期値問題(0.12)の解の適切性を研究する。局所平滑化作用の応用として次の結果を得た。

定理5.2.3 V(x)はV(x)〜|x|mでさらに適当な仮定を満たすとする。〓とする。f(x,u)は次の条件を満たすとする。

(1)あるコンパクト集合L⊂Rnが存在して,〓ならば,〓である。

(2)ある定数Cが存在して,

が成り立つ。この時,任意のL⊂Kを満たすコンパクト集合Kと〓に対して,ある定数δ>0が存在して,初期値問題(0.12)は〓において局所的に適切である,すなわち,適当なδ>0が存在し,(0.12)は〓にただ一つの解u(t,x)をもち,写像〓は連続である.さらに〓が

をみたせば(0.12)は〓において時間大域的に適切である.すなわち,解u(t,x)は〓全体に一意的に延長され,写像〓は任意のT>0に対して連続である.

 Strichartz不等式によって,次の定理を証明することができる。sより小さくない最小の整数をs*と書く。

定理5.2.10 V(x)〜|x|mと適当な仮定を満たすとする。〓,〓と〓でλ,Fは次の条件を満たすとする。

(i) 〓

(ii) 〓になる〓に対して,ある定数Cγが存在して

ここで|γ|=γ1+γ2と∂=(∂u,∂u).

つまり,(θ,p)は

を満たすとする。このとき,任意の〓に対して,あるδ>0が存在して,初期値問題(0.12)は〓にただ一つの解u(t,x)をもち,写像〓は連続である.

 最後の第6章は第4章の結果を用いて((0.10)と命題4.2.3),第5章に得た初期値問題(0.12)の解のregularityを研究する。

審査要旨 要旨を表示する

 シュレーディンガー方程式の初期値問題

を考える.V∈C∞で,あるC>0に対して〓ならば,(1)はL2(Rn)でただ一つの解u(t,・)=e-itHu0を持つ.ただし,Hは(1)の右辺の作用素が決める自己共役作用素で,e-itHはHが生成するユニタリ群である.Vが〓をみたす時,すなわち,Vが高々二次関数的にしか増大しない時,e-itHは次の二つの不等式をみたすことがよく知られている:

Strichartzの不等式:〓ただしn=2の時はp≠∞,の時,ある定数C>0が存在して,

局所平滑化作用:T>0, Ψ∈C∞0(Rn)の時,ある定数C>0が存在して,

ただし,‖u‖pはLp(Rn)のノルム,D=(D1,...,Dn), Dj=-i∂/∂xjで,〈A〉=(1+|A|2)1/2である.不等式(2), (3)は,任意の初期値u0∈L2(Rn)に対して,(1)の解u(t)がほとんどすべてのtにおいてu0より滑らかであることを意味し,非線形シュレーディンガー方程式等の研究において重要な役割を果たしている.

 本論文は二次関数より早く増大するVに対して(2), (3)を一般化すると同時に,その非線形シュレーディンガー方程式の初期値問題への応用を論じたものである.主定理は次の二つである.VはC∞で,ある定数m>2, C1, C2>0に対して次ををみたすものとする.

定理1 p,θは不等式(2)に対すると同じ条件を満たすとする.T>0, γ>1/θ(1/2−1/m)の時,ある定数C>0が存在して,

n=1の時は,θ=2として左辺の積分順序を入れ替え,右辺でγ=0とした不等式〓が適当なp>2とr(p)>0に対して成立する.

定理2 T>0, Ψ∈C∞0(Rn)の時,ある定数C>0が存在して,

(5)の左辺の1/2mをより大きな数で置き換えることは一般にはできない.

 さらにこの結果を応用して非線形シュレーディンガー方程式

に対して次を証明した.s>0に対して,〓とし〓はグラフノルム(‖Hs/2u‖2+‖u‖2)1/2をもつヒルベルト空間である.sより小さくない最小の整数をs*と書く.

定理3 〓とする.Fは〓に対して〓をみたすと仮定する.この時,(6)はHsにおいて時間局所的に適切である.すなわち,任意の〓に対して,T>0が存在し,(6)は〓に属する一意的な解をもつ.ただし,〓は〓に含まれる適当な関数空間である.

定理3を示すの従前のものを改良した合成関数の分数べき微分に関する次の定理を用いる.〓はRn上の多項式環,である.

定理4〓とする.〓とする.この時,〓なら〓で

 方程式(1)の基本解、すなわちe-itHの超関数核E(t,x,y)は,Vが無限遠方でV(x)=O(|x|2)のときはすべてのt≠0において(V(x)=O(〈x〉2)の時には小さな|t|において)滑らかで空間的に有界である.さらに,対応する古典力学の作用積分S(t,x,y)を用いて

の形に書けることが知られている.ただし,a(t,x,y)は滑らかで有界な関数である.V(x)=O(〈x〉2)の時,不等式(2), (3)はこの事実を用いて証明されてきた.一方,E(t,x,y)の正則性,有界性はVの増大度に関してV(x)〜x2を境に急変し,この論文で考えられている〓の場合,E(t,x,y)はいかなる点の近傍においてもC1級にならず,また空間的に有界でないこともあることが知られている.本論文では定理1,定理2を次のような方法を用いて証明している:

(1)n=1の場合はLangerのturning point理論を用いて,シュレーディンガー作用素の正規化された固有関数のLp−ノルムのエネルギー→∞での最良の漸近評価を求め,不等式を時間方向のフーリエ変換によって固有関数の漸近評価に帰着する.

多次元では固有値・固有関数の精密な情報を得ることが困難なため,基本的には超局所解析的手法を用いる.すなわち,

(2)エネルギー〜2jに局所化し,局所化されたe-itHに対し(4),(5)型の不等式を古典粒子の一周期程度の時間|t|<hj=2(1/m-1/2)/2に対して示せばよいことをHardy-Littlewood型不等式を用いて示す.

(3)局所化されたe-itHは|t|<hjにおいて(7)の形の核をもつ振動積分作用素によって,jに関して一様に,よく近似されることを示す.これから,定理1が従う.

(4)局所化したeitHΨ(x)e-itHに対するエゴロフ型の近似定理が|t|<hjにおいて,jに関して一様に得られることをh−擬微分作用素の理論を用いて示す.定理2はこれから従う。

論文に示された以上の結果はこの方面の研究における新たな知見をあたえるものであり,その証明は上のように新しいアイデアを含み,多くの工夫を必要とする評価をもってなされている.この論文は高く評価されるべきものである.よって,論文提出者 張 果平 は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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