No | 118414 | |
著者(漢字) | 亀井,聡 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カメイ,サトシ | |
標題(和) | 単体的複体の組合せと幾何構造 | |
標題(洋) | Combinatorial and geometrical properties of simplicial complexes | |
報告番号 | 118414 | |
報告番号 | 甲18414 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数第214号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | トポロジー及び幾何学において,多様体の三角形分割となるような単体的複体の性質を調べることは,重要な研究手法の一つである.また,組合せ論に関連する分野でも,単体的複体はそれ自身,重要な研究対象であるといえる.近年はさらに,情報科学,情報工学の諸分野においても,単体的複体の性質は様々な形で応用されている.特に,コンピュータグラフィックスにおいては,対象物を微小な三角形に分割して表現するという手法がとられることが多く,これは,数学における諸分野での単体的複体についての研究成果の直接的な応用例の一つであるといえる.このような応用的見地からも,今後単体的複体の研究は,重要性を増していくものと思われる.以上のことを踏まえ,本論文では第2章で単体的複体の幾何構造について,第3章で幾何構造について論じた. まず,用語の定義を行う.単体の有限個の集合Cが,(1)σ∈Cなら,(空集合も含めた)σの全ての面はCの元である,(2)σ,σ'∈Cならσ∩σ'はσとσ'両方の面となる,という二条件を満たすとき,Cは単体的複体であるという.単体的複体Cの0次元面を頂点,1次元面を辺,面の包含関係において極大なものをファセットと呼ぶ.以下ではCの辺の集合をE(C),2次元面の集合をF(C)で表すことにする.Cに属するファセットの最大次元を,C自身の次元とする.Cの全てのファセットが等しい次元を持つとき,Cは純であるということにする.特に,空集合から成る単体的複体を,-1次元の純な単体的複体とする.Cに属する全ての単体の和集合|C|を,Cの底空間と呼ぶ.|C|が多様体Mと同相である時,CはMの三角形分割であるという,本論文では,CがMの三角形分割であるとき,やはりCはMと同相であるということにする.また,単体的複体について,次元が高々κの面が成す部分複体を,κ骨格ということにする. 定義.Sは,底空間がコンパクトかつ連結である,純な2次元単体的複体とする.Sの任意のファセットFについて,その貼り合わせ面が純な1次元単体的複体から成るとき,Sを分岐曲面ということにする. 以下,関数ω:E(C)→(0,π)を考え,これをCの辺に関する重み,あるいは単にCの重みということにする.今,Cには重みωが与えられているとする.eをCの辺とし,A,Bをeの頂点とする.また,eを含むCの2次元面をABC1,ABC2,…,ABCnとする.このとき,各頂点C1,C2,…Cnに,ω(e)から正の値を分配することを考え,これを各頂点における角度と見ることにする(図1). 以上の設定に関して,第2章では分岐曲面,及び3次元多様体と同相な単体的複体の幾何構造を考察した.具体的には,以下のような幾何構造について論じた. 定義.分岐曲面において,すべての2単体がEuclid三角形として実現されているとき,その実現を局所Euclid構造と呼ぶことにする(図2a). 定義.分岐曲面,あるいは3次元多様体の三角形分割をCとする.また,nをCの次元とする.Cの各ファセットが,Euclid三角形,あるいはEuclid四面体として実現され,隣接するファセット同士が,対応する(n-1)次元面で等長的に貼り合わせ可能であるとき,その実現を特異Euclid構造と呼ぶことにする(図2b). 本論文では,重みが与えられた分岐曲面が特異Euclid構造を持つ条件について,以下のことを示した. 定理2.4.1.Sを分岐曲面とし,ωをSに与えられた重みとする.F'をF(S)の部分集合とし,E'をF'に含まれる全ての辺の集合とする.任意のF'が不等式を満たすとする.ただし,等号成立はF'=F(S)かF'=φのときで,そのときに限る.このときSは,ωから得られる局所Euclid構造全体の空間の中で,一意な特異Euclid構造を持つ. さらに3次元多様体と同相で,コンパクトかつ連結な単体的複体の特異Euclid構造について,以下のことを示した. 定理2.4.2.Cを,3次元多様体と同相で,コンパクトかつ連結な単体的複体とし,ωをCに与えられた重みとする.また,SをCの2骨格とする.F'をF(S)の部分集合とし,E'をF'に含まれる全ての辺の集合とする.任意のF'が不等式を満たすとする.ただし,等号成立はF'=F(S)かF'=φのときで,そのときに限る.このときCは特異Euclid構造を持つ. 第3章では,組合せ的性質を考察した.まず,用語を準備する.純なd次元単体的複体Cが強連結であるとは,任意の二つのファセットF,F'∈Cについて,ファセットの列F=F1,F2,…,Fk=F'で,Fi∩Fi+1がCの(d-1)次元面となっているようなものが存在することをいう.強連結であって,かつ,任意の(d-1)次元面が高々二つのファセットに含まれているような単体的複体を,擬多様体という.連結な多様体の三角形分割は,常に擬多様体となる,擬多様体において,一つのファセットにしか含まれない(d-1)次元面の成す部分複体を境界と呼び,∂Cで表す.擬多様体Cについて,その境界でconeを取ったものを,C∪(υ*∂C)で定義する.ただし,ここでυはCの外に取った点とする.また,以下では,擬多様体Cの底空間が,球体あるいは球面と同相なとき,Cは球体あるいは球面である,ということにする. 以上の設定で,単体的複体について以下のような組合せ的性質を考える. 定義.純なd次元単体的複体Cがshellableであるとは,Cのファセットの順序F1,F2,…,Ftで,が,連結かつ純な(d-1)次元単体的複体となるようなものが存在することをいう.このファセットの順序をshellingという. 定義.純なd次元単体的複体Cがconstructibleであるということを,以下のように再帰的に定義する.(1)Cが単体であるか,(2)consturctibleなd次元部分複体C1とC2が存在して,C=C1∪C2かつ,C1∩C2がconstructibleな(d-1)次元単体的複体となる. 定義からわかるように,単体的複体がshellableであればconstructibleになる.また,shellableあるいはconstructibleな擬多様体は,d次元球体か球面に限られる.d=2の場合には,逆に球体,球面は常にconstructibleかつshellableとなることがいえる.しかしd≧3においては,球体,球面であってnonshellable,nonconstructibleな例が,数多く知られている.特に,3次元球体においては,Rudin,Grunbaum,Zieglerによって,nonshellableかつconstructibleなものの例が構成されている.ただ,3次元球面においては,同様の性質を持つような例は知られていない.このことを踏まえ,第3章では3次元球面におけるshellabilityとconstructibilityについて考察した.具体的には,まず以下のことを示した. 定理3.2.2.Bはconstructibleな3次元球体とする.ただし,Bについて,二つのshellableな3次元球体CとC'が存在して,C∩C'がshellableな2次元球体となり,かつ,B=C∪C'が成り立っているとする.このとき,Bの境界でconeを取ったものはshellableである. Rudin,Grunbaum,Zieglerの球体は,上記の定理の条件を満たしている.従って,これらの境界でconeを取ってできる3次元球面は,全てshellableであることがわかる.一方で,これらの3次元球体を用いて,上記の定理の条件を満たさないような3次元球体を構成することが可能である.そのことを見るため,まず以下のような操作を定義する. 定義.C1,C2は境界のある3次元擬多様体とする.δiを∂Ciの2次元面とする.このとき,C1とC2を,δ1からδ2への同型写像で貼り合わせてできる単体的複体を,C1とC2の境界連結和と呼ぶ.また,境界のある擬多様体C1,C2,C3について,C1とC2の境界連結和により構成される擬多様体とC3の境界連結和を,それら三つの境界連結和と定義する.この繰り返しにより,同様にn個の擬多様体の連結和を定義する. 例えばZieglerの球体を二つ用意し,それらの境界連結和を取ると,これは明らかに定理3.2.2の条件を満たさない3次元球体となる.このような3次元球体について,以下のようなことを示した. 定理3.2.3.B1,B2,…,Bnはconstructibleな3次元球体で,以下の条件を満たすとする. (条件)各Biは,二つの3次元球体CiとC'iに分割できる.ただし,CiおよびC'iには任意のファセットから始まるshellingがあるとし,Ci∩C'1はshellableな2次元球体であるとする.この条件を満たすB1,B2,…,Bnの境界連結和を考える.ただし,各Ci(C'i)が他の3次元球体Bj(j≠i)のうち,高々一つとしか貼り合わされていないとする.このとき,その境界連結和の境界でconeを取ったものはshellableである. 定理3.2.3は,3次元球体を一列に並べるように境界連結和を取った場合についての考察である.より一般の場合については以下のことが言える.ただし以下において,曲面Sの内部辺とは∂Sに含まれない辺のことをいう. 定理3.3.1.B1,B2,…,Bnはconstructibleな3次元球体で,以下の条件を満たすとする. (条件)各Biは,二つの3次元球体CiとC'iに分割できる.ただし,CiおよびC'iには任意のファセットから始まるshellingがあるとし,Ci∩C'iはshellableな2次元球体であるとする.また,∂Ci∩∂Bi及び∂C'i∩∂Biは,∂Ci∩∂C'i上の二点を両端とするような内部辺を持たないとする.この条件を満たすB1,B2,…,Bnによる任意の境界連結和について,その境界でconeを取ったものはshellableである. 図1:辺の重み 図2:局所Euclid構造と特異Euclid構造 | |
審査要旨 | 本論文提出者は、単体的複体の幾何構造と組合せについてのいくつかの性質を考察している。トポロジー及び幾何学分野において、多様体の三角形分割となるような単体的複体の性質を調べることは重要な研究手法の一つである。また、組合せ論に関連する分野においても、単体的複体はそれ自身重要な研究対象である。さらに近年、情報科学、情報工学の諸分野においても、単体的複体の性質は様々な形で応用されている。とくに、コンピュータグラフィックスにおいては、対象物を微小な三角形に分割して表現するという手法がとられることが多い。これは数学的な研究で明らかにされた単体的複体の諸性質を直接的に応用する例の一つであり、こうした応用的見地からも、単体的複体の研究は今後重要性を増していくと考えられる。 本論文第二章では、分岐曲面及びコンパクトかつ連結な3次元多様体の三角形分割に関し、各辺に重みとして(0,π)の範囲での値を与え、それを2単体の対頂点に角度として分配するときに得られる幾何構造について論じている。また、この設定において特異Euclid構造が一意に存在するための重みの必要十分条件を与えている。Rivinは1994年、底空間が曲面と同相な単体的複体に重みを与えたとき、局所Euclid構造が存在するならば、その中に特異Euclid構造が一意に存在することを示し、さらに1999年に、底空間が曲面と同相な単体的複体が局所Euclid構造を持つための重みの必要十分条件を与えた。すなわち、この条件を満たす重みが与えられたとき、その単体的複体には一意に特異Euclid構造が存在することになる。本論文では、Rivinの結果を拡張して、まず分岐曲面が局所Euclid構造を持つための重みの必要十分条件を提示し、このとき局所Euclid構造の中に特異Euclid構造が一意に存在することを示すとともに、分岐曲面を3次元単体的複体の2骨格と見ることにより、コンパクトかっ連結な3次元多様体の三角形分割が特異Euclid構造を持つ重みの必要十分条件を得ている。 第三章では、nonshellableかつconstructibleな3次元球体が、shellableな二つの3次元球体に分割できその交わりがshellableであるとき、それらの境界でconeをとることによってできる3次元球面がshellableであることを示し、その拡張について考察している。単体的複体の組合せ的構造についての二つの概念、shellability及びconstructibilityのうち、前者は単体的複体の各単体に良い順番付けを行えるかどうかを評価する規範であり、後者はshellabilityを真に緩めた概念である。したがってshellableな単体的複体は常にconstructibleになる。また一般に、constructibleな擬多様体はd次元球体及びd次元球面に限られることが知られている。2次元の場合、逆に球体及び球面であれはshellableであることが知られているが、3次元以上では、球体・球面であって、nonshellable,nonconstructibleな例が数多く知られている。特に3次元球体については、nonshellableかつconstructibleとなる例が、Rudin、Grunbaum、Zieglerによって構成されている。しかし,3次元球面でnonshellableかつconstructibleな例は知られていない。本論文では、nonshellableかつconstructibleな3次元球体Cが二つのshellableな球体C1,C2に分割でき、かつC1∩C2がshellableな2次元球体であるとき、Cの境界でconeを取ったものはshellableであることを示している。なお、Rudin、Grunbaum、Zieglerの球体はこの条件を満たしている。さらに、これらの球体の境界連結和を取ることで得られる球体について、その境界でconeを取ったもののshellabilityについて考察している。 本論文の結果は,分岐曲面及びコンパクトかつ連結な3次元多様体の三角形分割について、特異Euclid構造全体の空間を重みによって径数づけることに成功し、Rivinの結果の高次元化という問題について一定の解答を与えている。また、shellabilityとconstructibilityの性質の差がどのくらいであるかという問題の解決に対する一つの手掛かりを与えている。これらの結果は3次元グラフィックスにおけるメッシュ生成など、工学領域における問題にも直接応用される可能性があり、その見地からも重要であると考えられる。 よって論文提出者亀井聡は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。 | |
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